「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

緒方の離れ業 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (31)

2010年10月01日 20時18分11秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ ICU

  川添、 犬飼たちが 木下に懸命の措置をす

  る。

  臓器を新鮮に保つための 冷却灌流もして

  いる。

犬飼「川添くん、 心臓マッサージを!」

川添「はい !」

  川添、 木下に馬乗りになって 心マをする。

  
○同・ 多佳子のオペルーム

  緒方、 美和子たちが手洗いをしている。

  マネージャー (連絡役の医師) が 走って

  くる。

マネージャー 「緒方先生!  たった今 ドナー

 の心臓が止まりました …… !」

緒方 「! ……」

美和子 「先生…… !!」

マネージャー「膵臓はどうします !?」

緒方 「まだ可能性はある。 オペは 予定通り行なう。

 直ちに摘出を!」

マネージャー 「はい! (走っていく)」

緒方 「こちらも オペにはいる。 麻酔の用意

 !」

美和子 「はい …… !」

 
○佐伯宅・ 淳一の部屋

  光の中の淳一。

 
○東央大病院・ オペルーム

  酸素マスクを付けて 眠っている多佳子。

  緒方、 真剣な表情で 執刀している。

  山岡と小池が 助手を務める。

  緊張して見つめる 美和子。

緒方 「ドレーン」

ナース「はい」

  
○晴海

  バイクで走る淳一。

  風を切る。

  
○東央大病院・ オペルーム

  緒方たちが深刻に 手術部位を見つめてい

  る。

山岡 「緒方先生、 この状態で 脾臓を剥離すると

 膵臓を傷つけてしまいます」

緒方 「しかし このままにしておくと、 脾臓の

 リンパ球が 拒絶反応を起こす可能性があ

 る」

小池 「でも もし膵液が漏れて 腸液と交ざった

 ら、 大変な腹膜炎を起こします」

山岡 「とにかく 縫合部を腹膜の中に置くのは

 危険です」

美和子 「どうしたら ……?」

緒方 「ドナーから 膵臓を摘出するとき、 十二

 指腸を少し付けておいた。 あれを小さなパッチ

 にして 小腸に縫い付ける」

美和子 「腹膜に窓を開けて、縫合部を腹膜の

 外に出すわけですか」

山岡 「なるほど!」

小池 「最初から 考えてらしたんですか?」

緒方 「…… (自若)」

山岡 「分かりました。 それでいきましょう

 !」

緒方 「メス!」
 

○海・ 夕日

  バイクを止めて 夕焼けを見つめる淳一。

淳一 「………」

  波光。

  陽が沈んでいく。

(次の記事に続く)
  
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