青山潤三の世界・あや子版

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続・ベニシジミ物語 21【2007.7.5 雲南百花嶺】

2011-04-04 12:54:38 | チョウ



雲南高黎貢山百花嶺⑪「アジサイ」

そもそも今回の百花嶺行きは、“謎のアジサイ”の探索が主目的だったのです。それについての詳しいことは割愛します(改めて特集予定)。いきさつをごく簡単に。

日本の野生アジサイは、栽培されている“アジサイ”の原種ガクアジサイと同じ種に含められるヤマアジサイが主体ですが、中国では、ガクアジサイやヤマアジサイに近い野生種の確実な分布状況は分かっていません。おそらく、中国にはほとんど分布していないものと思われます。中国の各地で見られる野生アジサイのアスペラ(オオアジサイ)類は、外観はヤマアジサイやガクアジサイに類似しますが、基本形態的には大きく異なっていて、全く別のグループ。一方、ヤマアジサイやガクアジサイに次いで園芸のアジサイに近い類縁関係にある、ガクウツギやカラコンテリギのグループは、長江より南の地域に、場所によっては比較的普通に見られます。雲南の西部にみられるユンナンアジサイもその一員です。

さて、雲南省の野生植物の図録の中に、高黎貢山で採集され、新たに新種記載された、Hydrangea taroensisという種を見つけました。この辺りに普通に見られるユンナンアジサイに似ているのですが、添附されている図や記述によると、どうやら、ガクアジサイやヤマアジサイに固有の形質を共有しているようにも見受けられます。日本本土では、ヤマアジサイ・ガクアジサイの一群と、ガクウツギ・カラコンテリギの一群は、比較的明瞭に区別が付く(ただし両者の雑種もするので注意が必要)のですが、中国大陸の後者の一群(ことにユンナンアジサイ)は、両者の形質を共有しているのではないか?と考え始めていたところなのです。でも、H.taroensisが、ガクアジサイ・ヤマアジサイ的な形質をより顕著に示しているとなれば、改めて考え直さねばなりません。

というわけで、taroensis記載者の所属する昆明植物園を訪ねて見ることにしました。原記載標本を見、出来れば記載者当人から情報を得よう、というわけです。結果は肩透かし。記載者は学生で、卒業してしまっているので本人には会えず、代わりに同僚に会って話を聞きました。その学生はアジサイのことは余り詳しくなく、記載は彼女の卒論の一部、というのです。でも収穫は結構ありました。中国では北京の博物館に次いで2番目に大きい(中国西部の標本所蔵は№1)という標本館に3日間泊まり込んで、万単位の野生アジサイ標本の何割かをチェック(撮影も)し、いろいろな情報を得ることが出来たのです。一言で言えば、ヤマアジサイ・ガクアジサイ系の種は、ほとんど見つからなかった(唯一、広西壮族自治区のH.gwanxiensisを除く)ということ。H.taroensisの原記載標本は見つけられず、もう一種、雲南西部からヒマラヤ東部に分布するという、ヤマアジサイ・ガクアジサイ系と思われるH.stylosaの標本も、確実なものを確認出来ませんでした。

植物園の方々には、随分親切にして頂き、先に記した記載者の同僚の方は、10日ほど前の植物調査紀行の際H.taroensisに似た花をサンプリングしてきたので差し上げます、というのです。頂いた標本はtaroensisといえばそのようにも見えるし、でも先入観なしに見れば、ユンナンアジサイそのもの、と考えるのが妥当なところです。採集地を教えて頂き、宿泊施設などへのアクセスもとって頂いたので、その採集地の「百花嶺」へ行ってみることにしたわけです。

最初に記したように、「百花嶺」の宿泊所で見せて貰った写真には、確かに野生アジサイの写真が混じっていました。標高2300m付近、花の盛期は一ヶ月以上前の5月下旬頃、ということです。どう見ても普通のユンナンアジサイだと思うのだけれど、とりあえず行ってみるしかありません。それでまず標高2300m付近の山中へ向かい、何株かをチェック(むろん普通のユンナンアジサイ)し、途中の草地に引き返してベニシジミ2種の撮影、夕刻、林道に出て宿舎に戻ろうとしたところ、その辺りにも多数のユンナンアジサイが群生していました。H.taroensisが、もしヤマアジサイ・ガクアジサイ系ならば、開花期は7月頃で今が盛りのはず、見られるのはとっくに花期を終えたユンナンアジサイばかりです。結局H.taroennsisは幻のままですが、記載地は高黎貢山といってもずっと北の方、H.stylosa共々その辺りには分布しているのかも知れません。いつの日か、改めてアタックしようと考えています。








↑ユンナンアジサイHydrangea davidii。装飾花は長持ちするので、花期を終えても長い間花が咲いているように見えます。上写真中央や左を見て下さい、花序柄を欠く(花序の基部に一対の葉がある)のが分かります。これがガクウツギ・カラコンテリギ群の特徴の一つです(ガクアジサイ・ヤマアジサイ群では通常花序柄がある=花序の基部に葉を生じない)。






↑ユンナンアジサイの葉。裏面には通常軟毛を生じますが、毛の多い少ないは変異に飛んでいて、中にはほぼ無毛の平滑な個体も見られます。上の個体は、葉縁にも顕著な繊毛が生じ、下の個体は、葉端が尾状に伸長し、縁の切れ込みが明瞭で、ヤクシマコンテリギを思わせます。





↑右がユンナンアジサイ、左がジョウザン(Dichroa febrifugaあるいはD.yunnanensis)。ジョウザンは、装飾花を欠くことや、果実が液果になることなどから、アジサイ属とは別のジョウザン属とされていますが、実際にはガクアジサイ・ヤマアジサイの一群に極めて近縁で、両群の雑種も容易に形成されるという報告もあります。










↑ジョウザンの液果。このあと紫色に熟します。液果になることと、雄蕊が細長いことを除けば、子房が中下位である(子房の状部が余り外に露出しない)ことなど、ガクアジサイ・ヤマアジサイの一群と共通しています。









↑こちらはユンナンアジサイの果実。子房上位(子房の上部が大きく外面に露出する)という、ガクウツギ・カラコンテリギの一群の典型的特徴を示します。ジョウザン同様に紫色を帯び、やや液果的なイメージがあるのは、興味深く思われます。






↑(ここからは付録:別の場所での撮影)中国南西部で普遍的に見られる野生アジサイは、大きく分けて4つのグループから成り、大抵の地域で、セットになって生えています。①ガクウツギ・カラコンテリギ群のカラコンテリギ(広西壮族自治区周辺地域)とユンナンアジサイ(雲南省周辺地域)。②ジョウザン属の種。①と②は、栽培されているアジサイに比較的近縁な一群です。③ミヤマアジサイHydrangea heteromalla。ノリウツギの一群とされます。上の写真は果実。通常、花序が円錐状となり、雄蕊花柱がほとんどくっついて伸長(先端近くで分かれる)するノリウツギと異なり、花序は総状で、雄蕊花柱は基部で離れて伸長するなど、ガクアジサイ・ヤマアジサイの一群と共通する特徴も示しています。標高2000m以下に多い①②④と違って、より標高の高い地域(標高3000m前後)に多く見られます。④アスペラ(オオアジサイ)H.asperaの一群。日本には分布せず(四国や九州に稀産するヤハズアジサイがこの一群に含まれるかも知れません)、逆に中国では多数の近縁種が広い地域に繁栄しています。装飾花は色鮮やかで、一見したところでは、栽培のアジサイに最もよく似ていますが、小花序の基部ごとに小さな苞葉が多数派生し(同一群に含められることもあるタマアジサイは、開花前の花序全体が大型の苞葉に球状に包まれる)、子房は上面が平坦な杯状となることなど、ガクアジサイやガクウツギを含む真正野生アジサイとは、類縁的にはかなり離れて位置付けられるものと思われます。ほかに、ゴトウヅル(ツルアジサイ)の一群、イワガラミの一群(通常アジサイ属とは別のSchzophragma属とされますが、基本構造はアジサイ属と共通し、DNAの解析によればノリウツギの一群に近縁ではないかと考えられています)も、数は少ないですが各地で見かけます。








↑百花嶺探索の翌々日(2007.7.8)、場所を移して、大理から麗江に向かいました。途中、標高3000m余の急峻な山腹で見かけたミヤマアジサイHydrangea heteromalla(前の写真は、この株の一部で、前年枝に残った果実です)。標高3000m以上の地で見かける野生アジサイは、大抵がこの種(または近縁種)と考えて良いでしょう。





↑葉の裏面は、びっしりと白い軟毛で覆われています。





↑こちらは、四川省康定から折多山(峠)へ向かう途中の、標高3000m余の渓流沿いで撮影(2010.7.25)した個体。葉は平滑で、裏面にはほとんど毛を生じません。どちらが真のミヤマアジサイH. heteromallaなのでしょうか?





↑どうせだから、ついでにアスペラ=オオアジサイH.asperaの写真も紹介しておきます(二朗山中腹、標高2500m付近、2009.7.27)。カラコンテリギやユンナンアジサイの花期は4~5月ですが、オオアジサイ(便宜上に僕が付けた和名)とミヤマアジサイ(これも便宜上の和名)は、盛夏の7月頃が開花盛期です。暫定的にH.asperaとして纏めておきましたが、この一群には多数の種があり、二朗山に於いても標高2000m付近で2つの種が入れ替わっているように思われます(そのうちに特集予定)。





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