一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『万引き家族』

2018-06-16 | キネマ
「血縁」と「制度」で成立っている普通の家族へ、「つながり」と「場」だけで成立っている家族の側から問いかける映画。
俳優陣の演技はどれも光るが、中でも安藤サクラが圧倒的。

ただ、歳のせいで最近耳が遠くなり、リリー・フランキーのぼそぼそとしたしゃべり、特にラストシーン直前の子供との寝床でのクライマックスの会話が、聞き取りにくいことの方に注意が行ってしまってインパクトが割り引かれてしまった。
翌朝のやり取りで想像ができたが、山場を逃してしまった感があったのは残念だった。

翌日書店でノベライズ本の最後の部分だけ立ち読みして確認したが、このセリフをその場でぶっこまれていたら最後はかなり泣いたと思う。

脚本もセリフにこめられた伏線と回収が後から考えると緻密に計算されているので、「聞き逃し問題」も含めてもう一度観てみようと思う。


(以下ネタバレあり)



冒頭は一家の特殊な構成とそれぞれの「仕事」が描かれるが、誰と誰が血のつながりがあるのか?ないならばなぜ一緒に住んでいるのかについては断片的なヒントだけ提示しながら、話は進んでいく。同時に、家族制度以外の「制度」の厳しさと戦う一家が描かれる。
祖母(樹木希林)の死をきっかけに話は大きく展開する。

なぜ、祖母の死を隠すのか、年金目当てよりはボロ家とはいえ一戸建てを相続して売却したほうがよほど金になるのに、と思いながら、最初の方で祖母が家の売却話を断り続けてきたことを思い出す。つまり、誰も相続できないのではないか。

そして、母信代(安藤サクラ)が祖母の年金を引き出して息子祥太(城桧吏)との帰り道が転換点になる。
祥太の万引き稼業についての質問への信代の「お店がつぶれなければいいんじゃない?」という答えと、万引きを見逃してくれていた駄菓子屋の閉店(実際はオヤジが死んだのだが祥太「つぶれたのかな?」と思う)、そして祥太にとって妹となった冒頭に家族に加わったりん(佐々木みゆ)を守りたい気持ちがひとつになったことで、逆に一家の崩壊が加速してゆく。

崩壊の過程は、「つながり」対「制度」の戦いの場であり、制度側が圧倒的な強さで一家を蹂躙していく。そのなかで、祥太を思う「父母」(信代と治(リリー・フランキー))の愛情とそれを受け止める祥太の関係がクライマックスとなる。

家族が崩壊した後、戸籍上の家族のつながりからはずれてしまった(ここの描かれ方も秀逸)妹亜紀(松岡茉優)が無人となった家を訪ねる。そこで、祖母も「つながり」と「場」を維持するために家を売らなかったことがわかる。

ラストシーンで虐待する両親のもとに戻されたりんの描かれ方が、制度の冷酷さを象徴している。


「制度」の側に首まで浸かっている身としては、作品のエンディングとは別に、信代が制度を利用して虐待を通報する、という後日談があることを期待してしまった。


★5



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