青山潤三の世界・あや子版

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近所の森の蝶 2

2021-12-04 09:00:00 | コロナ 差別問題と民主化運動 身近な自然


近所の森の蝶 2

シロチョウ科Papilionidae 粉蝶科 White/Yellow/Orange-tip

翅は白か黄色で黒条や黒斑があり、縁には凸凹が少なく、穏やかな感じがする。大きさは中型~やや小型。世界に約1000種、日本産は20数種(種の細分や迷蝶のカウント次第で10種ほど増える)、大きく3亜科に分けられる。

モンシロチョウ亜科(モンシロチョウ族、ツマキチョウ族)の種は、幼虫が主にアブラナ科を食べ、成虫は静止時に翅を開いていることも多い。モンキチョウ亜科(モンキチョウ族、キチョウ族)の種は、主にマメ科を食草とし、静止時には常に翅を閉じたままである。ヒメシロチョウ亜科の種は、日本では山地や寒冷地にのみ棲息している(新大陸に繁栄する)。なお、モンシロチョウ亜科とモンキチョウ亜科は、統合してシロチョウ亜科とする見解もある。

活動時間は日中で、日のよく当たる所や明所と暗所の境界に沿って、緩やかに、いかにも蝶々らしくひらひらとはばたきながら飛ぶ。アゲハ類のような明瞭な蝶道は作らないが、ツマキチョウは直線的に同じコースを行き来する性質が著しい。

花の蜜を好み、雄は吸水にも訪れるが、樹液や腐果には来ない。交尾の済んだ雌は、地上に止まり腹部を持ち上げて雄の求愛を回避するが、そのパターンは種によって様々で、モンキチョウやキチョウの場合は極めて特徴的である。

卵は紡錘形。幼虫は典型的なアオムシ。蛹はアゲハチョウ科と同じ帯蛹で、上向きにとまり、背に糸をかけ、胸が出た鳩胸型と背が盛り上がったセムシ型がある。

霞丘陵産は5種。参考として、山地や寒冷地でポピュラーな3種、亜熱帯の都市周辺で普通に見られる2種、および以前は首都圏の近郊にも産したが現在はほぼ姿を消したツマグロキチョウを追加紹介しておく。




モンシロチョウ(上)とスジグロチョウ(下)
著者のアパートから霞丘陵に行く途中の路傍にて 2021.5.30
【同じ場所で揃って見られるが2ショット撮影のチャンスをものにするのは意外に難しい】




シロチョウ科の幼生期など(「里の蝶」から一部をコピー)。




平均的なサイズ 小さめの中型


霞丘陵周辺に分布する蝶は、ほかの科では少なくとも10種以上を数えるが、シロチョウ科は5種だけである。日本産全体から見ての割合でも明らかに少ない。首都圏に限らず、北日本と南日本を除く各地の都市近郊でも、そのメンバーは変わらない。

しかし、早春一度だけ姿を見せるツマキチョウ以外の4種、モンシロチョウ、スジグロチョウ(スジグロシロチョウ)、モンキチョウ、キチョウ(キタキチョウ)は、いずれも身近な蝶の代表的存在である。そして、いずれの種も、興味深い未知のテーマをどっさりと隠し持っている。身近なシロチョウ科の種数は限られるが、どれも中身は濃く深い。

これまで著者は、どちらかと言えばモンシロチョウやスジグロチョウの白蝶類のほうに関心があって、日本産や中国産、ヨーロッパ産や北米産など、機会があるごとにチェックをし続けてきた。食草のアブラナ科(野菜となったキャベツやダイコンなどを含む)における、日本と海外との関わりも面白いテーマである。

一方、モンキチョウやキチョウなどの黄蝶類については、漠然とした知識や興味しかなかった。主解説でも触れたように、キチョウ亜科の種は常に翅を閉じてとまる。モンキチョウは北方要素の種で、明所の草原的環境に棲み、クローバーなどのマメ科草本を食草とし、幼虫越冬で年の前半に個体数が多く、メス→オスの長時間追飛翔を行う。キチョウは南方要素の種で、やや暗所の繁みの周辺に棲み、同じマメ科でも低木のハギなどを食草とし、成虫越冬で年の後半に数が増え、産卵中のメスの上をオスが停空追飛し続ける。その辺りのことは大雑把に把握していた。

しかし改めて観察を始めたら分からないことだらけ。例えばモンキチョウと言えば、メス→オスの不思議な追飛翔なのだが、それがほとんど観察できなかった(詳細については第二章で)。主要食草のクローバーやウマゴヤシ類は外来植物である。まさかとは思うが、それらと共に侵入した個体の遺伝子が混じり異なる生態を示している?ちなみに中国産(中国では山地性)は外観も交尾器の形状も日本産と変わらず、日本産同様メス→オス追飛翔を行う。
霞丘陵の観察地の“コリアス草原”では早春の第一化と初夏の第二化は大発生するのだけれど、夏以降には忽然と姿を消してしまう。そして11月になって再び姿を現す。その間、別の場所に移動しているのか?ここで発生はしているけれど人目のつかないところに潜んでいるのか?それとも生理的な機能を調節して夏の間(幼虫などで)休眠しているのか? 

キチョウ(キタキチョウとミナミキチョウの種分割については著者が捉える種の概念に基づく様々な意見があるため暫定的に分割を保留しておく)にも謎が多い。こちらは、(モンキチョウの大発生時にも周辺部に見られるが)どちらかと言えば年の後半、秋になって個体数が増える。春や初夏のモンキチョウのように大群とはならないが、他の蝶が少ない冬季を含む一年中、盛夏を除き切れ目なく姿を見せる。越冬型と非越冬型があって、春や秋には、両タイプが混在しているように思えるのだが、その関係性がよく認識出来ないでいる。越冬前後の交尾(求愛)や産卵の実態も、分からない部分が多い。

モンシロチョウ(日本産は旧い時代の帰化種、、、ではオリジンの地は?)、スジグロチョウ(ほぼ日本固有種、大陸産の広義のエゾスジグロチョウとの関係は?)共々、ごく身近な存在ながら、実は未解明な実態が数多く残されているのが、シロチョウ科の“普通種”4種なのである(それらについては、第二章、第三章で述べる)。

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モンシロチョウ Pieris rapae 菜粉蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.4.10 春型オス 

日本で最もポピュラーな蝶。ヨーロッパでも普遍的だが、英名では“Small Cabbage White(小型キャベツ白蝶)”の名で呼ばれるように、オオモンシロチョウが主で本種はサブ的位置づけ。日本産が在来種かどうかは不明で、古い時代に移入帰化した種である可能性が強い(高山に発生する集団は2次的由来だろう)。そもそも中国産の実態も分かっていない。おそらくキャベツの原種共々、中央アジアから地中海西南岸付近に起源があるように思われる。スジグロチョウがアブラナ科の野生種を好むのに対し、本種は栽培種、殊にキャベツを好む。小さめの中型種。春型は黒斑が淡く、裏面がくすんだ色合い。雌は黒斑部が褐色味がかる。シロチョウ類は常に翅を閉じて止まるキチョウ類と異なり、翅を開いて止まることが多い。年4~5化(蛹越冬)。訪花し吸水するが樹液には来ない。フィールド日記3.24/3.27/5.23/5.25/5.29/5.30/6.1/6.10/9.10/10.20/10.30/11.11。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


スジグロチョウ Pieris melete 黑纹粉蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.4.22 春型オス 

最近は“スジグロシロチョウ”と呼ばれることが多いが、本書では古くから呼ばれていた“スジグロチョウ”の名で記す。モンシロチョウよりもやや暗い環境に棲息し、建造物の多い都市部周辺では本種の方が多く見られる傾向がある。野生のアブラナ科、殊にイヌガラシを好み、キャベツなどの蔬菜の薹の立った葉にも卵を産付する。やや小さめの中型種。年4-5化(蛹越冬)。春型の雄翅表は個体により黒色斑を全く欠く。雄は強い香り(発香鱗)で雌を誘引する。京阪神圏では都市周辺には分布せず、場所によっては(首都圏ではかなりの山奥に行かねば見られない)酷似したエゾスジグロチョウPieris napiが棲息している。Pieris napiの分布域は北半球温帯全域に亘り、幾つもの異なる種で構成され、日本産も2種(ヤマトスジグロチョウとエゾスジグロチョウ)に分割するという見解もある。フィールド日記3.24/3.27/4.8/4.10/4.22/4.23/5.29/5.30/6.1/6.8/6.10/6.11/6.15/6.18/7.12/7.18/8.19/8.20/9.7/9.10/9.20/9.28/10.20。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


モンキチョウ Colias elate 斑缘豆粉蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.6.1 メス-オス

霞丘陵の草原(仮称:コリアス草原)に於いて一年の前半で最も数多く見られる蝶。第1化(3月中旬~4月中旬頃)と第2化(5月中旬頃~6月中旬頃)の発生期には、草原上を覆うように群飛し、交尾中の雌雄や産卵中の雌も数多く見られる。6月後半以降はこの草原から一斉に姿を消し、次に現れるのは11月。場所を移動しているのかも知れない。年4~5化(蛹越冬)。食草はマメ科草本のスズメノエンドウ、シロツメグサなど。キチョウ亜科の種はシロチョウ亜科の種と違い(近くに別個体が来た時などを除き)静止時に翅を開くことはない。雄は黄色、雌は白色と黄色で地域により出現率が異なり東京近郊では白色型が多数を占める。翅縁が紅色を帯びる。やや小さめの中型種。ほぼ日本全土に分布。開けた環境を好む。タンポポなど草本の花で吸蜜し樹木の花に来ることは稀。樹液には来ない。フィールド日記 3.24/3.27/4.8/4.20//4.22/4.27/5.23/5.25/5.30/6.1/6.6/6.9/6.15/6.18/7.18/9.8/9.10/11.11/11.12/11.13/11.20。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


キチョウ(キタキチョウ) Eurema hecabe 宽边黄粉蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.4.8 越冬個体

近年分子生物学的な手法による分類が進み、日本産のキチョウは「キタキチョウ」と「ミナミキチョウ」の2種に分割されることになった。しかし「種」の定義は未解決な部分も多く、本書では便宜上一種として纏めて置く。小さめの中型種。モンキチョウ同様、静止時には翅を開かない。モンキチョウ属が主に北半球温帯域に広く分布し開けた草原的環境を好むのに対し、キチョウ属の分布は主に熱帯地域、森林の周辺部に棲息する。キチョウは最も北方まで分布(北海道南部以南)。食草はモンキチョウと同じマメ科だが、低木のハギ類などが主体。多化性、成蝶越冬。周年経過については未解明な部分が多い。非越冬型は前翅表縁に広く黒帯を生じ、越冬型では黒帯を欠く。越冬後、雄は産卵中の雌の上方を停空飛翔する。近縁種タイワンキチョウと異なり卵塊は作らない。フィールド日記3.24/3.27/4.8/4.10/4.20/4.22・4.23/4.27/5.6/5.28/6.1/6.9/6.13/6.15/6.16/8.11/9.7/9.8/9.10/9.19/9.20/9.28/9.29/10.2/10.11/10.20/10.24・10.28/10.30/11.11/11.12/1120。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


ツマキチョウ Anthocharys scolymus 黄尖襟粉蝶


東京都青梅市霞丘陵 2021.3.24 オス

年一度早春出現。ギフチョウが「春の女神」なら本種は「春の乙女」といったイメージ。もっとも、“乙女”らしさ印象づける翅先のオレンジ色を備えているのは雄だけで、雌はその部分が白い。ごく小さめの中型種。飛翔時にはモンシロチョウやスジグロチョウの小さめの個体と紛らわしいが、一直線に飛び続け、突然花に止まって、またすぐに飛び立って行く。キチョウ類のように静止時に必ず翅を閉じるということはなく、シロチョウ類同様に開くが、訪花中などは半開きの事が多い。翅を閉じた休息時には後翅裏面の唐草模様が周囲に溶け込む。食草はタネツケバナ類などアブラナ科野生種。都心の公園や家庭菜園にも発生し、菜の花への産卵も確認している。蛹越冬。屋久島以北のほぼ日本全土、中国大陸に分布。北半球温帯に広く繁栄するAnthocharis属のうち翅先端が鎌状に尖るのは4種で、他3種は、中国西南高山帯、北米東海岸、およびメキシコ山地に分布。フィールド日記3.2/4.10。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。


≪参考≫ツマグロキチョウ Eurema laeta 尖角黄粉蝶

かつては首都圏の低地帯にも多数の産地があったが、棲息地の河原敷の消滅に伴う食草のカワラケツメイ(マメ科)の減少により、現在ではほとんどの産地で絶滅状態にある。ただし西日本などでは今も健在な地域もある。多化性で成蝶越冬、越冬世代(写真)は前翅端が鋭く尖り、後翅裏面に褐色の条線が生じる。非越冬個体はややキチョウに似て、翅頂は尖らず、後翅裏面の褐色条を欠く。大きめの小型種。熱帯アジア各地などに広く分布し、ホシボシキチョウEurema brigittaと共に、近縁種は南北アメリカに繁栄している。国外分布は「海の向うの兄妹たち」に別掲。



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