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青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第31回)

2011-06-09 20:43:08 | 野生アジサイ




■マルバサツキは、おおむねトカラ列島を中心とした地域に分布します。

九州と台湾の間に連なる南西諸島は、北部の種子島・屋久島、中部の奄美大島・徳之島・沖縄本島、南部の石垣島・西表島といった大きな島々が太平洋に面し、その内側の大陸棚寄りに、小さな島嶼が点在しています。北部は、三島列島からトカラ列島に連なる阿蘇火山帯の延長の島々で、トカラ火山列島とも呼びます。中部では島嶼間の間隔が大きく、途中、硫黄鳥島(別称・奄美鳥島、徳之島の真西に位置しますが、行政的には沖縄県久米島町に所属)を経て、沖縄本島西方の、伊平屋島、伊是名島、粟国島、久米島などに至ります。南部は尖閣列島が相当し、完全に大陸棚上に位置しています。

トカラ火山列島は、北は九州薩摩半島、南は奄美大島に隣接し、途中、屋久島にも大きく近づきます(三島列島黒島まで62km、口永良部島まで13㎞、トカラ列島口之島まで56km)が、いずれの地域とも異なる、独自の生物相を持っています。野生アジサイの一種トカラアジサイ(屋久島産の対応種がヤクシマコンテリギ、日本本土産がガクウツギ、中国大陸産がカラコンテリギやユンナンアジサイ)もその一つで、僕の主要テーマでもあります。「野生アジサイ探索記」とは、このトカラ火山列島を中心とした地域や中国大陸各地への、トカラアジサイやカラコンテリギの探索紀行でもあるのです。

■トカラアジサイの話をする前に、もう一度「野生アジサイ」全体について、簡単に整理しておきましょう。

最初に述べたように、「園芸アジサイ」の母種は伊豆諸島に分布するガクアジサイ、それと同一種で広く日本各地に分布するヤマアジサイを併せたものが、狭義の「真の野生アジサイ」です。種としてのヤマアジサイは、伊豆諸島周辺域のガクアジサイ、北日本産のエゾアジサイ、その他の広い地域に分布するヤマアジサイ、葉に特殊な成分を持つアマチャ、等々の、亜種や変種に分けられています(ガクアジサイとヤマアジサイは一般的には別種として扱われ、ここでの学名は慣例に従ってそのように表記しています)が、実はヤマアジサイやガクアジサイの地域ごとの相関関係は著しく複雑で、現在でも実態はほとんど解明されていません。

 
 
北日本のエゾアジサイは、装飾花が常に濃い青色(写真左上:秋田/岩手県境山地)。関東を中心とした地域は、白い装飾花が基本(下左:八ガ岳山麓、下左:鎌倉、明月院の栽培個体ではなく周辺部の山中に生える在来野生種)。西日本産はより複雑で、ガクアジサイのように色の鮮やかな個体(写真左上:広島/島根県境山地)や、後に述べるガクウツギやコガクウツギとの雑種由来の個体なども、少なからず見られます。

 

ヤマアジサイには、様々な野生の品種があり、アジサイ愛好家によって、それぞれに細かく名前が付けられています。しかし、これらの特徴的な外観の変異は、基本的な分類とは無関係。末端部の変異は、マニアやコレクターによって事細かに調べられ“多くの種類”に“細分”されているわけですが、そのこととは裏腹に、どのような系統関係にあるかなど、基本的な事項は全く分かっていない、というのが実情です。写真の2枚は、愛好家により育てられている野生の品種で、右下の鮮紅の装飾花を持つ個体は、長野県南部などの限られた地域に出現します。

さて、野生アジサイとは、最も狭義には、ヤマアジサイとその近縁種群を指しますが、その他にも、アジサイと名がつき、外観がヤマアジサイに似た、アジサイ属の野生種が、何種かあります。

コアジサイ
タマアジサイ
ヤハズアジサイ
ツルアジサイ(ゴトウヅル)
クサアジサイ(別属)

このうちコアジサイを除いては、血縁的には、ヤマアジサイや園芸アジサイとは大きく離れているのですが、一般には、それらも「野生アジサイ」として認識されています。一般の人々や、アジサイ愛好家にとっては、アジサイ的な外観の、アジサイと名のついた、アジサイ属の種は、類縁関係がどうあろうと、疑いなく“アジサイ”なのです。



タマアジサイ(写真左2枚、山梨県西沢渓谷/群馬県榛名山)は、本州の中部に分布し、東京周辺の低地や山地では、ヤマアジサイ以上に普通に見かけます。おおむね白花のヤマアジサイと異なり、鮮やかな紫色を帯びているため、むしろこちらの方が、“アジサイ”的な印象を醸し出しています。しかし類縁的には真のアジサイとはごく遠い間柄にあることは、何よりも他のアジサイと違って、開花前の花序が球状の苞ですっぽりと覆われてしまうことからも、察しがつきます。種としては、本州中部のほか、飛び離れて伊豆諸島とトカラ火山列島に、2変種(ラセイタタマアジサイとトカラタマアジサイ*1)が分布し、唯一の同属種(*2)、ナガバノタマアジサイが、台湾の山地に分布しています(写真右2枚、太魯渓谷~合歓山間の山腹の断崖にて)。
*1:後で述べる真のアジサイに近縁のトカラアジサイとは別の種で、三島列島黒島とトカラ列島口之島に稀産します。
*2:中国大陸湖北省西部に第3の種が分布している可能性があります。

 

ゴトウヅルは、最近は「ツルアジサイ」の名で呼ばれる傾向が強いのですが、僕は従来通りの「ゴトウヅル」の名で呼び続けています。後述するイワガラミと共に、木や岩を覆う蔓性のアジサイで、北海道(サハリンを含む)から九州(屋久島を含む)までの日本全土の山地に、イワガラミ共々、普通に見ることが出来ます。国外では、台湾と中国大陸に近縁別種のタイワンツルアジサイが分布しています。花序の外観がアジサイ的であることから、タマアジサイ同様に野生アジサイの一つとして扱われますが、やはり類縁的には真のアジサイとは遠縁にあり、どちらかといえば、熱帯アジアや中南米産のアジサイ属の種に類縁性が見出されるようです。写真は、上左が屋久島山頂部(翁岳)の岸壁にへばり付いた大きな株、上右は長野県上高地のオオシラビソの幹に着生した株、写真下は花序(山梨県西沢渓谷)。

真のアジサイとは血縁上かなり離れている、タマアジサイやツルアジサイ(ゴトウヅル)が、一応アジサイ属に含まれ、和名にアジサイの名がつき、一般には紛いなきアジサイの一種と認識されているその一方で、血縁的には明らかなアジサイの仲間なのですが、和名にアジサイの名がつかず、外観もかなり異なるため、一般にはしばしばアジサイとは認識されていない種もあります。

その一つがノリウツギ(より真のアジサイに近いガクウツギについては最後に述べます)。和名にアジサイの名は付かなくとも、少なくてもタマアジサイやツルアジサイよりも、ずっと本物のアジサイに近い存在で、北米大陸東部に在来分布する
アメリカアジサイなどを介して、ヤマアジサイなどとの関連を持つように思われます。

ゴトウヅルやイワガラミ同様、北海道から屋久島に至る日本各地に不変的に見られ、中国大陸にも同じ種が分布しています。花序が円錐状になることから、通常は、他の野生アジサイ各種とは一目で区別がつきますが、中には、他の野生アジサイ同様に平たい花序を持つ個体もあるので、そのような場合には見分けるのは意外に困難です。ただし、開花盛期は、野生アジサイの中で最も遅く、夏の後半になって目にする、薄紫の野生アジサイはタマアジサイ、白い野生アジサイはノリウツギ、と判断して、ほぼ間違いでしょう。











上段3枚はノリウツギ。左端は中国広西壮族自治区南嶺、右2枚は屋久島(中央がノリウツギ一般型の花序の個体、右端は平たい普通のアジサイ的花序の個体)。2段目の2枚もノリウツギ(秋田・岩手県境秋田駒ケ岳)ですが、花序が完全に平坦です。3段目と下段は中国産のノリウツギ近縁種Hydrangea hetelomalla。中国大陸には、ノリウツギそのもののほか、ノリウツギに近縁の花序が平坦な一般のアジサイ型の種が数種あって、四川省や雲南省などでは、おおむね標高2500m付近を境に、それ以下の標高にはHydrangea asperaの一群(僕はオオアジサイと仮称しています、後述)が、以上の標高には、このHydrangea hetelomallaの一群(ミヤマアジサイと仮称)が野生アジサイの主体となります。3段目左は四川省康定、中央は四川省ミニャコンカ、右と下段は雲南省香格里拉、いずれも標高3000m余の地点。

野生アジサイの一種であるノリウツギやガクウツギに冠せられた“ウツギ”という名は、同じアジサイ科でも、アジサイとは全く別の仲間の、バイカウツギ族ウツギ属の日本産の一種の和名です。ノリウツギやガクウツギを含むアジサイの仲間と、ウツギやバイカウツギなどのウツギの仲間には、様々な相違点がありますが、最も分かりやすいのは、ウツギの仲間には装飾花がなく正常化が大きな普通の花であることです。

全体の雰囲気が似ていることと、茎がしばしば中空になる(従って“空木”)ことから、ウツギとは無関係のアジサイの仲間の幾つかの種にも、“ウツギ”の名が冠されているのですが、アジサイよりもさらにずっと類縁の離れた、スイカズラ科
のタニウツギ属やツクバネウツギ属などにも、ウツギの名が冠されています(さらにバラ科のコゴメウツギ、ミツバウツギ科のミツバウツギなど)。



 
本家ウツギ族の種は、日本にはウツギ属のウツギDeutzia crenataやヒメウツギD.gracilisなどに、バイカウツギ属のバイカウツギPhiladelphus satumiを加えた8種が分布していますが、いずれも花は純白です。しかし、中国大陸にはカラフルな種が多数あり、むしろスイカズラ科のタニウツギ属のような趣を呈しています。写真は、Deutzia rehderiana(またはその近縁種)。四川省ミニャコンガ7556mの氷河の末端付近の原生林中にて。


 
スイカズラ科のタニウツギ属は、イメージがとてもウツギに似ています。日本産に関して言えば、本物のウツギの仲間は全て純白なのに対し、タニウツギの仲間はカラフルで、一目で区別がつきますが、中国にはウツギの仲間にも似たような色調の種があるため、ときにこんがらがってしまいます。写真は、やはり中国産で、日本のタニウツギWeigela hortensisの仲間。ハコネウツギW. coraeensisやニシキウツギW. decora同様に、花色が白から赤に変わっていきます。広西壮族自治区と湖南省の省境の山、南山にて。



さて、タマアジサイやツルアジサイ(ゴトウヅル)のように、園芸アジサイの野生種であるガクアジサイやヤマアジサイとは類縁がかなり離れてはいても、一般には野生アジサイの一員として認識されている種がある一方、別の仲間のウツギの名が冠されているノリウツギやガクウツギのように、類縁的にはより真のアジサイに近いにも関わらず、人によっては、アジサイの仲間と思われていないのかも知れない種もある、と書いてきました。

とはいっても、ある程度の植物の知識を有する人ならば、それは誤解で、ノリウツギやガクウツギも、ちゃんと野生アジサイの一員であることは知っているはずです。

しかし、和名にアジサイの名が付かないだけでなく、外観もアジサイとは大きく異なり、なおかつ“学術的に”アジサイ属でもないとなれば、植物をよく知る人々の間でも、まずアジサイの仲間には入れて貰うことは出来ません。それぞれアジサイ属とは別の属に含まれている、イワガラミ、シマユキカズラ、ジョウザン、バイカアマチャ、ギンバイソウなどが、それに相当します。

イワガラミは、蔓性で、葉や株の全体はゴトウヅルに酷似していますが、装飾花が一枚であることなどから、アジサイの仲間とは全く別物として扱われることが一般的でした。でも、基本的な形質を詳細に調べて行くと、装飾花の数をはじめとした幾つかの(外観上は目立つ)末端的な形質と、名前(和名)と、書類上の所属(属名)が異なるだけで、本質的には、他のアジサイ属の種と何ら変わらない、ということが分かります。でもって、イワガラミも、“アジサイの仲間”に加えようじゃないか、と事あるごとに提案してきたのですが、「属が異なるのだから別物」と完全無視、受け入れてもらえないできたのです(「属」を絶対視する傾向は、科学「的」信仰ではあっても、「科学」と相同ではありません)。

ところが、近年になって、分子生物学的な手法(DNAの解析)によって、イワガラミもまぎれもないアジサイの一員であることが立証されました。ほかにも、バイカアマチャやジョウザンなど、これまでアジサイとは外観が大きく異なることから、別の属に置かれていた幾つもの種が、アジサイ属の一員とされてきたタマアジサイやツルアジサイ以上に、真のアジサイに血縁の近い“アジサイの仲間”であることが確認されたのです。

アジサイだけではなく全ての生物において、分子生物学的な解析が行われる以前から、外観に惑わされない基本的な形態の比較により同じような答え(従来の見解とは大きく異なる分類の組み換えの提案)がもたらされていたわけですが、大抵の場合は、一般的常識からすれば余りに突拍子もない組み換えに思えることから、一般への普及は認められないできたのです。しかし、ここにきて“DNAの解析”という錦の御旗によって、一気に新しい見解の側に雪崩れ込んで行きつつあります。

例えば、ジョウザンがアジサイ属の一員であることを完全無視していた人々が、DNA解析の結果、アジサイ属の一員であるどころか、真のアジサイに極めて近縁であること(すでに基本形態面の比較からその事実は指摘されていたのですが)が示されたとたん、慌ててアジサイ属の一員に加えるだけでなく、和名までジョウザンと呼ぶのを止めて“ジョウザンアジサイ”と呼ぶべき、などと主張し始めました。本当に頭が固く、融通のきかない人たちばかりだと、2重の意味で呆れてしまいます。ジョウザン「常山」は古くから伝わる由緒ある呼び名です。名前が違っても、見かけが違っても、同じ仲間は同じ仲間、名前が似ていても、見かけが似ていても、違う仲間は違う仲間、と、柔軟で、かつ確たる信念を、どうして持てないのかと。

 



 
イワガラミ。外観上、装飾花が一枚であることが、他の野生アジサイ各種と大きく異なります。蔓性で、岩や樹木を覆い、花の無い時期には、酷似するゴトウヅル(ツルアジサイ)との区別は困難を極めます。北海道から屋久島に至る日本全土のほか、台湾や中国大陸に近縁の数種が分布しています。また、紀伊半島の一部と奄美大島などには、装飾花を欠く近縁群のシマユキカズラを産しています。写真左2枚は屋久島安房林道、右上は群馬県榛名山、右下は松本市近郊で撮影。




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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第30回)

2011-06-08 16:20:17 | 野生アジサイ




以下、10数回に亘り、以前なっちゃんに送信した個人講義録を、そのままアップします。この項目の前に、幾つかの前置き的な文章があるのですが、今探し出せないので、とりあえずここからのスタートとします。

日本に(真に生物学的な意味で)在来野生する植物の中にも、育種改良され世界的に普及したものがあります。その代表的存在がアジサイ(アジサイ科)です。

母種は伊豆諸島産のガクアジサイ。ここでひとつ注意が必要なのは、「野生のガクアジサイ」と一般的概念の「ガクアジサイ」は、とりあえず“別物”だと考えておきたい、ということ(別とか同じとかの問題ではなく、言葉の次元が異なる)。

伊豆諸島に固有分布する野生アジサイの一種が「ガクアジサイ」という種です。正確には、北海道~九州に広く分布する「ヤマアジサイ」と同じ種の、別の種内分類群(亜種または変種)です。さらに正確に言うと、「ヤマアジサイ」という種は、北海道~九州に分布する「ヤマアジサイ」という亜種(または変種)と、伊豆諸島に分布する「ガクアジサイ」という亜種(または変種)から成り立っている、と考えて下さい。さらにまた正確にいえば、「ヤマアジサイ」という種の構成は極めて複雑で、上記のように単純に2分するわけにはいかず、実際のところはまだほとんどのことが解明されていない、というのが現状です(ややこしくなるので、ここでは深くは踏み込みません)。

さて、その伊豆諸島に在来自生する「ガクアジサイ」が、いつの時代かヨーロッパに持ち出され、品種改良が成されて「アジサイ」となりました。野生の「ガクアジサイ」は、見た目にはとても花のようには見えない本物の小さな花(正常花と呼びます)の回りに、見た目には普通の花のように見える大きな偽物の花(装飾花と呼びます)が取り囲んでいます。

人為的に改良された「アジサイ」の多くは、(花のようには見えない)本物の花が失われ、花序(花の集まり=多くの植物では沢山の花が集まった花序全体が一つの花のように見えることもあります)の全てが、本物の花のように見える偽物の花(装飾花)から成っています(「手毬花」と呼びます)。でも、野生種と同じように、中央に本物の小さな花が残っていて、周囲にだけ装飾花が取り巻く、野生種と同じパターンの花序をもつ個体(「額花」と呼びます)もあります。これが、いわゆる(一般呼称としての)「ガクアジサイ」です。

 
 
下右は野生のガクアジサイ。他は園芸化されたアジサイ。ガクアジサイ型のものと手毬花型のものがあります。

「ガクアジサイ」(A)という野生種を改良した人為品種が「アジサイ」で、「アジサイ」の中に「アジサイ」と「ガクアジサイ」(B)という2つのタイプが存在するわけです。紛らわしいので、ABで区別しましたが、(A)すなわち野生の「ガクアジサイ」は“種(または亜種や変種)”の名前です。ということは、もしそのなかに「手毬型」の「アジサイ」が出現したとしても、種(または亜種や変種)の名前としては「ガクアジサイ」となるわけです。



 
ガクアジサイAとB(図では①と②)の関係、およびアジサイの野生種(亜種・変種):栽培品種:園芸品種の関係を、摸式的に示してみました。これらの図を含む野生アジサイの総説「日本および近隣地域の野生アジサイ」は、ブログ「青山潤三ネーチャークラブ」で2008年4月頃に連載しています(未完)。

もう一つややこしいことがあります。野生の「ガクアジサイ」(A)を人為的に改良したものが「アジサイ」や「ガクアジサイ」(B)であるわけですが、学問的な法則にのっとって最初に名前(学名=ラテン語)が付けられたのは、人間が改良した「アジサイ」のほうです。繰り返し言うように手毬花の「アジサイ」は、「ガクアジサイ」(A)から作成された人為的品種なのですが、学術(命名規約)上は、園芸的品種として改良された「アジサイ」のほうが基準種(母種)となり(命名時に野生種が知られていなかったのでしょう)、本来母種たるべき野生の「ガクアジサイ」(A)は、その品種として扱われますHydrangea macrophylla f.normalis。一般の人々にとっては(多くの研究者にとっても)、学名というのは絶対的存在であるように理解されがちですが、なに、実際は単なる書類上の手続きに過ぎないということを、心に留めておいて下さい。

さて、ヨーロッパに持ち出されて育種改良され、園芸植物となった「アジサイ」は、やがて、改めて日本に持ち込まれることになります(その年代は以外に新しく確か江戸時代末期だったと思います)。いかにも日本的なイメージ(それはそうでしょう、元はといえば日本にのみ野生していたわけですから)の西洋渡来のこの園芸植物は、日本の市民に大歓迎され、爆発的なブームを呼ぶことになります。各地の社寺仏閣の庭には、ずっと以前からそこに植えられていたように、旧跡名所としての「アジサイ寺」が出現します。自分たちでチャレンジすることなく、西洋人の手を借りて、独自の日本文化を作りだした、とも言えるわけで、まあ、半分インチキということですね。

「アジサイ」の成立と普及に関して、附に落ちぬことは、どうして日本中に広く分布する野生種(亜種または変種)「ヤマアジサイ」ではなく、辺境の伊豆諸島に分布が限られている固有亜種(または変種)「ガクアジサイ」が利用されたのか、ということです。装飾花がより大きく色が鮮やかなこと、葉が常緑性で光沢を持つことなどが好まれたのでしょうが、「ヤマアジサイ」のほうも個体群によっては結構鮮やかで派手な色彩の花序を有しています。思うに、それらが積極的に育種改良されず「ガクアジサイ」が利用されたのは、ヨーロッパ人にとって、浦賀などの港から母国へ帰還する際、出港間もなく立ち寄ることの可能な、伊豆諸島での採集が理に適っていたのではないかと。

そういえば、もう一つ、日本に在来種が自生し、ヨーロッパに持ち出されて育種改良され、世界的にメジャーな園芸植物と化した種に、テッポウユリ(ユリ科)があります。こちらの野生分布域は西南諸島(屋久島周辺から西表島周辺に至る西南諸島ほぼ全域のほか、近年台湾の一部地域でも自生地が発見されました)。アジサイの改良普及と似た経路をとって日本に逆輸入されたわけですが、こちらはアジサイのように必ずしも日本的なイメージはなく、キリスト教の祭典に司られることなども相まって、もともとヨーロッパの植物と思っている日本人も多いのではないでしょうか?





 
屋久島の隆起サンゴ礁海岸には、テッポウユリLilium longiflorumの野生種が生育しています。隆起サンゴ礁上に生える個体は、花は大きく、茎の丈が短いのが特徴です。



テッポウユリの種群は3つの種から成ります。第2の種は台湾産のタカサゴユリLiliumformosanum。主に高山帯に野生しますが、低地や海岸部に見られることもあります。近年、日本を含む各地に帰化進出していて、屋久島でも急速に数が増え、テッポウユリの存在を脅かしています。写真上は、野生のタカサゴユリと、その生育地、台湾合歓山(3416m)の夜明け(左:南湖大山3740m、右:中央尖山3703m)。







テッポウユリ群の第3の種は、テッポウユリと並んで園芸種の原種として最も有名なリーガルリリーLilium regale。
四川省西部の、5000~7000m級の山岳地帯の深い渓谷に分布し、急峻な崖上に生育します。写真は、パンダが最初に発見された四川省宝興県の、渓流沿い岸壁に生える野生のリーガルリリー(滝の下に見える3つの白い点も)。




■アジサイやテッポウユリといった、世界的に普及している数少ない日本原産の園芸植物が、伊豆諸島や西南諸島という辺境の地に在来分布しているというのは、なかなか興味深いと言えるでしょう。それらの地域は、現在では辺境の地に違いないのでしょうが、一昔前には、むしろ日本の玄関口、あるいは(アジア全体の中では)より中心に近く位置していた、と考えることが出来るかも知れません。そのような観点で改ためて見渡せば、他にも同様の例が見つかります。

アジサイとテッポウユリは、いわば里帰りした“帰国子女”というわけですが、更に例の少ない、日本産の在来野生種が(国外ではなく)日本で育種改良され、メジャーな園芸植物となった次の2種も、興味深いことに、やはり伊豆諸島と西南諸島が原産地です。サクラ(バラ科サクラ亜科サクラ属)とツツジ(ツツジ科ツツジ亜科ツツジ属)の代表的な園芸種である、ソメイヨシノCerasus yedoensisとサツキRhododendron indicumです。

狭義のサクラ属の野生種は、日本に20種ほどが分布しています。園芸種として最も普及しているソメイヨシノは、その中の2つの種の交配によって作出された、雑種起源と考えられています。母種の1つは、東日本を中心としたやや広い地域に分布するエドヒガン(ヒガンザクラ)C.spachiana f. ascendens、もう一方は、伊豆諸島(および周辺地域)産のオオシマザクラC.speciosa。

オオシマザクラは、北海道から九州に分布するヤマザクラC.jamasakura(オオヤマザクラC.sargentii、カスミザクラC.verecundaを含む)の仲間ですが、広域分布種のヤマザクラではなく、島嶼周辺の狭い地域に分布するオオシマザクラが選ばれたということは、栽培アジサイの母種となったガクアジサイと広域分布種ヤマアジサイとの関係とも共通する、面白い現象だと思います。


*オオシマザクラやエドヒガンの写真を張り付けたかったのだけれど、ポジフィルムの原版写真をスキャンしていず、探し出すのに手間と時間がかかります。そのうちに写真が出てきたなら、改めて紹介するとして、今回は割愛します。

*原則として紹介する全種に対し学名を付していきますが、上記したように学名は絶対的なものではありません。分類基準と成る指標形質(分子生物学的な手法を含む)、研究の進み具合、学閥(これが最も大きく作用していると思います、笑)、研究者個人の見解、などによって、全く変わってくることも珍しくはないのです。それらの中から、最も適切と思われるものを選ばねばならないのですが、専門家でない私たちには是非の判断はつかないわけですから、結局のところ、お上の認めた(?)最も普及しているシステムを選ぶしかないのです。例えば、サクラ属は、従来Prunusとされてきましたが、現在の日本の植物分類学の最高権威である大場秀彰博士の指摘により、旧Prunusは、従来のスモモ亜属のみの属名に冠され、従来のサクラ亜属に与えられたCerasusが格上げされて“サクラの仲間”の属名になりました。僕個人的に言えば、その根拠が、充分に納得がいくしっかりしたものであると判断したことから、その方針に従ったわけですが、もし納得出来ないならば、従う必要はないのです(ただし村八分にされる恐れもある)。でもまあ、いちいちそんなことを考えるのは面倒なので、以下、適当かつ無責任に、現時点で一番普及しているのではないかと思われる学名を、そのまま使用して行くことにします。その結果、最先端の見解としての(あるいは僕個人の考える)本文中に示す分類枠組みと、表示した学名の間に、しばしば大きなギャップが見られることを承知しておいて下さい。



例:アジサイ科の分類の一部(アジサイ科の解説が目的なのではなく、上記した「本文中に示す分類枠組みと、表示した学名の間に、しばしば大きなギャップが見られること」に対しての視覚的補足説明です。属名の太青字は、学名がHydrangeaとなっている属の種、緑青字は、Hydrangea以外の学名の属の種。また、和名の太黒字は、語尾にアジサイの名が付く種、太赤字は、語尾にウツギの名が付く種です。



*問題点を分かりやすく際立たせるために、部分的には、少し極端な組み方をした所もあります(例えばノリウツギ群に一括した3亜群など、現時点の見解では独立の群または亜属に留めておくべきでしょう)。

面白いといえば、テッポウユリ同様に、園芸ツツジの中で最も知名度の高いサツキも、南西諸島が原産地です。そして、園芸サクラの主役ソメイヨシノの場合同様に、日本に在来分布する2つの種を原種とした、数少ない「日本で作出された日本在来種」なのです。

ツツジ属Rhododendronは日本に50余種が在来分布し、その中には、いわゆるシャクナゲの仲間や、典型的なツツジであるヤマツツジの一群などが含まれます。ちなみに、ヤマアジサイHydrangea serrataにしろ、ヤマザクラCerasus jamasakuraにしろ、ヤマツツジRhododendron obtusumにしろ、正式な種の名前としての和名で、この「ヤマ」は“山深い地”という意味ではなく、「里=人為栽培」に対しての「山=野生分布」であり、野生のアジサイやサクラやツツジのうち、最も普遍的に見られるという意味合いで名付けられたものだと思われます。一般には、山に生える、野生のアジサイの仲間や野生のサクラの仲間や野生のツツジの仲間の総称としての俗称にも、「山アジサイ」「山サクラ」「山ツツジ」という呼び方がされるようですが、両者は全く次元が異なるのです。

そのヤマツツジのグループのうち、最も知名度が高いのがサツキです。サツキとツツジの関係は、対等ではなく、サツキはツツジのひとつ、ということ。50種程の日本産のツツジ属のうち、1/3近くを占めるヤマツツジの一群の一種で、シャクナゲのグループを除けば、ツツジ属のほかのほとんどの種は、語尾にツツジと着きますが、サツキ(と後で述べるマルバサツキ)だけが、ツツジの名が付きません。「サツキツツジ」としても良かったのでしょうが、飛びぬけて知名度が高いために、語尾のツツジを省略しているわけです。トビ(トンビ)はワシやタカの一種ですが(ワシとタカは同じ仲間で、その関係はツツジとシャクナゲの関係に似ているとも言えます)ワシの名もタカの名も付かないのは、やはり飛びぬけてポピュラーだから、というのと同じです。

サツキは、市井の愛好家に非常に人気があり、知名度は抜群ですが、野生種はどこにでも普通に見られるというわけでは
ありません。西日本の限られた河川に限られ、意外と珍しい種なのです。私たちが普段目にする園芸のサツキの大半は、野生種そのものではなく、ソメイヨシノの場合同様に、二つの母種の交配により作出されたものです。一方の親は、西日本(東限は神奈川県西部)に自生するサツキ(野生のサツキも、雑種由来の園芸サツキも、同じ和名で紛らわしいとも言えます)、
もう一方の親は、南西諸島の北部に固有分布するマルバサツキR.eriocarpumです。この組み合わせは、ソメイヨシノの両親のオオシマザクラとエドヒガンの組み合わせと軌を一にし、分布域の、東日本と伊豆諸島を、西日本と南西諸島に置き換えた、と言うことが出来ます。

一つ違うところは、エドヒガンとオオシマザクラは自然状態では混生していませんが、サツキとマルバサツキは、ただ一箇所、屋久島に於いて混生しているということです。先に述べたように、野生のサツキは、そう簡単には目にすることは出来ないのですが、南限分布地の屋久島にはことのほか多く、初夏から夏にかけ、渓流の川床を一面に埋め尽くす様は見事です(スギの自生地の関係とも似ていて、屋久島以外では、植栽林は日本中のいたる所にあっても、自生のスギにはそうそう出会えるものではありません)。

屋久島のサツキは、山間部の渓流が主要生育環境、一方マルバサツキは、主に西部の海岸に分布しています。自然状態では両種は接してはいず、厳密には混生とは言えないと思います。また、屋久島のサツキは、冬に黄金色の新葉など本土産とは異なる形質を有していて、その意味からも、園芸のサツキの母種とは、別の存在と言うことが出来るかも知れません。

なお、屋久島には、もう一種のヤマツツジの仲間、ヤクシマヤマツツジR.yakuinsulareが分布しています。本土のヤマツツジとの類縁はやや遠く、屋久島固有種とされることや、奄美~沖縄に分布するケラマツツジR.scabrumと同一種の別変種R.scabrum var. yakuinsulareとされたりします。西南日本に於けるヤマツツジの一群の各種間の関係は、園芸品種の由来を含め、不明な点が多数残っているようです。

屋久島のツツジ属の種は、他に2種のミツバツツジ(温帯性の固有種ヤクシマミツバツツジR.yakumontanumと、亜熱帯性のサクラツツジR.tashiroi)及び、初夏の山上を彩る固有種ヤクシマシャクナゲR.yakushimanumなど、幾つかの種があり、後者はテッポウユリ同様に、世界中に普及する、多くの園芸シャクナゲの母種と成っています。





右2枚:屋久島の渓流に野生するサツキ、左2枚:屋久島の海岸に野生するマルバサツキ




 
   
ヤクシマシャクナゲ(山上ヤクザサ草原の矮性群落、中腹のヤクスギ着生株、花序、若葉)




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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第28回)

2011-05-31 14:44:54 | 野生アジサイ




(読者の皆様へ)以前にもお伝えしたことがありますが、念のためにもう一度。「青山潤三の世界・あやこ版」(ことに「朝と夜のはざまで」)は、出来栄えはともかく「作品」として紹介しているつもりです。決して「報告」ではありません。時系列も、数年前の出来事や、現在の出来事が、行ったり来たりしながらごちゃまぜで組み立てられています。そこのところを御理解の上、読み進めて頂ければ有難いので、よろしくお願いします。

さて、6月4日から、なっちゃんがアシスタントを行う、野口勲氏の講座「種と日本の食文化」がスタートします。まだ参加申し込みは可能だと思いますので、是非ともよろしくお願いします。

詳細はこちらです。


そのなっちゃんに宛てて、僕の「個人講義」という形で送信した、一連のメール原稿があります。

第1回 “種”speciesとseedについて
第2回 野生アジサイ探索記
第3回 ハラン7つの謎・黒島の自然
第4回 「もももももすももももも」は正しいか?
第5回 雲南の奥地に白い野生苺を摘みに
第6回 ジンチョウゲの由来を探る
第7回 ゲンゲと母子草の故郷
第8回 東洋のレタス“麦菜”の不思議
第9回 West meets East

このうちのいくつかは、「あやこ版」で紹介したものの焼き直し。今回は、「野生アジサイ探索記」を改めて「あやこ版」で紹介して行くことにします。「野生アジサイ」については、これまでに何度も“未完成”記事を掲載しているので、内容的に多くの重複が生じることになりますが、ご了解下さい。

野生アジサイ探索記


第一部
■園芸植物としての「アジサイ」の由来(伊豆諸島産の野生種「ガクアジサイ」が西洋で改良され日本に里帰り)。
■有名園芸植物の原種で日本の南西諸島に固有分布し、西洋で作成された後、里帰りしたユリ科の「テッポウユリ」。
■伊豆諸島固有種オオシマザクラを母種のひとつとして、日本で作成されたバラ科の園芸植物「サクラ(ソメイヨシノ)」。
【実際の血縁関係と、学術的な命名(学名、殊に属名)および一般的な呼び名(和名)は、必ずしも一致しないという例を、アジサイの仲間の分類で示した表】。
■南西諸島固有種のマルバサツキを母種のひとつとして、日本で作成されたツツジ科の園芸植物「栽培サツキ」。 
(附:ヤクシマシャクナゲ) 【マルバサツキとトカラ火山列島の話】

第2部
■園芸植物「アジサイ」「ガクアジサイ(栽培)」の原種の一群、「ガクアジサイ(野生)」「ヤマアジサイ」「エゾアジサイ」。
■アジサイの名は付くが、血縁的にやや離れた野生アジサイ「タマアジサイ」と「ツルアジサイ(ゴトウヅル)」。
■中国の代表的な野生アジサイ「アスぺラ(オオアジサイ)」は、血縁上は「園芸アジサイ」や「ヤマアジサイ」と遠縁。
■アジサイと名の付かない野生アジサイ「ノリウツギ」。
■アジサイの仲間ではないアジサイ科の「ウツギ」の仲間と、スイカズラ科の「タニウツギ」の仲間。
■一般にはアジサイの仲間に入れてもらえないが、実は正真正銘の野生アジサイのひとつ「イワガラミ」。
■外観がアジサイに似た、レンプクソウ科の「ガマズミ」の仲間。
(附:北米産の野生アジサイ「アメリカノリノキ(アメリカアジサイ)」)
■装飾花のない野生アジサイ「コアジサイ」。
■アジサイとは別の属とされているものの、実際には「園芸アジサイ」や「ヤマアジサイ」にごく近縁の「ジョウザン」。


緑字:園芸種アジサイやその原種「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」にごく類縁が近い種。
青字:一応野生アジサイだが、園芸アジサイや「ヤマアジサイ」との類縁は遠い。
赤字:アジサイとは全く別の仲間。

第3部
■「園芸アジサイ」や原種の「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」に極めて近縁の、「ガクウツギ」「カラコンテリギ」の一群。

僕にとっての『野生アジサイ探索記』とは、この一群の南西諸島や中国大陸などの各種を探索することであります。具体的には、日本本土(東京都以西)の「ガクウツギ」「コガクウツギ」、屋久島の「ヤクシマコンテリギ」、三島列島黒島~口永良部島~トカラ列島口之島ほか~徳之島~沖永良部島~伊平屋島の「トカラアジサイ」、沖縄本島の「リュウキュウコンテリギ」、石垣島~西表島の「ヤエヤマコンテリギ」、台湾~ルソン島~中国広西壮族自治区北部山地周辺の「カラコンテリギ」、雲南省の「ユンナンアジサイ」の、それぞれの集団の相互関係、および園芸アジサイの原種群「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」や、それに対応する大陸産の野生種ではないかと考えられる「Hydrangea kwangsiensis(広西壮族自治区)」「Hydrangea stylosa(ヒマラヤ東部~雲南省北部」との関連を解明することです。

大半の種や地域集団はすでに撮影し終えているのですが、この仲間の全体像を捉えるに当たって非常に重要な位置付けにある伊平屋島のトカラアジサイは、まだ花を撮影していません(これまで冬や夏にしか行っていない)。今年こそ、花の季節
に行ってみたいのです。ということで、リアルタイムのレポートです。

■探索紀行(2011.4.24-5.10)
伊平屋島2011.4.24-4.29
石垣島2011.5.1-5.2
西表島2011.5.3-5.5
沖縄本島2011.5.7
沖永良部島2011.5.8-5.9
徳之島2011.5.10

■写真集
日本本土(本州中部~九州)産【コガクウツギHydrangea luteo-venosa】(屋久島高地帯産=別変種)
日本本土(本州中部~九州)産【ガクウツギHydrangea scandens】
屋久島産【ヤクシマコンテリギHydrangea grossaserrata】
口永良部島産【トカラアジサイHydrangea kawagoeana】
三島列島黒島産【トカラアジサイHydrangea kawagoeana】
トカラ列島口之島産【トカラアジサイHydrangea kawagoeana】
徳之島産【トカラアジサイHydrangea kawagoeana】
沖永良部島産【トカラアジサイHydrangea kawagoeana】
伊平屋島産【トカラアジサイHydrangea kawagoeana】
石垣島産【ヤエヤマコンテリギHydrangea yayeyamensis】
西表島産【ヤエヤマコンテリギHydrangea yayeyamensis】
台湾(合歓山)産【カラコンテリギHydrangea chinensis】
中国(広西壮族自治区北部~湖南省南部=南嶺山地)産【カラコンテリギHydrangea chinensis】
中国(雲南省西部=高黎貢山)産【ユンナンアジサイHydrangea davidii】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
沖縄本島産【リュウキュウコンテリギH.liukiuensis】

次回からスタートします。









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日本および近隣地域の野生アジサイ Ⅲ ① ~⑤

2010-09-23 14:03:11 | 野生アジサイ
★この記事はジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」に、2008年12月掲載した記事です。

日本および近隣地域の野生アジサイ Ⅲ ①

画像は、エゾアジサイ 秋田県秋田駒ケ岳(笹森山)。



秋田県と岩手県の境にある秋田駒ケ岳1637mに、イワテシオガマ(関東地方山地産のハンカイシオガマともども、屋久島固有種ヤクシマシオガマの、隔離分布する姉妹種と目される)の探索に行った時の撮影です(2001.8.5)。

烏帽子岳1477mへの縦走の途上、朝から降っていた雨が本降りになったので、笹森山1544mから乳頭温泉郷に直接下ることにしました。雨に煙るチシマザサの中に、白いノリウツギと、鮮青のエゾアジサイが、交互に出現、いずれも、丈が低く、花序が大きくて、出会うたびにハッと驚いてしまいます。なかでも、エゾアジサイの深い青は、抜群のインパクトです。高緯度・高標高ほど、色が濃くて鮮やかなのです。

日本および近隣地域の野生アジサイ Ⅲ ②
   
画像は、エゾアジサイ 岩手県早池峰(小田越附近)



 早池峰山1914mでの撮影目的は、もちろん名高き蛇紋岩固有植物たち。6月にヒメコザクラ、7月にハヤチネウスユキソウ、8月にナンブトウウチソウ、、、。蛇紋岩の岩が累積する山体の上半部での1日がかりの撮影が終わり、山を下ります。薬師岳との鞍部・小田越えに近づくと、それまでの見晴らしの良い景観とは一変して、深い樹林の中に分け入ります。固有植物たちに代わって、オサバグサやエゾアジサイなど、日本の冷温帯林の代表的メンバーたちが出現。魅力はひけをとりません。

実は、この写真、掲載しようかどうか、最後まで迷った、、、。というのは、あまりにきれいな花だから。実際の色は、吸い込まれてしまうような、深く鮮やかな青なのです。苦心してスキャンし、かなり近いところまで再現できたとは思うけれど、それでもまだまだ不満です。なんとも歯がゆい思いなのです。


日本および近隣地域の野生アジサイ Ⅲ ③

画像は、エゾアジサイ 山形県飯豊山(飯豊山荘附近)。



とにもかくにも、エゾアジサイの青色は、ポジフィルムのデジタルスキャンでは、正確な色の再現が極めて難しいのです。この写真も、実際より少し淡すぎる気もしますが、この地域の個体群のイメージは、概ね表現されていると思います。
やはり、2001年夏(7.19)の撮影。

飯豊山(北俣岳2025m)への登山口、飯豊温泉の国民宿舎の近くの路傍の、モミ・ツガ原生林の裾に、大きな花序のエゾアジサイが群生していました。着いた時は、すでに夕刻だったので、写真はほんの少ししか写せなかったのですけれど。

今回の目的は、飯豊山の稜線に生える、ヒメサユリとイイデリンドウです。尾根の登り口にテントを張り、翌朝まだ暗いうちから、アプローチが長いことで有名な、山上に至る尾根に取りつきます。

夜明けと共に、ヒグラシの合唱、やがて一時間ほどして、辺りがすっかり明るくなると、今度はエゾハルゼミの合唱です。出現期や棲息環境が微妙に異なることから、同時に鳴き声を聴くチャンスは滅多にないのですが、こうやって続けて聞いてみると、鳴き声の形式が、意外によく似ていることが分かります。両者は、思いのほか近縁な関係にあるのです。

山上での撮影に手間取り、下山時には日が暮れかけていました。途中からは、ヘッドランプで急坂の登山路を照らしながらの下降です。大きなガレ場に差し掛かったとき、斜面に咲くエゾアジサイに出会いました。茎が地を這い、大きく鮮やかな花の群れが、白い砂上一面を埋め尽くしています。それはもう、筆舌に尽くし難い素晴らしさなのだけれども、いかんせん、日はとっぷりと暮れています。写真撮影は無理。後ろ髪を引かれる思いで、後にしたのです。いつかまた、この究極のエゾアジサイを写しに、再訪したいと考えています。


日本および近隣地域の野生アジサイ Ⅲ ④

画像は、エゾアジサイ 長野県白馬鑓ヶ岳(白馬鑓温泉)。



エゾアジサイは、北海道南部・東北地方から、新潟県辺りにかけては、透明な青色の装飾花・正常花からなる花序と、薄く大きく幅広く、濃緑色の葉を備えた、典型的な個体群が見られます。

しかし、北陸地方や信州の内陸部に入ってくると、ヤマアジサイとの関係が微妙になってきます。北アルプス北部の白馬岳東面は、日本海へ直接流れ出る姫川の水系、この辺りまでは、典型的なエゾアジサイのようです。日本一標高の高い(2100m余、北八ヶ岳の本沢温泉と日本一の座を競っている)温泉として知られる、白馬鑓温泉(温泉といっても、山の中に簡素な露天風呂があるだけ)からの下山途中に出合った写真の個体も、典型的なエゾアジサイ。この辺りが、典型エゾアジサイの南限のように思われます。


日本および近隣地域の野生アジサイ Ⅲ ⑤

画像は、ヤマアジサイまたはエゾアジサイ 長野県北アルプス常念岳(一ノ沢)。



しかし、北アルプス周辺域でも、中部以南の梓川(信濃川)流域になると、少々様相が異なってきます。エゾアジサイとも、ヤマアジサイとも、判断がつかぬ個体が出現し始めるのです。

この写真(予告編の5に同じ)は、ある年の夏、常念一の沢を遡行して、常念乗越2450mに、高山蝶を撮影に行ったときの副産物です(1986.8.6)。この常念一ノ沢コースは、山麓から歩いて北アルプスの高山帯に至る登山路としては、最も楽なコースの一つだと思います。行程の前半は沢沿いの道、後半は急坂。常念小屋のすぐ手前で、高山帯に出ます。

登山口からしばらく進んだあたり、樹林の中の湿った岩肌沿いに、純白の花を満載した背の高いノリウツギと、濃い青色の正常花が鮮やかなヤマアジサイが、並んで咲いていました。装飾花は白(うっすら青味を帯びている?)。葉は、典型的エゾアジサイに比べて、やや明るく細長いような気がします。ヤマアジサイなのか、エゾアジサイなのか、意見が別れるところです。
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