ラブホ休憩料を「お布施」に 宗教法人14億円所得隠し
(2009年6月9日(火)03:00 朝日新聞)
長野県など中部地方を中心にラブホテルを経営する宗教法人が関東信越国税局から約14億円の所得隠しを指摘されていたことが分かった。ホテルの休憩料などの収入は本来、課税対象だが、国税局はこの宗教法人が休憩料の一部を非課税のお布施と偽っていたなどと認定した模様だ。
asahi.comにはホテルの中の写真もあります。
「受付で宿泊代金を払い、部屋に入った。室内でも「喜捨」を募る張り紙と、お金を入れる朱塗りの小皿が置かれていた」(やっぱり男女のカップルで入ったんでしょうね)とか「朱塗りの小皿には3円が入っていた。ホテルはかなり古かったが、従業員は気さくで親切だった」(それは関係ないだろ)というコメントもついていて、妙にはしゃいでいる感じが伝わって来るのはご愛敬。
宗教法人といえば、昔話になりますが日産自動車が閉鎖した村山工場跡地を真如苑に売却した2001年頃、当時金を持っているのは外国投資家と宗教法人(ハゲタカとボウズというのは単に偶然の一致でしょう)くらいだということもあってか、怪しげな宗教法人の投資話というのが出回っていた時期がありました。
そんなとき、どうにも胡散臭い話が勤務先に持ち込まれました。
そういうのは役員の個人的な知り合いみたいなところから持ち込まれるんで処理が面倒なんですよね。
通り一遍の理由をつけて断ってもよかったのですが、宗教法人の所在が久留里線の先の方にあり、ちょうど季節もよかったので、亀山湖にハイキングがてらに「本山」たる朽ち果てたプレハブ小屋と看板を見に行きました。
仏教系でも「総本山」「大本山」「本山」の使い分けは宗派によって違うとか(けっこういい加減なところもあるとか)知ったのもその頃です。
今更ながらですが、日産自動車と真如苑は(その是非はさておき)よく取引までたどり着いたものだと思います。
実際現在でも休眠状態の宗教法人(「不活動宗教法人」などと言われているようです。)が悪用されることは多いようです。
休眠宗教法人の悪用後絶たず 収益事業に優遇税率
(2009年6月9日6時8分 朝日新聞)
文部科学省によると、宗教法人は06年末現在で18万2868ある。後継者難、信者減少など様々な理由で休眠状態になり、その後、高値で売買される「商品」になるケースがあるようだ。
関心を集める理由として、信教の自由が保障され、行政の干渉は抑制的▽社会的信用が高い▽税制のメリット――がある。
オウム真理教事件の影響などで、95年の改正宗教法人法では、法人に財務書類などの提出義務を課し、複数県にまたがる場合は国の所管に移した。近年は休眠法人に合併や解散を求めており、現在その数は5千弱と減少傾向にある。だが、関係者が死亡していたり「放置しても問題ない」と協力が得られなかったりして、休眠法人の整理は簡単ではないという。
宗教法人法では、休眠状態になった、またはなりそうな宗教法人がまじめに自発的に解散しようとした場合、信者その他の利害関係人に対する意見申述の公告(44条)、任意解散の認証の申請(45条)、清算人の選任(49条)と清算事務(49条の2~50条)とかなり面倒くさく、それならほったらかしにしておけ、ということになってしまいそうです。
一方で、同法では都道府県知事は不活動宗教法人に解散を命じることができることになっています。(下線筆者)
(解散命令)
第八十一条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。
三 当該宗教法人が第二条第一号に掲げる宗教団体である場合には、礼拝の施設が滅失し、やむを得ない事由がないのにその滅失後二年以上にわたつてその施設を備えないこと。
四 一年以上にわたつて代表役員及びその代務者を欠いていること。
五 第十四条第一項又は第三十九条第一項の規定による認証に関する認証書を交付した日から一年を経過している場合において、当該宗教法人について第十四条第一項第一号又は第三十九条第一項第三号に掲げる要件を欠いていることが判明したこと。
また、上の記事にもあるように、法25条では「財産目録等の作成、備付け、閲覧及び提出」が義務付けられています(ただ、この義務に違反しても罰金にしかならず、宗教法人としての認証が効力を失うというような効果はありません。)。
実際、文部科学省(文化庁)も
宗教法人からの書類の写しの提出に関する留意事項について(平成10年3月3日 各都道府県宗教法人事務担当課長宛 文化庁文化部宗務課長通知)で
当該法人が不活動法人でないかどうかの実態把握に努め、不活動法人であることが判明した場合は、適切な不活動法人対策を講じる。
(提出されるべき書類が適正に提出されていおらず、)不活動法人であると認められる場合には、過料の措置はとらず、適切な不活動法人対策を講じるものとする。
など、不活動宗教法人の整理に努めているようです(通達が「掛け声」や「アリバイ作り」でなければ、ですが。)。
しかし、
(宗教上の特性及び慣習の尊重)
第八十四条 国及び公共団体の機関は、宗教法人に対する公租公課に関係がある法令を制定し、若しくは改廃し、又はその賦課徴収に関し境内建物、境内地その他の宗教法人の財産の範囲を決定し、若しくは宗教法人について調査をする場合その他宗教法人に関して法令の規定による正当の権限に基く調査、検査その他の行為をする場合においては、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。
(解釈規定)
第八十五条 この法律のいかなる規定も、文部科学大臣、都道府県知事及び裁判所に対し、宗教団体における信仰、規律、慣習等宗教上の事項についていかなる形においても調停し、若しくは干渉する権限を与え、又は宗教上の役職員の任免その他の進退を勧告し、誘導し、若しくはこれに干渉する権限を与えるものと解釈してはならない。
第八十六条 この法律のいかなる規定も、宗教団体が公共の福祉に反した行為をした場合において他の法令の規定が適用されることを妨げるものと解釈してはならない。
という憲法の信教の自由を前提にした規定があるため、86条があるとはいえ行政も積極的には動きにくいのかもしれません。
宗教法人が脱税に使われる分には税務署のチェックが働きますが、詐欺などを防ぐためには休眠宗教法人を退出させるメカニズムを強化することが必要かもしれませんね。