“バリアフリー”化 機器や制作に課題
聴覚障害者向けの「字幕放送」が、地上デジタル放送の普及によって急速に身近になっている。アナログテレビでは専用の受信機が必要だったが、地デジ対応テレビは標準機能で字幕を表示できる。障害者だけでなく、お年寄りや病院などでの視聴にも活用の幅が広がりそうだ。ただ、情報番組や国会中継など字幕に対応しない番組もあり、字幕率は全体の半分以下。放送の“バリアフリー”には課題も多い。(三宅陽子)
字幕放送は、番組中のせりふなどを文字テロップで画面に表示するサービス。対応番組は新聞のテレビ欄で確認でき、地デジ対応テレビなら、リモコン操作で表示できる。ニュースではアナウンサーの言葉をやや遅れながら画面に表示。台本があるドラマでは、リアルタイムで複数の登場人物のせりふが表示され、音声なしで話が理解できる。
字幕放送をめぐる国の指針は、午前7時~深夜0時で一部の生放送も対象に、字幕を付けられる番組にはすべて付けるよう求めている。21年度のデジタル放送では、対象番組の字幕化率はNHK総合で52・7%、在京民放キー局5社平均で89・0%。ただ、これを全放送時間の全番組に広げると、それぞれ47・6%、43・9%にまで下落する。
収録済み番組の字幕率は各局とも100%近いが、苦手はやはり生放送だ。番組音声を文字に自動変換できる装置などを活用し、話し手が限定されるニュースや、相撲、プロ野球などのスポーツ中継では字幕放送が増えているが、字幕変換装置の機能の限界がある。複数の人が同時に話す情報番組や討論、雑音が入りやすい屋外のニュース中継などは音声情報が散乱するため、字幕は極めて困難という。
国会中継や政見放送についても要望はあるが、「政治家の発言に誤字が出れば、責任を問われる」(NHK広報部)として、字幕化に踏み切れていないのが現状だ。
人材的なハードルもある。生放送の字幕には、自動変換の誤りをキーボードで素早く修正する専門スタッフが欠かせない。各局は字幕制作を民間に委託しているが、「ニュースなどは放送時間帯が集中しており、技能者は足りない状態」(日本民間放送連盟)。災害時などの緊急放送に対応するには、技能者を24時間確保する必要もある。ローカル局ではさらに深刻だ。
ただ、放送関係者は「米国のように『誤字が多少あっても字幕をつけることが最優先』という認識になれば、状況は変わるだろう」とも話す。字幕放送の一層の充実には、社会の意識の変化という“後押し”も必要なようだ。
◇
CMに登場「反響あり」
テレビコマーシャルに字幕を付ける試みも始まっている。11月8~12日にはフジテレビ系のバラエティー「ライオンのごきげんよう」(平日午後1時)に字幕CMが登場。洗剤などの広告が音声とともに字幕でも紹介された。
5日間の限定放送だったが、「反響はあった」とライオン広報。中には、これまで聴覚障害の娘に商品紹介を“通訳”していたという母親が「字幕は子供の自立に役立つ」と感想を寄せたケースもあったという。
しかし、こうした動きはまだまだ限定的だ。民放連によれば、CMは通常「CMバンク」と呼ばれるシステムから送出、放送される。
字幕の送出にはCMバンクなどの設備改修が必要だが、費用負担がネックとなって改修に着手できていない放送局が多いという。
字幕CM普及に向け民放連は今年2月、営業委員会の中にワーキンググループを立ち上げている。今後は各局で実施される字幕CMの試験放送結果を受けながら、環境整備の在り方を探っていくとしている。
MSN産経ニュース
聴覚障害者向けの「字幕放送」が、地上デジタル放送の普及によって急速に身近になっている。アナログテレビでは専用の受信機が必要だったが、地デジ対応テレビは標準機能で字幕を表示できる。障害者だけでなく、お年寄りや病院などでの視聴にも活用の幅が広がりそうだ。ただ、情報番組や国会中継など字幕に対応しない番組もあり、字幕率は全体の半分以下。放送の“バリアフリー”には課題も多い。(三宅陽子)
字幕放送は、番組中のせりふなどを文字テロップで画面に表示するサービス。対応番組は新聞のテレビ欄で確認でき、地デジ対応テレビなら、リモコン操作で表示できる。ニュースではアナウンサーの言葉をやや遅れながら画面に表示。台本があるドラマでは、リアルタイムで複数の登場人物のせりふが表示され、音声なしで話が理解できる。
字幕放送をめぐる国の指針は、午前7時~深夜0時で一部の生放送も対象に、字幕を付けられる番組にはすべて付けるよう求めている。21年度のデジタル放送では、対象番組の字幕化率はNHK総合で52・7%、在京民放キー局5社平均で89・0%。ただ、これを全放送時間の全番組に広げると、それぞれ47・6%、43・9%にまで下落する。
収録済み番組の字幕率は各局とも100%近いが、苦手はやはり生放送だ。番組音声を文字に自動変換できる装置などを活用し、話し手が限定されるニュースや、相撲、プロ野球などのスポーツ中継では字幕放送が増えているが、字幕変換装置の機能の限界がある。複数の人が同時に話す情報番組や討論、雑音が入りやすい屋外のニュース中継などは音声情報が散乱するため、字幕は極めて困難という。
国会中継や政見放送についても要望はあるが、「政治家の発言に誤字が出れば、責任を問われる」(NHK広報部)として、字幕化に踏み切れていないのが現状だ。
人材的なハードルもある。生放送の字幕には、自動変換の誤りをキーボードで素早く修正する専門スタッフが欠かせない。各局は字幕制作を民間に委託しているが、「ニュースなどは放送時間帯が集中しており、技能者は足りない状態」(日本民間放送連盟)。災害時などの緊急放送に対応するには、技能者を24時間確保する必要もある。ローカル局ではさらに深刻だ。
ただ、放送関係者は「米国のように『誤字が多少あっても字幕をつけることが最優先』という認識になれば、状況は変わるだろう」とも話す。字幕放送の一層の充実には、社会の意識の変化という“後押し”も必要なようだ。
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CMに登場「反響あり」
テレビコマーシャルに字幕を付ける試みも始まっている。11月8~12日にはフジテレビ系のバラエティー「ライオンのごきげんよう」(平日午後1時)に字幕CMが登場。洗剤などの広告が音声とともに字幕でも紹介された。
5日間の限定放送だったが、「反響はあった」とライオン広報。中には、これまで聴覚障害の娘に商品紹介を“通訳”していたという母親が「字幕は子供の自立に役立つ」と感想を寄せたケースもあったという。
しかし、こうした動きはまだまだ限定的だ。民放連によれば、CMは通常「CMバンク」と呼ばれるシステムから送出、放送される。
字幕の送出にはCMバンクなどの設備改修が必要だが、費用負担がネックとなって改修に着手できていない放送局が多いという。
字幕CM普及に向け民放連は今年2月、営業委員会の中にワーキンググループを立ち上げている。今後は各局で実施される字幕CMの試験放送結果を受けながら、環境整備の在り方を探っていくとしている。
MSN産経ニュース