日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 また趙紫陽?そうですまた趙紫陽です。ただ標題はそのままながら、前回あたりから主題が別の方向に移りつつあります。

 当初は市民への影響が懸念されて、中国国内では厳重な報道統制が敷かれたりしましたが、意外にも不協和音は中共上層部から出てきたのです。すでに政争の様相を見せ始めています。かなり深刻な意見対立です。目下のところ、たぶん昨年夏の「江沢民おろし」(江沢民引退に向けた駆け引き)よりもずっとハイレベルなもの、という印象です。

 やや古い話になりますが、1992年初め、当時の最高実力者であったトウ小平が突如深センや広東省を視察に訪れたことがあります。その際トウ小平は一連の重要演説(南巡講話)を発表することで、1988年以来の経済引き締め路線を改革路線へと一変させ、「改革路線は資本主義的」と難じていた保守派はこれにて大破炎上、以後は大人しくなってしまいます。

 実はその手前に、『人民日報』(保)と上海の『解放日報』(改)との間で丁々発止の論争(保守派と改革派の代理戦争)が展開されたのですが、今回の党上層部における意見対立は、それを彷佛とさせるようなパワーを持っているように思います。

 そしてひょっとすると、今回も「代理戦争」かも知れません。

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 連日のように趙紫陽氏関連情報が香港・台湾のマスコミや反政府系ニュースサイトから大量に発信されています。当ブログの「趙紫陽氏死去」シリーズはそのひとつひとつに振り回されつつ、事態の推移を見守っていこうとするものです。

 前回紹介したように、実のところこの問題における焦点は2つしかありません。

 (1)趙紫陽氏の生前の事蹟が公正に評価されるかどうか。
 (2)首相、総書記を歴任した人物にふさわしい格式の葬儀となるかどうか。

 通例として、葬儀においては党中央から故人の経歴が発表され、それが新華社発のプレスリリースとなって内外に発表されます。この「経歴」の内容が(1)に関わってくるのですが、要するに党中央(担当は中央弁公庁か)と趙大軍氏ら遺族との間に埋め難い溝があるのです。

 具体的には、党中央が書き上げた「経歴」に遺族側から「これは譲れない」と提示された問題点は2つ。第一に1989年の天安門事件(六四)において趙紫陽氏が「動乱を支持し、党を分裂させる重大な誤りを犯した」という文言が織り込まれていること。第二に80年代に経済改革・政治改革の道筋を定め、中国の発展に寄与した(政治改革は実現できませんでしたが)という功績に全く触れられていないこと、です。

 葬儀の格式について遺族側はそれほどこだわっていない様子ですが、要人の葬られる場所である「八宝山革命公墓」の中の、国家指導者クラスの墓地に限定された「第一墓区」に埋葬されることを望んでいるようです。

 いずれにせよ、「経歴」に関する要求が容れられなければ葬儀実施は許さない、という強硬姿勢で遺族側は臨んでいます。

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 前回紹介したように、この遺族を強力にサポートしているのが党長老グループやすでに物故した元老クラスの子女などです。重複を恐れずに改めて列挙しますと、

 ●いまなお健在の長老
 万里、田紀雲、エイ杏文、胡績偉など。

 ●物故した元老(の家族)
 葉剣英、楊尚昆、習仲勳、陶鋳、陳毅、胡耀邦など。

 この政治勢力ともいうべき団結あるいは連携を持ったグループが、

「趙紫陽氏に対する公正な評価を」
「趙紫陽氏の経歴にふさわしい格式の葬儀を」
(※1)

 と、しきりに胡錦涛ら現執行部に求めている訳です。それが事実であることは、前回引用した香港紙『明報』電子版で明らかです。そういう活動が行われていることを、胡績偉氏夫人が直接『明報』記者に語っているのですから。

 http://www.mpinews.com/content.cfm?newsid=200501240904ca10903t

 政争は常に密やかに展開される中共にあって、これは異例の出来事です。それと関係があるのでしょうが、台湾・中央社の報道によると、趙紫陽氏関連で取材活動を行っていた香港人記者多数が当局に拘束され、このうち『明報』の記者2名は国外退去処分(香港人ですから厳密には「国外」ではありませんが)になったそうです。

 http://tw.news.yahoo.com/050124/43/1fjnp.html

 現指導部からすれば好ましくない情報がどんどん発信されているのですから、神経を尖らせるのも無理はないところです。かつて、しつこく食い下がって江沢民をマジギレさせた香港マスコミの面目躍如といったところでしょうか。

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 そういえば今日の『明報』(2005/01/25)は、

「趙紫陽氏の墓は李先念(元国家主席)と陳雲(元中央顧問委員会主任)の墓の間に建てられる」

 という消息筋情報に基づき、記者が上記「八宝山革命公墓」の「第一墓区」まで足を運んで、写真を撮ったり周囲の景観をこと細かに描写したりしています。

 http://hk.news.yahoo.com/050125/12/18uw3.html

 その取材の途中である午後1時ごろ、突然役人や警官など大勢が現れ、「第一墓区」や斎場、休憩室などを30分ほど念入りに検分して帰っていったそうです。斎場は1月31日まで中共名義で貸し切り状態になっているため、現執行部はそれまでに葬儀を執り行う心積もりなのでしょう。

 さてその現執行部の柱である胡錦涛総書記や温家宝首相、その胸の内がどうであるかを知る術はありませんが、余裕に欠ける内政面での不安要因は極力排除したいでしょう。趙紫陽氏の名誉回復を行えば、じゃあ「六四」はどうだという流れになります。その声は海外からも上がるでしょう。いまの胡錦涛政権にとっては、こういう余計な、寝た子を叩き起こすようなことはしたくない筈です。

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 まあ、とりあえず胡錦涛や温家宝が板挟みで苦しんでいることは確かでしょう。言うまでもなく、昨秋に何とか引退させた江沢民・前党中央軍事委員会主席が、長老グループの要求を容れることに断固反対しているからです。趙紫陽氏が「六四」で失脚したことで総書記の後釜に抜擢された江沢民は、いわば「六四」の既得権益者。趙紫陽氏を再評価すれば自分が総書記に就いたことの正統性が疑われかねませんので、ここは断固譲れないところです。

 前にも書きましたが、江沢民は甲斐性なしです。自らの引退と引き換えに、腹心である曽慶紅・国家副主席を党中央軍事委に滑り込ませることすらできなかったのですから、院政を敷く実力などありはしません。ただ曽慶紅ら江沢民派ともいうべき勢力が現執行部の中にも残っていますし、胡錦涛が完全に軍部を掌握した訳でもなさそうですから、甲斐性なしでも足を引っ張ったり、チクチクとイジメたり、あるいは一発芸(単発の反撃行動)をやる力ぐらいはまだ持っています(※2)。

 その江沢民が断固譲れないと言えば、胡錦涛も全く無視する訳にはいかないでしょう。特に今回の場合は利害の一致する部分もありますので、趙紫陽氏の遺族や長老グループからのプレッシャーに一歩も退かぬ姿勢を貫いているのだと思います。ただそれでは事態が進まず、進まない限りは胡錦涛政権の求心力・指導力に影響が出てきてしまいます。ここが胡錦涛には痛いところでしょう。

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 ところで、長老グループがどうしてこんなに団結して、頑張っているのかということを愚鈍なりにぼんやり考えてみました。

「趙紫陽氏に対する公正な評価を」
「趙紫陽氏の経歴にふさわしい格式の葬儀を」

 というのは、純粋に趙紫陽氏への友情から出たものではないでしょう。友情や思慕だけでこんなに団結したり頑張れたりする訳がない……と意地悪く考えていくと、「ひょっとして江沢民潰し?」という線(妄想?)が浮かんできます。ええ、昨夏のは「江沢民おろし」で、今回は「江沢民潰し」です。

 潰すと言うと大袈裟ですが、要するにその影響力を大幅に削いで大人しくさせてしまおう、という狙いがあるように思えるのです。長老グループの要求が通ると一番困るのは誰?といえば、これは江沢民ということになるでしょう。

 やや具体的に言いますと、例えば「趙紫陽氏に対する公正な評価を」というのは、80年代における趙紫陽氏の経済改革に対する功績を認めてやらなければ、経済発展は全て江沢民のおかげ、ということになってしまいます。これは取りも直さず、80年代に趙紫陽氏と苦楽を共にした人々の功績も曖昧にされてしまうことになります。

 つまり、趙紫陽氏をどう評価するか、どういう格式で葬儀を執り行うかは、長老たち自身の利害(名利)にも関わってくる問題なのです。だから現在の「遺族vs党中央」の丁々発止も、実は長老グループと江沢民派の「代理戦争」ではないかと。

 小さい理由としては、革命を経験した世代として社会の現状に危機感を抱いている、ということも挙げていいかも知れません。本来は経済改革と政治改革でワンセットだった筈の改革・開放が、経済改革一辺倒で野放図に走ったからこうなるのだ、という憾みがあるとすれば、野放図に走った馬鹿は誰だ、ということになります。これももちろん、江沢民です。

 ちょっと飛躍しすぎですか?……そうですか。それでは例によって私の邪推ということにしておきましょう。

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 以上、今日(25日)正午までの情報に頼ってのヲチです。午後に葬儀が行われたって、そんなの私の知ったこっちゃありません(笑)。


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 【※1】前回、「香港紙『東方日報』の消息筋情報では、喬石、朱鎔基、李瑞環など近年第一線を退いた大物政治家も趙紫陽氏の告別式に参列したいとの意思表示をしているそうです。」とあっさり書き流してしまいましたが、実はここも重要な部分なのです。中共要人の葬儀は、その格式によって参列者の格も決まります。喬石、朱鎔基、李瑞環らであれば、国家指導者クラスの格式でないと主客の釣り合いがとれないため参列しません(例外はありますが)。つまりこれら大物政治家は、参列の意思表示をすることで趙紫陽氏の葬儀の格式を高いものとせよと言っている訳です。

 【※2】当ブログ「政争です。政争!」(2005/01/15)



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