茨城県石岡市のイタリアンレストラン「トラットリア・アグレステ」で職員五人とともに、知的障害がある男女約十五人が生き生きと働いている。店を運営する同市の社会福祉法人「白銀(しろがね)会」の長谷川淺美(あさみ)理事長は「ハンディのある方が当たり前にいる社会をつくりたい」と語る。 (安藤美由紀、北條香子)
大きな窓から自然光が差し込む店内。「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」。障害があるらしい若い店員たちが注文を取りに来る。丁寧な言葉遣いが心地よい。障害者の仕事について長谷川理事長は「接客のほか、スパゲティの量を測ったり、野菜の下ごしらえやサラダの盛りつけ、清掃や庭仕事も。得意な分野で働いてもらっている」と説明する。
同店は二〇一四年十二月に開店。五十八席。野菜は別の農業生産法人で、知的障害者らが無農薬、露地栽培でつくったものだ。小麦粉や米粉、豚肉は茨城県産。テーブルやいすも地元の工房が手掛けた。出てきた料理は野菜の甘みや歯応えが存分に感じられ、絶品だった。
店は、障害者が就労に必要な能力を高める訓練を行う「就労継続支援B型事業所」に指定されている。全国に約一万カ所あり、一四年度の平均工賃(賃金)は月額一万四千八百三十八円だったが、同店は平均四万円。
ハンディある人の存在当たり前の社会に
運営する「白銀会」理事長
白銀会の長谷川淺美理事長=写真=に店の理念やこだわりを聞いた。
-なぜレストラン経営に乗り出したのか。
「(障害者も働く)別法人が育てた無農薬野菜を直接提供したいと考えた。知的ハンディのある方にとって、見ず知らずの人と話す接客は一番苦手な分野。それができるようになると就職先がぐんと広がる」
-工夫した点は。
「まず大人がゆったり楽しめるようにした。高い天井、自然光、ゆったりしたスペース、県産を中心にした本物の素材。そこでハンディのある方が働く。大人は許容範囲が広いから、多少の失敗も許せる」
-障害者の仕事ぶりはどうか。
「時間はかかるけど、いったん身に付いたら絶対忘れない。その人に合う仕事を見つけて、なるべく多く支払うのが私たちの役割だ」
-障害者と楽しく働くことは、どの会社でも可能か。
「できるできないではなく、どう工夫し、環境を整えるかだ。ハンディのある方から学ぶことはものすごくある。それをどう生かして、一緒に生きていけるのか考えるべきだ」
-今後、店をどう発展させていくつもりか。
「使っているテーブルやいす、食器を作る職人、作家も紹介する。そして、ハンディのある方が当たり前にいる。そういう場、社会をつくりたい」
障害者が働くトラットリア・アグレステ
2016年10月31日 東京新聞