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【月・水・金】中国の花/中国野生植物図鑑
【火・木・土】中国の蝶/中国蝶類生態図鑑
【月・木】日本列島および近隣地域の野生アジサイ
【水】中国大陸(&台湾・南西諸島)のセミ
【火・金(・日)】ElvisとBeatlesの狭間で~Johnny Tillotsonの時代
【随時(当面は土曜または日曜を予定)】中国旅行情報
【随時(当分は毎日)】My Sentimental Journey
【一時休載】屋久島はどこにある?(東シナ海周縁紀行)
【一時休載】屋久島はどこにある?(長江流域遡行紀行)
青山潤三・花岡文子
メールアドレスjaoyama10@yahoo.co.jp
★今日は下記の④シリーズです。
「日本列島および近隣地域の野生アジサイ」及び「中国大陸(&台湾・南西諸島)のセミ」はしばらくお休みします。
生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(17)
ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(15)
中国旅行情報(10)
My Sentimental Journey(38)
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生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(17)
No.009四川・雲南省境の山で見た不思議なシータテハNympharis(Polygonia)c-album ssp.
タテハチョウ科Nymphridae/ヒオドシチョウ亜科Nympharinae/ヒオドシチョウ族Nympharini/ヒオドシチョウ属Nympharis
雲南・四川省境Border of Yunnan・Sichuan/標高alt.4600m/2010年9月21日
さて、前回のツバメシジミ同様、種としては旧大陸(ごく近縁な種が北米にも)温帯域に広く分布する種の一つに、シータテハがあります。そして雲南産の“ウスズミツバメシジミ”の場合同様、この雲南・四川省境山地のシータテハも、シータテハでありながら、シータテハらしからぬイメージのチョウなのです。仮に和名を付けるとしたら“ニセコヒオドシ”あるいは“ヒメエルタテハ”。
高山帯(撮影地は標高4500mを超えています、全山石灰岩の山、正確には両省の省境から、10~100mほど雲南省寄り)の瓦礫地に咲くキリンソウの一種の花に多数の個体が吸蜜に訪れるのですが、何度見ても、コヒオドシと錯覚してしまう。翅型や斑紋は間違いなくシータテハなのだけれど、印象はコヒオドシ、あるいはエルタテハなのです。雲南や四川の山(というよりも麓の集落付近)ではコヒオドシが極めて多いので、ここでも本物のコヒオドシも混じっているものと思い、注意してチェックしていたのですが、なぜか一頭も確認することが出来なかった。翌日、標高にして1000mほど下った集落近くの路傍で、やっとコヒオドシを発見、遠くから一回シャッターを押しただけで逃げて行ったのだけれど、一応撮影をしておいたので、本物と偽物を比較して見よう、とその写真を拡大して見たら、なんとこれもシータテハ。それほど(実際に見た時の印象は)コヒオドシによく似ているのです。
何故、こんなにも普通のシータテハとイメージが異なるのか、検証してみました。
①翅型は、全体に四角っぽく、前翅外縁の抉れが少ない。そのため面積が広く感じる。秋型よりも夏型的(ただし季節からして秋型でしょう、年1化の可能性も強いですが)。
②翅表の地色が極めて濃く、コヒオドシ、ヒオドシチョウ、エルタテハなどと同様の、橙朱色に近い(普通のシータテハは明るい黄褐色)。
③前翅表前縁の上部の2つの黒班と、それ以外の黒班の大きさの差が顕著(普通のシータテハは、黒班の大きさが全体に揃っている)。
④前翅表前縁の上部の2つの黒班の間の淡色部が目立つ。
⑤キタテハとシータテハの区別点にも使われる、前翅表内縁寄り(第2室)中央の黒班の上(第3室)に黒班が現れることは無い(キタテハと同じ。普通のシータテハでは、通常ここにも黒班が出現)。
⑥後翅表の黒班はさらに小さめで、橙朱色部分が広く目立つ。
⑦後翅裏面の白銀色の“C”字は、小型で不明瞭。
これらの特徴を総合すると、この雲南・四川省境個体群は、むしろシータテハよりも、N.(P.)commaをはじめとした、アメリカ産の近縁各種に似ているのです。シータテハはヒオドシチョウ属を細分した場合、シータテハ属(または亜属)に含められるのですが、北米産は10数種の多数の種に分けられているのに対し、旧大陸産は、広域分布のシータテハと、地中海沿岸~中央アジア産(中国西北部にも分布?)のミナミシータテハN.(P.)egena、中国西南部に稀産する、オオエルタテハ(オオシータテハ、クロキタテハ)N.(P.)giganthea(「中国のチョウ」に詳しい解説あり)、及び東アジア各地に繁栄するキタテハN.(P.)c-aureumの4種となっています。
このうち、キタテハは外観はシータテハに似るのですが、♂外部生殖器の構造をはじめ、基本構造に他のシータテハ類と顕著な相違があるため、僕は別グループに移すべきと考えています。もしこの種をキタテハ属に含めるのなら、色彩斑紋が著しく異なるも、基本形態が共通するルリタテハN.(Kaniska)canaceも、シータテハ属(亜属)に含めるべきでしょう。
僕が、「中国のチョウ~海の向こうの兄弟たち」を執筆した際、中国のシータテハに対する扱いをどうするかで、随分悩んだのです。シータテハを定義する重要な特徴は、♂外部生殖器の幾つかの部分の特化にあります。実は、中国産のシータテハの中には、それらの部位の特殊化が見られない個体(おおむね北米産の数種と共通)が混じっている。充分な資料が無かったため、追試が必要と思い、「中国産は複数種から成る可能性が強い」と示唆するに留めて置きましたが、一種ではなさそうなことは、確かなようなのです。
杭州の市街地や、成都の都心部(共に緯度は種子島~屋久島に相当)の様な平坦な低標高地にも見られる一方、この四川・雲南省境山地の様な、標高5000m近い地にも出現します。それ自体、かなり不思議なことだと思います。
“ウスズミツバメシジミ”の例もあるように、例え外観の印象は著しく違っていても、外部生殖器の構造は寸分同じ、従って種としては同一種に含めるべき、ということになる可能性もあるでしょう。それとも、未知の複数種のうちの一つなのか。同様の印象を持つ集団が、どの程度の範囲まで分布しているのか、の検証をはじめ、課題は沢山残されています。
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【月・水・金】中国の花/中国野生植物図鑑
【火・木・土】中国の蝶/中国蝶類生態図鑑
【月・木】日本列島および近隣地域の野生アジサイ
【水】中国大陸(&台湾・南西諸島)のセミ
【火・金(・日)】ElvisとBeatlesの狭間で~Johnny Tillotsonの時代
【随時(当面は土曜または日曜を予定)】中国旅行情報
【随時(当分は毎日)】My Sentimental Journey
【一時休載】屋久島はどこにある?(東シナ海周縁紀行)
【一時休載】屋久島はどこにある?(長江流域遡行紀行)
青山潤三・花岡文子
メールアドレスjaoyama10@yahoo.co.jp
★今日は下記の④シリーズです。
「日本列島および近隣地域の野生アジサイ」及び「中国大陸(&台湾・南西諸島)のセミ」はしばらくお休みします。
生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(17)
ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(15)
中国旅行情報(10)
My Sentimental Journey(38)
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生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(17)
No.009四川・雲南省境の山で見た不思議なシータテハNympharis(Polygonia)c-album ssp.
タテハチョウ科Nymphridae/ヒオドシチョウ亜科Nympharinae/ヒオドシチョウ族Nympharini/ヒオドシチョウ属Nympharis
雲南・四川省境Border of Yunnan・Sichuan/標高alt.4600m/2010年9月21日
さて、前回のツバメシジミ同様、種としては旧大陸(ごく近縁な種が北米にも)温帯域に広く分布する種の一つに、シータテハがあります。そして雲南産の“ウスズミツバメシジミ”の場合同様、この雲南・四川省境山地のシータテハも、シータテハでありながら、シータテハらしからぬイメージのチョウなのです。仮に和名を付けるとしたら“ニセコヒオドシ”あるいは“ヒメエルタテハ”。
高山帯(撮影地は標高4500mを超えています、全山石灰岩の山、正確には両省の省境から、10~100mほど雲南省寄り)の瓦礫地に咲くキリンソウの一種の花に多数の個体が吸蜜に訪れるのですが、何度見ても、コヒオドシと錯覚してしまう。翅型や斑紋は間違いなくシータテハなのだけれど、印象はコヒオドシ、あるいはエルタテハなのです。雲南や四川の山(というよりも麓の集落付近)ではコヒオドシが極めて多いので、ここでも本物のコヒオドシも混じっているものと思い、注意してチェックしていたのですが、なぜか一頭も確認することが出来なかった。翌日、標高にして1000mほど下った集落近くの路傍で、やっとコヒオドシを発見、遠くから一回シャッターを押しただけで逃げて行ったのだけれど、一応撮影をしておいたので、本物と偽物を比較して見よう、とその写真を拡大して見たら、なんとこれもシータテハ。それほど(実際に見た時の印象は)コヒオドシによく似ているのです。
何故、こんなにも普通のシータテハとイメージが異なるのか、検証してみました。
①翅型は、全体に四角っぽく、前翅外縁の抉れが少ない。そのため面積が広く感じる。秋型よりも夏型的(ただし季節からして秋型でしょう、年1化の可能性も強いですが)。
②翅表の地色が極めて濃く、コヒオドシ、ヒオドシチョウ、エルタテハなどと同様の、橙朱色に近い(普通のシータテハは明るい黄褐色)。
③前翅表前縁の上部の2つの黒班と、それ以外の黒班の大きさの差が顕著(普通のシータテハは、黒班の大きさが全体に揃っている)。
④前翅表前縁の上部の2つの黒班の間の淡色部が目立つ。
⑤キタテハとシータテハの区別点にも使われる、前翅表内縁寄り(第2室)中央の黒班の上(第3室)に黒班が現れることは無い(キタテハと同じ。普通のシータテハでは、通常ここにも黒班が出現)。
⑥後翅表の黒班はさらに小さめで、橙朱色部分が広く目立つ。
⑦後翅裏面の白銀色の“C”字は、小型で不明瞭。
これらの特徴を総合すると、この雲南・四川省境個体群は、むしろシータテハよりも、N.(P.)commaをはじめとした、アメリカ産の近縁各種に似ているのです。シータテハはヒオドシチョウ属を細分した場合、シータテハ属(または亜属)に含められるのですが、北米産は10数種の多数の種に分けられているのに対し、旧大陸産は、広域分布のシータテハと、地中海沿岸~中央アジア産(中国西北部にも分布?)のミナミシータテハN.(P.)egena、中国西南部に稀産する、オオエルタテハ(オオシータテハ、クロキタテハ)N.(P.)giganthea(「中国のチョウ」に詳しい解説あり)、及び東アジア各地に繁栄するキタテハN.(P.)c-aureumの4種となっています。
このうち、キタテハは外観はシータテハに似るのですが、♂外部生殖器の構造をはじめ、基本構造に他のシータテハ類と顕著な相違があるため、僕は別グループに移すべきと考えています。もしこの種をキタテハ属に含めるのなら、色彩斑紋が著しく異なるも、基本形態が共通するルリタテハN.(Kaniska)canaceも、シータテハ属(亜属)に含めるべきでしょう。
僕が、「中国のチョウ~海の向こうの兄弟たち」を執筆した際、中国のシータテハに対する扱いをどうするかで、随分悩んだのです。シータテハを定義する重要な特徴は、♂外部生殖器の幾つかの部分の特化にあります。実は、中国産のシータテハの中には、それらの部位の特殊化が見られない個体(おおむね北米産の数種と共通)が混じっている。充分な資料が無かったため、追試が必要と思い、「中国産は複数種から成る可能性が強い」と示唆するに留めて置きましたが、一種ではなさそうなことは、確かなようなのです。
杭州の市街地や、成都の都心部(共に緯度は種子島~屋久島に相当)の様な平坦な低標高地にも見られる一方、この四川・雲南省境山地の様な、標高5000m近い地にも出現します。それ自体、かなり不思議なことだと思います。
“ウスズミツバメシジミ”の例もあるように、例え外観の印象は著しく違っていても、外部生殖器の構造は寸分同じ、従って種としては同一種に含めるべき、ということになる可能性もあるでしょう。それとも、未知の複数種のうちの一つなのか。同様の印象を持つ集団が、どの程度の範囲まで分布しているのか、の検証をはじめ、課題は沢山残されています。
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