青山潤三の世界・あや子版

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中国のリンドウ(竜胆Gentiana)についての断片的話題 Ⅰ

2021-01-18 20:09:31 | 中国の竜胆



リンドウ属の2種 2009.7.2 四川省康定~雅江(標高4500m付近)




せっかく、あや子さんが(「ブログ村」登録に当たり)「自然科学」のジャンルに入れてくれた(ジャンルは一つしか選べない)ので、一応自然科学関連の話題をアップしておこうと思う。

その前に、以前にも述べた「前口上」を、もう一度繰り返しておく(年寄りは同じ話が多い、笑)。「前置きいらない!リンドウの話だけでいい」という読者の方は、前半2/3ほどは飛ばすこと。
 
坪内逍遥(1859~1935)が「小説神髄」を著した直後の明治19年(1886年)、山田美妙(1868~1910)と二葉亭四迷(1864~1909)がそれぞれ別個に「言文一致」小説の制作に取り組んだ。

逍遥は、良くも悪くも謙虚な(小説家としての資質が欠如していることを自覚している?)人物なので、誰かが新しい文体の小説を著すことにそれとなく期待をかけていたように思える。

すぐさま、美妙と二葉亭(二人はたまたま幼馴染だったそうな)が名乗りを上げた。

美妙は、出たがり屋パフォーマー、いわば「軽い人」であったそうで(でも実は非常に謙虚で重厚な部分もある)、新しい文体創始者一番乗りを目指して(望み道りそれを果たして教科書にはそう書かれている、それ以外の実績は無視されちゃってるけれど)、いの一番に「言文一致」小説を発表した。

二葉亭のほうは、美妙とは正反対の「重厚な」人だった(「偏屈」と言い換えても良い?)らしく、「どうすれば新しい様式の小説を書くことが出来るか」深刻に悩んだ末、翌明治20年に「浮雲」を(逍遥名義の単行本で)刊行した。

二人とも、「最初の言文一致小説」に挑戦するにあたり、「~です(ます)」調で行くか、「~だ(である)」調で行くかで、 迷ったそうだ。

二葉亭は、一度は「~です」にする方向に傾きかけたが、逍遥に相談したところ、逍遥は「~だ」の方が良い、という意見だったので、最終的には「~だ」調を選択した。

一方美妙は、(二葉亭とは全く別経路で)「~です」調の小説を発表した。両者は殆ど同時期だったようで、今でもどっちが先との結論は出ていず、教科書には2人の名前が「言文一致の創始者」として並列されている。

後に、二葉亭が美妙から聞いた話として、“美妙も最初は「~だ」で行こうと考えていたそうだが結局「~です」を選んだとのこと、(最初「~です」調にしようと思っていたけれど結局「~だ」調を選んだ)自分とは正反対の推移だ”、と回想している。

スタートの時点から、「だ」にするか、「です」にするかで、悩んでいたわけである。ということで、135年経った今も、僕は、どっちにするかで迷っているわけだ。

美妙と二葉亭では、現在では圧倒的に二葉亭のほうが評価が高い(しかし嵐山光三郎氏の指摘のように、美妙を見直すべき、という意見もある)。また、現在の文体に於いては、一般的には「だ」が主流のように思う。だからというわけでもないけれど、前回に引き続いて今回も「だ」調で行く。別に今後これに決定するというわけではない。途中でまた「ます」調に変える可能性も大いにあり得る。

本題に入る。その前に、もひとつ別の前口上(笑)。

僕が全力で取り組んできた「野生アジサイ(アジサイ科アジサイ連)の系統と分布についての再検討」の膨大な写真と資料、および纏め終えた論文の全ては、修復を終えたまま未回収(修復費を毎月3万円づつ支払ってあと35万円、年末には戻ってくる予定)のHDD内に収納されている。

やはり長年取り組んできた“麦菜(中国の野生レタス)”関係の資料は、中国の部屋(現在は移動してモニカの実家)に置いたままだ。

僕の“本職”と言ってよい、蝶や蝉を纏めるには、(やはり上記の諸事情も関わって)少なくてもまだ2年や3年はかかる。

とりあえずは、手元に残っているハード・ディスクの整理を行うことにした。幸い、2009年と2010年に撮影した全原版写真、および野生アジサイや麦菜をはじめとした僕の専門(守備範囲)分野以外の、中国の野生植物の大半のデジタル写真は、何台かの健在HDDの中に収められている。

何かの拍子で再度アクシデントにあうと困る(また47万円かかる)ので、今のうちに、(僕がいなくなった後も利用できるように)モニカに原版写真を渡しておこう、と考えた。
 
むろんUSBメモリなりHDDなりに全ての資料を収納して手渡せば簡単なのだけれど、次にいつ中国に行けるか分からない(K氏の言うに“早くても再来年以降じゃないか”と)。また、それらを日本から国際郵便で送るとしても、いろんな制約があって、非常に手間がかかりそうである。それで結局メールで送信することにした。

野生植物といっても、僕が実際に自分で調べているのは、アジサイなど一部の分類群だけだ。しかし、写真は様々なグループに亘って撮影している。種数にして数千種、写真枚数にして数十万枚あるはずだ。

そこで、(とりあえずアジサイ以外の写真を)適当に選びつつ送り始めることにした。

最初は、以前モニカからリクエストのあったシャクナゲ(ツツジ)にした。シャクナゲについての知識は皆無に近いが、写真だけは腐るほどある。

「雲南」と「そのほか」に分け、「中国の植物全100巻:第一回【シャクナゲⅠ雲南】」として、2500枚の原版写真と、385頁のPDFテキスト(英語版)のモニカへの送信を開始した。

PDFテキストはともかく、原版写真(軽くしてあるがそれでも1枚1~2MBはあるので全部で数GBになる)の送信は並大抵ではない。一度に送る方法もあるそうだが、僕はその方法を習得できないでいる。だもので、アナログ的に数枚づつ送信していくことになる。

先日、約100回の送信で500枚ほど送り終えたところで、モニカのパソコンが受納キャパシティを越えてしまった。それで一時中断し、今後の方針を思案中、というわけである。

シャクナゲの次は、サクラソウに取り組むことにしていた(そこそこ見栄えがする準メジャーなグループだ)。というか、シャクナゲと並行して、既に整理を終え、一部送信を開始していた。写真の整理とテキスト作成を別個に行いPDFテキストを送り終えてから原版写真の送信にかかっていたシャクナゲと比べれば全体量がずっと少ない故、テキスト作成・送信と並行して原版写真の送信も行っていた。しかし、それも保留。

アジサイ(の生物学的な視点からの分類)については、誰よりも詳しく、的確な(たぶん多くの研究者が知らなかったり間違えていたりすることも含め)意見を述べることが出来る。

他にも、“麦菜(アキノノゲシ属)”についてや、屋久島がらみの(例えば、キイチゴ属、カエデ属、キッコウハグマ属など)幾つかの分類群については、自分の脚と目と頭で培ってきた、それなりの知識を持っていると自負している。

しかし、大多数の植物については、全く無知に等しい。知らない、分からない事だらけである。そこで本やネットで 調べるのだが、知りたい情報はなかなか見つからない。誰に聞けば良いのかもわからない

そこで、ブログの読者から、いろいろと教えて貰いたい、という想いを持った次第である。僕の方は情報を公開する。といっても、アジサイなどの例外を除けば、僕の知識は、かれこれ40年ぐらい前でストップしたままだ。1990年代に刊行されていた「週刊朝日百科植物の世界」、中国科学院からの「中国植物誌」、それに植物の形態学の(とんでもなく難しい)単行本。知識の供給源はそれぐらいしかない。

ことに「植物形態学」の本は常に手元に置いて持ち歩いていたのだけれど、この間、思うところがあって突然段ボール150箱の整理始めたら、どうやらその中に紛れ込んでしまったようである。下手に中途半端に整理を始めるから、いつもそうなってしまう。「中国植物誌」も概ね段ボールの中だし、よって、頼るべき参考書は、「週刊朝日百科」ぐらいしかないのである。そんなわけだから、情報公開といっても、僕自身の側に十分な知識がない故、正確に伝わるかどうか、不安である。

僕に於ける、初歩的な知識の欠如、といえば、例えば、今書こうとしているリンドウの花についても、そうかも知れない。

ということで、やっとリンドウの話。

「リンドウ」は「サクラソウ」とともに、中国の高山植物を代表する一群だ。科全体としても「準メジャー」な存在と位置付けて良いだろう。シャクナゲとサクラソウのモニカへの原版写真送信を一時保留して、何気なしにサクラソウの横のファイルに収納しているリンドウでもチェックしておくか、と思い、それを開いた。

すると、ファイル中に収納してある多数の地域別のフォルダの中から、(たまたま)一枚の写真がはみ出していた。それが最初に示した写真である。

この写真を見て、思わず首をひねってしまった。

いや、見る人(リンドウに詳しい人)によっては、別にどこもおかしくはなく、当たり前のことなんだろうけれど、リンドウの仲間に対する生物学的知識がほとんどない(唯一センブリ属のヘツカリンドウについては詳しい)僕としては、この写真には戸惑ってしまうのである。

とりあえず考えたことを、思い浮かんだ順に記す(結論らしきものは最後に)。

国道318号線に沿った康定(その西の新都橋)と雅江の間の標高約4500mの峠上で撮影した、小型のリンドウ属の種である。

白と青の小型(花冠直径約9mm)種。青花の種のほうは、雄蕊が花被にくっついているように見える。そして雌蕊が良く発達し、柱頭が2分している。一方、白花の種の方は、一見したところ雌蕊だけで、雄蕊が無いように見える。でもよくよく見ると、一見雌蕊に見える中央の部分は、雄蕊の(葯の)集合体であることが分かる。

ということは、雄蕊だけで雌蕊がない。雌雄異株ということも考えられるわけだ。

もとより白青の両者は明らかに別種だろうから、リンドウの仲間には、2つのパターンの(花の構造の)種がある、と考えた方が良いのかも知れない。

で、いろいろと(上記した手元にある)文献に当たってみた。雌雄異株のことも、種によって雄蕊や雌蕊の状況が大きく異なることも、書かれていない。少なくても「雌雄異株」ではない、と判断すべきだろう。おそらく、(開花の過程に於ける)もっと一般的な理由による「状況」の、たまたまその両極が2つの個体に示されている、と考えたほうがよさそうだ。

他の写真をチェックしてみた。しかし、(種の違いに関わらず)やはりそのほとんどが、ここに示した2パターン、すなわち、雌蕊が明瞭で雄蕊が花冠内側にくっつく、あるいは、雌蕊のない(少なくとも外側からは見えない)雄蕊の集合体、のどちらかに収斂する。

同じ種の同じ株の中で両方のパターンを備えている例はないだろうか、と探してみた。いくつか見つけた。

結論はこうである。やはり最初に見た(上掲の)写真は、リンドウ属の花の展開期に於ける典型的状況の個体が、たまたま2つの異なる種に示されて隣接して並んでいたのであって、それほど特殊な例ではないのであろう。

何枚もの写真をチェックしていくと、明らかに同じ種の同じ株に、それぞれの状況が示された個体(花)が共存していることが分かる。

ひとつは、雌蕊が中央に上伸突出(花頭が二分岐)、雄蕊は花冠内側にへばりついた状態の花(上写真右)。もうひとつは、中央には雌蕊は見当たらず、(おそらく雌蕊を包み込んだ)雄蕊が集合して一見雌蕊のように上伸突出し、その先端に、原則として花被裂片数(通常5片、しかし各裂片間に副片を伴うので見かけ上は10個の裂片、というよりも10枚の花弁のように見える)と同数の葯が集まった状態の花(上写真左)。

前者のほうが後者より時間的に後であることは、明らかである

ただ、だとしたら移行時の(中間的な)状態の花もあるはずだ。なぜか、それがなかなか見つからない。ほとんどが、上記どちらかのパターンである。

といって、全く見つからないというわけではなく、いくつかはあった。「雌蕊から外側に向けて少し離れかけた雄蕊」の状態の花である。ということは、「雄蕊の群れに包み込まれて隠れていた雌蕊」がその隙間から見えるはずだ。

ところがその姿がない。やはり雌雄異株なんだろうか?とチラリと思うが、でも子細にチェックし続けたところ、雄蕊が中央に集まっている時点では雌蕊は未発達で、柱頭はまだ上伸せずに基方に隠れていることが分かった。幾つかの(雄蕊が周囲に分離しかかった状態の)写真で、下の方に潜む雌蕊の姿も確認できたからである。

いずれにしても、どうやら、「雌蕊が未発達で雄蕊が中央に集まった状態」から「雌蕊が発達し雄蕊が分離して花冠の内壁にへばりつく状態」までは、極めて短い時間の間になされているようなのである。

それらを検証する写真の紹介は次回に。

なお、四川・雲南の高山性小型リンドウの大半の種は(僕の写した写真で見る限り)上記のパターンが示されているが、(例えば日本のリンドウなど)他のリンドウ属各種も同じように「雌蕊発達後の雄蕊が花冠の内壁にへばりついている」のだっけ? それについては、よく知らない。(たぶん僕が知らないだけだと思うので)誰かご存じの方がいらっしゃれば教えて下さい。

注:文献を改めてチェックしたところ、雄蕊が先に発達した後に、時間差を置いて雌蕊が発達する、リンドウのような パターンの花の展開様式を、「雄性先熟」というらしい。





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