□産経新聞編集委員・松岡健夫
「街で障害者が困っていても声をかけられない日本人は少なくない。対応の仕方を知らない、分からない、できないからで、この『ない』をなくしたい」
コンサルティング会社ミライロの社長で、自ら車いすを利用する垣内俊哉氏はこう強調した。日本財団パラリンピックサポートセンター顧問として、10月26日に行われた「あすチャレ!Academy」の記者発表会見での発言だ。
あすチャレ!とは、障害者が講師となってパラスポーツを題材に障害者への対応やコミュニケーション方法を学ぶ教育・啓発プログラムだ。今まで聞けなかったこと、聞いてはいけないと思っていた障害者のリアルな声こそが、これからの社会を変えていくヒントになるとの思いからプログラムを作った。カリキュラムでは「気づき、理解、行動」の3つがテーマになるという。
障害者とコミュニケーションをとることに抵抗感を覚えるのは、触れ合う機会が乏しいからにほかならない。言い換えると、対処方法を知っていれば、勇気をもって声をかけられるはずだ。知らない人とのコミュニケーションが苦手な日本人こそ、「気づき、理解、行動」のサイクルが必要になってくる。
これは何も障害者と健常者の関係に限らない。2020年の東京五輪・パラリンピックには多くの外国人が日本を訪れる。その中には障害者も高齢者も含まれる。国籍や年齢、障害の有無に関係なく、もてなす必要がある。
リオデジャネイロパラリンピックを視察した垣内氏は「バリアフリーの面では心配があったが、陽気な人柄で障害者と向き合って行動していた。楽しい大会だった」と評価。選手として出場したアスリートの一人は「言葉は通じなくても、身ぶり手ぶりで一生懸命に問題点を解決してくれた」と振り返った。
「おもてなし」では負けられない東京大会なので、日本人一人一人の意識改革が求められるのは言うまでもない。今からでもユニバーサル社会の実現に向けたムーブメントを起こしていく必要がある。
障害者や高齢者が何か困っていそうなときには「おせっかいかな」と思っても、ためらうことなく「何か手伝うことはありませんか」と声をかければいい。手を差し伸べられた方は「できること」と「できないこと」をはっきり伝えるべきで、ぶっきらぼうに拒否しないでほしい。
だからこそ、コミュニケーションが大切になってくる。外国人の雇用に熱心なある経営者は、外国人とのトラブルの原因として(1)なぜ分かりましたと言ったのに実行しないのか(2)なぜありがとうと言わないのか(3)なぜ謝るべきときなのに謝らないのか-などをあげる。
そして「日本人と文化、習慣が違うのに、日本人のほうが勝手に『できるはず』と思い込んでいる。理解していない可能性もあるので、もう一度分かりやすく具体的に伝える必要がある」と指摘する。その上で、「要求が下手で、指示・命令も下手な日本人も悪い。教えるしかない。それが愛情」と言い切る。
一方、同じ日本人同士にもかかわらず、社員とのコミュニケーション不足を指摘される経営者も少なくない。どんなに立派な経営戦略を立てても、社員に伝わらなければ意味がない。まさに絵に描いたもちだ。社員に質問させ、それに答える。こうしたやり取りが人をつなげ組織を動かす。人の話に耳を傾ければ、新たな気づきを生む可能性が高いからだ。視点が変われば、新たな発想をもたらす。そのためには自問自答でも構わない。常に問い続けるべきだ。
会社の将来はコミュニケーションが握っている。ということは、社員とうまくコミュニケーションを取れない経営者のもとでは、会社のパフォーマンスは上がらない。ゼロ成長時代を迎え、これまでの延長線上に未来があるとはかぎらない。事業の新陳代謝が不可欠な今、経営者は絶えず新たな「金のなる木」を探さざるをえない。そのためには気づきが必要で、それを理解し、行動を起こす。このサイクルこそが企業の成長をもたらす。
SankeiBiz