一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

「1株株主」問題

2006-12-05 | M&A

カネボウ個人株主、取締役5人を東京地検に告発
(2006年12月4日(月)20:24 朝日新聞)  

投資ファンド傘下で再建中のカネボウの個人株主約530人が4日、食品など3事業を営業譲渡した際の取締役会の対応について、同社の小森哲郎社長(48)ら取締役5人に会社法の特別背任の疑いがあるとして、東京地検に告発状を提出した。また、取締役5人に対し、営業譲渡代金が回収不能になったとして、代金約425億円を支払うよう求める株主代表訴訟も近く起こす方針。少数株主が権利保護のため、投資ファンド傘下の再建策に異議を表明した形だ。  

カネボウは、産業再生機構のもとで再建を進め、今年1月に国内の3投資ファンドの傘下に入った。さらに、5月に日用品、薬品、食品の3事業を別会社などへの営業譲渡で切り離し、新たに作った持ち株会社の子会社とした。  

これに対し、個人株主側の説明によると、カネボウの取締役会は今年4月、3事業の営業譲渡代金約425億円について、3投資ファンドが出資した別会社が債務を引き受けることを承認。しかし、この会社には返済能力がなく、不良債権化してしまったとして、「保有していたカネボウ株の価値がなくなり、カネボウ取締役らは、少数株主の利益を犠牲にしてファンドの利益を図り、カネボウに損害を与えた」としている。  

報道を見る限りでは、既に債務がデフォルトして損害が発生しているわけではなく、営業譲渡の判断の相当性を問うているように読めます。 
事業スキームをよく理解せずに言っているのですが「債務を引き受ける別会社には返済能力がなく」というのは、取得した事業のキャッシュフローを返済原資にしようとする場合は当初のSPCにキャッシュがないのはある意味当然なわけです。
それに現金を対価として営業譲渡をする場合も売買代金で債務を弁済するので(営業譲渡の代金が正当であれば)結局売主に残る金額は同じはずですが・・・(脊髄反射的に考えたので違うかも?)

読売新聞の記事では

投資ファンドなどにはこうした少数株主を排除して、機動的な経営を行いたいとする考えが強い。  

外食チェーンのすかいらーくや青汁のキューサイなど、最近増えているMBO(経営陣による自社株買収)が100%の株式買い取りを原則としているのも、少数株主の排除が目的だ。  

さらに、来年5月には合併の対価として旧株主に外国企業の株式や現金を交付することが全面的に認められ、買収者が株式を100%買い取る企業再編が容易になる。一方で買収される側の会社の少数株主は、半ば強制的に株を手放すよう迫られるケースも増えることが予想される。  

などと、ちょっと煽り気味の書き振りであります。  

もともと会社法では少数株主の利益と多数を持つ株主の利益をバランスさせるために、組織再編においては正当な対価での株式買取請求の制度を設けたりしています。 
少数株主の権利を著しく損なうような意思決定は問題ですが、もしそうだとしても会社に対して損害を与えるのであれば営業譲渡の時点で差し止めとか株主代表訴訟を提起するというような手段があります。  
にもかかわらずほとぼりが冷めてから「特別背任」というのは(本件の評価はさておき一般的には)ちょいと穏やかでないですね。   

発行済株式総数の2/3や略式組織再編が可能な90%を確保したとしても、会社法上の異議申し立て手続き以外にもいろんな訴訟を受けるリスク(負けないとしても応訴する手間やレピュテ-ションリスク)が大きいとなると、会社法を改正したメリットが現れにくくなってしまいそうです。

上場株式なら時価が形成されているので比較的争いの幅は少ないですし(※)、TOBで株主の意向を問う、ということも可能なわけですが、非上場会社ですと紛争のリスクは読みにくくなります。 
しかも、非上場会社は創業者一族や取引先が株主になっていたり過去に上場を目指して株主を増やしていたりすることが多く、しかも必ずしも皆仲がいいというわけでもない(どちらかというと仲たがいしていることが多い?)のでやっかいだったりします。  

普通は支配権プレミアムというのは教科書的には1/3、1/2、2/3をまたぐあたりが分水嶺なのですが、最後100%に近くなるにつれ価値が逓増するということにもなりかねません(極端な話、最後の1株を持っている株主から今後の企業再編に文句を言わせないために相当な高値で株を買い取ることは「反対の議決権を行使させない対価」を払うことで、それって議決権行使に関して株主に利益供与することとどう違うんだろうって感じですよね。)。


土地収用に反対する「1坪地主」ならぬ「1株株主」問題ですね。  


多数決が原則の株主の権利においては少数株主の保護は公平と適正手続きの問題であって「少数だから保護されるべき」という判官びいき風(またはワシントン条約風?)な正義感を振り回すのはちょいと考えものだと思います。


(※)最近話題のレックス・ホールディングスのMBOのようにそもそもMBOという取締役の利益相反が問題になりがちなケースでしかも株価の下落と業績見込みの下方修正の開示などがからむと、正当性を主張するのにもハードルが高くなると思いますが(詳細はtoshiさんの記事をご参照)。


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