青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜の狭間で~My Sentimental Journey(第21回)

2011-04-05 22:08:19 | 雑記 報告
読者の皆様へ

訳あって、週に一度とか10日に一度とかぐらいの割合でしか、ネットを見ることが出来ません。今日、たまたまネットを開いたら、(以前に纏めて送信してあった)「あや子版」の草稿が、全て掲載し終えたところでした。まだ充分に余裕があると思っていたので、続きの草稿の送信準備をしていません。ということで、手元に控えのあった、以前記述して未発表の草稿を、応急的に送信することにしました。

この「ブナ・クリ・シイの話」には、写真を全く用意していなかったので、写真なしでアップするつもりでいたのですが、やはり全く偶然、随分昔に作成した(あや子さんへ個人的に送信したように記憶しています)「中国はどこにある?」という表題作の図版の一部がパソコン内に紛れ込んでいて、その中にZephyrusに関する図表があるのを発見しました。それで、こちらも併せてそのまま紹介しておくことにします。

「続・ベニシジミ物語」の続きは、明日または明後日あたりから再開する予定です。

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朝と夜の狭間で~My Sentimental Journey(第21回)
《番外編》
ブナ橅・クリ栗・シイ椎のはなし

全く前触れなしに、突然、ブナやシイの話が書きたくなりました。「大和と琉球と大陸の狭間で」にも「ElvisとBeatlesの狭間で」にも入らない話題は「朝と夜の狭間で」に放り込んでしまうことにしたので、この話もそこで紹介していくことにしましょう。まあ考えてみれば、「大和と琉球と大陸~」に直結する話ではあるのですけれど、少し違った流れで進めて行きたい思いもあって、、、、。“20meets60”関係の話題を期待してくれている読者(そんな人はいないか、笑)には申し訳ないです。もっとも、この話題も、友子さんや千明さんの話にジョイントさせることも可能(ヒント:森鴎外「羽鳥千尋」)なのだけれど、それはまたの機会に(ちなみに夏目漱石「三四郎」にも“椎”が出て来ます)。

ブナ、クリ、シイ。ブナ科の樹木のトリオですね。日本という空間は、この3つの植物に集約されている、と言っても過言ではありません。日本人にとって、とても大事な存在。なのにパソコンで漢字が出てこない!橅や、後に出てくる檪は、手書き作業を経て、やっと打ち出すことが出来ました。一回り大きく書いたのは、字が複雑で読めなくなるから。

ブナ科は“どんぐり”の成る木です。クリもドングリの一つですが、別格でドンがとれたクリ。というより、クリに後からドンがくっついたのでしょうね(ドンとはどういう意味なのでしょう、、、あや子さん知ってたら教えて下さい)。ブナ科植物で、あるいは一般的知名度から言って、よりメジャーなのは、ナラ楢とカシ樫かも知れません。僕自身としても、ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の食草がより多く含まれる、ナラ類やカシ類のQercus属のほうがより身近なのですけれど、ここは、ブナ、クリ、シイを主役にしました。

理由の一つは、ブナ属もクリ属もシイ属も、日本には1種か2種しか野生しないのに対して、ナラ類やカシ類の所属するQercus属(日本語ではコナラ属)には、多数の種が国内に分布していて、その話を進めて行くだけで紙面が尽きてしまいそうだからです。

ブナFugu crenata・クリCastanea crenata・シイCastanopsis cuspidataは、それ自体が種の名前なのに対し、ナラ・カシという名の種は有りません。Qercus属のうち、落葉の種がナラ類で、常緑の種がカシ類。ナラ類の中には、カシワ柏やクヌギ檪といった、メジャーどころも含まれます。

日本産の落葉Quercusすなわちナラ類が、コナラ、ミズナラ、ナラガシワ、カシワ、アベマキ、クヌギ(ヨーロッパのオークやコルクガシ、アメリカのホワイトオークやレッドオークなどもこの仲間)、常緑Quercusすなわちカシ類が、アラカシ、アカガシ、ツクバネガシ、シラカシ、ハナガガシ、ウラジロガシ、オキナワウラジロガシ、イチイガシ、常緑だけれど系統分類上はナラ類に入るのがウバメガシ。こうやって種名を並べていると、どうしてもZephyrus(ミドリシジミ類)の話をしたくなってくるのですけれど、グッと我慢して、話を先に進めて行くことにします。

ナラ類のうち、ミズナラの生育地が、いわゆるブナ帯≒夏緑広葉樹林帯≒冷温帯(略して温帯と言われることが多い)で、カシ類の生育地が、いわゆるシイ・カシ帯≒常緑広葉樹林帯≒暖温帯(略して暖帯と言われることが多い)、上記の、ブナ・クリ・シイでは、ブナが前者に属し、シイが後者に属しているわけす。日本の北半分(および西日本の山岳地帯)は前者、南半分(および東日本の沿海地帯)は後者、と考えると分かりやすいかも知れません(なお、日本産のブナ科には、もう一つシリブカガシ属があって、マテバシイとシリブカガシの2種がこれに含まれ、名で分かるように、シイ・カシ帯≒暖帯林の常緑樹です)。

では、著者の住む東京郊外の青梅などは、どちらに所属するのか。これがなかなか難しい。結論を先に言うと、“中間帯(中間温帯)”と呼ばれている地域に所属するらしいのです。日本の人口密集地域の、多くの地域が、この“中間温帯”≒“クリ帯”に入ります。上記、落葉Qercus属の大多数の種(コナラ、クヌギ、カシワetc.)の生育地も、おおむね“中間温帯林”といって良いでしょう。

“中間温帯林”(≒クリ帯)の概念は、実に曖昧です。しかし、日本の風土や生物相の抜本(“成り立ち”と言っても良いでしょうか)を考えるに当たっては、避けては通れない概念でもあります。避けては通れないことは分かっているのですが、説明するのは実に厄介、出来るなら避けて通りたい。なぜ、曖昧で厄介なのか、例えば、冷温帯のブナやミズナラ、暖温帯のシイやカシ類は、年々面積が縮小されていくとはいえ、北や南の山中には、それなりの面積の極相林(≒原生林≒天然林)が残っています。対して、“中間温帯林”というのは、概念だけで、いわば実態がないのです。極相林自体が存在しない。“極相でないことが極相”という、アナクロジカルな話になってきます。その上、人間の活動・開発地の中心域と完全に重なっているわけで、様々な検証を行うことも難しい(この帯の主役のクリ自体、在来野生の実態が曖昧です)。

ということで、“中間温帯林”の話は後回しにして、とりあえずは避けて通ることにしましょう(ずるい!)

ちなみに、屋久島には、“中間温帯林”に当たる植生環境は存在せず(*注1)、冷温帯林と暖温帯林(沿海部は亜熱帯林)だけ。しかも、屋久島の冷温帯林(≒ブナ帯林)には主役のブナを欠き、暖温帯林(≒シイ・カシ帯林)にも主役となるべきカシ類の多くの種を欠いています。相当にひねくれているのです。

【注1】実は、“中間温帯林”を構成すべき種(その多くはエンデミックな分類群)が、“根源的な環境条件下に”在来自生している、というのが、(誰も触れることのない)屋久島の究極のアイデンティなのですが、その話はまたの機会に(“またの機会”が多すぎるって?)。

ブナ・クリ・シイに話題を戻しましょう。

ブナ(ブナ属のブナとイヌブナ)・クリ(クリ属のクリ)・シイ(クリガシ属のシイ=通常スダジイ、ツブラジイ、オキナワジイの3変種に分けられる)が、コナラ属の各種と異なることのひとつは、生でドングリを食すことが出来る、という点(シリブカガシ属の2種、マテバシイとシリブカガシも生食可)。コナラ属各種のドングリも食することが出来ますが、タンニンが多く含まれるため、水さらしを施してからでなくてはならないのです。

●ブナ属Fugus:ブナF.crenata/イヌブナF.japonica
●クリガシ属Castanopsis:シイC.sativa(スダジイvar.sieboldii/イタジイvar.cuspidata/オキナワジイvar.lutchuensis)
●シリブカガシ属Lithocarpus:マテバシイL.edulis/シリブカガシL.glabra
●クリ属Castanea:クリC.crenata/[アマグリC.mollissima]/[マロンC.sativa]

昔(と言ってもつい数10年前頃まで?)は、ブナの実や、シイの実は、山国や南国の子供達にとって格好の、天然の“おやつ”だったようです。嗜好品が溢れる現在では、見向きもされなくなってしまったのでしょうが。

ブナ属は、日本にはブナとイヌブナの2種が分布しています。世界自然遺産・白神山地をはじめとした北日本の冷温帯上部に、大規模な極相林を形作るのは、おおむねブナのほう。北日本の植物というイメージが強いのですが、北海道西部の渡島半島を分布東北限とし、石狩低地より東の山地には分布していません。また、西日本の山地帯にも少なからず分布していて、例えば広島県北部などの中国地方の脊梁山地などには、大規模な純林が見られます。分布西南限は、鹿児島県の高隅山。冷温帯とブナ帯は、ほぼ相同なのですが、日本における冷温帯の南端・屋久島の山上部には、ブナが生育していません。屋久島の高地は、“ブナを欠く”ブナ帯林の南限なわけです(同時に、熱帯山岳雲霧林の北限、という解釈も成り立ちます)。

イヌブナも、大局的にはブナとほぼ同じ地域に分布していますが、より標高の低い山地が分布の中心で、ブナのように大規模な群落は形成しません。東京の高尾山の山頂付近には、イヌブナが多く見られ、神戸の六甲山の山頂付近では、ブナとイヌブナの混交林を見ることが出来ます。

ともに日本の固有種。ただし、世界の北半球冷温帯域には、ブナやイヌブナに近縁な10種前後の同属種が知られています。ヨーロッパのF.sylvatica、北アメリカ(東部のアパラチア山脈)のF.grandifolia、日本に近いところでは、韓国(朝鮮半島本体には分布しない)の鬱凌島(ウルルン島)山上部に自生するタケシマブナF.multinervis(“竹島”の名は韓国では鬱凌島を指します)や、台湾の山岳地帯のハヤタブナF.hayatae、等々。

中国大陸にも、ブナに良く似たF.lucidaや、イヌブナに良く似たF.englerianaなど数種が分布していて、そのことから、ブナやイヌブナを食樹とする日本固有の1属1種のゼフィルス、フジミドリシジミの近縁種が台湾や中国大陸にも分布しているのでは?と予測され、実際に台湾と中国のブナ林から、近年になって相次いで発見されたのです(以前にも触れたように、中国での発見には、僕も係わっています~僕が棲息を予言した貴州省梵浄山で発見された)。

ちなみに、梵浄山より更に南に位置する、広西壮族自治区桂林北郊の花坪原始森林の一峰にもブナ林が見られ(おそらく台湾と共に世界のブナ林の南限?)、「あや子版」の前身でもある「青山潤三ネイチャークラブ」の第一回の画像がその写真です。

ミドリシジミZephyrusの話を少ししておきましょう(やっぱり、そこに行っちゃいますね!出来るだけセーブしなくちゃ、、、、、今でこそ、ヒグラシだとか、ツクツクボウシだとか、アジサイだとか、リンドウだとか言っているけれど、元はと言えば、僕のアイデンティティは、ミドリシジミ=ゼフィルスに集約されるのではないかと思うのです、、、、Bert Kaempfertの音楽にZephyrusをふりかけると、青山潤三が出来上がります)。

日本産の大半の種(別系統で肉食性およびモクセイ科食3種を除く20余種中15種前後)の幼虫がブナ科コナラ属の葉を摂食し、蝶の種ごとに対応する植物の種と、活動時間帯や行動様式が決まっています。例外は、フジミドリシジミがブナ科ブナ属、ウラクロシジミがマンサク科マンサク属、ミドリシジミがカバノキ科ハンノキ属、メスアカミドリシジミがバラ科サクラ属、やや原始的な種のオナガシジミがクルミ科クルミ属です。興味深いのは、カバノキ科はブナ科と極めて類縁が近いこと(“カシューナッツ”はカバノキ科ハシバミ属、野生のハシバミの実も、とても美味しい!)。マンサク科やバラ科も、従来の見解ではブナ科に比較的近
縁とされていたようですが、最近のDNA分析によれば、かなり遠縁という結果が示されています。蝶の食樹の方向性から、幾許かの懐疑を挟んで検討し直しても良いのではないかと思っています。ちなみに、ウラクロシジミの食樹マンサクは、台湾には自生しません。なのに蝶が分布しているのは、同じマンサク科の照葉樹、イスノキを食しているからです。落葉で黄色い花の咲く温帯性のマンサクと、常緑で赤い花の咲く暖地性(屋久島や沖縄の山地には非常に多い)のイスノキは、外観は大きく異なるのですが、系統関係は以外に近いのかも知れません。

暖温帯林の主役がシイです。日本産はシイ一種のみですが、一般には、スダジイ(コジイ)とツブラジイ(イタジイ)に分けられ、両者は、かなりはっきりとした特徴を持っています。ともに広域に分布し、大局的には分布域が重なり、局所的には明確に分離している、と言うことが出来そうです。スダジイ、ツブラジイに、オキナワジイを加えた3つの変種は、デリケートな関係の上に成り立っているらしく、例えば、種子島や屋久島では、この3者が入り混じっているのでは?という見解もあります。余りに普遍的な植物ゆえ、その正確な実態が解明されていない例の一つと言えるでしょう。

今年の正月、沖縄伊平屋島の最高峰・賀陽山の山頂から山麓までを、役場の方々と探索し歩きました。登山道のない山腹で、巨大なシイ(オキナワジイ?イタジイ?)の木に、何本も出会いました。「子供の頃は、おやつにと、シイの実を拾い集めたものです」と、役場の課長さん。今の子供たちにも、ぜひとも、“椎の実拾い”を復活させて貰いたいものです。

最後に、“中間温帯林”のクリCastanea crenataについて。甘栗とか天津栗とかの名で呼ばれ、屋台の焼き栗屋で赤い袋に入れて売られている、小粒で皮離れの良い最も身近な“栗”は、日本産のクリとは別の種の、中国大陸産アマグリC.mollissimaです。また、ケーキなどのマロングラッセでおなじみの、ヨーロッパのマロンC.sativaも、やはり日本のクリとは別の種。クリも甘栗もマロンも、重要な栽培植物である故、実際に広く見られる栽培のものと、野生のものとの区別がつきにくくなっているようです。

狭義のクリは、日本の(ほぼ)固有種(朝鮮半島南部にも分布)とされていますが、クリ属の分布の中心は中国大陸と思われ、中国の街角では、甘栗のほかにも、様々な大きさや形や性質の“栗”が売られています。その中には、日本のクリや、ヨーロッパのマロンに似た風味のものも見出され、いつも“食べ比べ”をしているのです(それぞれに美味しい!)。

いつか、ブナの実やシイの実も、炒って“食べ比べ”をしてみたいものです。

追記:
北国の秋のブナの紅葉、南国の春のシイの開花樹冠、クリやドングリの実、ブナ科各種の葉や幹、それにZephyrusたち、、、などの写真を載せたいのですが、写真の整理を終えるまで時間がかかります(大半がポジフィルム時代の撮影)。とりあえずは文章だけの紹介とし、写真が出て来次第、追加して行こうと思っています。









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