面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「プリンセス トヨトミ」

2011年08月05日 | 映画
2011年7月8日金曜日、午後4時。
大阪が“全停止”した。

その4日前の月曜日、3人の会計検査院調査官が大阪にやってきた。
税金の無駄遣いを許さず、調査対象を徹底的に追い詰めて“鬼の松平”と怖れられる松平元(堤真一)。
その部下で、天性の勘で大きなヤマを当てて“ミラクル鳥居”と呼ばれている鳥居忠子(綾瀬はるか)。
日仏のハーフで、クールな新人エリート調査官の旭ゲーンズブール(岡田将生)。
順調に大阪での実地調査を進めた彼らは、大阪府庁、府立高校と調査を終え、次の調査対象のある空堀商店街を訪れた。

財団法人OJO(大阪城跡整備機構)に調査に入った3人だったが、内容には特に問題は無かった。
昼食をとるために入った、OJOの正面にあるお好み焼き屋「太閤」には、一風変わった少年がいた。
店をを営む真田幸一(中井貴一)と竹子(和久井映見)夫婦の一人息子・真田大輔(森永悠希)は、女の子になりたいという悩みを抱えていて、セーラー服で通学していた。
しかしその格好が原因で、学校ではいじめに遭っていたのだった。
そして大輔の幼馴染に橋場茶子(沢木ルカ)という少女がいた。
彼女は大輔とは対照的に男勝りで、大輔をいじめる悪ガキどもを懲らしめるような女の子だった。

そんな不思議な少年少女がいる空堀商店街にひっそりと佇むOJOに対して、松平は不信感を抱く。
携帯電話を忘れたことに気付いてOJOに戻ってみると、誰もいなかったからだ。
再度3人で徹底的に調査するが、全て帳尻は合っていて不正は見当たらない。
これ以上の調査はムダと諦めかけた鳥居が、
「これでOJOが嘘をついているとしたら、大阪中が口裏を合わせていることになりますよ」
と不満をもらしたとき、松平は閃いた。
「大阪の全ての人間が口裏を合わせている。」
再びOJOを訪れた松平が、経理担当の長曽我部(笹野高史)と押し問答になったとき、不意にお好み焼き屋「太閤」の主人・真田幸一が現われ、不思議なことを言った。
「私は大阪国総理大臣、真田幸一です…」


奇想天外な物語が特徴的な万城目学の同名小説を、堤真一、綾瀬はるか、中井貴一ら豪華キャストで映画化。
「大阪国」という“地下国家”(地底人の国という意味ではない)に、毎年何億という国家予算がつぎ込まれているという隠された事実を突き止めた会計検査院調査官が、蓮舫ばりに“仕分け”しようとし、それを「大阪国民」が阻止しようと立ち上がる。
相変わらず奇想天外な“万城目学節”が炸裂。

「大阪国」は、父から息子へとその存在が語り継がれ、「大阪国」の男の使命を言い伝えられてくることで代々守られてきたという。
そもそもは大阪城落城の際、秀頼の息子である国松が抜け穴から城外へと逃れ、これを大坂の町人たちが人知れず保護したことに起因するという。
明るく派手好きで人懐っこい秀吉は大坂の民衆から絶大な人気を得ており、またその出世譚は、戦乱の世で縦横無尽に暴れまわる武士によって長年苦しい生活を強いられてきた庶民にとって、溜飲の下がる格好の娯楽だったことだろう。
また、大坂に拠点を置き、町を発展させた秀吉に対して、民衆が敬意を払い、恩を感じていたことであろう。
豊臣家に対する大坂人の思慕の念は、相当強かったに違いない。

その豊臣家を滅ぼした徳川家康に対して、大坂人が好意を持つはずがない。
しかも、権謀術数を尽くして豊臣家を追い込んで滅ぼしたという、陰湿な印象を家康に対して抱いたであろうことは「方広寺鐘銘事件」から推測されるが、いずれにしても陽気な秀吉に比べれば陰気な家康を大坂人は嫌ったことだろう。
そして家康が拠点を構える江戸に対して、大坂人の中で敵愾心にも似た対抗意識が育っていったとしても、何ら不思議なことは無い。
むしろ必然と言えるだろう。
東京に対して何となく対抗心を持ってしまう大阪人が決して少なくないのは、1600年以来の“伝統”によるものなのである。


そんな大阪人のココロをやんわりとくすぐる、“オトナのためのファンタジー”。
(決してエロチックな意味合いでのオトナではなく)
特にクライマックスにおける「大阪国民」の総決起は、大阪のオッサンの琴線に触れずにはいられない。


プリンセス トヨトミ
2011年/日本  監督:鈴木雅之
出演:堤真一、綾瀬はるか、岡田将生、沢木ルカ、森永悠希


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