面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「永遠の0」

2014年01月22日 | 映画
佐伯健太郎(三浦春馬)は、また司法試験に落ち、失意の日々を過ごしていた。
そんなある日、祖母・松乃が他界したため葬儀に参列するが、そこで祖父・賢一郎(夏八木勲)とは、血がつながっていないと知ることに。
実は血縁上の祖父は松乃の最初の夫で、太平洋戦争で零戦パイロットとして出征し、終戦間際に特攻隊員として散った宮部久蔵(岡田准一)という人物だったのである。

フリーライターの姉・慶子(吹石一恵)から、“実の祖父”宮部のことを知る人々を取材するので手伝うよう依頼された健太郎は渋々協力する。
しかし行く先々で聞かされるのは、祖父に対する非難の声だった。
いつも逃げてばかりいる、とにかく生き残ることばかり考えている海軍一の臆病者…。
健太郎は、祖父のロクでもない評判を聞かされ続けて滅入ってくる。
景浦(田中泯)という男の元を訪ねたとき、重苦しい空気に耐えかねるように健太郎は、半ばやけくそ気味に口にする。
「宮部は臆病者だったんですよね。」
その途端景浦は烈火の如く怒り、二人を屋敷から追い出してしまった。

今まで取材した人たちとは明らかに異なる様子に戸惑う健太郎と慶子だったが、井崎(橋爪功)という宮部の部下だった男を訪ねたとき、それまでの悪評が信じられないような話を聞かされる。
宮部久蔵は誰よりも優れた“ゼロ戦乗り”で、天才的な操縦技術を持っていたが、乱戦になるといつしか空域を離れ、敵を撃墜することよりも生き残ることを優先していたという。
「確かに、宮部さんは臆病者と思われたかもしれない。」
誰からも一目置かれるパイロットで、常に冷静に戦局を見極める目を持つ優秀な軍人でありながらも、部下に対しては何よりもまず生き延びることを命じていた。
「残してきた家族を悲しませるな。」
いきり立つ部下に対して諭す宮部は、妻の松乃(井上真央)と娘・清子と交わした「生きて必ず還ってくる」という約束を守り続けていたのだった。
その“教え”があったからこそ、今日まで自分は生き長らえることができた。
余命いくばくもない自分だったが、医師の予想を超えていまだ生きているのは、宮部の話を伝えるためだったのだと井崎は言った。

祖父が優秀なパイロットであり、家族や部下に対して深い愛情を注ぐ人物だったことが分かって誇りに思う健太郎。
しかし、あれほど生き残ることを優先していた祖父が、なぜ特攻隊に志願したのか?
更に足跡を追い、宮部の最期を知る人物に行き着いたとき、驚くべき事実が明らかになる…


「ほら、戦争は悲惨ですね!」
「さあ、ここで泣いてください!」
第二次大戦を扱った映画の中には、“取って付けた”ような描写で観客に泣くことを強要するものがある。
そんな作品に当たると生来の天の邪鬼が顔を出し、興ざめして白けきってしまうというもの。

しかし本作はさにあらず。
ミリタリー・マニアも納得の精緻なCGによって再現された空母や戦闘機。
主人公は、家族や部下を大切にする愛情深い人柄で、類稀なる操縦スキルを持った優秀なパイロットだったが、戦争末期に特攻隊に志願して戦場に散る。
物語を構成する素材は「反戦映画」の王道を行くものが揃っているにも関わらず、これみよがしに戦争の悲惨さを映し出すわけではなく、また声高に戦争反対を叫んだりもしない。

主人公の宮部久蔵は、冷静沈着に戦況を分析し、弱点を見抜き、リスクを予見する優れた軍人である。
真珠湾攻撃では、空母を攻撃できなかったことを憂慮し、ガダルカナル戦では零戦の優れた航続距離こそが仇となることを訴える。
しかし精神論で凝り固まった組織において彼の意見が取り上げられることはなく、無謀な攻撃によって多くの命が失われていく。
真珠湾で航空機による攻撃の有効性を自ら示しながら、日清戦争以来の戦艦に重きを置いた戦略を推進し続けて自滅の道を突き進んでいった海軍を象徴する。
敵にダメージを与えて還ってきてこそ、戦闘機で攻撃する作戦の成功であるはずのものが、敵に体当たりして自ら命を落とすことが攻撃の成功となる特攻は作戦でも何でもなく、ただの暴挙・愚挙でしかない。
健太郎の友人が、特攻を「自爆テロと同じ」と断じるのも無理はない。

生き残ることこそが何よりも大切。
そう部下に訴え続けてきた宮部が、特攻隊の戦力を養成する教官となり、特攻に向かう兵士を先導する任務を負う。
自分が操縦技術を訓練した教え子達が次々と出撃し、ほとんど敵艦船に打撃を与えることなく命を落としていく。
これほど宮部にとって辛い任務はないだろう。
良心の呵責に苛まれ、精神が蝕まれていくのも当然。
妻子と交わした「生きて還る」約束よりも、死に追いやった教え子達に対する贖罪が勝ったとしても不思議ではない。

約束は破ることになったものの、妻子に対するせめてもの責任が果たせる道筋を付けて出撃する宮部。
終戦後、後に残された妻と娘は、宮部の思いを受け継いだ人々によって守られる。
そしてその“思い”は、連綿と受け継がれることになるのだった。


なお、兵役を免じられていた大学生が戦争末期には「学徒出陣」として戦場に駆り出されることになったが、その背景には、高い学習能力を持つ彼らは短期間の訓練で戦力となることが期待されていたことを初めて知った。
そんな優秀な大学生達を、敵に体当たりするために必要な飛行技術だけを早々に身に付けさせ、特攻隊として無駄に死なせた軍部の醜さには反吐が出る…


主人公を演じる岡田准一の爽やかで清々しい演技が素晴らしい。
「SP」で見られるような激しいアクションシーンは無く、様々な情感を豊かな表情で魅せる。
特に、脚本では「静かに澄みきり、微笑みすら浮かべている」と書かれたラストシーンの“微笑み”は、観客個々人によって受け止め方が異なる余韻を残す印象深い表情だ。
今年の大河ドラマがとても楽しみだ♪というのはあくまでも私見。


宮部の足跡をたどることで、第二次大戦における軍部の愚かさが浮き彫りになる。
本作が「これみよがし」にならない理由がここにある。
しかし確実に戦争の愚かさと悲惨さを描き、絶対に戦争を起こしてはならないことを訴える。
キナ臭いニオイがしてならない、どこからか軍靴の響きが聞こえてきそうな昨今。
誰が言ったか知らないが、
「じいさんが始めて、おっさんが命令し、若者が死ぬのが戦争」
という言葉が現実味を帯びてきたように思えて仕方ない中で、本作のヒットが反戦の役割を担うことになればと祈るばかり。


第二次大戦で散った兵士たちの思いをしっかりと受け止めたい、ヒューマンドラマの傑作。


永遠の0
2013年/日本  監督:山崎貴  脚本:山崎貴、林民夫
出演:岡田准一、三浦春馬、井上真央、濱田岳、新井浩文、染谷将太、三浦貴大、上田竜也、吹石一恵、田中泯、山本學、風吹ジュン、平幹二朗、橋爪功、夏八木勲、佐々木一平、青木健、遠藤雄弥、栩原楽人


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