面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「半次郎」

2010年10月12日 | 映画
幕末期の京都に、新撰組でさえ恐れたという薩摩藩士がいた。
その名は中村半次郎。
後に桐野利秋と名を改め、明治新政府で陸軍少将に任じられながらも西郷隆盛の下野に付き従い、西南戦争に散った男である。

半次郎(榎木孝明)は下士(下級武士)として貧しい暮らしを送りながらも、常に志は高く、日々武道の鍛錬に励んでいた。
ある日、薩摩藩士のカリスマとなっていた西郷吉之助(田中正次)が京へ上るという話を耳にし、西郷の屋敷へと乗り込んで直談判。
藩士の間でも評判になっていた剣を披露すると、西郷に問うた。
「侍らしく義のために死ぬには、どげんしたらよしごわすか。」
剣だけでなく、その真っ直ぐな人柄を認めた西郷は、彼を伴って上洛する。
以後二人は、終生を共にすることとなるのだった。

半次郎は武士でありながら畑を開墾して唐芋(サツマイモ)を育てていたため、他の藩士達から「芋侍」と侮られることもあったが意に介さず、また相手を憎むようなこともなかった。
優れた剣の腕前と豪放磊落で私心の無い性格に、真っ直ぐでひたむきな忠誠心で人々の心を掴んでいく彼は、敵対する長州藩士をも魅了し、明治維新の立役者からも一角の人物として認められたという。
かく大人物たる中村半次郎であるが、大河ドラマ「龍馬伝」を筆頭に、最近注目を浴びる幕末史にあって彼の名は、「知る人ぞ知る」という印象が強い。
かく言う自分も名前は知っていたが、桐野利秋と同一人物であることさえ知らなかったのは、いささか不勉強に過ぎるだろうか。

征韓論に敗れた西郷が野に下った際、行動を共にして鹿児島へと戻った半次郎は、若者達の教育に尽力する。
厳しい中にも、皆の前で屁をひるような飾らない態度で接する半次郎を誰もが慕った。
西南戦争では、圧倒的な戦力を誇る政府軍を相手に怯むことなく戦い、窮地にあっても自らを鼓舞し、味方を奮起させて薩摩軍を支え続けた。
そのカリスマ性は、西郷隆盛に次ぐ薩摩軍の精神的な支柱だったことだろう。

実に人間的魅力に溢れた半次郎を、同じ鹿児島出身で、昔から彼を慕っていたという榎木孝明が大熱演。
どちらかといえば優男な役柄が多いイメージの榎木が、全身全霊を傾けた体当たりの演技で魅せ、義に生きた最後の侍を見事に演じきっている。

ハリウッドには描けない本物の「ラスト・サムライ」が、スクリーンを縦横無尽に駆け抜けるスペクタクル幕末時代劇の快作。


半次郎
2010年/日本  監督:五十嵐匠
出演:榎木孝明、AKIRA、白石美帆、津田寛治、坂上忍、永澤俊矢、広島光、北村有起哉、田中正次、田上晃吉、雛形あきこ、葛山信吾、竜雷太


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