功夫電影専科

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『タイガー・オン・ザ・ビート』

2010-05-28 23:43:05 | カンフー映画:珍作
「タイガー・オン・ザ・ビート」
原題:老虎出更
英題:Tiger on the Baet
製作:1988年

▼これは、功夫映画界にその人ありと呼ばれた名武術指導家・劉家良(ラウ・カーリョン)が、古巣としていたショウブラから離脱した後、シネマシティに雇われていた時期に製作した作品である。
シネマシティとは、麥嘉(カール・マッカ)ら映画人たちが中心となって設立したプロダクションで、香港映画界に多大な革新をもたらした事で知られている。呉宇森・徐克などの巨匠や、周潤發・張國榮ら名スターたちが活躍し、『悪漢探偵』『男たちの挽歌2』『プリズン・オン・ファイヤー』といった傑作が次々と作られていった。こうして急速に発展した香港映画界だったが、それは同時に功夫片の時代が終わったことを意味していた。
劉家良は生粋の功夫職人であったが、時代の流れに乗ってシネマシティへと辿り着いた。そして、彼は人気絶頂だった周潤發の主演作を撮ることとなり、自らの持ち味を遺憾なく発揮して見せた。だが、その「持ち味」はシネマシティが期待していたものではなかった。…そう、劉家良は周潤發を使って功夫片を撮ってしまったのだ。この作品がクランクアップした際、シネマシティの首脳陣がどんな顔で視聴したのかは、想像に難しくない。

■物語は、周潤發と李元覇の刑事コンビが麻薬組織に立ち向かうというものだが、そのノリはショウブラ時代の功夫片まんま。出演者もショウブラの功夫スターが多く、劉家良はハナから周潤發の主演作を作ろうとしていなかったのでは?と邪推してしまうような出来である。
チャラけた万年巡査長・周潤發は、あるときマッチョ刑事の李元覇とコンビを組まされ、麻薬組織がらみの捜査を命じられてしまう。この事件、徐少強の組織から高飛(コー・フェイ)が麻薬を盗んだことに端を発しており、妹である利智(ニナ・リー)もこれに加担していた。周潤發たちは利智を重要参考人として逮捕するが、頑として口を割ろうとしない。麻薬組織も利智を探していたため、周潤發たちは自宅に彼女を連れて帰ったが、組織によって高飛が殺されてしまう。
 その後、なんとか利智から情報を聞き出せたおかげで、警官隊は麻薬取り引きの現場を押さえることに成功。加えて徐少強も逮捕することができた。だが、現場から逃げ延びた劉家輝(リュウ・チャーフィ)が報復に現れ、利智が犠牲になった。周潤發の妹も誘拐され、警察もろくに動けない中、2人の男は敵陣へと乗り込むが…。

▲先述したとおり、本作における周潤發の扱いは極端に悪い。軟派な刑事というキャラには好感が持てるのだが、序盤から強盗に脅されて小便を漏らし、利智の取調べシーンでは浴槽に頭を突っ込ませるなど、あまりにもあんまりな描かれ方をされている。
一方、もう1人の主役である李元覇は逆に恵まれていて、功夫アクションの見せ場はたっぷりと用意されている上に、ラストでは周潤發の妹をゲットしてしまったりと、優遇されている節が目立つのだ。どうして同じ主役でありながら、売れっ子の周潤發をないがしろにするような作りにしてしまったのだろうか?
恐らく、これは監督である劉家良に原因があると思われる。現代アクションの監督経験がほとんど無かった劉家良にとって、この手のジャンルは扱いにくかったに違いない。そこでショウブラOBや功夫アクションの出来る役者を招き、自分が監督しやすい立地条件を整えた上で、本作の製作に着手したのだと考えられる。ゆえに、本来メインとなるべき周潤發が放置されてしまい、本末転倒な結果になってしまったのだが…。
 その功夫アクションだが、どちらかというと『ポリス・ストーリー』のバリエーションといった感じで、劉家班らしさは息を潜めている(やたらガラスを破るスタントシーンが多い)。かろうじて李元覇VS狄龍(ティ・ロン)と、ラストのチェーンソーバトルが際立っていたぐらいで、全体的にインパクト不足であることは否めない。「あの劉家良でさえ、功夫だけで食っていくことは出来なくなってしまった」…本作は、そんな時世を象徴するかのような失敗作であると言えよう。
なお、冒頭で周潤發を人質に取る男に唐偉成(ウィルソン・タン)が、利智を乗せるタクシー運転手役で劉家榮(リュー・チャーヨン)がゲスト出演しており、熊欣欣(ション・シンシン)はラストで周潤發と壁をはさんで裏側にいる西洋人の背後にいるのが確認できる。熊欣欣は『タイガー・オン・ザ・ビート2』『悪漢探偵5』にも出ていたが、当時は劉家班に在籍していたのだろうか?

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