一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

「シークレット・ウインドウ」とスティーブン・キング「小説作法」

2005-05-01 | キネマ
久しぶりにビデオを借りて何本か映画を観た。

まずは「シークレット・ウインドウ」



予告編から、盗作のクレームをつけられた作家がつきまとわれるというストーカー物のような雰囲気だったので、同じスティーブン・キングの「ミザリー」とはどう違うんだろう、などと考えながら借りてきた。

ネタバレになっちゃうのであまり言いませんが、ストーカー物ではなかったです(これじゃあわからんw)

で、映画としては「そこそこ面白い」と言う感じですね。

ジョニー・デップは単なるイケ面俳優ではなく、役者としてもなかなか上手なところを見せています。
ただ、この映画は「シャイニング」ほどの傑作ではないので、歴史に残る名演技にはならなそう。

監督はデビット・コープといって「パニック・ルーム」「スパイダーマン」「ジュラシック・パーク」などの脚本家として有名らしい。この映画も彼が脚本・監督なんだけど、残念ながら監督としての才能のほうは並のようだ。

演出が月並みで、スティーブン・キング作品のTVドラマ(たまにNHKのBSの深夜とかにやってる)によくあるようなシーンが、ここ一番、というときに出てきたりして興ざめ。

また、ストーリー的には凝ってるんだけど、カメラの視点が筋書きを先取りしてしまい、「謎解き」としてはけっこう早めに結末が読めてしまう。

ただ、ジョニー・デップの演技とよく出来たストーリーを楽しむだけなら十分満足かもしれません。



原作者のスティーブン・キングについては、僕は特にファンではなく、小説も「グリーンマイル」くらいしか読んだことがない。
でも、キングの小説は片っ端からといっていいくらい映画化されていて、この人は映画を念頭においてストーリーを組み立てているのかな、なんて思っていた。

そこに、数年前「小説作法」という本が出たので読んでみた。

これは、キングの自伝的な文章が半分と小説への取り組み方を書いた文章が半分という構成。

前半部もかなり面白い(売れない頃の話とか、売れっ子になったらなったでアルコール中毒とコカイン中毒になって、その中で「シャイニング」を仕上げた、とか「クージョ」は書いた記憶がないとか)のだが、後半の小説に対する真剣な思いをストレートに書いた部分が、感動的ですらある。

「小説作法」という文章は、大体他人の悪口か例文集のようなのが多いのだが、この本は心構えからノウハウまで(それも構成から表現方法まで!)きちんと書いてある。

特に文章を書く心構えを語る部分

 物を書く動機なり、姿勢なりは、人さまざまだろう。(中略)ただ、軽い気持ちで書くことだけは止めてもらいたい。繰り返す。軽い気持ちでまっさらのタイプ用紙に向かってはならない。
 厳かに、ひたむきに、と言うのではない。政治的に正しいかどうかの問題ではないし、ユーモアのセンスを捨て去れとも私は言っていない。・・・物を書く行為は、人気投票ではない。道徳を競うオリンピックでもなければ、宗教儀式でもない。いやしくも、ことは文章である。車を洗ったり、アイラインを引いたりするのと一緒にはならない。



大事なのは主題ではなく、物語としてきちんと成立しているか(そうであれば、そこには語るに値するものがあるはず)というところ。

 疑問や主題の論議から小説を書き起こすのは本末転倒である。優れた小説は必ず、物語に始まって主題に辿り着く。

・・・書き終えたら、作者は後へ下がって森全体を眺めなくてはならない。・・・執筆中、あるいは脱稿直後、自分はそこで何を語ろうとしているか、確認することは作家の努めである。その確認したところをさらに鮮明にするのが第二稿の役割で、そのためには、時には大幅な加筆訂正もやむを得ない。これによって作者と読者の焦点は整合し、作品は統一の取れたものになる。書き直しが失敗に終わることはめったにない。


実際、キングは脱稿後かならず6週間原稿を寝かせたうえで読み直し、作品の構成、登場人物の動機、人物造形等に不整合がないかを確認するらしい。


キングの小説に対する真摯な姿勢に感動すら覚えるし、また、実際に文章を書くときにも参考になる本だと思う。


そこまで真剣に推敲するから、「シークレット・ウインドウ」のような小説を書きたくなるんだろう(あ、ネタバレ!)

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