逆指名あり、断り状ありと本番前から色々と賑やかだった今年のドラフト会議。高野投手(東海大)に西武・阪急・大洋・ヤクルトの4球団、小野投手(創価高)に日ハム・近鉄・南海の3球団、川端投手(東芝)に広島・ロッテの2球団が1位指名入札して重複した。抽選に当たったヤクルト、外した横浜大洋、片や単独指名の中日や阪神の思惑に迫る。
中日ドラゴンズ…念願の藤王(享栄)を単独指名出来て意気上がる中日フロントを横目に現場サイドからは「はてさて」との声がチラホラ。「10年に一人の逸材。ワシがじっくり鍛えて王以上の打者にしてみせる」と新任の山内監督は言うが何処を守らせるのかが問題。藤王は過去に4つのポジションを経験している。中学時代の捕手はともかく高校に入学してからは一塁手を主に三塁、右翼も守っていた。要するに守備が安定せずポジションを固定出来ずにいたのである。中日指名が決まった後のインタビューで本人は「三塁を守りたい」と言ったがそれは多分に中日のチーム事情を彼なりに考えての発言であろう。と言うのも中日の一塁には谷沢がいる。36歳のベテランで選手として峠は越えているがまだまだルーキーに負けはしない。まして " ポスト谷沢 " に新鋭の川又選手がいる。今季、江川や槙原から本塁打を放った期待の若手である。いくら藤王でも彼らとポジションを争って勝てる可能性は低い。
そこへいくと三塁手は人材不足である。モッカは解雇、新外人も外野手が内定していてレギュラー不在である。そこで「掛布さんを育てた山内さんに打撃は勿論サードの守備も鍛えてもらいたい(藤王)」と早くも本人は三塁手になった気分でいる。久々に獲得したスター選手候補に「なるべくファンに近い位置がいいね」と鈴木球団代表は述べるに留め、球団として未だ一塁か三塁かは決めていない。ただ藤王の守備はお世辞にも上手いとは言えない。一塁を守り始めの頃、野手からの送球を顔面に受け片目に眼帯をして練習をしていたらもう片方の目にも送球を受けてしまったエピソードがあるくらいだ。そんな藤王が強烈な打球が飛んで来る三塁を守れるのか?「とにかく実際に見てから判断したい。最初は希望通り三塁で、ダメなら一塁。一塁には谷沢がいるけど他のポジションはどうかな?(山内監督)」 それにしてもこの悩みは他球団から見れば何とも贅沢な悩みだ。
横浜大洋ホエールズ…関根監督が抱くコンバート構想が銚子(法政大)の加入で大きく前進した。田代選手の一塁、レオン選手の外野へのコンバートが可能になった。そもそもレオンは外野手希望で今季終盤は左翼でプレーしており「うん、あの動きなら大丈夫。肩もウチでは No,1 だよ」と関根監督は外野手に合格点を与えていた。もう一人の田代に関しては遊撃・山下選手を含めた土井前監督時代からの懸案事項だった。名手・山下にも年齢による衰えは隠せず年々守備範囲は狭くなっていた。田代には山下の守備範囲をカバーする役目もあったが「田代は見かけによらずデリケートで打撃の不振が守備にも影響する(松原打撃コーチ)」と自分の事で精一杯。そこで一塁手のレオンを外野へ、田代を一塁へ移して空いた三塁に銚子を起用しようという案だ。
もっとも関根監督は就任したばかりの頃は「田代のコンバート?考えていない。田代は三塁しか守れない」と否定的だった。しかし今季になって山下の腰痛が酷くなり人工芝が多くなった昨今では選手生命を脅かしかねない。だが田代がここ1~2年、打率.250 台に低迷しているとはいえ新人の銚子に代役が務まるとは思えない。事実「いきなりは無理。六大学のベストナインとは言ってもプロは甘くない。でも素材は間違いなく良いし使い続ければ2~3年でモノになると思う」と湊スカウト部長も即戦力とは考えてはいない。来季は取り敢えず守備要員としての起用が多くなるだろう。関根監督は「かなりのセンスの持ち主と聞いている。先ずは適正を見てから」と来季すぐにコンバートに着手する気はないようだが視線の先には三塁・銚子、一塁・田代があるのは間違いない。
ヤクルトスワローズ…「また引いちゃった」と相馬球団代表がニコリと笑った。4球団が入札した高野投手(東海大)を見事引き当てた。昨年の荒木に続きほとんど神憑りである。ところがヤクルトには「1位指名投手は育たない」という有り難くないジンクスがある。酒井、原田、片岡、竹本などなどで一軍で活躍しているのは宮本投手ぐらい。原田は全く戦力にならず既に退団し片岡も今季限りで引退し来季は打撃投手に転身。竹本に至っては原(巨人)に見向きもせず指名したが未だ0勝、挙げ句に右親指が痺れる障害に見舞われ手術するべきか苦慮している有様。松岡や安田、井原や尾花など1位指名以外の投手は活躍しているのでスカウト達の眼力に問題は無い筈なのに1位指名だと何故か大成しない。
悪い評判というのはアッと言う間に世間に広まる。特にアマチュア球界は敏感だ。高野を送り出す事になる岩井監督(東海大)は「高野自身には何も心配はしていません。ただ武上監督の投手起用を見ていると潰されてしまうんじゃないかと不安です」と公言し、指名の挨拶に訪れたスカウトに向かって「ひとつ宜しく」と注文を付けた。 " なぜ " の正体が分かっていればこれほど続けて育成に失敗しない筈。「1位」ゆえ甘やかす指導、場当たり的な起用、海外キャンプでの外人コーチによる指導、チームのぬるま湯体質、など考えられるが決定打は見つかっていない。今季の荒木に関しても現場は二軍でじっくり鍛えたい意向だったが松園オーナーを始めフロント陣による人気優先の起用は荒木本人の為には決してならない。高野にはこのジンクスを是非とも破ってほしい。
阪神タイガース…「百点満点。文句の付けようがない大勝利」と阪神フロント陣が自画自賛する今年のドラフトだった。会議終了後の安藤監督は「作戦がまんまと当たった。何も言う事はない」とこれで弱投よサラバと言わんばかりの上機嫌だった。❶中西(リッカー)❷池田(日産自動車)❸仲田幸(興南)❹川原(大商大)と1位から4位まで全て投手を指名した。「中西と池田の両方がどうしても欲しかった。どちらを1位にするか他球団の動き次第では中西と池田の順番を逆にしようかギリギリまで悩んだ。ただ中西は2位まで残らないと判断し中西の1位指名を決めた」と安藤監督はドラフト前日のスカウト会議を振り返る。左腕不足解消に小野投手(創価)も上位候補だったが来季は勝負の3年目となる安藤監督としてはどうしても即戦力投手が必要だった。
「即戦力に一番近いと判断して中西に落ち着いたが競合する可能性もあったし池田が2位まで残っているかずっと不安だった」 スカウト達の不安をよそに中西は単独指名、池田も無事指名出来た。実は阪神が中西を1位で指名すると阪急のテーブルから落胆の声が漏れた。ひょっとしたら中西を2位あたりで狙っていたのかもしれない。仮に「1位・池田」、「2位・中西」でいったら両獲り出来なかった可能性が大だ。先ずはめでたし・めでたしのドラフト会議だったが小林投手の抜けた来季の投手陣はこれで盤石かと言うとそうではない。プロの世界で1球も投げた事のない投手に過大な期待は禁物だ。安藤監督に残された仕事は実績のある投手をトレードで獲得する事である。