一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

株を持つと手に入れられるもの(ドンキvsオリジン、一澤帆布)

2006-02-17 | M&A
ドン・キ、オリジン株51%取得を目指す
(2006年 2月16日 (木) 23:28 読売新聞)

ドンキホーテによるオリジン東秀株のTOBは失敗に終わりましたが、その後、ドンキは約15.28%のオリジン株をを市場にて取得し約46.21%を保有、さらに過半数を目指して追加取得する考えを示しました。

これに対してオリジン東秀は「ドン・キホーテによる一連の行為は、証券取引法に違反するか、ないしは証券取引法の改正作業中の法の不備をつく著しく不適切な行為である」として証券監視委員会に調査要請をしました(オリジン東秀のリリースはこちら

一方でドン・キホーテは、今回の取引は適法かつ適切である、と番越しの意見書つきで主張しています(ドン・キホーテのリリースはこちら

証取法上のTOB規制は、1/3を超えるような株の取得は市場で買うかTOBによる、というものですが、1/3直前まで市場外で買い増して、極端に言えば最後の1株を市場で買うような行為(ライブドアがニッポン放送の株を買ったような)は脱法的であるが違法ではないということで、現在証取法の改正が議論されているわけですが、オリジンの主張はドンキの今回の市場内での株取得はTOB前の市場外での株取得と一体のもので、まさにこれにあたるというものです。

一方でドンキの主張は、取引の一体性を否定すると共に、まだ法改正の方向も決まっていないこと、イオンの対抗TOBも設定株数がドンキが応じなければ意味がないのに打診すらなく、ドンキのTOBを妨害することのみを主目的としているではないか、などと反論しています。

素人の感想としては、今回のドンキの行為は形式的には違法でないですし、これがダメ、となるとTOBに失敗した企業は市場での株の買い増し自体も制限されてしまうわけで、そこまでは言えないと思います。
そもそもTOB規制は市場への不意打ちを規制する趣旨なので、既にTOBの時点で保有株数や取得の意図を明確にしている以上、不意打ちでもない訳です。
イオンが市場で買い増せないTOB期間中に行った事がフェアでない、という議論もあると思いますが、対抗しているTOB当事者以外がキャスティング・ボートを握って高値で買い取り請求しようなどと見込んで市場で取得するケースもあるので、そこはホワイトナイトとしてTOBという手段を選択した時点で覚悟の上アンフェアとまでは言えないんじゃないかと思います(イオンはドンキのTOB期間中に市場で買ってからTOBという戦術もとれたわけで)
また、TOB失敗時にドンキは「今後再度のTOBは行わない」と発表したことも問題にされていますが、ただ、企業はすべて手の内を公表する必要もないわけですし、逆に「市場内で買い増す」などと言ってしまうと、逆に風説の流布になるのでは、という問題もありますね。


ところで法律論はさておき、ドンキはこうまでしてオリジン株を買うメリットはあるのでしょうか?
持ち帰り弁当店という業態は資産としては店舗(借家権)程度しかなく、商品開発力と従業員教育などのマンパワーが重要な経営資源だと思います。それなのに、現経営陣から労働組合まで反対している中でむりやり子会社化しても、シナジーは生まれるのでしょうか。
かえってやる気のない会社をグループに入れただけ、になってしまうように思います。


これのもっと極端な例が、今週号のAERAに載っていた一澤帆布の内紛です。

一澤帆布は女性を中心に人気のある京都のカバンメーカーですが、先代が亡くなった際に家業を継いで社長をしていた次男が遺言を託され、それに基づき会社の株を相続したのですが、そのあとに長く銀行勤めをしていて家業には関係なかった長男が突然日付の新しい遺言を持ち出し、自分が株を相続する権利があると主張しました。
裁判の結果、新しい遺言の効力が認められ、長男は相続した株を元に次男を社長から更迭し、自らが新社長に就任しました。

これに対して従業員は全員、次男とともに別会社に移籍してしまい、そちらで製造を継続しているようです(一澤帆布のHPはこちら。トップページの左下の「一澤帆布スタッフからのお知らせ」をクリックすると経緯が書いてあります)

もともと次男は家業を継ぐ前9年ほど朝日新聞に勤めていたそうなので、AERAの記事も身内びいきが入っているかもしれませんが、一澤帆布の場合は職人やデザイナーが根こそぎいなくなり、取引先も次男の会社の方にしか卸さないと言っているらしいので、株を持った長男は工場などの帳簿に乗っている資産以外はカラの会社を買ったことになるわけです。
※次男の会社の「一澤帆布」の商標使用とか不正競争防止法などによる長男側からの攻撃などの可能性もありますがそのへんは置いておきます。


俗に会社は「ヒト・モノ・カネ」で成り立っていると言われます。
会社の株式を取得しても手に入るのは「モノ」だけで、「ヒト」がついてこなければ機能しません。
また「カネ」のうち資本は自分が株取得の対価として出しているわけですし、借入金は企業が機能しなければ借りつづけられるかもわかりません。

M&Aというのは取得した企業が当初(以上)の価値を生み出してはじめて成功なわけですから、特にノウハウや労働集約的な企業のM&Aは、従業員に歓迎されることが前提だということを改めて認識させられる例だと思います。
(なので村上ファンドなどは、資産の切り売りで投資を回収できる会社に絞っているわけですね)


※小説のドン・キホーテが突進した頃の風車は、羽根に帆布を張るタイプだったようで、これも何かの縁ですかね。

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