面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「EDEN」

2013年09月10日 | 映画
新宿二丁目のショーパブ「EDEN」。
ニューハーフのノリピー(入口夕布)が、男に振られたショックでヤケ酒をあおっていた。
泥酔して眠ってしまったノリピーを、店長兼演出家のミロ(山本太郎)は担ぐようにして自宅に連れて帰る。

翌朝ミロが目を覚ますと、ノリピーは息絶えていた。
遺体の第一発見者として警察署に連れて行かれたミロは、差別的な目を向ける刑事達の侮蔑を含んだ聴取を受ける。
性転換手術を受けたノリピーは心臓を悪くしていて、急死の原因も心不全と断定されたが、事情聴取に傷ついたミロは憔悴しきってアパートに帰ってくる。
ミロにとって42回目の誕生日だったその日は、暗く沈んだものとなったのだった。
そこへ、「EDEN」のオーナーである美沙子(高岡早紀)が、ストーカーに暴行されたことを知らされて激怒。
犯人が進学塾で評判の講師であることを知ったミロは、「EDEN」の仲間たちにド派手な格好で集合させると、生徒の前で教鞭を取っていたその男に強烈な罰を食らわした。

溜飲を下げて塾を後にしたメンバー達に、ミロはノリピーの死を告げた。
泣き崩れる仲間達だったが、ペペロンチーノ(齋賀正和)の提案で、ノリピーの弔いを兼ねたミロのバースデーパーティーを開くことに。
「EDEN」でパーティーが盛り上がっているところへ、警察署からノリピーの遺体が運び込まれてくる。
遺族から遺体の引き取りを拒否されたと言うと刑事は、そのまま棺を置いていってしまった。
メンバー達は悲しい事実に落ち込むが、エルメス(高橋和也)の一言から、ノリピーの遺体に化粧を施して生前の様子そのままに美しく仕上げると、棺をトラックに乗せ、ノリピーの実家へと出発する…


新宿2丁目のショーパブで働くニューハーフやゲイたち。
華やかに賑やかに、毎日を面白おかしく楽しそうに過ごしているように見える彼ら。
今ではすっかり「市民権」を得たように思われるトランスジェンダーたちだが、実の家族にも理解されず、世間からはゲテモノなどと呼ばれ、侮蔑の目を向けられることもあるという現実がいまだにある。

実の父親と兄に遺体の引き取りを拒否されたノリピーの実家は、房総半島の田舎町。
昔からその町に暮らす家族にとって、その町が“世界の全て”。
そんな狭い社会の中では、異彩を放つノリピーの存在は正に「化け物」。
近隣の住人から「あそこの息子は女になりよった」と言われ、後ろ指を指されて白眼視されては生きていけない。
父親は、家族を「社会的」に守ろうとして、“息子”の引き取りを拒否する。
いきなり運び込まれてきた棺に対しても嫌悪感を見せる父親だが、一目散に棺に駆け寄る母親の姿を目の当たりにして、忸怩たる思いが顔にじむ。
父親としての強さと、母親が持つ強さのコントラストが哀しい。


トランスジェンダーたちにとって、自分が自分らしくあるために生きることは、膨大なエネルギーを要する。
家族との関係を断ち切り、孤独に生きる彼らにとって、大勢の“仲間”がいる新宿二丁目は、生き生きと暮らせる別天地ではないだろうか。
しかしやはり絶ち切れない肉親への思い。
「EDEN」のメンバーたちは、ノリピーの実家への小旅行を通して、家族への慕情が沸々と沸き起こってくる。
ミロも何年かぶりで実家の母親に電話するのだが、この山本太郎のひとり芝居が圧巻。


一人のニューハーフの死を背景に、強い絆を持つトランスジェンダーたちの仲間同士のつながりと、肉親に対する思いと切ない関係性を描いた、ヒューマンドラマの傑作!


※大阪では現在「シネ・ヌーヴォ」にて再上映中( http://cinenouveau.com/schedule/schedule1.html )


EDEN
2012年/日本  監督:武正晴
出演:山本太郎、中村ゆり、高橋和也、齋賀正和、池原猛、小野賢章、大橋一三、入口夕布、高岡早紀、浜田晃、藤田弓子


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