功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『ドラゴン危機一発』

2007-08-28 21:17:30 | 李小龍(ブルース・リー)
「ドラゴン危機一発」
唐山大兄
The Big Boss
Chinese Connection
1971

●あまりにも有名な李小龍の初主演作である。何故こんな有名なタイトルをわざわざ取り上げるのかというと、李小龍のコーナーが『死亡塔』ひとつだけではあまりにも殺風景だから…というのもあるんですが(笑)、久しぶりに見返してみた際に思うところがあったのでレビューに至った訳です。
この映画は李小龍ファンからも功夫映画ファンからもあまり好かれてはいない作品です。理由としてはそのチープさや李小龍的なアクションがあまり見られないなど、数々の指摘があります。一部では「李小龍の初主演作であることのみが本作のいいところ」とまで揶揄されていたりしますが、調べていくうちにそれはまったくの検討違いな意見であった事がわかってきました。今回は本作にまつわるエピソードや指摘から『ドラゴン危機一発』の真実について迫ってみたいと思います。

・当初の主演は田俊(ジェームス・ティエン)で、李小龍が格好良いから急遽主演を変更した
まずはこの逸話から探っていきましょう。
これは有名な話で、当時の香港映画界がいかにいいかげんであったかが解るエピソードです。しかしこの当時、独立したてのGHは強大なショウ・ブラザーズに対抗すべく、四苦八苦を重ねていました。田俊・劉永・黄家達らスターを中心に作品を作り、苗可秀ら"嘉禾三大玉女"で女優陣を充実させて華やかさをアピールするなどしていましたが、いまいち決まり手に欠けていました。一方のショウブラでは姜大衛や狄龍などといったきら星のようなスターが大量におり、GHは圧倒的不利な状況にあったのです。
切り札としてショウブラから引き抜いたジミー先生も『破れ!唐人剣』でショウブラと裁判となり、その後は台湾へと都落ちすることになりました。そこに現れたのが李小龍です。しかしGHは慎重でした…なにしろこれ以上はもう後が無く、失敗は許されないほど追い詰められていたからです。それでまずは助演として田俊の脇に置き、彼の実力の程を見定めたのだと思われます。その結果は皆さんもご覧の通り、李小龍の伝説が始まる事となるのです。

・監督が何度も交代し、最終的に羅維(ロー・ウェイ)となった
これも上記の理由あってのことでしょう。一見香港映画界のいい加減な実情をアピールする逸話と思えますが、慎重だったGHはこの稀代の才能をうまく扱いこなせる人材の選択に苦労していたのでしょう。結局監督は羅維となり、その後このコンビであの名作『ドラゴン怒りの鉄拳』が誕生する事になりました。
ところで羅維監督といえば、その『怒りの鉄拳』で撮影中に競馬中継を大音量で聞いていたり、李小龍とたびたび衝突していた話があります。当時の香港映画はセリフは別撮りだったので表向きは支障は無いですが、人が真剣に演技をしている側でそんなことをされていては確かにイヤで、一部ではこのエピソードをもって「羅維は無能監督」と烙印を押されていたりします。しかしその後ジャッキーを育て、李小龍に蹴られた『地獄の刑事』などの良質な作品も残しています。問題はあったでしょうが、彼は決して無能ではないのです。

・なかなかスポンサーがつかず、やっとのことで現地のお菓子メーカーがスポンサーとなった
香港映画のチープさを表すエピソードとしてこちらもやり玉に上げられることが多い話ですが、ウラをかえせば当時のGHがいかに追い詰められていたかが解る逸話です。よく笑いものにされる話題ですが、その裏にはGHの血の滲むような戦いがあったのを忘れてはなりません。

・やたらと血生臭い演出は当時の日本の仁侠映画からの影響である
これは別に間違った話ではないのですが、当時の風潮も視野に入れないと完全に理解できないと思います。この当時は大導演・張徹の最盛期で『報仇』『十三太保』『続・片腕必殺剣』『大決鬥』といった多くの傑作が生まれた頃であります。それらは英雄たちが血塗れになって戦い、そして死んでいくという張徹の闘いに於ける美学が色濃く表された傑作ばかりでした。それに倣って、当時の香港映画は血の流れる作品が多く出回り、本作もそのひとつだったのです。李小龍が製氷工場でナイフを振るって戦う姿の裏には、姜大衛や狄龍たちの影があったのです。

・トランポリンを多用する殺陣で李小龍の実力が生かしきれていないのではないか?
これはよく聞く指摘です。ですが実績はあるものの新人同然である李小龍が権力を持つようになるのは『危機一発』がヒットして実力をつけた後の『怒りの鉄拳』からです。ここで気になるのが、李小龍ファンからは韓英傑(ハン・インチェ)の武術指導について圧倒的に否の意見が多いという事です。確かに卓越した技量を持つ李小龍のアクションは素晴らしいですし、その後の彼の姿を見ていれば飛んだり跳ねたりする本作の殺陣はイマイチしっくりこないことと思われます。
しかし韓英傑は当時のGHにとっては無くてはならない存在で、武侠片の傑作である『大酔侠』『侠女』なども彼が担当し、『馬路小英雄』『破戒』などGHで多くの仕事をこなしている。そしてサモハンの武術指導の師であり、武術指導という言葉を定着させた第一人者である事は有名な話。軽く見られがちですが、本作における"武術指導・韓英傑"とは、GHにとって最も豪華な取り合わせだったのです。むしろ、李小龍が他人に武術指導を全て任せた作品はこの『危機一発』のみですし、そういう意味でも本作の価値は大きいのです。

現在でも他の李小龍作品と比較すると、それほど評価されていない『危機一発』。
個人的にもあまりいい出来の作品とは思っていませんが、その背景にはショウブラとの過酷な競争、様々な確執、当時の風潮などがありました。その辺りの事情を解せず、ただただ「駄作だ」と切って捨てるにはあまりにも勿体無いのではないのか…私はそう思い、いくつか指摘した次第であります。

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (競馬大好き野郎)
2007-08-28 21:34:06
いつも役に立つ情報ありがとうございます


私もブログを始めましたので

もしよろしければ暇なときにでも見に来てください


では頑張ってくださいね
返信する
初めまして! (龍争こ門)
2007-08-29 22:23:20
競馬大好き野郎さんこんばんは!
ブログ充実の為にも今後とも頑張っていきたいと思いってます。これからも宜しくお願いします!
返信する

コメントを投稿