青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第45回)

2011-06-22 15:28:55 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2g)沖縄本島【リュウキュウコンテリギ】2011年5月7日

ガクウツギ~トカラアジサイ~カラコンテリギの一群は、屋久島やトカラ火山列島に分布するも、奄美大島では欠如し、次ぎの徳之島とその次の沖永良部島および伊平屋島に現れ、沖縄本島で再び欠如、飛んで石垣島・西表島に再び現れるのですが、沖縄本島には、それに代わる“リュウキュウコンテリギ”という種が分布しています。

リュウキュウコンテリギは、ある意味、謎の植物です。花序はいわゆる花(装飾花)を欠き、小さな正常花のみで構成されているのですが、原記載ではなぜかコガクウツギの地方型として扱われています。

そもそもコガクウツギという種自体が良く解らない部分があり、本州の西半部から九州にかけて(大局的に見れば)同所分布するガクウツギとの関係も良く解っていません。のみならず、意外なことにヤマアジサイとの間にも交雑個体がしばしば生じるなど、不思議な存在なのです。

コガクウツギの分布南限は屋久島の高地帯で、低地帯に分布するヤクシマコンテリギや以南の島々に分布するトカラアジサイなどが本土のガクウツギに対応するとすれば、コガクウツギに対応する種が、沖縄本島に現れるということも、何となく辻褄が合うような気がします。

確かに、アジサイの仲間らしからぬ小さくな葉の形や、雌蕊を中心とした正常花の構造なども、写真を見た限りではどこかコガクウツギと共通するようにも思えます。とは言っても、装飾花を欠くことをはじめ、他の各種とは余りにイメージが異なります。自分の目で確かめたうえで、判断しなくてはなりません。

ヤマアジサイ・ガクアジサイに近いグループで、装飾花を欠く種と言えば、リュウキュウコンテリギの他、日本本土の固有種・コアジサイ、中国大陸南部に知られる(おおむねカラコンテリギと分布の重なる)幾つかの種、および別属として扱われるジョウザンの仲間があります。それらの種とリュウキュウコンテリギの関係も考えてみたいのです。

実は、リュウキュウコンテリギの分類上の位置付けについては、非常に興味深いデータがあります。葉緑体DNAの解析による系統考察では、広義のヤマアジサイのグループが、ヤマアジサイ・ガクアジサイのブランチと、カラコンテリギ・ガクウツギのブランチに分かれる(この報文ではジョウザンは未調査)ことまでは予想通りなのですが、リュウキュウコンテリギは、カラコンテリギのブランチではなく、ヤマアジサイのブランチに含まれ、一方もう一つの日本産無装飾花種コアジサイは、ヤマアジサイのブランチではなく、カラコンテリギのブランチに含まれるという、一般に予想されたものと逆の結果が示されているのです。

野生の姿を見れば何かヒントが掴めるかも知れません。沖縄本島にはこれまでも度々訪れていますが、主な対象はツクツクボウシの仲間(オオシマゼミとクロイワツクツク)の鳴き声録音で、夏の後半が中心です。野生アジサイの花の時期としては、少し遅すぎるのです。逆に今回は開花盛期にはやや時期が早すぎるのですが、この機会にチェックしておくことにしました。もしかしたら伊平屋島のトカラアジサイとも、外観の極端な相違とは裏腹に、意外に類縁上のつながりが見出されるかもしれないですし。となれば、リュウキュウコンテリギはトカラアジサイの代置的な存在になるわけです。

日程的に、探索可能日は一日だけ。うろうろと探し回ってタイムアウトとなってしまわぬよう、前もって生育場所を、琉球大学から環境庁やんばる自然保護センターに出向している中田氏(専門はマングースだけれど、植物にも詳しく、何よりもとても親切なナイスガイ)に電話連絡して、確認しておこう、としたのですが、名刺が出て来ない。

数日前、なっちゃんの名刺を探そうとしたら、幾ら探しても出て来ない。探している途上、何度も繰り返し中田氏の名刺が出てきて、なんで必要のないものが何度も出て来るのだ、と苦々しく思っていたのです。ところが、いざ必要となって中田氏の名刺を探そうとしたら、神隠しにあったように出て来なくなってしまった。逆に、(3種類ある)なっちゃんの名刺ばかり、これ見よがしに現れるのです。

というわけで、自分で適当にあたりをつけて、与那覇岳(沖縄本島最高峰503m)山頂周辺を探索することにしました(中田氏の名刺は、必要の無くなった探索行翌日に、ポロリと出てきた)。いつも通り、リュックを駅の道の観光案内書に預け、午後2時出発(この日はなっちゃんと電話で口論になり、予定を変更して帰京しようと思っていたのですが、思い直して空港からの直行バスで辺土名にやってきたのです)。山頂までは歩いて往復4時間、探索に1~2時間、最終バスは7時50分とのことですから、何とか間に合いそうです。途中の森林公園に寄ろうかとも考えたのですが、時間に限りがあります。一直線に与那覇岳を目指すことにしました。むろん、途中でリュウキュウコンテリギが見つかれば、それに越したことはありません。

実のところ、途中の道すがらすぐに出会えるだろうとタカをくくっていたのです。でも、そうは問屋がおろさず、結局、正月にヘツカリンドウを観察した、山頂手前のトラバースルートの一番奥まで行く羽目になってしまいました。目を皿のようにして探し回ったのですが、それらしき植物はどこにも見当たりません。




リュウキュウイチゴの葉のチェックも。下右2枚は、ナガバノモミジイチゴ型の葉のリュウキュウイチゴと思っていたのですが、全く別群のタイワンウラジロイチゴかも知れません。



左2枚:シリケンイモリ。泥だらけの登山道に、踏みつけてしまいそうになるほど沢山いた。
右:ヘツカリンドウの若葉。花期の冬に訪れた時はなかなか見付けられなかったのだけれど、今回は打って変わって数多く見られました。


そろそろタイムリミット、今日は諦めて、明日の徳之島行きを中止し、海洋博の阿部氏か環境省の中田氏に生育場所を聞いて、改めて出直すしかない、と覚悟しかけた時、気になる植物が目に留まりました。小さな葉と咲きかけの花序を見る限り、とてもアジサイの仲間とは思えないのだけれど、他に咲いている花をほとんど全く見かけないこの辺りでは、第一候補と言わざるを得ない。ぽつぽつと現れるのですが、どの株も花は咲いていません。やがて一輪だけ小さな花を見つけました。

ルーペを取り出して、花の構造を確かめます。どうやら理論上は間違いなくアジサイの仲間のようです。それが分かってはいても、アジサイの仲間であるとは到底信じられないような、予想を遥かに超える異様さです。

少なくとも、トカラアジサイやカラコンテリギには全く似ていない。花序も葉も、対極的なイメージです。発見時に同一種と考えられていたコガクウツギにも似ていません(でもそう言われれば幾らかは共通点があるような気も)。葉緑体DNA解析による系統考察ではより近縁とされるヤマアジサイやガクアジサイにも全然似ていない(こちらもそう言われれば、どことなく共通の雰囲気が見出されるようにも思いますが)。

いずれにしても、他の野生アジサイ各種とは大きく異なった、特異な種です。あえて最もイメージが共通する種と言えば、同じ無装飾花種のコアジサイです。大きさはともかく、葉の概形、生育環境などに、なんとなく類似点があるように思えるのです。思うに、リュウキュウコンテリギもコアジサイも、真正のアジサイ類(ヤンマアジサイ・ガクアジサイの一群+カラコンテリギ・ガクウツギの一群)の中では、最も祖先的な形質を引き継いだ、遺存性の強い種で、それぞれがヤマアジサイのブランチやカラコンテリギのブランチにと進化を始める初期の段階で、形質の進化がストップしたままになっているのではないだろうか?と。

ただし、装飾花の欠如は、アジサイの仲間の進化の道筋の中では、後天的な出来事のはずです。それを考えれば、それぞれのブランチで並行的に特殊化した進化の末端にある存在、とも言えるのかも知れません。

のちに、鹿児島で堀田満先生に伺った話では、リュウキュウコンテリギは、絶滅寸前の状況にある、大変な稀産種であるとのこと。見付けることが出来ただけでも運が良かったのかも知れません。




リュウキュウコンテリギの花





一枚目の写真、左上に見えるのがリュウキュウコンテリギの葉。






下2枚は、蘭の一種(ユウコクランの仲間?3段目右は葉)とリュウキュウコンテリギ。




僕はランのことは良く知りません。







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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第44回)

2011-06-21 15:11:48 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2f)2石垣島・西表島【ヤエヤマコンテリギ】2011年5月2日~5月5日

以下、石垣島(オモト岳)のヤエヤマコンテリギ。標高200m辺りから山頂にかけて見られます。






最後に、石垣島(オモト岳)と西表島(カンピレーの滝/テドゥ山)のヤエヤマコンテリギを紹介しておきます。伊平屋島のトカラアジサイに比べて、葉が極めて厚く革質、まるで照葉樹の葉を思わせます。オモト岳山頂付近では、葉が著しく小さな株も。台湾産や中国大陸産カラコンテリギにも似ていますが、葉はより革質で、全体として三島列島黒島産のトカラアジサイと類似します(渓流沿いの株は葉が比較的大きく、山上尾根筋では小さくなることなども共通)。

以下、西表島(浦内川カンピレー滝)のヤエヤマコンテリギ。


浦内川河口


林内の渓流沿い







以下、西表島(テドゥ山)のヤエヤマコンテリギ。


下流の川岸にも僅かに生えていた。右下にコンロンカ。


山頂近くの湿地帯にて。








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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第43回)

2011-06-20 09:36:58 | 野生アジサイ


野生アジサイ探索記(下2f)1石垣島・西表島【ヤエヤマコンテリギ】2011年5月2日~5月5日


これまでにも何度か説明したように、一言で沖縄(あるいは琉球・南西諸島)と言っても、沖縄本島以北と、先島諸島(宮古+八重山)は、生物地理学的な視点から見て、全く異なる地域です。




それぞれ地図の左下、台湾の右隣りが、石垣・西表島。

北琉球(屋久島・種子島・トカラ火山列島)の生物相は、九州などの日本本土に強い関連を持っています。中琉球(奄美大島・徳之島・沖縄本島)の生物相は、著しく特徴的で、あえて言えば中国大陸の奥地などに、(非常に古い時代の共通祖先を介しての)共通性が認められます。そしてどちらかと言えば、南回りでなく北(日本本土)回りで大陸と繋がっているのです。南琉球(宮古島・石垣島・西表島・与那国島)の生物相は、台湾や中国大陸南部と強い共通性を持ちます。

九州本土から沖縄本島にかけては、最長でも70㎞以内の間に、島々が連続して連なっています。しかし、沖縄本島と宮古島の間は250km以上も離れていて、しかも深さ1000mを超す海溝が切れ込んでいるのです。宮古島から先、台湾までは、再び可視距離の間に島々が連なります。

宮古島は、高い山のないなだらかな地形のため、島の成立後も度々水没を繰り返してきたためか、古い時代から遺存分布する生物は生育していません。一方、石垣島や西表島は、離島としては比較的標高が高く、多様性に富んだ地形と植生環境を有し、様々な(台湾や大陸南部に姉妹集団をもつ)固有種が生育しています。ということで、ここ(石垣島・西表島)にも、ガクウツギ群の野生アジサイ=ヤエヤマコンテリギ(トカラアジサイと同じ種に含めたり、台湾や中国大陸産のカラコンテリギと同じ種としたり、あるいは遺伝的に他とは全く異なる種とするなど、様々な見解があって、今のところまだ結論は出ていません)が分布しているのです。

僕は、20数年前から、石垣・西表両島固有種とされ、国指定の天然記念物でもあるアサヒナキマダラセセリを、10年ほど前からは、やはり石垣・西表両島固有種のイシガキヒグラシの、それぞれ系統的な分類を調べていて、この両島には深い縁があります。それらの調査の過程で、ヤエヤマコンテリギも両島で撮影をしてはいるのですが、片手間の撮影だったり、時期的に花の盛期が過ぎていたりして、思い通りの撮影や調査には至っていず、改めて開花盛期に訪れようと考えていたのです。

むろん今回、訪れる予定でいました。ところが、野口さんに沖縄行きを告げたところ、旧知のガンケオンム(内藤ひろむ)氏が沖縄に住んでいるので、ぜひ訪ねてほしい、との要請を受け、となれば時間と予算の関係から、石垣島・西表島に行く余裕が無くなってしまいます。当初内藤さんの住所が解らなかったのですけれど、野口さんと手分けして調べた結果、石垣島在住であることが判明しました。で、最初の予定通り石垣島・西表島に赴くことになったのです。

 
 
 
 
元ガンケオンムの内藤ひろむ氏と、御子息夫婦やお孫さん、それに近所の若夫婦一家。上段右は、僕の寝泊まりしたガンケ氏手作りの離れ、2段目右は、その玄関。一晩中鶏が玄関前で“コケコッコー”と鳴いていた。

石垣島では内藤氏のお宅(農場)に2日間お世話になりました。とても楽しかった。でも、同時に辛い思いもしました。何組もの家族の集いに招かれて、、、、連夜遅くまで酒盛りと相成ったのですが、、、、家族の団欒に加わるのは、帰るところのない一人身の僕には、切なすぎます。

僕も内藤氏も“旅人”。でもその立場は正反対です。

若い頃、遊び尽くして、永い放浪の後、日本の果ての離島の農場に定着して、やがて家庭を持ち、どこにも向かわない“旅の途上”にあるガンケ内藤氏。

若い頃は何一つ積極的な行動が出来ない“登校拒否児”。中年を過ぎてからの、一人ぼっちの、どこにも戻らない“旅の途上”にある僕。

基本的な思考は共通します。今の日本で、普通であること、常識と思われていること、それらを全く信用していない。 “空気”を乱さず、皆と同じであることを正義とし、楽で気持ちの良いことだけを安易に求めようとする時代の流れに組せずに、自分の生きる道を貫き通して、地球の将来のあり方を示したい。

野口さんの生き方とも共通するはずです。でも、terranovaの方向性とは、微妙に異なるような気が。この間のイベントのパンフなどをお見せして、そのうちにガンケさんも講師として参加なさったら?と話題を向けたところ、猛烈な批判的返事が返って来ました。絶対に嫌だそうです。感覚的に相容れないのでしょう。早川さんやジョンさんと、ガンケさん、その生活スタイルやビジョンは、一見似てはいるのですが、似て非なるもののような気がします。

本当の意味での“リアル”の追求が、いかに苦しく困難なものか、汗を流し、血を流し、身を持って示しているのです。貧乏(金持ちになること自体、“悪”であるというのが、僕とガンケさんの共通認識)を覚悟し、一般社会からはドロップアウトし、従って(早川さんのように)若い世代から持て囃されたりすることもありません。定年親父や都会の若者のファッションめいた“田舎暮らし”ブームなどとは、対極の存在なのです。

時たま勘違いで、若い女性が訪ねて来ることがあるそうです。ガンケ氏曰く、僕はモテるのです、と。何度か言い寄られたこともあるそうです。ガンケ氏のほうも、まんざらではないようで、その気おおアリなんだそう。今までは何にも起こらなかったらしいのですが、次にチャンスが訪れた際には、真剣に考えてみたいと。でも、浮気は嫌、むろん離婚も絶対に嫌、沖縄出身の奥さんと、3人の御子息を深く愛していらっしゃるのです。

その上で、若い女の娘とも、一緒に暮らせたらと(いわば第二夫人ですね)真剣に夢見ておられる。問題は、奥さんや息子さん達が、絶対に認めてくれそうもないということ(そりゃあそうだ)。何か良い方策はないものでしょうかと、のたまっておられました。

2日目はオモト岳(沖縄県最高峰526m)へ。ところが、登山口に市の職員が待ち受けていて通せんぼ!途中、道が決壊していて危ないので、登山禁止にしているのだと。無視をして先を進みます(別に大した決壊ではなかった)。途中、知らせを受けた責任者と思しき人が駆けつけてきた。たまたまその方(トンボのアマチュア研究者、直接の面識はなし)が僕のことを知っていて、“市の職員には会わなかったことにしておいて下さい”ということで一件落着。“登山禁止”は早い話が責任逃れなんだよね。いかにも八重山の人がとりそうな安易極まりない方針だと思います。

先島諸島を、宮古諸島と八重山諸島に分けるのは、意味があるのだそうです。ガンケ氏曰く、八重山(石垣)は実に嫌な所だ、変にクールで人間味が全くない。閉鎖的で一種のエリート意識があり、部外者が溶け込むのは困難。中央(東京)の悪い所をそのまま引き継いだようで、鼻もちならない。その点、(ぐうたらで、いい加減で、大酒のみで、沖縄本島や八重山の人々からは嫌われ馬鹿にされているけれど)宮古島の人々は、開けっぴろげで、人間味たっぷりで、僕は好きなのです、と。石垣島でも、ガンケ氏の住む「吉原」地域は、宮古島の開拓集落なのだそうです。




上左:コンロンカ、上右:クチナシ、下左:ギョクシンカ(いずれもアカネ科キナノキ亜科)。
下右:サキシマヤマツツジ(ツツジ科、奄美・沖縄のケラマツツジや、屋久島のヤクシマヤマツツジに近縁)。




浦内川河口付近(左)とカンピレーの滝(右)。カンピレーの滝は、滝と言ってもナメリの連続。20年ほど前、岩上に座っていた時、西表島沖群発地震があって、岩ごと大きく揺れた。今までで一番怖かった地震体験です。10年ほど前、ヒグラシの声の録音(日没後と夜明け前にしか鳴かない)に訪れた時には、テントの布と支柱の組み合わせを間違えて持って来て、仕方なく直接地べたに寝て情けない思いをしたことを思いだします。


八重山3日目は、フェリーで西表島へ。一泊の予定だったのですが、連夜の酒盛りで極度の寝不足。カンピレーの滝の探索行を簡単に切り上げ、最終バス(何と午後3時!幾らなんでも早すぎます)で島の南の大原に向かい、2日間滞在することにしました。

何しろ、ゴールデンウイークの真っ最中です。観光的には無名の伊平屋島と違って、西表島は超有名観光地です。会う人会う人、若いアベックか、出なければ子連れのヤングファミリー。気が滅入ります。当初、2日目もカンピレーの滝周辺を探索する予定でいたのですが、観光客に合わない所に行くことにしました。

カンピレーの滝は、島の南に抜ける滝から先の “横断登山道”が魅力的なのですが、このコースを行くには、許可が必要です。許可が下りる最低条件は“2人連れ(実質アベック)”であるということ。お一人様は、ここでも差別の対象です。知識・経験の豊富なプロのアドヴェンチャーの単独行より、山道を歩いたこともないアベックの2人連れのほうが、(手続き上)優先的に信頼されるのです。もちろん、責任逃れの、お役所感覚の処遇であることは言うまでも有りません。
ということで、西表島に来た登山愛好家や自然愛好家は、暗黙の了解で、“単独登山禁止”の有名コースの何十倍・何百倍も困難で危険な、地図に道も載っていないような、ヴァリエーションルートを目指します。遭難の確率は、“単独登山禁止コース”よりも遥かに高いわけですが、万が一遭難しても、“禁止コース”ではないので、誰も責任を取らなくて済むのです。遭難を防ぐのが目的なのではなく、責任逃れが真の目的、という構図です。

西表島最高峰の東部の古見岳(460m)や、第2峰の北部のテドゥ山(447m)も、一般の地図には登山ルートが示されていません。たまたま宿に、昨日テドゥ山に登ったという関西からの単独旅行者が泊まっていたので、彼に道を聞いて、2日目はテドゥ山に登ることにしました。山頂にリュウキュウチクの群落があるとのことで、アサヒナキマダラセセリを撮影出来るかも、と期待していましたが、悪天候のためか、久しぶりの再会は叶いませんでした。




一時間余歩いてそろそろ山頂?と思ったら、「あと2時間半」の道標。今回最もハードな山行でした。山頂は展望なし。




左:途中、目的のヤエヤマコンテリギが現れます。右:山頂に生えていたシダの一種のヤブレガサモドキ。



 
下山は午後6時過ぎ。最終バスは3時に出ていたので、南へ行く車をヒッチ。ヤギの餌を積んだ荷台に寝転がって。

夜、宿舎近くの食堂で、前日カンピレーの滝で出会った九大の昆虫学教室の学生3人組と偶然再会、うち一人が、ナガサキアゲハのDNA解析による系統考察に取り組んでいるとのこと。夜遅くまで、ナガサキアゲハ談義。30年ほど前、僕が最も力を注いでいたのが、♂♀外部生殖器の構造比較によるナガサキアゲハグループの系統分類なのです。完成に至らないまま保留の状態が続いていたのですが、30ぶりに封印を解いて、再開しようと、新たな決意をした次第であります。




マサキウラナミジャノメ(上段右は産卵中の♀)とヒメジャノメ(リュウキュウヒメジャノメ=右下)。マサキウラナミジャノメも八重山固有種ですが、体の基本構造は、日本や台湾のウラナミジャノメやエサキウラナミジャノメと同じです。




リュウキュウウラボシシジミ カラスアゲハ(ヤエヤマカラスアゲハ)

翌5日、船の時間までの間、宿の近くにある新しく出来たばかりの瀟洒なレストランで昼食。どんぶりを注文したら、なんとニガナ(ホソバワダン)がたっぷりと添えられています。どうやらここでは完全な野菜扱いのようです。ついでにアキノノゲシの事を尋ねたら(写真を見せました)これも食べると、意外な答え。ウサギノミミの名で、そこいらに生えているのを、昔から食べているのだそうです。次回訪れた際には、用意して料理してくれるとのこと。アキノノゲシを人間の食用としているという確実な情報は、中国南部の麦菜に次いで、始めてのことです。

ためしに石垣の空港の売店でも、アキノノゲシについて尋ねてみました。ここでは売ってはいないけれど、確かに食べている、とのこと。那覇に戻り、中川嬢を伴って沖縄タイムスを表敬訪問した帰りに、スーパーの野菜売り場を覗いてみました。ニガナ(ホソバワダン)が野菜の棚に堂々と。野生のものよりは大きめのようにも思えますが、といってたいして変わらないようにも思えます。栽培しているのでしょうか? 苦菜・麦菜、ますます面白くなってきそうです。




ドンブリの中にニガナ(ホソバワダン)が。野生のものよりずっと大きいようです。栽培しているのかも知れません。




那覇の高級スーパーにて。陳列棚にニガナを見つけました。中川嬢が携帯で写し始めたので僕も。生でも食べられます。





石垣島にて(背景はオモト岳)。畑の畔にトウのたったアキノノゲシが。勝手に生えているのか、それとも一応栽培しているのでしょうか?





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「朝と夜のはざまで(第40回「中国大陸/カラコンテリギ」)」の訂正

2011-06-19 20:23:19 | 野生アジサイ



手違いで同じ写真が2列重なって入っています。それにより次に入るべき写真がカットされてしまっているので、改めて編成し直しておきました。



(ついでに、この機会に改めて)
装飾花の縁の鋸歯の有無や、装飾花弁数の多少は、個体変異に過ぎません。マニアックな愛好家の人々が名付ける“品種名”は、生物学的な分類とは全く無関係なので、間違いなきよう。葉の形質に関しても同様のことが言えますが、ただし、基本的な“傾向”は、(種以下の分類群に対しての)分類指標として、それなりに意味があるものと思われます。




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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第42回)

2011-06-19 13:26:34 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2e)2伊平屋島【トカラアジサイ】2011.4.26~5.1

伊平屋島のへツカリンドウについて(詳細はブログ参照)。
屋久島産(新称「アズキヒメリンドウ」)との共通点を多く持ち、「ヘツカヒメリンドウ」の名を仮称しておきます。至近距離にある沖縄本島産(別称「オキナワセンブリ」)と最も異なり、遠く離れた屋久島産(アズキヒメリンドウ)、石垣・西表島産(シマアケボノソウ)、台湾産(シンテンアケボノソウ)などとの関連が考えられます。系統上の位置付けについては、今年の11~12月から来年1~2月、(なっちゃんとともに!)北限(九州大隅半島と甑島)から南限(台湾)に至る生育が予想される全ての島々で再チェックを行った上で、最終結論を出すことにしています。



左端:屋久島、2枚目と3枚目:伊平屋島、右2枚:沖縄本島。


伊平屋島のトカラアジサイについて
へツカリンドウの伊平屋/沖縄本島産の組み合わせの場合と同様に、(この後に紹介する予定の)沖縄本島産リュウキュウコンテリギとはまるっきり縁が遠く、トカラ列島などのトカラアジサイとも顕著に相違し、距離の遠い、屋久島産(ヤクシマコンテリギ)や、台湾・中国大陸産(カラコンテリギ)との間に、むしろ類似点が認められます。こちらも系統関係の最終結論は、各地産のDNA解析による比較などをトータルに行ったのち行う予定でいます。



三島列島~トカラ列島産や石垣島~西表島産に比べて、葉の質が著しく薄い(屋久島産と共通)のが特徴です。全体として、台湾および中国大陸産カラコンテリギに最も類似点が見られます。







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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第41回)

2011-06-19 13:16:47 | 野生アジサイ

野生アジサイ探索記(下2e)1伊平屋島【トカラアジサイ】2011.4.26~5.1

以下、今回の取材行(伊平屋島→石垣島→西表島→沖縄本島→沖永良部島→徳之島)をリアルタイムで報告して行きます。

栽培アジサイの原種(ガクアジサイやヤマアジサイ)に近縁のもう一つの一群、ガクウツギ・カラコンテリギの仲間は、分布や分類について未解明の問題点が数多く残されています。文献もほとんどなく、自分の足で調べるよりありません。それでもって、この10年間ほど、日本本土のガクウツギ・コガクウツギ、南西諸島のトカラアジサイ(ヤクシマコンテリギ・ヤエヤマコンテリギを含む)、台湾・中国大陸のカラコンテリギ(ユンナンアジサイを含む)の実態を知るべく、各地を調べ歩いてきました。

ほとんどの産地を訪ねてはいますが、花の季節では無かったりして充分な観察が出来ないでいるところも、かなりあります。それでも、大抵の場合は、近隣地域産との関連や、他の人が写した写真をチェックするなどして、おおよその判断は出来るのです。しかし他の産地から孤立して分布し、ほとんど全く情報のない沖縄県伊平屋島産については、正体が謎のままとなっていました。

この一群の大雑把な分布様式は、本州・四国・九州(ガクウツギ)、屋久島(ヤクシマコンテリギ)、三島列島・口永良部島・トカラ列島の後、奄美大島に欠如して、徳之島、沖永良部で現れ(以上トカラアジサイ)、沖縄本島で再び欠如、石垣島・西表島に再び現れ(ヤエヤマコンテリギ)、台湾・ルソン・中国大陸(カラコンテリギ)と続きます。ただし、2つの注約が必要です。沖縄本島と隣接する伊平屋島に、トカラアジサイが分布すること。沖縄本島(北部のヤンバル地区)には、この一群とやや類縁の離れたリュウキュウコンテリギが固有分布すること。

沖縄本島北部の国頭半島(ヤンバル地域)と伊平屋島は、目と鼻の先の距離の位置にありますが、その生物相は、かなりの相違点が見られます(ちょうど屋久島と口永良部島の関係と良く似ています)。伊平屋島へは、昨年年末から今年正月にかけて、ヘツカリンドウ(アズキヒメリンドウ、イヘヤヒメリンドウ)の調査に訪れていました。詳しくはブログで紹介しているので、そちらのほうを(途中で中断中)ご覧下さい。

沖縄県伊平屋村。
沖縄本島周辺の離島では、久米島に次いで大きい。
人口約1300人。
県内の主な離島中、唯一飛行場がない。
県内の主な離島中、唯一大きなホテルがない。
県内の主な離島中、ふるさと交付税が最も少ない(県外における知名度に比例)。
県内の主な離島中、観光客(なかんづく若いキャピキャピした女の子)が最も少ない。
沖縄県の島の中では、最も山が多く、多様な地形を持つ島のひとつ。
最高峰は賀陽山294m、沖縄県で、「山(サン)」の語尾を持つ唯一の山(大抵は「岳」) 。
北緯27°以北が鹿児島県で、沖縄県は北緯27°以南、というのが常識ですが、この島は27°線よりも北に位置し(鹿児島県与論島の真西で島の北部は与論島よりも北)、島の南端に27°線が横切っています(テントを張っている場所は、ほぼそのライン上)。
要するに、沖縄らしくないイメージの沖縄の島、ということが出来るかも知れません。
(ただしサンゴ礁の海は、他のどの島にも負けぬほど素晴らしい)



 用意して頂いたテントと、差し入れの弁当。
役場から無料で提供された宿舎は、前回(昨年末~今年正月)は屋内の大ホールを独占して使っていたのだけれど、海開きの季節の今回は、さすがにそうもいきません。というわけで、7~8人は寝泊まりの出来そうな大テント。電気も使用出来き快適ではあったのだけれど、暴風雨に見舞われた2日目の夜は、物凄い音が一晩中テントを揺るがし、一睡も出来ませんでした(雨は漏って来なかったです)。

自炊をするのは面倒だったので、スーパーで調達した弁当を3つほど購入しておいたのだけれど、テントに戻ったら役場の方々からの差し入れも2つ3つあって、とても食べ切れません(写真上右、モズク入り餃子など)。

 


 

テントの回りの海辺は、最高の景色です。でも、それでなくとも少ない観光客が、東日本大震災の影響からか今年は特に少ないようで、ゴールデンウイークに突入したというのに、人一人っ子いない。僕が一人で独占、というわけですが、嬉しくもないし、何の感慨もありません。なっちゃんと一緒になら、もっと素直に堪能出来たことでしょうけれど。

浜辺をそぞろ歩きながら様々な海岸性植物を撮影しました。殊に数多かったのがシマアザミ。屋久島周辺の近縁種オイランアザミは紅花ですが、こちらは白花です。以前、三島列島黒島の海岸でも撮影した覚えがあるので、その辺りが分布北限だと思います。ノアサガオ(下左)とハマヒルガオ(下右)も砂浜一帯で良く見かける花。前者は内陸の路傍などでも普通に咲いていますが、後者は砂浜の中だけに生育します。

 





上2枚:野生のクチナシ。この季節が開花盛期の純白の花のクチナシとコンロンカ(共にあかね科)は、遠目には野生アジサイに良く似ています。甘い香りが素晴らしく、風に乗って遠くまで漂ってきます。初恋の人に最初に贈る花、だそうです。2段目右:ホウロクイチゴ。リュウキュウバライチゴやリュウキュウイチゴの多い屋久島などでは余り美味とは感じないのですが、それらの少ないこの島では、とっても美味しく感じます。2段目左2枚と3段目左:シロオビアゲハ。♀には♂同様の白帯型と、♂にない白紋型がありますが、今まで見たところでは、この島のメスはどれも♂タイプ(白帯型)のような気がします。3段目右:クロアゲハ、4段目左:ジャコウアゲハ、4段目右:リュウキュウベニイトトンボ。

伊平屋島にトカラアジサイが分布することは、古い文献記録があります。しかし、具体的な記述や図の載った報文を見つけ出すことは出来ず、あるいは誤報告の可能性もあるかもと、5年前の晩夏、自分の目で確かめようとこの島を訪ねました。非常に稀な植物らしく、あちこちを探し歩いた末に、最高峰の賀陽山の登山口付近で見付けることが出来ました。すでに花の季節は終えていて、枯れ残りの葉をチェックしただけですが、間違いなくカラコンテリギやガクウツギの一群、
ただし、トカラ列島などのトカラアジサイとは、かなり趣が異なるようにも思えました。正確なことを確かめるには、花期に訪れて枯れる前の葉をチェックしなくてはなりません。

次に来る時のために、植物に詳しい村役場の伊礼清課長(現副村長)に、他の生育場所を調べておいて貰うように頼んでおいたところ、ダムの一角の林で見かけたとのこと、今回、まずはそこに向かうことにしました。



左がいつもお世話になっている伊礼清さん。4年前や、今年1月に来た時には、みな「清さん」と呼んでいたのですが、今回は「副村長」と呼んでいました。慣れるまで僕も暫く時間がかかりました。右のおばさん(お姉さん?)は、薬膳料理などに造詣の深い、伊平屋村商工会の大見謝るみ子さん。トカラアジサイの生育場所は、彼女のほうが副村長より詳しかったです。写真右は案内して頂いたダムの堰堤近くのトカラアジサイが生える林。




その大見謝さんに、港の待合室で、ニガナ(ホソバワダン)の様々な料理を即席で作って貰いました。左はサラダ、右は和え物。ともに苦味が抜け、と言ってもほのかに残ってもいて、えもいえぬ美味しさです。




写真左:登山口に生えていたホソバワダン(左、地元名ニガナ)とヘツカリンドウ(右=イヘヤヒメリンドウ)の若い葉。ホソバワダンの葉もヘツカリンドウと同程度の大きさ・形になります。写真右:1月に写したホソバワダンの花。



写真左:上左写真の右隣に生えていたアキノノゲシの葉。葉が切れ込むタイプと、切れ込まないタイプがあります。この島では食用とする習慣はないようです。写真右:1月に写したアキノノゲシの花。



以前にブログで紹介済みの、深センのスーパーで購入した、右から生菜(レタス)、苦麦菜&油麦菜(栽培アキノノゲシ?)。




次の日は、来島時に同じ船に乗り合わせた若い女性(京都の阿地さん32才)と、彼女と同じ宿に宿泊しているもう一人の若い女性(横浜の河野さん30才、、、、早い話、純粋な観光客はこの2人だけ?)を伴って、賀陽山登山と相成りました。途中、キノボリトカゲが出現。




賀陽山山頂に辿り着く(霧の中で展望なし)。写真左は、山頂に生える野生ミカンのシークァーシャーの木を背に。賀陽山は標高300m弱だけれど、相当にハードな登山を強いられます。青い服の女の子(河野さん、)は、完全にへばってます。


 
でも食事タイムで笑顔が(横浜から来た河野さん)。右のカッコいい女の子は、なっちゃんと同業者(京都から来た阿地さん)、フードや飲食店のPR雑誌などの編集を経て、現在はフリーの編集者(平たく言えば失業中?)よし。






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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第40回)

2011-06-18 21:19:04 | 野生アジサイ


野生アジサイ探索記(下2d追加)中国大陸【カラコンテリギ】




先日、昨年・一昨年に撮影したカラコンテリギの写真が大量に見つかりました。たまたま今日、それを纏めた原稿が出来上がったので、この機会に紹介しておきます。*今日アップした写真と重複するのはそのまま入れています。*直す時間がないので文章の末尾そのままです。*なっちゃんにはまだ送っていません。ちなみに、今日6月17日はジン君24才の誕生日。これからライブとパーティーがあります(大幅に遅刻!)。なっちゃんの誕生日は7月20日(25才)だから、1カ月だけ追いつきます。6月と7月は日本にいる予定ではなかったので、ジン君の誕生日をうっかり忘れてしまっていたのです。ちなみに僕は今年20才(2008年から再起算!)、ジン君は4才お兄さん、なっちゃんは5才お姉さんですね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中国大陸では、広西壮族自治区治区北部の、貴州省や湖南省に接した山地帯の標高800~1700m付近に、比較的普通に見られる。分布域は、いわゆる“南嶺”に相当するが、その東の延長である福建・広西・浙江の山地帯に及んでいるものと思われる。「雲南植物志」によると、雲南省にも分布が及び、ユンナンアジサイの分布域をほぼカバーするごとく示されている。

「中国植物志」や「雲南植物志」では、カラコンテリギとユンナンアジサイの区別点を、「果実全体に対する上端部の長さの比率」に求めているが、著者の検した限りに於いては、有意な安定的指標形質ではないように思われる。ユンナンアジサイに於いては、雄蕊の葯や小花序柄や果実などが強く紫色を帯びること以外は、両者の客然たる区別点は見出されない。ユンナンアジサイのうち、雄蕊の葯などが紫色を帯びずに、葉の軟毛が少なく平滑な個体は、カラコンテリギと区別し難く、それらの個体をカラコンテリギとしているのかも知れない。しかし群落全体として見れば、大半の個体は葯をはじめとした各部位が紫色を帯び、植物体に軟毛が多く、固有の形質を備えた独立種ユンナンアジサイとして一括して良いのではないかと思われる。

カラコンテリギは、広西壮族自治区北部の、龍背、花坪原生林、芙蓉村、および湖南省側の南山で撮影を行った。生育地での個体数は多いが、必ずしも一様に生えているわけではないようで、隣接した猫児山や興堂山では未確認、これまで確認し得た地域は蛇紋岩地質帯の周辺であり、猫児山はそれとは異なる花崗岩地質地帯であることと関係しているのかも知れない。なお、カラコンテリギ生育地では、巨視的に見れば同所的分布しているはずの、ヤナギバハナアジサイHydrangea kwangsiensisと思われる種は確認していない。




広西壮族自治区花坪原生林。2010.6.26




湖北省南山~広西壮族自治区芙蓉村。2009.5.19




 
右の地質図の、上右半部は石灰岩地帯(猫児山以東)、上左半部は蛇紋岩などを交えた地帯(花坪・龍背・芙蓉村・南山)



 
夕映えの花坪原生林。2004.8.1             龍背棚田(谷を挟んだ林内にカラコンテリギを豊産)2009.1.24






広西壮族自治区龍背県芙蓉村。2009.5.20。この季節、分布下限付近で開花最盛期、上限付近では蕾からちらほら開きかけ(ガクウツギ、ヤクシマコンテリギ、トカラアジサイ等と、ほぼ等しい状況)。





 
芙蓉村。2009.5.20




南山~芙蓉村。カラコンテリギ生育上限付近(標高1500m以上)では、ガマズミ属の種と混在する。開花はカラコンテリギのほうが遅く、ガマズミ属の花が純白なのに対し、花序が開ききっていないカラコンテリギのほうは、黄色っぽく見える。



 レンプクソウ科ガマズミ属の一種





南山~芙蓉村。2009.5.19。ピンクの花は、バラ属の野生種。







広西壮族自治区花坪原生林。2010.6.25-26








広西壮族自治区花坪原生林。2010.6.25-26








広西壮族自治区花坪原生林。2010.6.25-26






広西壮族自治区:(下3枚)花坪原生林2010.6.26/(中左)龍背2006.5.13/(中右)龍背2004.4.24/(上2枚)芙蓉村2009.5.20/(中3枚)南山[湖北省南端部]2010.5.19
下右2枚:花序柄を欠く(=花序の基部に一対の宿存性苞葉を有する)という「ガクウツギ亜群」の特徴は、ほとんどの個体で表現される。




広西壮族自治区:花坪原生林2010.6.26/龍背2010.6.18/芙蓉村2009.5.21)/南山[湖北省南端部]2009.5.19





葉質(軟毛の密度、葉脈に沿った凹凸の程度、ほか)や、概形、色調(しばしば裏面が紫色を帯びる)、装飾花の大きさや概形などは、極めて変異が多いが、全て個体変異の範疇に入ると思われる。正常花雌蕊(果実)の子房や柱頭の形状は極めて安定している(ユンナンアジサイ、ヤエヤマコンテリギ、トカラアジサイ、ヤクシマコンテリギ、ガクウツギなど、ガクウツギ亜群の各種を通じて共通)。広西壮族自治区:(下2枚)花坪原生林2010.6.18/(上左)龍背2000.0.00/(上右)芙蓉村2009.5.20/南山[湖北省南端部]2009.5.19



平均的形状の葉。概形はヤクシマコンテリギに似て細長いが、通常、縁の鋸歯は浅く、先端の伸長もそれほど顕著ではない。葉脈沿いの凹凸が顕著で、細脈が明瞭に表れ、裏面には軟毛を密生する個体が多い。広西壮族自治区花坪原生林2010.6.26




広西壮族自治区:花坪原生林2010.6.26/芙蓉村2009.5.21/南山[湖北省南端部]2009.5.19




広西壮族自治区:花坪原生林2010.6.26/芙蓉村2009.5.21/南山[湖北省南端部]2009.5.19



葉裏に軟毛を密生し葉脈の細脈が顕著に出現する個体、葉裏が紫色を帯びる個体、やや革質で毛が少なく平滑(細脈は不明瞭)な個体など、様々なタイプが見られる。広西壮族自治区:花坪原生林2010.6.26/芙蓉村2009.5.21/南山[湖北省南端部]2009.5.19




カラコンテリギの花を訪れた、オオヤマミドリヒョウモンとクモガタヒョウモン。広西壮族自治区龍背県芙蓉村(観光地として有名な湖南省の“通称”「芙蓉鎮」とは全く別の、広西/湖南省境の農村)。2009.5.21




カラコンテリギの花で吸蜜中。ゼフィルス(ミドリシジミ族)? それともカラスシジミ族? 芙蓉村。2009.5.20




Qercusの葉上で占有中のメスアカミドリシジミ属の一種(♂) 芙蓉村。2009.5.21





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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第39回)

2011-06-17 09:12:58 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2d)台湾・中国大陸【カラコンテリギ/ユンナンアジサイ】

国外産のガクウツギ・トカラアジサイの仲間は、台湾、フィリッピン・ルソン島北部(台湾とルソン島は、生物相に幾許かの共通性を示し、非常に興味深い)および中国大陸南部(主に広西壮族自治区北部の、貴州省や湖南省に接した山地帯)産のカラコンテリギがあり、トカラアジサイとも、ヤクシマコンテリギとも、ガクウツギとも、それぞれ共通点を持っていて、僕は全てひっくるめてカラコンテリギあるいはガクウツギとしても良いのでは、と考えています。狭義のカラコンテリギ分布圏の西に隣接する、雲南省西部から、おそらくミャンマー北部・ヒマラヤ地方東部にかけては、やや特異な形質を持つ近縁種、ユンナンアジサイが分布しています。

この10数年来、南西諸島と並行して、というよりむしろこちら(中国大陸&台湾)を主体に探索行を続けています。というわけで、やはり書きたいことが山ほどあるので、詳細は改めて述べることにし、今回は写真とごく簡単なコメントを示すに留めます。

■カラコンテリギH.chinensis
台湾(撮影地:北部山地合歓山の標高2000~2500m付近と、南部山地鶏頭山の標高1500m付近)
ルソン(北部山地から記録がありますが、冬期に訪れたため未調査)
中国大陸南部(撮影地:広西壮族自治区/湖南省境付近の南嶺山地の標高700~1500m付近)

■ユンナンアジサイH.davidii
中国大陸西部(撮影地:雲南省西部/ミャンマー国境付近の高黎貢山の標高1800~2300m付近)



カラコンテリギ 広西壮族自治区南嶺山地(右は野生バラの一種)






カラコンテリギ 広西壮族自治区南嶺山地




カラコンテリギ 広西壮族自治区南嶺山地





カラコンテリギ 台湾合歓山



 
ユンナンアジサイ 雲南省高黎貢山

 






ユンナンアジサイ 雲南省高黎貢山



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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第38回)

2011-06-16 14:29:59 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2c)4口永良部島産トカラアジサイHydrangea kawagoeana











口永良部島は屋久島と目と鼻の先(最短距離12km)にありますが、屋久島産(ヤクシマコンテリギ)とは著しく異なります。葉は厚い革質で、色が濃く、縁の鋸歯の切れ込みは細かく、葉裏が紫色の幻光を帯びることはありません(代わりにしばしば葉表が紫色になる)。全体として、黒島産と口之島産の中間的な様相を呈します。




口永良部島は、装飾花がしばしば赤味を帯びます。







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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第37回)

2011-06-15 16:28:57 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2c)3三島列島黒島産トカラアジサイHydrangea kawagoeana












花や子房の形状、葉が厚い革質なことなどは口之島産と共通しますが、葉の大きさは通常著しく小さく、また生育環境によって大きな変異が見られます。





生育地は、主に山上の稜線と、山麓の渓谷沿いに分かれます。山上のものは葉が著しく小さくて硬く、山麓(極めて稀)のものは、比較的大きな葉を持つ傾向があります。上2枚の写真は共に山麓渓流沿いの個体。






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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第36回)

2011-06-14 15:34:28 | 野生アジサイ



野生アジサイ探索記(下2c)2トカラ列島口之島産トカラアジサイHydrangea kawagoeana
















葉が極めて大きく幅広く分厚い革質。両面無毛。葉裏は淡緑色で紫幻光を帯びることはありません(代わりにしばしば葉の表が紫色を帯びる)。葉縁は深くは切れ込みません。正常花や子房の形状は、ヤクシマコンテリギやカラコンテリギと共通します。

島のいたるところに生育し、周回道路の路傍には、まるで人が植えたように群落が連なっています。




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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第35回)

2011-06-13 15:47:10 | 野生アジサイ



えーと、どこまで書きましたっけ。
「野生アジサイ探索記(下2)」意地で最後まで続けて行きます(笑)。この10数年に亘って探索を続けてきた、三島列島~トカラ列島のトカラアジサイや、台湾~中国南西部のカラコンテリギなどを駆け足で紹介した後、今回(2011.4.27~5.10)の探索行を、リアルタイムで報告していくことにします。

野生アジサイ探索記(下2c)1三島列島黒島・口永良部島・トカラ列島口之島【トカラアジサイ】

園芸アジサイの原種群であるガクアジサイ・ヤマアジサイに近縁の、ガクウツギ・トカラアジサイ・カラコンテリギ群の
うち、本土産のガクウツギ・コガクウツギと、屋久島産のヤクシマコンテリギの解説を終えたところだと思います。このあと、話の中心となる、三島列島黒島・口永良部島・トカラ列島口之島産のトカラアジサイ、および台湾・中国大陸産のカラコンテリギを紹介して行くわけですが、ぼくのメインテーマですので、書きたいことがいっぱいあって、少ないスペースでは紹介し切れません。

ということで、前者(トカラアジサイ&ヤクシマコンテリギ&コガクウツギ)については、

「平凡社新書」と「岩波ジュニア新書」の最後の方に、独立した項目を設けて紹介していますので、とりあえずはそれらを参照して下さい。

三島列島黒島/鹿児島県鹿児島郡三島村(役場は鹿児島の港の近くにある):屋久島の西北/最短距離62㎞
口永良部島/鹿児島県熊毛郡屋久島町:屋久島の西/最短距離12㎞
トカラ列島口之島/鹿児島県鹿児島郡十島村(役場は鹿児島の港の近くにある):屋久島の西北/最短距離56㎞





左:黒島、右:口之島。面積、標高ともほぼ等しいのですが、島景は大きく異なります。





左:フェリー三島、右:フェリー十島。鹿児島港に対になって船着き場が。両村とも役場は鹿児島の港の近くにあります。



 
左:黒島、右:口之島。両島とも、急傾斜の山腹を縫って、林道が島を巡ります。




左から、トカラ列島口之島、三島列島黒島、口永良部島の民宿の食事。口之島は漁師が本職、黒島は80歳のお婆さんの手作り、口永良部島は奥さんの別れたご主人が材料を調達。



屋久島周辺地域(屋久島・種子島・三島列島黒島・口永良部島・トカラ列島口之島)の生物分布の組み合わせ例
岩波ジュニア新書『屋久島~樹と水と岩の島を歩く』より




左:口永良部島=ハチジョウイチゴとトカラアジサイ。 右:屋久島=リュウキュウイチゴとヤクシマコンテリギ。



 
左:黒島、右:口之島。




トカラアジサイ分布域の北端が黒島、南端が伊平屋島。
平凡社新書『自然遺産の森 屋久島~大和と琉球と大陸のはざまで』より

今回紹介する種(■旧撮影、●今回の沖縄~鹿児島行での撮影)を中心に、もう一度、日本及び周辺地域のアジサイ族の分類概要をリストアップしておきます。

野生アジサイ(アジサイ科アジサイ族)

群(現行の分類体系における属)分布地/総種数/日本産の種
クサアジサイ群(クサアジサイ属)日本・台湾・中国/3種/クサアジサイ・アマミクサアジサイ・オオクサアジサイ
ギンバイソウ群(ギンバイソウ属)日本・中国/2種/ギンバイソウ
タマアジサイ群(アジサイ属)日本・台湾・中国?/2(~3?)種/タマアジサイ
オオアジサイ群(アジサイ属)中国/数種
ヤハズアジサイ群(アジサイ属)日本/1種/ヤハズアジサイ
テリハタマアジサイ群(アジサイ属)台湾ほか/数種
バイカアマチャ群(バイカアマチャ属)日本・中国/1種/バイカアマチャ
ツルアジサイ群(アジサイ属)日本・台湾・中国/1種/ゴトウヅル
イワガラミ群(イワガラミ属)日本・台湾・中国/数種/イワガラミ
シマユキカズラ群(シマユキカズラ属)日本・台湾・中国/数種/シマユキカズラ
ノリウツギ群(アジサイ属)日本・台湾・中国/数種/ノリウツギ
ヤマアジサイ群(アジサイ属、一部ジョウザン属)日本・中国?/10~20種 ↓
ヤマアジサイ・ガクアジサイ亜群 日本・中国?/2~7種/ヤマアジサイ(ガクアジサイ等を含む)・園芸アジサイ
リュウキュウコンテリギ亜群 日本(沖縄本島北部)/1種/リュウキュウコンテリギ●【(下2f)今回の取材】
コアジサイ亜群 日本/1種/コアジサイ
ジョウザン亜群(ジョウザン属) 台湾・中国/数種
無装飾花亜群(暫定) 中国/数種
ガクウツギ・カラコンテリギ亜群 ↓

コガクウツギHydrangea luteo-venosa 本州中部~九州および屋久島高地帯(別亜種)【(下2a)紹介済み】
ガクウツギHydrangea scandens 本州中部~九州【(下2a)紹介済み】
ヤクシマコンテリギHydrangea grossaserrata 屋久島【(下2b)紹介済み】
トカラアジサイHydrangea kawagoeana
三島列島黒島■【(下2c-2)旧写真使用】
口永良部島■【(下2c-4)旧写真使用】
トカラ列島口之島■(他トカラ列島各島)【(下2c-3)旧写真使用】
沖永良部島●【(下2f)今回の取材】
徳之島●【(下2f)今回の取材】
伊平屋島●【(下2e)今回の取材】
ヤエヤマコンテリギHydrangea yayeyamensis
石垣島●【(下2e)今回の取材】
西表島●【(下2e)今回の取材】
カラコンテリギHydrangea chinensis
台湾合歓山中腹&鶏頭山中腹■【(下2d)旧写真使用】
フィリッピン・ルソン島【未調査】
広西壮族自治区北部~湖南省南部■【(下2d)旧写真使用】
ユンナンアジサイHydrangea davidii
雲南省西部■【(下2d)旧写真使用】



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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第34回)

2011-06-12 14:29:07 | 野生アジサイ


野生アジサイ探索記(下2b)屋久島【ヤクシマコンテリギ】

屋久島の南、トカラ列島との間に、生物地理学上の重要な境界ライン“渡瀬線”が存在し、そこで世界の生物相が大きく「旧北区」と「東洋熱帯区」に分かれる、というのが教科書の教えであります。ずっと以前の見解では、九州本土と屋久島の間に引かれる“三宅線”が、その重要な境界線とされていたのですが、それは間違いだと言うのです。そのことは一つの事実には、違いないでしょう。でも、“渡瀬線”の存在も“三宅線”の存在も、どちらも事実なのです。科学に答えは一つではありません。

屋久島の生物相の位置付けは、一言で言えば、“重層的”という表現に集約されます(生物の種の成立に関わる数100万年単位の“地史”の視点のみでなく、日本民族の成立に関わる1万年未満の時間単位の“歴史”の視点からも、同様のことが言えます、僕の尊敬する、屋久島や奄美の民族研究の第一人者、下野敏見氏も、屋久島や南西諸島の民俗学的アイデンティティーを示すに当たって、この“重層的”という言葉をよく使われています)。

どういうことかと言えば、例えば屋久島の生物地理学上の(あるいは文化人類学上の)位置付けを探るに当たって、ある時代を切り取って調べれば、ある一つの結論に達しますし、別の時代を切り取れば、別の結論が導かれるわけです。切り取り方次第で、北方(日本本土)に強い関連性が示されたり、南方(沖縄)に、大陸(中国)により強い関連性が示されたりします。そのどれもが、「正しい」姿なのです。僕の(屋久島に関わる)どの作品にも「大和と琉球と大陸の狭間で」のキャッチ・コピーを冠しているのは、そういうことなのです(空間的・時間的な視点をトータルに捉えての“狭間”)。

このことは、別に屋久島だけでなく、地球上全ての地域に当て嵌まります。例えば、小笠原に棲む2つの鳴き声集団から成る“謎のオガサワラゼミ”を、「進化の断面を探る」と題して著したことがあります。僕たちが知り得る、人間をはじめとした今ある全ての生物の種speciesの姿は、何10億年前の地球生命の誕生から、いつか地球上の生命が消えて無くなる(案外もうすぐかもしれないけれどそれは困りますね)まで、連綿と連なる時間の途中段階の“進化の断面”にしか過ぎないのです。いわば“完成品”ではないわけです(“完成品”は永久にない)。

将来の断面を知ることは不可能ですが、過去の断面は様々な形で再現することが可能です。その示されかたは、地中の化石であったり、実際に生きている生物が持つ、形態や生理や様々な性質(むろんそれらはDNAにより司られている)だったり、分布の様式だったりするわけです。それらは一つの答えの中に収斂されてしまうのではなく、無限の広がりを持っています。

大洋に突き出した離島で、山が高く地勢は険しく、黒潮に洗われて豪雨をもたらし、温帯と亜熱帯の境に位置して、周辺に様々な異なる要素を持つ地域を配した屋久島。その多様な、時間と空間の広がりを想像出来るはずです。

屋久島周辺産の野生アジサイは7種。うち、やや類縁の遠い、タマアジサイ、ゴトウヅル、イワガラミ、ノリウツギを除く
3種は、栽培される園芸アジサイにごく近い血縁関係にある種です。

山頂の一角に咲くヤマアジサイは、北海道から九州に広く普遍的に分布しますが、屋久島では極めて珍しい種です。

山の上部、おおよそ1000m以上に生育するコガクウツギは、南関東から九州にかけてのやや広い地域に分布し、屋久島でも特に珍しいと言うわけではないのですが、生育環境は限られています。

山麓に広く見られるヤクシマコンテリギは、屋久島固有種。ほかの地には産しないわけですから、最も重要な種と言うことになりますが、屋久島の低地では最も普遍的で、いたる所に生えています。

屋久島の内側から見れば、ヤマアジサイが最も貴重で、ヤクシマコンテリギはどうでも良い、と言うことになるのでしょうが、外からの視点で見れば、その重要度は逆になるのです。おそらく、次の様な成立過程が想像されます。

ヤマアジサイは、山頂の断崖絶壁に稀産することから、一般のイメージで最も古い時代にこの島に成立したと思われそうですが、実際は鳥などの伝播により、人間の活動が始まってからのごく新しい時代(例えば千年~1万年単位の過去)の成立。

中腹のコガクウツギは、屋久島が九州本土と繋がっていたであろう、人間の歴史で捉えれば極めて古い時代、地史として捉えれば一番新しい時代(例えば1万年~10万年単位の過去)の成立。

麓に普通に見られるヤクシマコンテリギは、身近で有ることから最も新しい時代に成立したと思われがちですが、実はその逆で、屋久島が周辺の地域(トカラや沖縄や九州や中国大陸)と様々な形で関連を有していたであろう、遥か遡った時代(例えば10万年~100万年単位の過去)に成立。

一番身近に存在し、どうでも良さそうなヤクシマコンテリギが、一番重要だと言うことが出来るのです。

このことは、屋久島だけでなく日本列島全体(地球全体)についても当て嵌まります。例えば、古い時代から日本に存在する生物を「氷河時代の遺物」と表現することがよくあります。それらに相当するのは、おおむね高山帯の生物(高山植物・高山蝶・ナキウサギ・ライチョウなど)なのですが、実は(人為的な要因が関わって日本に持ち込まれた種を別にすれば)地史的な視点からすれば、最も新しい時代に日本に息づくことになった生物たちなのです(一般には大きな誤解があるようですね、「氷河期」と言うのは、日本に棲む人間、いわゆる日本人の歴史から見れば最も古い時間単位なのでしょうが、地球の歴史・生物の種形成の歴史で見れば一番最近の時代です)。

逆に、私達に身近な人里に繁栄する生物の中に、最も古くから(日本人がこの土地に棲むようになる遥か前から)この土地に根付く、日本だけの固有生物が多く含まれているのです。それらのエンディミック(遺存的)な生物は、本来の生育空間が人間の占領する空間と重なってしまったため、絶滅したり絶滅の危機に瀕したりしているものもあれば、人間活動と上手く歩調を合わせて繁栄しているものもあるのです(いわゆる里山生物など)。

屋久島における、“繁栄する遺存的固有種”ヤクシマコンテリギは、まさにその代表例と言うことが出来ます。

山上部に生える良く似たコガクウツギ(こちらは本州~九州産と同じ種の分布南限)に、とても良く似ていて一見したところ同じ種なようにも見えますが、雌蕊や葉や茎などの基本構造は明確に異なります。両種は標高ごとにかなりはっきりと分離されていて、稀に全く同じ場所に入り混じって生えていることはあっても、雑種が形成されることはありません。

コガクウツギとガクウツギは、日本本土(南関東~九州)では大局的に見て混在しています(四国や九州ではこれにヤマアジサイが関わる)が、相互の干渉の実態については全く分かっていません(外観の良く似たガクウツギとコガクウツギの血縁関係は、案外遠いような気もします)。

コガクウツギが屋久島まで分布が達しているのに対し、ガクウツギは九州本土(鹿児島県北部)で分布が途切れます(鹿児島県本土などでは、コガクウツギが低地まで広く分布、ガクウツギは限られた山の上部に稀産するのに対し、屋久島では、コガクウツギが山の上部に生え、ガクウツギに代わる特異な固有種ヤクシマコンテリギが山麓に広く分布するという逆転現象を示します)。

ヤクシマコンテリギは、屋久島の低地に広く普通に見られますが、すぐ東18㎞(最短距離)に位置する種子島には、分布を欠きます。また、屋久島の西隣、僅か13㎞の地点に浮かぶ口永良部島には、別種のトカラアジサイが分布しています。

最近は、ヤクシマコンテリギもトカラアジサイに含めてしまう、というのが主流の見解となっているようです。しかし両者の間には、様々な明瞭かつ安定的な基本構造の相違点があります。むろん共通点も非常に多いので、両者を同一種として扱うことには吝かではありませんが、その場合は、両者とも中国大陸産のカラコンテリギと同じ種に含めてしまう、と言うのが妥当な処置ではないかと思われます(この処置をとる研究者も多い)。ただし、その場合は、日本本土産のガクウツギをどう扱うか、という問題が出てきて、早急な結論を出すわけにもいかないのです。と言うことで、トータルな最終結論が出るまでは、僕はヤクシマコンテリギを独立種として扱う処置を採ろうと思っているのです。

ところで、屋久島で見られるヤクシマコンテリギは、(系統分類上意味を持たない末端的な個体変異は別として)形質が極めて安定しているのですが、三島列島黒島から沖縄伊平屋島にかけて分布するトカラアジサイのほうは、地域ごとに大きな差が示されます(殊に葉の形質、具体的には、次回以降に述べて行きます)。屋久の真西の口永良部島を挟み、屋久島の西北62kmに位置する三島列島黒島産は、小さくコンパクトな葉、屋久島の西南56㎞に位置するトカラ口之島産は、極めて大きく幅広い(面積は黒島産の数10倍あると思われます)葉、全く別の種のようにも見えます(口永良部島産は両者の中間程度)。しかし、基本的な構造や性質は、どの島のものも共通していて、屋久島産ヤクシマコンテリギとの間には、明確で安定的な差が見られるのです。

トカラアジサイは、小さなトカラ火山列島のほぼ全ての島々に見られます。ところが不思議なことに、その南の奄美大島には欠如するのです(種子島での欠如とともに大きな謎といえます)。次の徳之島と沖永良部島には出現し、その次の沖縄本島でまた消えてしまいます。そして何よりも不思議なのは、沖縄本島の隅っこの伊平屋島にだけ現れるということです。

僕自身、冬や真夏には何度か伊平屋島を訪れてその事実を確認しているのですが、まだ花の時期に訪れてはいません。三島列島、トカラ列島、徳之島などのトカラアジサイ、屋久島のヤクシマコンテリギ、西表島のヤエヤマコンテリギ、台湾や中国大陸のカラコンテリギなどと、どのような繋がりを持っているのかを、今年こそ検証したいのです。

というわけで、その解明のため、明日(または来週)から伊平屋島に赴きます。


ヤクシマコンテリギ 屋久島宮之浦2007.6.15
低地のどこにでも生えていますが、川沿いの林のなかの日溜りには、ことのほか多く見ることが出来ます。




ヤクシマコンテリギ(写真左:屋久島椨川2007.6.4、写真右:屋久島宮之浦2007.6.21)


アジサイ愛好家は、装飾花の形の違いなどで、幾つもの品種に分けていますが、単なる個体変異で生物学的な分類上の意味は全く有りません。大事なのは、花序の中央の(小さな)本物の花の構造で、子房(雌蕊)の形共々、変異は全く無くて非常に安定しています。(写真左:屋久島麦生2002.4.28、写真右:屋久島尾之間2007.4.24)


ヤクシマコンテリギの特徴は、葉に形や質に顕著に示されます。薄い紙質で、細長く先端が著しく伸長し、縁に鋸状の深い切れ込みが生じます。葉裏は、しばしば紫色の幻光を帯びます。





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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第33回)

2011-06-11 16:28:53 | 野生アジサイ


この「野生アジサイ探索記」、最後のトカラアジサイが、まだ終わっていなかったですね。これが“探索記”の主役な訳ですから、ともかく紹介し終えておきましょう。まだ、数回はかかりそうですけれど、のんびりとやって行きます。

一番はじめに、栽培アジサイの原種は、伊豆諸島に野生するガクアジサイ(種speciesの範囲を広くとると北海道~九州に分布するヤマアジサイ)である、という説明をしましたね。このヤマアジサイ(ガクアジサイ、エゾアジサイ、アマチャ等を含む)は、ほぼ日本の固有種で、中国大陸には(おそらく)野生はなく(唯一、広西壮族自治区に稀産する“ニセヤナギバアジサイ”がそれに近い)、外観上良く似た“アスペラ(オオアジサイ)”は、血縁が遠く離れていて、むしろ外観の異なる“ジョウザン”が、血縁的に近い、と。

実は、その他にも、血縁的にヤマアジサイやガクアジサイにごく近い一群が、日本にも中国にも在来分布しています。それが、ガクウツギの一群です。日本本土(東京都以西)に分布するのが、ガクウツギとコガクウツギ、南西諸島に分布するのが、ヤクシマコンテリギ・トカラアジサイ・リュウキュウコンテリギ・ヤエヤマコンテリギ、台湾や中国大陸に分布するのが、カラコンテリギとユンナンアジサイです。

花序に装飾花が密に着き、花色が鮮やかで、6月から7月にかけて咲くヤマアジサイやガクアジサイと異なり、ガクウツギやカラコンテリギは、装飾花が疎らで常に白色、4月から5月にかけて咲くことから、別のグループのように思われている節があるのですが、実はかなり近縁の間柄にあるのです。例えば、四国や九州に野生するヤマアジサイとされるものの少なからぬ個体には、ガクウツギやコガクウツギの遺伝子が混じっている可能性があります(野口さんの言う“一代雑種”の次元なのではなく、人類発祥のはるか以前からの時間レベルで)。

その人為交配による“一代雑種”という視点から見ても、両者の雑種はスムーズに作成出来るのです。写真は、静岡県の農園で作成されたと言う、ヤマアジサイとヤクシマコンテリギ(あるいはトカラアジサイ)の雑種で、「トカラの空」という品種名が付けられています。野生のヤクシマコンテリギやトカラアジサイには絶対出ることのない、装飾花の青色と、ヤマアジサイより遥かに大きな装飾花、両者の特徴を兼ね備えているわけです。

大雑把にいえば、日本(本土)のヤマアジサイ・ガクアジサイに対応する南西諸島や中国大陸産の一群が、トカラアジサイやカラコンテリギで、西日本(四国・九州など)ではガクウツギやコガクウツギが入り混じっている、という図式です。

ということで、このあと順次、その紹介をしていきます。
●日本本土(東京都~九州):ガクウツギHydrangea scandens &コガクウツギH.luteovenosa [紹介予定日](4月19日)
●屋久島:ヤクシマコンテリギH.grosseserrata (4月20日)
●三島列島黒島:トカラアジサイH.kawagoeana A (4月21日)
●口永良部島:トカラアジサイH.kawagoeana B (4月22日)
●トカラ列島口之島:トカラアジサイH.kawagoeana C (4月23日)
■徳之島・沖永良部島:トカラアジサイH.kawagoeana D (4月29日/今回の取材から)
■沖縄伊平屋島:トカラアジサイH.kawagoeana E (4月28日/今回の取材から)
■沖縄本島:リュウキュウコンテリギH.liukiuensis (4月30日/今回の取材から)
●石垣島・西表島:ヤエヤマコンテリギH.yayeyamensis (4月24日)
●台湾:カラコンテリギH.chinensis A (4月25日)
■フィリッピン(ルソン島):カラコンテリギH.chinensis B (未定)
●中国大陸(広西壮族自治区):カラコンテリギH.chinensis C (4月26日)
●中国大陸(雲南省):ユンナンアジサイH.davidii (4月27日)
4月21日(もしかしたら28日)から、まだ花の撮影を行っていない、沖縄伊平屋島の“幻のトカラアジサイ”の撮影に向かいます。“リアルタイムでの報告”と言うことになるわけです(■は未撮影、今回チャレンジ予定)。



 
コガクウツギ:屋久島愛子岳2007.6.25

 
ガクウツギ:徳島県国見山2003.5.12(左)、東京都高尾山2003.5.25(右)

名前に“アジサイ”が付かないこと、装飾花が常に白色で疎ら、葉が小さく、初夏(晩春)に咲くなど、アジサイらしくないのですが、栽培アジサイの野生種であるヤマアジサイやガクアジサイにごく近縁で、四国や九州でヤマアジサイとされているうちの一部は、ガクウツギやコガクウツギとの自然交配雑種である可能性が強いのです。

 
ガクウツギ群(ヤクシマコンテリギorトカラアジサイ)とガクアジサイ群(ヤマアジサイ)の人為交配品種「トカラの空」。葉や花の形はガクウツギ群の、花色はガクアジサイ群の特徴が表現されています。
右の図は、ガクアジサイ・ヤマアジサイ群とガクウツギ・カラコンテリギ群の分布摸式図。


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朝と夜のはざまで My Sentimental Journey (第32回)

2011-06-10 21:27:37 | 野生アジサイ




どこまで話しましたっけ? 2~3日中断していただけで、分からなくなってしまいました。確か、アジサイ属には入れてもらえないでいるイワガラミだけれど、血縁上は、タマアジサイやツルアジサイといった一部のアジサイ属の種より、むしろ真のアジサイ(ヤマアジサイや園芸アジサイ)に近い、という話でしたね。話があちこちに行ったり来たりなので、何が何だか分からないかも知れません。これまでに話した内容を、もう一度整理しておきましょう。

緑字:園芸種アジサイやその原種「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」にごく類縁が近い種。
青字:一応野生アジサイだが、園芸アジサイや「ヤマアジサイ」との類縁は遠い。
赤字:アジサイとは全く別の仲間。

≪上≫
■園芸植物としての「アジサイ」の由来(伊豆諸島産の野生種「ガクアジサイ」が西洋で改良され日本に里帰り)。
■有名園芸植物の原種で日本の南西諸島に固有分布し、西洋で作成された後、里帰りしたユリ科の「テッポウユリ」。
■伊豆諸島固有種オオシマザクラを母種のひとつとして、日本で作成されたバラ科の園芸植物「サクラ(ソメイヨシノ)」。
【実際の血縁関係と、学術的な命名(学名、殊に属名)および一般的な呼び名(和名)は、必ずしも一致しないという例を、アジサイの仲間の分類で示した表】。
■南西諸島固有種のマルバサツキを母種のひとつとして、日本で作成されたツツジ科の園芸植物「栽培サツキ」。>(附:ヤクシマシャクナゲ)


≪中≫
(附:冒頭部分にマルバサツキとトカラ火山列島の話の続きを)
■園芸植物「アジサイ」「ガクアジサイ(栽培)」の原種の一群、「ガクアジサイ(野生)」「ヤマアジサイ」「エゾアジサイ」。
■アジサイの名は付くが、血縁的にやや離れた野生アジサイ「タマアジサイ」と「ツルアジサイ(ゴトウヅル)」。
■アジサイと名の付かない野生アジサイ「ノリウツギ」。
■アジサイの仲間ではないアジサイ科の「ウツギ」の仲間と、スイカズラ科の「タニウツギ」の仲間。
■一般にはアジサイの仲間に入れてもらえないが、実は正真正銘の野生アジサイのひとつ「イワガラミ」。
↑[ここまでは前回・前々回に紹介済み]



↓[ここからが今回以降の紹介分です]
(下①)
■外観がアジサイに似た、レンプクソウ科の「ガマズミ」の仲間。
(附:北米産の野生アジサイ「アメリカノリノキ(アメリカアジサイ)」)
■装飾花のない野生アジサイ「コアジサイ」。

■アジサイとは別の属とされているものの、実際には「園芸アジサイ」や「ヤマアジサイ」にごく近縁の「ジョウザン」。
■中国の代表的な野生アジサイ「アスぺラ(オオアジサイ)」は、血縁上は「園芸アジサイ」や「ヤマアジサイ」と遠縁。

(下②)
■「園芸アジサイ」や原種の「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」に極めて近縁の、「ガクウツギ」「カラコンテリギ」の一群。
↑僕にとっての『野生アジサイ探索記』とは、この一群の南西諸島や中国大陸などの各種を探索することであります。具体的には、日本本土(東京都以西)の「ガクウツギ」「コガクウツギ」、屋久島の「ヤクシマコンテリギ」、三島列島黒島~口永良部島~トカラ列島口之島ほか~徳之島~沖永良部島~伊平屋島の「トカラアジサイ」、沖縄本島産の「リュウキュウコンテリギ」、石垣島~西表島の「ヤエヤマコンテリギ」、台湾~ルソン島~中国広西壮族自治区北部山地周辺の「カラコンテリギ」、雲南省の「ユンナンアジサイ」の、それぞれの集団の相互関係、および園芸アジサイの原種群「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」や、それに対応する大陸産の野生種ではないかと考えられる「Hydrangea kwangsiensis(広西壮族自治区)」「Hydrangea stylosa(ヒマラヤ東部~雲南省北部」との関連を解明することです。大半の種や地域集団はすでに撮影し終えているのですが、この仲間の全体像を捉えるに当たって非常に重要な位置付けにある伊平屋島のトカラアジサイは、まだ花を撮影していません(これまで冬や夏にしか行っていない)。今年こそ、花の季節(それが丁度今、4月の下旬です)に
に行ってみたいのです。

■外観がアジサイに似た、レンプクソウ科の「ガマズミ」の仲間

イワガラミや、次に紹介するジョウザンなど、一見アジサイらしからぬアジサイ科の種があるのとは逆に、外観がアジサイに良く似た、アジサイ科とは全く無関係のグループの種もあります。その代表が、レンプクソウ科(旧スイカズラ科から分離移動)のガマズミ属Viburnumの種です。手毬花型のタイプ(アジサイの場合同様に園芸化された品種であることが多い)や、額花型のタイプや、小さな花の集まりだけでなるタイプなど、アジサイの場合と軌を一にしています。さらにアジサイ族とは別族のアジサイ科の一群、ウツギ族のような筒状の大型の花のタイプには、従来のスイカズラ科のタニウツギ族が対応する、と言うことも、面白い符合だと思います(前回紹介済み)。
 
 
 
上左:ヤブデマリViburnum plicatum湖南省/広西壮族自治区省境南山2009.5.20、上右:ムシカリ(オオカメノキ)V. furcatum屋久島黒味岳2006.4.27、中左:ガマズミV. dilatatum(の近縁種)湖北省恩施2009.5.5、中左:オオデマリV. plicatum f, plicatum(オオデマリの園芸品種ですがアジサイの場合同様にこちらが基準品種となります)湖北省恩施2009.5.5、上左:V. lantanoidesテネシー州グレートスモーキー・ラコンテ山2005.5.18、下右:ニワトコ属のタイワンソクズSambucus formosana台湾合歓山2006.9.9。新しい分類体系では、従来のオミナエシ科とマツムシソウ科がスイカズラ科に併合され、それに押し出されるような形で、ガマズミ属とニワトコ属がスイカズラ科からレンプクソウ科に移行しました。レンプクソウ科は1科1属1種の究極のマイナーな科だったのですが、これでいくらかはメジャーになったわけです。



北米大陸東部に分布するガマズミ属の種Viburnum lantanoidesを紹介したついでに、同様に北米大陸西部を飛び越して東部のアパラチア山脈周辺地域に分布する、北米産野生アジサイHydrangea arborescensを紹介しておきましょう。「アメリカノリノキ」の名があるように、旧大陸産のノリウツギ(別称ノリノキ)に最も近縁とされていますが、ヤマアジサイとも幾つかの共通点が見られます。旧大陸の真正アジサイに繋がる祖先的形質を共有しているものと思われます。2005.7.22、グレートスモーキー山麓にて。


■装飾花のない野生アジサイ「コアジサイ」

アジサイの話に戻りましょう。日本産の野生アジサイの大半は、グループに関わりなく正常花と装飾花との組み合わせで成っていますが、コアジサイは花序の全てが小さな正常化だけから成っています。装飾花を欠く分、正常花が明るく鮮やかな淡青色をしていて、薄暗い林内で一際目を惹きます。関東地方以西の山地帯に普通に見られ、神戸六甲山のケーブルカーの両側を埋め尽くす群落は、息をのむほど見事です。系統的には、ヤマアジサイ、ガクアジサイや、ガクウツギにごく近縁で、それらと併せた一群を「コアジサイ群」と呼ぶこともあります。



コアジサイHydrangea hirta 山梨県櫛形山2002.6.20

■アジサイとは別属、でも実際には「園芸アジサイ」や「ヤマアジサイ」にごく近縁の「ジョウザン」。

「イワガラミ」の項目で、外観が通常の野生アジサイとは大きく異なり、ためにアジサイとは別属にされているけれども、実際はアジサイの仲間の一員、という話を書きました。この「ジョウザン」も、装飾花を欠くことや、果実が液果に成ることから、アジサイ属とは別属のジョウザン属Dichroaとされてきました。しかし、アジサイの仲間の一員どころか、ヤマアジサイやガクアジサイに非常に近縁な(雑種形成も可)、真のアジサイの一つかも知れない、と言うことが、最近になって判明し出したのです。中国ではポピュラーな植物で、薬用にも利用され、ジョウザンD.febrifugaなど10種程が、熱帯アジアにかけて分布しています。同様に装飾花を欠くコアジサイが繊細な雰囲気を持つのとは対照的に、全体に大振りで、葉も常緑で肉厚ですが、花色はコアジサイと共通します。コアジサイが日本固有種で国外に近縁種が分布しないのと呼応するように、ジョウザンは中国~台湾~熱帯アジアの広い地域に分布しますが、日本には分布していません。なお、ハワイ諸島固有のアジサイ科の低木Broussaisia argutaも、ジョウザン同様、ヤマアジサイのグループに近い存在だと考えられます。
 
 


ジョウザンDichroa febrifuga(あるいはユンナンジョウザンD.yunnanennsisかも知れません)。二段目左写真の中央に見える枯れかかったピンクの株はユンナンアジサイHydranngea davidii(後述)。下の写真は液状の果実。いずれも雲南省高黎貢山にて。2005.6.30(果実のみ2006.10.4)



■中国の野生アジサイを代表する「アスぺラ」の仲間

栽培されているアジサイの原種「ガクアジサイ」や「ヤマアジサイ」の一群は、ほぼ日本列島固有(北海道~屋久島、ほかに朝鮮半島南部にも野生が知られています)で、中国大陸には(ほとんど)分布していないようなのです。園芸アジサイは日本に負けないほど人気があって、至る所で栽培されていますが、おそらくは古い時代に日本から(またはユーロッパ経由で)導入され、全土に普及したものだと思います。

ごく一部地域(浙江省など)に、野生ではないだろうか、という記録もありますが、日本から持ち込まれたものの逸出個体が野生化したものなのか、在来個体群が遺存的に分布しているのか、定かではありません。また、福建省など中国東南部の幾つかの地域と、雲南省北部~ヒマラヤ東部から、ヤマアジサイの一群に含めても良いと思われる複数の野生種が報告されていますが、実態は不明です。僕自身、「昆明植物研究所」の標本館に所蔵されている、膨大な数のアジサイ属の標本を現地に泊まり込んで3日がかりでチェックしたことがありますが、見つけ出すことは出来ませんでした。ただ1種、広西壮族自治区北部の山地に分布する、Hydrangea kwangsiensis(僕は「ニセヤナギバアジサイ」と仮称しています、外観はヤマアジサイやガクアジサイとは似ても似つかないのですが、基本的な形質は、ヤマアジサイの一群と一致します)だけが、ヤマアジサイの一群に含まれるものと思われますが、僕はまだ野生の株は実見していません(今年こそ見て見たい)。それ以上のことについては不明。いずれにしろ、中国におけるヤマアジサイの一群は、非常にマイナーな存在であることは、間違いありません。

中国を代表する野生アジサイは、アスぺラ(通常、種名から「アスぺラ」と呼び習わされていますが、僕は「オオアジサイ」の名を提唱したいと考えています)です。真のアジサイに近縁なガクウツギの一群(「カラコンテリギ」「ユンナンアジサイ」)が分布しない地にも広く分布し、同じ地域でも標高ごとに多くの種に分化しているようです。鮮やかな色彩といい、密に装飾花を纏った大きな花序といい、まさに中国の「ガクアジサイ」「ヤマアジサイ」思わせますが、血縁的には、かなり遠縁の一群です。

一般には、日本の「タマアジサイ」と同じ群に含められていますが、小花序ごとに多数の尖った三角型の苞が取り巻くなどの固有の特徴をもち、開花前の花序全体を大きな苞で丸ごと球状に包むタマアジサイとは明瞭に異なり、僕は別群として扱っています。

中国では最も普遍的な野生アジサイですが、なぜか日本には分布していません(四国や九州の山地に稀産するヤハズアジサイが、このグループの一員かも知れない)。台湾には、タマアジサイ群の「ナガバノタマアジサイ」と、アスペラ群の「ヒロハノオオアジサイ」が同じ山に見られ、開花期も同じですが、生育する標高が明らかに異なります(合歓山の中腹では、
前者が標高1000~1500m付近、後者が標高2000~2500m付近、ただし下に写真を紹介した南部山地では、標高1000m余の地点に後者が見られ、必ずしも標高が生育地を決定する要因とはなっていないようにも思われます)。

開花盛期は、カラコンテリギやユンナンアジサイが、日本のガクウツギやヤクシマコンテリギやトカラアジサイ同様、初夏(4月下旬から5月にかけて)なのに対し、夏のさ中から後半(7月下旬から8月)となります。その季節に咲く中国の野生アジサイ(ジョウザンの開花盛期はもう少し早い6~7月)の主役は、以前にも述べましたが、標高2500m付近を境に、それより上部ではノリウツギの一群のミヤマアジサイH.heteromalla、下部ではオオアジサイ(アスぺラ)のグループと言うことになると思います。


このあと一気に(下の2)「ガクウツギ・トカラアジサイ・カラコンテリギ」の項も書いてしまおうと思っていたのだけれど、体調がとてつもなく悪く、一日中意識朦朧としています。今日はここらで終了して、ひと眠りしましょう。

2011.4.15 AM3:00


 
アスぺラ(オオアジサイ)Hydranngea aspera 四川省成都西方山地(西嶺雪山~二朗山)2009.7.27~8.4。下右(ヒロハノオオアジサイH.longipes)のみ台湾南部山地(霧台)2003.7.9


 
上左:アスペラの若い花序。小花序の蕾の回りを、先の尖った多数の苞が取り囲んでいます。四川省宝興県2010.8.5
上右:アスペラの子房(果実)、子房は下位で、外面への盛り上がりは見られません。四川省西嶺雪山2009.8.6
下段2枚:アスペラ。ほとんど装飾花のみから成る、手毬型に近い個体です。四川省宝興県北部2010.7.18



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