青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

中国および日本のユリ科(狭義)植物 Ⅱ 麗江百合Lilium lijiangense

2024-04-23 21:03:25 | 雑記 報告



去年の暮れから毎日のように銭湯に通っています。歩くと20分余。去年の春~秋も、蝶の観察の為に毎日のように近くを通っていたのですが、存在に気が付かなかった。撮影の帰りに風呂に入っていたらさぞ気持ちが良かっただろうことを思えば、勿体ない事をしたものです。

今年は、(その付近での)撮影自体はほとんど行っていないのですが、逆に銭湯には毎日のように通っています。近所の看板屋さんの社長氏が、仕事を終えてから、一緒に車に乗っけてくれるので、歩かずに行けるのです。


なんせ、入浴料100円ですよ!東京の近所の銭湯(名前は温泉だけれど唯のお風呂)の990円!比べて超格安です。近所には他にも何カ所も銭湯があって、日替わりでそれらの銭湯(市内は100円、別の行政だと220円)を回っています。幾つかの銭湯には露天風呂も有ります。


露天風呂大好き人間の僕としては、歩かずに行ける近所の町中露天風呂も悪くはないですが、やはり何と言っても、露天風呂と言えばアウトドアに限ります。


日本アルプスの渓谷露天風呂と、屋久島周辺諸島の海岸露天風呂。


日本一高い(標高2100m余)雲上の露天温泉が3か所あります。


八ヶ岳中部の本沢温泉、北アルプス北部の白馬鑓温泉、北アルプス中部の高天原温泉。前2カ所は何度か通ったことがあるけれど入浴はしていない。最も山奥にある(行くのに2日以上かかる)高天原温泉では、入浴したことがあります(60年ほど前です)。風呂から上がって、(バリエーションルートで)水晶岳に登りました(60年間、山に行く時は常に単独行)。また行きたいけれど、、、さすがに無理でしょうね。

一番気に入っていた露天風呂は、その高天原への登山口にあたる、湯俣温泉。登校拒否児だった中学生の頃、夏はその山小屋でアルバイトをし、同じ経営の三俣山荘、雲ノ平小屋、水晶小屋などにボッカをしていたのです。湯俣小屋はひと夏僕一人で管理していた(今思えば、よく中学生に任せてくれたものです)。食事も一人で作っていた。メニューは卵チャーハンだけ。ある日、登山客が昼飯を食べに立ち寄り、三俣山荘に向けて登っていった。数時間後、僕も用事があって登ったところ、ちょうどその登山客に追いついて、小屋にチェックインをするところだった。


登山客氏、受付のスタッフに向かって(むろん僕の存在には気が付かずに)開口一番「腹減った!湯俣小屋で食べたチャーハンが美味しかったので、ここでも食べることが出来ますか?」。もしかすると、僕の人生で、一番の自慢案件かも知れませんね!


夜、宿泊客たちが寝てから、ひとりで河原に降りて、硫黄泉が噴き出す流れを石で堰き止めて、即席の露天風呂を造ります。流れ星が、火の玉のように飛び交っています。1961年か62年の夏。




僕にとっての露天風呂と言えば、屋久島。平内と湯泊の海中温泉ですね。今は有名になり過ぎて、以前のような素朴な風情は無くなったのではないかと思われますが、引き潮の時だけ入浴可、普段は荒海の中、という正にワイルドな温泉でした。遠くトカラ列島を望みながら浸かる湯は、天国。

その、トカラ列島(十島村)の温泉、中之島では1970年代初頭、早朝フェリーが着いて、すぐに露天風呂に向かいました。僕としては珍しく2人の同行者がいて、なぜか男3人で女風呂に入ったのを覚えています。


後に主要フィールドとしていた口之島の露天風呂は、村から数時間歩いた僻地にあります。へとへとで辿り着いたら、室内の風呂は施錠されていて入れず、露天風呂のほうは水が少ししか無くて、ヘビがたむろしていたので入るのを諦めました。


口之島の北にある口永良部島(屋久島町)にも温泉があります。やはり歩くと村から数時間かかります。ここにも、海岸に露天風呂がありますが、それだけではなく、場違いな温泉旅館街?があります。もっとも人は一人も住んでいない。移住するならココだと思うのですが、実際に生活が出来るのかどうかは、定かではありません。


口永良部島を挟んでトカラ列島と反対側の三島列島(三島村)の露天風呂も、結構有名ですね。もっともそれは活火山の硫黄島(とその東隣の竹島)の露天風呂。僕のフィールドである黒島にはありません。名の通り黒々とした原生林に覆われ、島の周りは断崖絶壁、火山性の他の島々よりも成立が古いため、温泉はないのです。でも、ある時、東大の研究者たちの一行に出会ったことがあって、何をしているのですか?と尋ねたところ、「この島にも温源が無いだろうかと調査をしているのです」とのこと。その後、温源は見つかったのでしょうか?(たぶん徒労に終わったのだと思います)。




最後に、僻地の露天風呂と言えば、何と言っても中国。台湾にも数多くの露天風呂があります(僕は以前「地球の歩き方」の取材でそのほとんどを回った)が、こちらは観光化された近代的な施設です(でもどの温泉も素晴らしい!)。一方、大陸中国のほうは、有るには有っても、そりゃもう悲惨なロケーション・施設。概ね崖や岩の間からちょろちょろとお湯が流れ落ちているだけだったり、道なき道の原生林の中に、モロ硫黄が充満した高熱の湯が沸きだしていたり、、、、。ワイルドを通り越して、とても入浴など考えられないところだらけです。

もっとも、今世紀に入って、国を挙げての観光ブームに突入、今では各地に壮大な温泉レジャー施設が出現しているようです。


僕が遭遇した幾つかの温泉を、思い出すまま列記しておきます。

★広東省陽春市郊外八甲村(路傍に湧き出す湯の中で家畜の肉を捌いていた)。

★四川省ミニャコンカ海螺溝(1989年に訪れた時は、崖からちょろちょろとお湯が流れ落ちているだけ、それが2010年に再訪した際には、森林レジャー施設の中の、一大温泉街に変貌していた)。

★雲南省高黎貢山百花嶺(村から踏み後程度の山道を数時間歩いた、滝つぼ近くの原生林のまっただ中に、滅茶熱い硫黄泉が噴出)。

★同・桜花谷(イラワジ川支流の断崖の原生林中、ここはバンガローもあり、中国の露天風呂では最高!ちなみに、夏の真っただ中に数日滞在したけれど、宿泊・湯治客は僕一人だった)。

★雲南省梅里雪山西当温泉(上記海螺溝と似たり寄ったりのチョロチョロ湯、宿泊施設は馬小屋の中、、、でもきっと今は、近代的温泉に生まれ変わっているのだと思う)。

★福建省龍岩市近郊(町の中心部から適当にバスに乗って終点で降り、小一時間ぐらい歩いたところに、超近代的な温泉付きバンガロー村が)。

・・・・・・・・・・・・・


大谷君と一平さん、


今日は一休み、ということで。

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ユリ科の話題 


Bakerianum clade ② 麗江百合

「Biosystematic Studies on Lilium」で「Bakerianum-clade」に含まれている、僕が撮影したもう一つの種は、麗江百合Lilium lijiangenseです。撮影地は麗江からはかなり離れた四川省西嶺雪山(よって同一種かどうかは確信が持てない)。


僕が2014年に表した「中国の野生植物 ユリ科(狭義)」には、川百合L.davidiiやコオニユリL. leichtliniiとともにシノマルタゴン節(「Biosystematic Studies」ではその多くはDavidii-cladeに含まれる)の種として示しています。


実際、これまでのほとんどの文献でシノマルタゴン節の種とされてきたのですが、DNA解析に寄って、川百合やコオニユリとは遠縁の、大理百合などが所属するBakerianum₋cladeの一員と認定されたのです。


花の色や姿は、川百合やコオニユリに非常に似ています。ただし、花色はやや淡い濃黄色(あるいは黄金色)に近い明るい朱色。そして、崖から斜上または垂れ下がるように咲くのが特徴です。葉は川百合のように著しく細くはならず、やや幅広い披針形です。


成都西郊のスキー場として有名な西嶺雪山の東面中腹のスキー場に接した林縁斜面に咲いていました。


同様に垂れ下がり気味に咲き、花型や花色の良く似た種に、湖北百合 Lilium henryiがありますが、この種は花被片の基方に突起群があることで区別できます。「Biosystematic Studies」では、意外なことにRegale₋cladeに所属することが示されています。


意外なことに、と言えば、麗江百合がDavidii-cladeではなくBakerianum₋cladeに所属することも不思議ですが、何故か「中国植物志」には、中国名「麗江百合」学名「L. lijiangense」ともに見当たらない。英語版の「Flora of China」には中国名・英名ともに掲載されていて、川百合や大理百合などとともに、巻弁組の一員として扱われているようです。


ちなみに巻弁組(Sect. Sinomartagonシノマルタゴン節)に所属していたメンバーは、「Biosystematic Studies」では多数のcladeに分割・配分されています。オニユリやスカシユリを含む多くの種はDavidii-clade、大理百合などがBakerianum clade。ただしL.bakerianum(滇百合)自体は、(印象が著しく異なる小百合や尖弁百合ともども)鐘花組Sect.Lophophorumの一員です。


DNA解析による系統は、しばしば外観の類似とは全く関係なく構築され、それ自体は非常に興味深いのですが、往々にして、被検標本の同定が間違っている場合があり、混乱を齎します。正確な同定を行う(系統関係を知る)ために解析を行うのですが、それに供する材料が正確に同定されていなければならない、という絶対条件があります。鶏と卵の関係。いずれにせよ、示された答えを絶対的なもの(最終結論)と見做さずに、つねに懐疑の目を持ち続けることが必要なのではないか、と思っています。





























四川省西嶺雪山 alt.2200m付近 Jul.16,2011








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中国および日本のユリ科(狭義)植物 Ⅰ 大理百合Lilium taliense complex

2024-04-23 08:43:42 | 雑記 報告



歌手の佐川満男さんが無くなりました。僕とは何の縁もないのですが、最初の奥さんの伊東ゆかりさんが、ジョニーのキューティ・パイの日本でのヒットに多大な貢献をしているわけで、それを考えれば僕の人生に(間接的に)少しは影響があったのではないかと。キューティ・パイが日本でヒットしていなかったら、バンコクで三世やジョージとも出会っていないわけですし(笑)。

それはともかく、佐川満男さんの実家は、僕の実家のすぐご近所なんです。近所に住んでいた有名人と言えば、佐川満男と阪神タイガースの真弓選手(2人とも近所には違いないんだけれど面識は有りません)。


中学校時代、JR塩屋の駅前で、花束を持った女子高校生から佐川さんの家を訊ねられて、大体の場所を教えてあげたことがあります。伊東ゆかりを挟んで佐川さんのライバルだったのが、巨人の柴田選手。阪神戦(甲子園)の時の巨人軍の常宿は芦屋の竹園旅館。中学校時代は塩屋⇔芦屋を通っていて、登校途中に竹園旅館の前を通ります。坂の上からランニングで戻ってきた当時新人の柴田選手に向かって、罵声を浴びせた覚えがあります(なんせ、コテコテの阪神ファンだったので)。



今日の大谷君、一平さん。

平野啓一郎氏 大谷翔平の関与疑う発言で稼いだインフルエンサーを疑問視「返上すべきでは」(東スポWEB) - Yahoo!ニュース

大谷翔平選手にまつわる「たられば」の罪深さ(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース

「元NBAスター選手が言ってたよ。オオタニは有罪だって」大谷翔平を“悪人”に仕立て上げようとする米記者に非難の声が殺到!「お前は哀れだ」「もううんざり」(THE DIGEST) - Yahoo!ニュース



なにやら、以前にも何度も見たのと似た動きが、、、、本人たちは全く気が付いていないでしょうが、、、、これ、「集団的洗脳」「同調圧力」の典型であるということに。

無知な大衆はともかく、いわゆる知識層に属する「知能の高い」人たちの、薄っぺらな感性には、呆れてしまうしかありません。


「定説」に対する批判を許さない「自主警察」の人々は、いわゆる「真実」以外の異論は、陰謀論として抹殺します。マスクやワクチンを否定すると、「自分勝手な悪人」「国賊」として罵られる。


香港デモを批判した記事を書いたときは、「(正義の学生たちを非難する)こいつは人間としての心を持っているのだろうか?」と、ボロクソに叩かれました。


今、大谷君に対して一言でも批判を行えば、人間失格の烙印を押されかねません。「恥ずかしいとは思わないのか」「大谷に謝れ」、、、有識者も大衆も、正義の金太郎飴の大合唱です。


大谷君本人にとっても、決して良いことではない、と思います。




しかし、それにしても大谷君、打撃絶好調ですね。とうとう首位打者ですよ!それに松井を抜く通算本塁打。

打率(1位)、安打数(1位)、出塁率(3位)、二塁打(1位)、三塁打(6位)、ホームラン(9位)、得点(4位)、打点(23位)、塁打数(1位)、長打率(3位)、盗塁数(9位)、OPS(3位)、、、(打点を除き)全てトップを競っている。凄い事ですね。

にもかかわらず、得点圏打率が最悪(昨日やっと2本目を打ち、今日やっと1割台に乗せて、95位から89位に)。まさかとは思うけれど、このままでは、シーズン終了後、首位打者(あるいは三冠王)になって、得点圏打率は最下位、という、前代未聞の珍事にもなりかねません。


まあ大丈夫だとは思いますが、例年、表立った実績に比べて、得点圏打率は低い。そこいら辺に(野球だけではなく一平氏問題などを含めた)大谷君の課題が(それとなく)示されているのではないかと思います。


野球選手として完璧な成績。


人間として完全無欠。


しかし、光の当たる角度を変えてみれば、、、、、。




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ユリ科の話題。

いろんな異質の集団を寄せ集めた巨大ファミリーから、一気にごく少数の属と種から成る弱小ファミリーに転化した(必ずしもネガティブに捉える必要はない)、ユリ科植物ついて、僕が撮影した中国産と日本産の種を中心に紹介していきます。


何度も繰り返して言いますが、僕は(自分で形態や生態を深く検証しているチョウやセミと違って)植物に関しては(唯一、野生アジサイを除き)全くの素人です。アカデミックな知識も、マニアックな知識も全く持ち合わせていません。よって、幾つかの文献に示されている資料からの、受け売りの知識を、自分なりに統合・再編して、蘊蓄を述べていくことになります。


ユリ科は、ユリ亜科、タケシマラン亜科、ホトトギス亜科から成り、その大半をユリ属が占めます。


ユリ属の分布は東アジアに集中しています(一部は北米大陸)、人気の発祥地はヨーロッパです。宗教と結びついたのも大きいですね。ヨーロッパにも少数の種が在来分布していますが、多くは東アジアから持ち込まれた素材を基に、園芸化が為されてきました。そのヨーロッパの研究者たちの視点で、アジア産の原種群を含めた系統分類に、古くから取り組まれ続けてきました。さすが博物学の本場だけあって、その分類体系の構成の完成度は、すばらしいものだと驚嘆します。しかし、近年の分子生物学的手法に拠る解析では、少なからずの見解が覆っています(別の視点から捉えれば、かなりの一致点も見出されるとも言える)。


欧米に於ける研究とは別に、ユリ属の系統的な分類体系は、北米産のPardalinum群などを除く大半の種が中国大陸に集中して分布していることもあって、中国でも研究が進められています(ただし、「中国語版中国植物志1980/2019」「英文版Flora of China2001」「中国植物図像庫」でしばしば異なる見解が示されている)。ヨーロッパにおける伝統的分類体系とも、次に記す(日本の)最新科学技術に導かれた見解とも、かなりの部分で異なってはいますが、なにしろ材料が圧倒的に豊富なことから、無視はできません。


大抵の東アジア産の生物では、日本産の種は中国産の種の中に概ね含まれていて(日本固有種とされるものも大半が中国に姉妹種が分布しています)、ということは、中国産による系統分類がそのまま日本産にも応用される、という側面があります。


然るに、ユリ属に関しては、中国大陸に分布の中心があるグループの他に、日本列島(および日本海周縁地域)にだけ分布する種から成るグループが、少なからず存在します。そのいくつかは、例えばヤマユリのように、日本的な清楚で奥ゆかしい情緒を保ちながら、日本産生物としては珍しく豪華絢爛な種です。


東アジアのユリ属の種は、中国大陸(主に西南部)と日本列島に二極化して分布しているわけです(そしてそれぞれがヨーロッパに於ける品種改良の重要な役割をなしている)。


その結果、旧来の伝統的な西洋博物学に拠る分類体系、膨大な材料に物を言わした中国に於ける分類体系、近代科学的手法に基づく日本での分類体系、それぞれの手法の違いと共に、材料の違いもあるわけで、レザルトに食い違いが生じても、仕方がない事と思います。




現時点でユリ属の系統分類に於ける最も信頼性の高い報文は、幾つかの日本産固有種を含めた多くの東アジア産の種を中心にDNA解析を行った「Biosystematic Studies on Lilium (Liliaceae) I. Phylogenetic Analysis Based on Chloroplast and Nuclear DNA Sequences and a Revised Infrageneric Classification」(T. Watanabe, et.al, 2021)ではないかと思われます。

その共同執筆者の一人である大阪の植物園「咲くやこの花館」の前名誉館長久山敦氏が、従来の諸見解を纏めた「花の故郷から学ぶ(6)野生の百合」を、一般紙に寄稿されています。


6月号カンプ_P37〜39_自生地めぐり.pdf

氏よりの私信には、

「上記論文の発表前の諸見解の纏め故、群の組み合わせが大きく異なる」としたうえで、

●DNA調査は一部種しか出来ていないので、全貌をつかめない。

●種の定義に趣味家的な見解もあることが問題。

●正確なKEYが出来るまでには時間を要しそう。

旨のことが附されていました。

正にその通りでしょうね。

思うに、ユリ以外の一般論としても同様でしょうが、ことにユリなどの人気のある対象に於いては(趣味家的な見解に基づく種の定義などに伴った)材料が多いことが必ずしもプラスの要因とはならないのではないでしょうか?

それはともかく、上記の論文にしても、葉緑体による解析手法と、核DNAに基づく解析手法とでは、群間の系統関係の組み合わせが著しく異なってきます。


ここでは、核DNA解析により成された分類をベースとし、敢えて群間関係には触れずに、11の群を並列して個々に紹介していきます。そのうえで、幾つかの群に分かれて配置されている「中国植物志」記載の各種を、それぞれ11の群に振り分けて行きます。




今回のブログでの紹介は、大理百合Lilium talienseから始めます。

ポピュラーでインパクトの強い種と成れば、種としても群としても日本独自の存在で、何と言っても清楚かつ豪華な花のヤマユリがNo.1ではないかと思われますが、この報文は中国の自然をベースにしていることから、別群の種を選んだわけです。


中国を代表する野生ユリとしては、リーガルリリー、野百合(ハカタユリ=日本のテッポウユリなどに近縁)、川百合(日本のコオニユリなどに近縁)などがあります。


けれど、僕のフィールドである西南地方の山岳地帯に広く分布し、かつ群としてもこの地域が主体(日本には分布しない)で、なおかつビジュアル的に非常に美しい(花の色彩斑紋パターンはヤマユリに似て、ずっと小型で可憐)大理百合を、トップバッターに選んだわけです。




以下、「中国の野生植物・ユリ科(狭義)」初版(2014)の記述を転載。

Lilium taliense (大理百合)

7月頃、雲南省西北部や四川省西部の標高2400m~3600m付近の林縁や渓流沿い草地などで、白とピンクの地に紫色の斑点を伴った美しい花が咲く野生ユリによく出会う。この一帯では比較的ポピュラーな植物だと思うのだが、種名が特定できないでいる。

白花の多くは大理百合Lilium talienseと同定して良いと思うのだけれど、問題は紅花。大理百合の色違いの変異型なのか、独立の分類群に所属するのか。後者の場合、宝興百合L duchartrei である可能性が強いのだが、さらに複数の種(例えば卓巴百合 L.wardiiなど)が混在している可能性もある。

茎は直立または斜上し、葉は細長い披針形、対生または輪生。径5㎝ほどの花が茎頂に1~数個下向きに咲く。花被弁は強く反り返る。筆者の撮影した個体に限って言えば、四川省九賽溝産は全て白、四川省康定は淡いピンク、四川省境近くの雲南省翁水では白とピンクが混在、雲南省白馬雪山産は全てピンク。

いくつかの傾向があり、白花株は開けた草地や日当たりのよい斜面に多く、紅花株は林縁や日陰になった路傍などによくみられる。白花株は草丈が高く花序に花を多数つけ、紅花株は草丈が低く、花序の花は少ない。

宝興百合L.duchartreiが大理百合L.talienseと異なる特徴は、花被弁基部両側?の蜜腺周辺に突起が発達すること、葉柄があること、などとされるが、筆者の撮影した紅花個体ではその特徴を確認していない。

宝興百合の系統分類上の位置づけは、「中国植物志」では大理百合L.talienseと同じ巻弁組(ほかに川百合L.davidiiや日本のコオニユリL.leichtliniiなども所属)に含まれているが、検索表に於ける位置づけはかなり遠く離れている。



「中国植物志」(1980[2019版])によると、宝興百合L.duchartreiに似た匍茎百合L.lankongense(←双苞百合L.ninae)が、全ての他のユリとはなぜか別枠で示されていて(“葉が散生“という特徴に基づく?)、ただし英語版「Flora of China 」(2000)では、宝興百合と共に、大理百合の近縁種として位置づけられています。



大理百合と宝興百合の区別点(「中国植物志」に拠る)

乳腺は乳頭状ではなく時には線毛状の突起を伴う(大理百合)。

蜜腺は両面に乳頭状に形成される(宝興百合)。



宝興百合と匍茎百合の区別点(「Flora of China」に拠る)

葉腋に白毛が密生、葉脈は背軸方向に隆起しない。花被片は白く、赤紫の斑点がある(宝興百合)。

葉腋には毛がない。葉脈は背軸方向に隆起。花被片はピンク色で、深紅の斑点がある(匍茎百合)。



宝興百合と匍茎百合の区別点(「Pacific Bulb Society」に拠る)

花は散形花序の長く優雅な花柄に付き、花の基本色は白(宝興百合)。

花は開いた総状花序の長い花柄に1茎あたり6~12個付き、下向きで反り返る(匍茎百合)。



「Biosystematic Studies」では大理百合L.taliense自体がコオニユリなどの巻弁組各種(大半がDavidii-clade)から遠く離れて位置づけされていて(Bakerianum-clade)、宝興百合L.duchartreiについては記述がありません。前記したように「Biosystematic Studies」は葉緑体と核DNAの解析から成されていて、それぞれの手法で群(Clade)間の対置関係が全く異なります。



いずれにせよ細部の検証は僕の写真では困難ですが、「Taxonomic notes on Chinese Lilium L. (Liliaceae) with proposal of three nomenclatural revisions(Yundong, Gao2014)」「横断山分布的百合属植物」などに於ける見解などとも照らし合わせれば、少なくとも雲南省翁水村に於ける白花と赤花は、それぞれ大理百合と匍茎百合(もしくは宝興百合)に相当するのではないかと思われます。しかし、そのほかの地域で撮影した、四川省九賽溝の白色個体、四川省康定の淡ピンク色の個体、雲南省白馬雪山のピンク色個体等が、それぞれ上記の分類群に相当するか否かについては定かではなく、暫定的にそれらを複合して、大理百合複合種L.taliense complexとしておきます。


大理百合が所属するBakerianum-cladeには、他に中国西南部からミャンマー北部にかけて分布する鮮やかな色調の滇百合L.bakerianumや、一見コオニユリなどが所属するDavidii-clade(シノマルタゴン節の主要メンバー)の種に似た麗江百合L.lijiangense(次回紹介予定)などが含まれますが、日本列島および日本海周辺地域には一種も分布していません。












































四川省との省境近く、雲南省西北部翁水村の路傍の急斜面(alt.約3100m)に、典型的なL.talienseのように思える、背の高い白花の株が多数生えていた。Jul.16,2014

















上写真20枚の白花個体と同じ場所に、草丈の低いピンク色の株も混在。こちらはL.lankongenseである可能性が強い。Jul.16,2014













雲南省白馬雪山中腹、alt.約2000mの長江岸から、alt.4300mの峠頂との中間地点付近(alt.約3000m)の夏緑広葉樹林の林縁に、ピンク色のやや草丈の高い株が散生していた。Jul.29,2008









四川省九賽溝。渓流に接した広い湿性草原(alt.約2500m)上に、草丈の高い白花の株がポツンポツンと生えていた。Jul.31,1991












四川省康定(alt.2800m付近)。急斜面に生えていた淡ピンク色の株。Jul.25,2010







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