「輪転機」とか「日銀による国債引き受け」は訂正したようですが、今度の衆院選で有利とされ意気軒昂な安倍総裁の強気な発言は依然続いてます。
私は経済学は詳しくないので、いわゆる「リフレ派」の主張が正しいか間違っているかよく分からないのですが、不思議なのはその安倍氏への反論が「日銀の独立性」を守れという切り口のものが多いことです。(日銀の独立を侵すのは政治の行き過ぎだ(社説)など)
これでは議論になりません。
「日銀が金融を(無制限に)緩和すれば物価が上昇する」という議論は、お金の価値が相対的に下がれば物の価値は相対的にあがる、という意味では原則的には正しいのかもしれませんが、「どの程度緩和すればどの程度上がるか」「そのメカニズムはコントロール可能なのか」というところがよくわかりません。
経済学者やエコノミストの間でそれについて共通理解があるのであれば、そもそも議論になっていないとも思うのですが。
そう考えると、レーガノミクスのきっかけになったとされるラッファー・カーブを思い出します。
ラッファーカーブというのは、税率と政府の税収の関係は下のカーブのようになっているので、減税が税収の増加に結びつくという主張です。
ただこれは当たり前の話で、税率0のときは税収0、税率100%のときは誰も働かないから税収0というのは、止まっている時計は一日に二回正確な時刻をさすというのと同じですね。
大事なのは現在の政府が上のカーブのどこにいるかということでしょう。
しかし、止まっている時計では時刻を知ることが出来ないのと同様にこのカーブだけでは自分の位置を知るすべはありません。
一方で、日銀の白川総裁はこう言っています。
総裁記者会見要旨(2012年11月20日(火))(太字筆者)
このように、日本銀行の考え方は、現在ゼロ%近傍で推移している消費者物価について、当面「+1%」を目指して、その実現に最大限の努力を尽くすということです。デフレからの脱却は、成長力の強化と金融面からの後押しの両方が揃って初めて実現するものです。この点、先般の政府との共通理解にも示されている通り、思い切った規制緩和を始め、政府による成長力強化の取組みは極めて重要であり、日本銀行としては政府の強力な取組みを強く期待しています。
日銀だけががんばれば(=金融政策だけで)経済がよくなるというもんじゃないよ、という発言はとても真っ当なように思います。
そしてこれは知らなかったのですが
まず、日本銀行が発表している「中長期的な物価安定の目途」ですが、これは正確に言うと、「2%以下のプラスの領域」ということです。その上で、当面は1%を目指すというのが、私どもの正式な表現です。今、3%に関するご質問を頂きましたが、その問いに対するお答えは、現実的ではない、ということですし、また、経済に対する悪影響が大きい、と判断しています。このように判断する理由ですが、いつも申し上げている通り、わが国においては、バブル期で景気が最も過熱した時期、すなわち1980 年代後半においても、海外の物価上昇率よりも低く、平均1.3%でした。1986 年、87 年、88 年には、1%以下、つまりゼロ%台の物価上昇率でした。そうした状況を踏まえると、日本の家計や企業が「物価が安定している」と考える物価上昇率は、欧米の場合よりは幾分低いと判断されます。こうしたもとで、例えば、3%という物価上昇率を、国民の皆さんが「物価が安定している」と感じられるのかどうか、これは慎重に検討する必要があると思っています。
バブルのときも高騰したのは株や不動産という投機的資金が流入しやすいものだけだったのでしょうか。
そうだとすると、日本経済は物価が高騰しにくい構造にあるのかもしれませんし、その中で無制限に金融緩和を行なうことは、(一部の批判のようにハイパーインフレにはならないかもしれませんが)資産バブル(→国債暴落→長期金利上昇?)を招くことになるのかもしれません。
(白川総裁は「いつも申しあげているとおり」と言っていますが、あまりこの部分が取り上げられないのは、経済学的には解決済みの論点だからなのでしょうか)
白川総裁の発言からは、金融市場のアクセルとブレーキを日々コントロールしている人の責任感が伝わってきます。
安倍総裁も、「アクセルを踏めば全てが解決する」というような外野の人っぽい発言をするのは、(自民党が第一党になれば)日本経済の舵取りを担うであろう人としてふさわしくないように思います。