面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「硫黄島からの手紙」

2007年01月17日 | 映画
かつて映画を観て、これ程「絶対に戦争はイヤだ!」と思ったことはない。
「トラトラトラ」「史上最大の作戦」「キスカ」「遠すぎた橋」「ミッドウェー」「連合艦隊」「大日本帝国」「男たちの大和」…
第二次大戦を題材にした映画をいろいろ観てきたが、この「硫黄島からの手紙」ほど、とにかく戦争がイヤだと思ったことはなかった。
なぜだろう。
何が今までと違うのだろう。
もし戦争になれば、戦場へと駆り出される対象になりえる年齢にあるからだろうか。

本作には、「男たちの大和」を観たときに辟易とした、
「東西、東西~っ!どうだこの悲しい物語は!なんて戦争は悲しいものなんだ!さぁさ皆さん、泣いてくだせぇ、泣いてくだせぇ!遠慮はいらねぇ、思う存分泣いておくんなせぇ~!」
と言わんばかりのあざとい演出がない。
クリント・イーストウッドらしい、過剰なお涙頂戴シーンの無い淡々とした演出が、より“ごくフツウの一般市民”が戦地に送り込まれる恐ろしさを際立たせている。

戦闘シーンは決して勇ましいものではなく、あくまでも痛ましいものとして描かれる。
ミリタリー・オタクを満足させるような、ある種の“武器が持つ美しさ”はこの映画にはない。
戦闘シーンのメインに据えられているのは、破壊される肉体である。
「男たちの大和」における艦上の戦闘シーンは圧巻であったが、凄惨な戦死に対するリアルさは本作には遠く及ばない。

栗林中将(渡辺謙)やバロン西(伊原剛)といった、当時には珍しいリベラルな感覚の持ち主だった将校達がいたことも、本作を従来のドンパチ中心、もしくは忠君愛国天皇陛下バンザイ系の戦争映画とは異質な物語を生む元となったかもしれない。
二人とも、将校として軍人としてカッコイイ!
しかし、自分が将校となるなら、あんな風にありたいものだ、とは決して思わなかった。
絶対に将校なんぞになりたくはない。
なぜなら、最後まで生き残ることは許されないのだから…。

できるだけ多くの人々に、とりわけ男性諸氏には是非観てもらいたい一作。
この映画を観て、それでも「戦争は必要だ!」と言う人間がいるとすれば、それは政治家と軍人だけだろう。
あとは金にモノを言わせて絶対に戦地に行くことのない大金持ちか。
自分に都合のいいように立ち回れる国家権力を背景にした国家公務員もか。

何となく、きな臭さが漂い始めたような気のする昨今。
万が一、戦時体制になったとて、絶対に戦争になんか行かない。
召集令状クソ食らえ!
スピリチュアル・カウンセラーの江原啓之が、人を殺さなければならない戦争に行くくらいなら自決すると言っていたが、自分なら夜の闇に紛れて山中に逃げ込み、行方不明となって生き抜いてやる。
絶対に戦争になんか行くものか!
それを非国民と言うのなら、最大の賛辞として甘んじてお受けしよう。


硫黄島からの手紙
2006年/アメリカ  監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童