一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『東京どこに住む?』

2016-10-25 | 乱読日記
もう10年以上前の話だが、共働きの女性の間で「子どもを産むなら12月に台東区」というのが流行っている、という話を聞いたことがあった。

当時台東区は、若年人口の減少が続いていたため、23区でも中学生までの医療費の無料化などの子育て支援ににいち早く取り組んでいた。また、12月に出産すると、4月の認可保育園の入園の申し込みにギリギリ間に合うので、子どもが生まれてから最短で保育園に入れることができる、というのが理由だったと思う。


本書は、東京で人気の場所は、かつての「西高東低」から皇居5キロ圏内の東側に移ってきた、というところから、人気の街の移り変わりとその理由を、「近接性」(コミュニケーションの密度が高いことによるメリットなど)をキーワードに解き明かそうとしている。


しかし、自分としては、冒頭の例のように、人々が人生のいろいろな局面において都市のメリットを最大限享受するために居住地の選択をするようになったことが、その根底にあるのではないかと思う。
「近接性」はそのメリットの一つではあるが、主要因ではないのではないか。


たとえば、ここ数年人気の湾岸タワーマンションにしても、職住接近や開発が進む新しい町に住む、というだけでなく将来の値上がり・資産形成という動機も大きいはずである(親の遺産に期待できる人などを除けば、資産形成も30代~40代においては重要なテーマである)。
湾岸タワーマンションについて言えば、物件としての魅力と値上がりの相乗効果があったからこそブームになったのだろう。

また、保育園について言えば、横浜市が待機児童ゼロ宣言をした途端に出産世代の人口が流入し、待機児童が一気に増えてしまったことが象徴している。


高度経済成長期は、流入する人口を支えるために都市政策によってインフラが整備され、それを大勢に従って享受することが個人にとってもメリットがあり、またインフレ基調の中では郊外の庭付き一戸建てを「あがり」とする「住宅双六」が成り立っていた。

しかし、住宅双六は、自分の売る住宅を高値で買う人がいないと成り立たない。それは、後続世代が減る少子化で、しかもデフレ基調の世の中では成立しない。
つまり、居住地や住宅の選択についても、大勢に乗っかっていてはメリットがないばかりか損をしかねないのが現在の状況である。

「湾岸タワーマンションは損か得か」「分譲か賃貸か」という議論が盛んなのも、こうした事情が背景にあると思う。


それに気づく人が増えた結果が、「人気の街」の多様化なのではないか。


ただ、「どこに住む?」とか「分譲か賃貸か?」という議論は、「自分の意見への異論=自分の人生の選択への異論」と受け止められて、感情的な対立になりがちなのが傍から見ていて残念。

自分にとって最適な選択をするために、いろいろな情報や意見を集めることができるのは、都会に住む大きなメリット。
だから、そのメリットを享受するためには、性急に「正解」を求めたり、感情的になったりせずに他人の意見を聞くのが、「どこに住む?」を決めるのにいちばん大事なんだけどね。


そういう読み方をするならこの本は面白いと思う。




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