功夫電影専科

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映画で見る李小龍(1)『ブルース・リー物語』

2017-11-15 22:02:17 | バッタもん李小龍
「ブルース・リー物語」
「カンフーに生きる ブルース・リー物語」
原題:李小龍傳奇
英題:Bruce Lee True Story
製作:1976年

●1940年11月、ひとりの赤子がサンフランシスコの片隅で産声を上げました。親も兄弟も役者という芸能一家で育った彼は、香港へ帰郷すると子役として正式にデビュー。ドラゴンの名を冠した芸名を名乗り、人々からこう呼ばれるようになります――李小龍、と。
というわけで、今月は李振藩こと李小龍(ブルース・リー)の生誕77年目を記念して、彼を題材にした伝記映画をいくつか紹介してみたいと思います。
 武術家にして探究者、そして世界的なスターであった李小龍は、32歳という若さでこの世を去りました。彼は勇猛な魅力に満ちている一方で、どこか超人然とした雰囲気を漂わせています。志半ばでの死により、その神秘性は更に増したと言えるでしょう。
そんな彼の生い立ちを多くの人々が知りたがったのは、至極自然な流れだったのかもしれません。彼の死後、偉大なドラゴンを題材にした映像作品の製作が活発化し、とりわけドキュメンタリーと伝記映画は大量に作られました。

 本作は李小龍が亡くなって間もない頃に製作された伝記映画で、何宗道(ホー・チョンドー or ブルース・ライ)が主演したバッタもん映画のひとつとして知られています。
しかし監督は『酔拳』の呉思遠(ウン・スーユエン)が務め、製作は『猛虎下山』『カンフー風林火山』の恒生電影公司が担当。過去のバッタもん伝記とは一線を画した、リアリティ優先の演出を心掛けたのです。
 ストーリーは李小龍の人生をおおまかに辿っており、最初に何宗道が病院に担ぎ込まれるシーンから幕を開け、オープニングを挟んで彼の青年期(渡米する直前)からスタート。ハリウッドで挫折を経験する下りまでは、概ね史実通りの展開が続きます。
本作で目を引くのは、実際にアメリカ・タイ・ローマなどでロケを行い、作品にリアリティを持たせようとしている点です。主演作の撮影シーンにおいても、セットや立地を可能な限り再現しようとしており、呉思遠の意気込みが垣間見えます。
 また、李小龍に詠春拳を教えた葉問(イップ・マン)の役を、葉問の長男である葉準(イップ・チュン)本人が担当。ここで何宗道VS葉準という興味深い対戦が行われますが、背景をよく見ると葉問の直弟子・招允の名が見えます。
実は本作には、詠春拳指導として招允の実子・招鴻鈞が参加しているのです(もしかして冒頭の道場は招鴻鈞が経営する本物の武館?)。招鴻鈞が関わっているのは何宗道VS葉準のシーンのみと思われますが、バッタもん映画としては破格の陣容です。

 本作はこうしたリアリティの積み重ねにより、底抜け伝記の『詠春截拳』『一代猛龍』を上回るスケール感と、説得力のある描写を作り上げることができました。
しかし、何宗道が『ドラゴン危機一発』の撮影に臨む辺りから、徐々にフィクションの割合が増えてしまうのです。せめて倉田保昭との親交や、羅維(ロー・ウェイ)との確執などを描いてくれたら面白かったのですが、本作はその辺にまったく触れていません。
 おかげで主演作に関する話題はさらっと流され、何宗道が喧嘩を売られる→相手の挑発に乗る→返り討ちにするという展開が延々と続くことに…。さらに“精武指の開発”という意味不明な修行シーンが付け加えられ、作品の崩壊に拍車を掛けていきます。
最後は李小龍の死因についての考察が始まり、暴漢による暗殺説、丁珮(ティン・ペイ)とヤってたら死んだ腹上死説、生存説が生々しい映像と共に展開。最初のリアリティへの拘りはどこへやら…何とも評価に困るオチになっていました(苦笑
 アクションについては梁少松(梁小龍の叔父)の指導により、意外と派手な立ち回りが見られます。が、一部の対戦相手が明らかに動けていなかったりと、こちらも一筋縄ではいきません(李海生や馮克安の扱いも実に勿体無い!)。
余計なフィクションを省き、もっと入念なリサーチを行っていれば傑作になれたかもしれない作品。呉思遠の監督作としても失敗作ですが、同時期の伝記映画の中では抜きん出た存在なので、話のタネに見てみるのも良い…かもしれませんね(爆
さて次回は、かつて李小龍が辛酸を舐めたハリウッドが彼の伝記映画を製作! 李小龍を愛する人々が語った、よりドラマチックなドラゴンの姿とは……続きは次の更新にて!

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
モドヤキなのかムラヤキなのか (二白桃)
2017-11-16 02:01:52
こんばんは。
梁少松は梁小龍の叔父ではないですか?
喧嘩とか腹上死説とか、事実ではないにしても噂とかの形でいわれがあることなので、精武指も何か元ネタがあったのではと思ってしまいます。
生存説を最後に持ってきて、夢を持たせてくれてる点は好きです。
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返信。 (龍争こ門)
2017-11-22 01:01:59
 二白桃さんこんばんは、お返事たいへんお待たせしました。
ご指摘の通り、梁少松は父親ではなく叔父が正解でしたね。こちらはすぐに修正したいと思います。
 精武指については怪しいムード満点ですが、同じく怪しい電流特訓も実際にやっていたそうなので、もしかしたら出典があるのかもしれません。
また、仰る通り生存説のおかげで作品の印象はかなり救われていると思います。先に挙げた2つの説は度が過ぎた描写であり、もしこっちで終わっていたらと思うとゾッとしてしまいます(汗
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