面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

子供の噺(その5)

2006年07月27日 | 落語
いよいよ梅雨も明けそう。
夏らしく、ちょっと怪談仕立ての噺を…。

もう4歳になるのに、言葉を全くしゃべれない男の子がいた。
その子供が、ある日突然しゃべった。
「おじいちゃん、おじいちゃん」
自分の祖父を呼んだのである。
「おお!初めてしゃべったと思たら、ワシのことを呼んでくれるとは、こら嬉しいやないか♪」
上機嫌のじいさん。
家族みんな、大喜びである。
ところが翌朝、おじいさんは急死してしまった。

それからまた何もしゃべらなかった男の子が、再び突、
「おばあちゃん、おばあちゃん」
「おや、私のことを呼べるようになったかぁ♪」
自分のことを呼ばれて、おばあさんは大喜び。
ところが翌朝、今度はおばあさんが亡くなった。

…なんか、おかしいぞ?
両親はふと異変に気付いた。
赤ん坊が呼ぶと、呼ばれた人は死んでしまう?
そんなアホな。
おじいさんもおばあさんもエエ歳やったし、たまたまやろ。

しばらくして、また男の子がしゃべった。
「おかあさん、おかあさん」
初めて呼ばれてみると、以前の疑問もどこへやら。
母親として喜びが先に立つ。
「そうそう、おかあさんやで!」

ところが翌朝、母親も目覚めることはなかった…。
さあ、父親は真っ青になった。
男の子が呼ぶと、呼ばれた人は寝ているうちに亡くなっている。
「まさか。単なる偶然や。…そやけどなんやキショク悪いやな、やっぱり…。それで次は俺か?」
胸騒ぎがして落ち着かない。

しばらくして、ついに男の子が呼んだ。
「お父さん、お父さん」
我が子に初めて呼ばれたとは言え、父親は気が気ではない。
「ついに俺のことを呼んだか!明日の朝は来ぇへんのか!?」
眠れるはずがない!いや、起きていれば大丈夫なんじゃないか!?などと考えながらも、結局睡魔には勝てず、眠ってしまった。

翌朝。
いつもどおり、父親は目を覚ました。
「…あ。生きてるやないか!?良かった!やっぱり単なる偶然やったんや!いやぁ、どうなるかと思たな。良かった良かった!」
ホッとしながら朝刊を取りに玄関を出ると、新聞受けの前で新聞配達の男が死んでいた。

…あれ?とツッコミを入れておこう。