面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「へんげ」

2012年05月18日 | 映画
東京の片隅に暮らすある門田夫妻には、大きな悩みがあった。
それは、夫の吉明(相澤一成)が時折激しい発作に見舞われ、不気味な叫び声をあげながら体を弓なりに反らしてのたうちまわること。
妻の恵子(森田亜紀)は、そんな夫の発作になすすべくもなく、不安な毎日を送っていた。

吉明は、医大の後輩である医師の坂下(信國輝彦)から最新の催眠治療を施され、カウンセリングを受けるものの、「たくさんの虫に意識を乗っ取られるような感覚」を訴えて、一向に快方に向かう様子が無い。
そんなある夜、眠っている最中にふいに発作に襲われた吉明は、恵子の前でいつも以上に激しい動きを見せたかと思うと、“身体的な変化”を見せた!
それは、ついに吉明の身に、とてつもない「へんげ」が訪れた瞬間だった……


少し前、WOWWOWで「ウルトラQ」の一挙放映があり、全て録画していた。
その中からかいつまんでいくつか見ていたのだが、その中でたまたま見ていた「変身」という話を思いだした。
こちらは、幻の蝶を探して山奥へと分け入った若き研究者が、その蝶の毒にやられて巨人に変身し、凶暴化・野生化して山中で隠れ住む…という話で、「へんげ」とは全くテイストは異なる。
しかし、本作全編に渡って漂う雰囲気は、54分という尺の長さと相まって濃厚な「ウルトラQ」テイスト。
(ちなみに「ウルトラQ」は30分番組だったが)
吉明の“へんげ”も昔懐かしい円谷プロ的な造形で、これが90分から120分程度の長さになれば、イッキに東宝特撮シリーズのニオイがして、「マタンゴ」を彷彿としていたかもしれない。

なんともとりとめのない話になったが(苦笑)、最初はサイコサスペンスかと思って観ていると心霊ホラーの展開になってきたと思いきや、正視できないほどではないソフトタッチなスプラッタームービーへと移行しつつ、ノスタルジー漂うメタモルフォーゼのクライマックスへと次々に映画が“へんげ”していく。
特に、吉明が肉体的な変化を示すあたりからからの急激な作品の変化は、はじめは緩やかに水面を漂うボートが、わくわく感を徐々に高まらせながら進んでいき、クライマックスで急流をイッキに駆け下りていく遊園地の「急流すべり」のよう。
あれよあれよと思っているうちにどんどん変化を続けながら、驚愕のラストへとイッキに連れて行かれて度肝を抜かれ、一瞬茫然となった後で余韻に浸る…。
娯楽を追求する大畑監督の狙いに、何の迷いもなく素直にどっぷりハマりこんで楽しむのが、本作の正しい鑑賞法である。

我々「円谷プロ」特撮シリーズで育った世代には堪えられない、「緊急指令10・4・10・10」風味の「ウルトラQ」テイストが心地よい上質の娯楽特撮作品♪


へんげ
2011年/日本  監督:大畑創
出演:森田亜紀、相澤一成、信國輝彦