日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 先日、青海省で大規模な交通事故がありました。中国では死者10名以上の事故を「特大事故」と呼ぶようですが、この事故では現時点での死亡者数は55名。まことに桁外れな交通事故です。

 チベットのラサから四川省に戻る人を満載したトラックが横転してかくなったようなのですが、なぜそれで死者55名かといえば、そのトラック(の荷台)に104人が乗っていたからです。

 別の事故写真で同型車を見ることが出来ますが、トラックというよりダンプカーですね。

 http://news.sohu.com/20041101/n222784901.shtml
 http://ent.jschina.com.cn/gb/jschina/news/jiangsu/njnews/userobject1ai485302.html

 あ、今回の事故の現場写真もありました。どうも横転だけではなく、崖下に転落したような様子です。

 http://news.xinhuanet.com/photo/2005-01/04/content_2415473.htm

 しかしこれで104人も載せられるものなんでしょうか。まあ46人乗りの通学バスに63人の児童を詰め込んだ校長先生もいることですから(※1)、想像できないこともないんですけど、しかし無茶が過ぎるというか……いや現地の人にとっては無茶の内には入らないんでしょうけど。

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 人口が多いだけではありません。そういう安全観念の希薄さもあって中国では人がよく死にます。政策的に減らしているのではないかと思うほどです。前にも紹介しましたが、炭坑事故ひとつとっても昨年1-11月における事故件数は3413件、死者は合計5286人です(※2)。

 で、国家安全生産監督管理局が7日明らかにしたところによると、2004年における生産活動中の死者は合計13万6000名余、1日平均で373人が労災で亡くなっていることになります(安全生産監督管理局の発表ですから、一般の交通事故は含まれないと思います。たぶん)。
 http://www.chinanews.com.cn/news/2005/2005-01-08/26/526041.shtml

 1日の平均死者数が373名ですよ。

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 この記事によると、関係部門は昨年の特徴として以下の4点を挙げています。

 ●事故件数が相変わらず多い。
 ●特大事故、特別重大事故(こんなのもあったんですね)の増加に歯止めがかからない。
 ●一部の業界や領域での事故件数が上昇している。火災、爆発、交通事故など。
 ●一部の地域で特大事故が多発している。発生件数が比較的多いのは貴州、山西、四川、湖南、河南、山東、陜西、河北、広西、重慶、湖北など。

 内陸部での事故が多いのは、これらの地区が石炭など大型事故の起きやすい、いわば川上産業の担い手だからでしょうか。

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 労災による1日平均死者数が373名。これに純粋な交通事故や殺人事件、天災なども加えれば、1日平均500名に届くのではないかと思います。

 毛沢東の人海戦術はいまなお健在、と思わせるのは、一昨年の珠海集団買春事件で瞬く間に200人だか300人の売春婦を集めたこと(笑)……ではなくて、人命軽視という点です。

 平松茂雄氏の『中国人民解放軍』(書名は記憶モード)で読んだのですが、朝鮮戦争や中越戦争において、中国軍は敵の地雷原にぶつかると、どんどん歩兵を突入させたそうです。当然地雷に触れて死ぬ兵士が続出するものの、それはお構いなし。それを何度も繰り返して地雷を排除し、突撃路が確保されたところで本格的な突撃に移るんだそうです。

 第二次大戦の北アフリカ戦線、あれはエル・アラメインでの陣地戦でしたか、ロンメル率いるドイツ軍は数十万個だかの地雷を埋めに埋めて敵襲に備えたのですが、対する英国軍はその地雷原に断続的に猛砲撃を加えることで地雷を次々と誘爆させ、あらかた片付けたところで攻勢に出た……という話とあまりに対照的です。

 余談に流れましたが、効率無視で規模拡大最優先という未だに根強いGDP信仰が「大躍進」以来の伝統だとすれば、労災による1日の平均死者数373名という途方もない数字は、やはり毛沢東と「人海戦術」の名残りなのかなと思ってしまうのです。


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 【※1】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2004-10/12/content_2079430.htm
 【※2】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2004-12/14/content_2333249.htm



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 標題はもちろん自分を諷したものです。チナヲチという趣味から10年以上遠ざかっていたので、現在の報道が描き出す中国というものに私はまだ十分に適応できていないようです。

 1992年のトウ小平による南方視察とそこで出た改革大号令(南巡講話)、そしてそれを受けて1988年以来の経済引き締め路線が一蹴され、経済改革一色となった1993年の全人代……その後のことはもうわかりません。いきなり2004年に放り出されても別の国のように思えて、戸惑うことが多くて。

 例えばですよ、銃を使った犯罪とか、携帯電話を利用した詐欺とか、ネットで知り合って実際に顔を合わせた際に起こる強盗事件や性犯罪とか、ロリコン変態教師とか……何だか悪い例ばかりのようですが(笑)。

 何よりも特筆すべきは、暴動・デモ・スト・座り込みといった示威活動が全国的に頻発していることでしょう。これについては発生するごとに当ブログで速報なり詳報なりを伝えて大半のものをカバーしていると思います。一時期は暴動専用ブログになった観もありました(笑)。

 民衆が立ち上がった原因についてはその都度検証らしきことをやってきたつもりですが、そのうちのいくつかについてはどうも納得がいかず、首をひねるものもありました。「物価上昇でこのままでは暮らしていけない」といった理由を掲げたものがそれです。例えば安徽省のお爺さんお婆さんデモ、内蒙古自治区包頭市のデモ、それから未確認ながら四川省でも2県でその種のデモが発生し、市民が鉄道線路を封鎖するといった事件がありました。

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 私は東京から眺めていますので、現地の生活感覚などわかりようがありません。物価上昇ってそんなにすごいものかな、というのが率直な感想です。例えば昨年第3四半期(2004年7-9月)における都市部の消費者物価指数は前年同期比で4.1%です(※1)。

 たったの4.1%じゃないか、と思うのは私が六四世代(1989年の民主化運動や天安門事件を担った大学生たちと同世代)だからでしょう。1988年夏に18%を超えるスーバーインフレが発生して社会が著しく混乱し、経済政策が改革深化から引き締めへと転換。これによって主導権も趙紫陽総書記から李鵬首相へと移り、この混乱や路線変更が翌年の大学生による民主化運動の伏線のひとつとなりました。

 とはいえ、物価上昇率が18%超にまで達した当時でさえ、買い争いはあったものの、市民や農民の間でデモなどの示威行動に出たケースは皆無といっていいでしょう。……そういう先入観なり体験なりがあるために、4.1%で市民がデモに立ち上がるという点が十分に納得できませんでした。もちろん、当局発表を鵜呑みにできない、つまり実勢は国家統計局の発表を大きく上回っていると考えることもできますが、それにも限度があるでしょう。

 しかし振り返って思えば、私がいまひとつ納得できなかった点こそが、この10年間で最も変貌した部分だったのですね。他でもありません。所得格差、貧富の差が著しく拡大したということです。

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 数字については前回のコメント欄で「1読者」さんが色々と分析して下さっています。そこで言及されている「大紀元」というのは恐らくこの記事かと思われます。

 ●中国の貧富の差、もはや天地の開きに
 http://dajiyuan.com/gb/5/1/7/n773129.htm

 その元ネタを探して出てきたのが、大手ポータルtom.comが『中国青年報』から転載した記事です。

 ●豪邸品評会は社会的弱者の不公正感を激化させる
 http://news.tom.com/1002/20041207-1621865.html

 関係のある部分をかいつまんで訳しますと、

「中国で100万ドル(米ドル、以下同)の金融資産を擁する富裕者は23.6万人。これら富裕層の総資産はすでに9690億ドルに達している。然るに中国の2003年度GDPはわずか1兆4000億ドルにすぎない。」

「資産による分類を行った場合にもう一方の極に位置するのが貧困人口だ。2003年の貧困人口は2900万人で、前年より80万人増加している。しかもこの層は年収が637元(人民元、以下同)以下であり、その収入は1日当たりだと2元にも満たない。」

「ある専門家の試算によると、中国を収入で5段階に分けた場合、最も貧困な家庭の収入の総和が全国総収入に占める割合は4.27%。その上の階層だと9.12%、中間ランクのシェアは14.35%、その上が21.13%となり、最も富裕な階層による比重は50.13%にも達する。」

 簡単にいえば、中国の家庭を収入の多寡で5段階にランク分けすると、中国全体の富の半分が一番金持ちの階層に集中しているということです。これほどの偏りは、もちろん10年前にはなかったものです。「中時電子報」(2004/03/01)が引用した『New York Times』の記事はこう表現しています。

「最近の調査によれば、中国大陸の貧富の格差の大きさはすでに米国や日本、韓国そしてインドを超えており、1940年代の国民党政権当時のレベルに近付いている。つまり貧富の差についていえば、大陸はすでに『解放前』に戻ったということだ」

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 最近僥倖ともいうべき出来事がありまして、「棲息地その2」に北京在住の方が広く深くまた鋭くもあるレポートを寄せてくれるようになりました。その方が挙げてくれた月収のひとつの目安というのが、

 ●一般労働者:700元
 ●食堂に住み込みで働く「打工妹」:300-500元

 というもので、私もこれは妥当な数字だろうと思います。日本にいる私がどうこう言えやしないのですが、報道から察することはできます。

 ●以前扱った国有企業買収&リストラに絡んだストライキ(※2)で、「工員の月収は600-800元」となっていた。
 ●『光明日報』が今夏に発表したネットユーザー調査(※3)で、月収500元を「低所得者」と表現。
 ●『重慶晨報』のルポに「華東地区では、民工の最初の1カ月の給料は375元だ」という民工のコメントが出てくる(※4)。
 ●『経済参考報』の記事に「2ムー(約13.4アール)の畑があったって1年で精々2000元にしかならない。それが広東に出稼ぎに行けば1カ月半でそれだけ稼げる」という湖北省京山県の民工のコメントが出てくる(※5)。月収にして1300元ちょっと、広東だから相場がいいのか、この民工が技能を有していて待遇がいいのかは不明。

 一方のホワイトカラーはどうかといえば、『経済参考報』が先ごろ2004年の最終学歴別平均月収を紹介していました(日付失念、許されたし)。

 ●大専(2613元) 、大学(3569元)、修士(5288元)、博士(5932元)、MBA(7709元)。

 これだけ格差があると、ライフスタイルから何からが全く異なるものになるでしょう。一億総中流のつもりでいる日本人にはちょっと想像しにくいのですが、全く接点のない、2つの生活世界が存在するということになります。

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 同じ都市でも収入でくっきりと分かれた2つの世界があり、一方で都市と農村の間にも甚だしい格差があります。農民が出稼ぎに沿海部へと出て来るのですから当然でしょう。国家発展改革委員会(発改委)が1月5日に試算したところ、2004年の農民1人当たり純収入は前年比6%を超えるとのことです(※6)。

「2004年は国家が農業政策に対し各面でこれまでにない強力なサポートを行った1年であり、1997年以来、農民の収入が最も多く、伸び幅も最大の1年だった」

 と発改委は自画自賛していますが、この伸びは主として出稼ぎ労働によってもたらされたものです。四川、貴州、湖南、湖北、安徽などの各省が「労務輸出」をしているようなものです。

「世界銀行の試算によれば、国家総収入を都市と農村でみた場合、中国は1978-1984年の時期に、農村部収入の比重が40%足らずから55%にまで上昇したが、1985年以降、この比率は再び1978年の水準に戻った」(※7)

 という指摘もあります。

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 ……と、ここまで考えるに至って、愚鈍な私もようやく納得するのです。以下は某巨大掲示板の東亜板「暴動本スレ」でも前に書いたことなんですが、眠いので再利用させて下さい。

 ●4.1%の物価上昇(実勢はややその上を行くかも知れませんが)は上海や北京なら許容範囲でも、四川や安徽、陜西、貴州、青海といった富裕層の薄い内陸各省なら「こりゃたまらん」となるかも知れない。

 ●同じ上海なら上海で、4.1%の物価上昇はホワイトカラーや金持ちには痛くも痒くもないものの、貧困層には大きなダメージとなり、「もう限界」とデモを行うような追い詰められた状況となる。

 中国は経済を緩やかに減速させる(軟着陸=ソフトランディング)ことを目指しています。それが出来るかどうかはともかく、手綱が絞られる以上、就業機会がそれによって増えるとは考えにくい。むしろ失業者が増えて、貧困層が拡大する可能性の方が高いのではないでしょうか。

 そんな訳で、去年は党幹部の汚職や横暴、民族衝突、労働争議などによるものが多かった示威活動(暴動・デモ・スト・座り込み)ですが、今年は都市部で物価上昇を反映した騒乱も増えるかも知れません。

 消費者物価指数が前年比4%増でデモが起きるのですから、当局もそれは神経質になるでしょう。胡錦涛政権による言論統制や民間組織の先走り封殺、その原因には「指導力を強化して構造改革」だけでなく、こういった要素もあるのかも知れませんね。


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 【※1】http://www.people.com.cn/GB/jingji/1037/2936988.html

 【※2】当ブログ「あれからどうなったのか……」(2004/12/23)。

 【※3】当ブログ「ネット世論=江沢民チルドレン」(2004/08/11)。

 【※4】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-01/04/content_2413178.htm

 【※5】http://jjckb.xinhuanet.com/www/Article/20041122121014-1.shtml

 【※6】http://news.xinhuanet.com/fortune/2005-01/05/content_2419858.htm

 【※7】http://www.whb.com.cn/bsjhcdjy/t20041220_330199.htm



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