Zooey's Diary

何処に行っても何をしても人生は楽しんだもの勝ち。Zooeyの部屋にようこそ!

「深い河」

2015年02月01日 | 


20年以上前に読んだ遠藤周作の「深い河」を
インドから帰って読み直してみました。
「愛を求めて人生の意味を求め、人は母なる河に向き合う」
文庫本のキャッチコピー。毎日芸術賞受賞作。

5人の日本人が、それぞれの理由を抱えてインドへのツアーに参加します。
妻を突然亡くして、インドでのその転生を信じて探し求める男。
学生時代にもてあそんで捨てた男がインドで修業していると聞いた女。
太平洋戦争中ビルマで戦って死んでいった親友を弔いたい男。
それぞれの思惑を抱えて行ったインドでは、混沌の世界の中をガンジス河が
何もかもを飲み込むように、ゆったりと流れていた…

美津子という女が、昔読んだ時にはどうにも好きになれませんでした。
贅沢なマンションに住み、ボーイフレンドを何人も引き連れて遊ぶ女子大生。
学友から馬鹿にされながらも神を信じる大津という野暮ったい学生を
ほんの遊び心でからかってみる。
「神さま、あの人をあなたから奪ってみましょうか」
それだけの理由で大津を誘惑し、ちょっと遊んでボロ布のように捨てる。

しかし、その捨てた男と美津子は、人生の節目ごとに関わることになるのです。
大津という男は、子どもの頃からいじめられ、大人になっても周りと上手くやっていくことができない。
神に助けを求め一心に祈り神学性となり、
卒業後はフランスに渡って神父になろうとするがそこでも拒絶され、
遂にはインドのバラナシで死体運びのような役割に身を落とすのですが…
終盤、ガンジス河の畔でケンカに巻き込まれた大津が死にかけているところで
美津子は思わず叫ぶ。
「本当に馬鹿よ。あんな玉ねぎのために一生を棒にふって。
あなたが玉ねぎの真似をしたからって、この憎しみとエゴイズムしかない世の中が
変わる筈はないじゃないの。あなたはあっちこっちで追い出され、挙句の果て、
首を折って、死人の担架で運ばれて。
あなたは結局は無力だったじゃないの」
(「玉ねぎ」というのは二人が使う隠語で「神さま」のことです)

若い時は、この傲慢な美津子が嫌いで、大津が哀れでならなかった。
しかし今読むと、美津子の方が可哀想に思えてくる。
大津は確かに気の毒な人生を送ったのだけど、しかし彼は結局彼の思うところの
人生を全うしたのではないか。
それに引きかえ、残された美津子は、この先も信じるものもなく頼れるものもなく、
大津の無様な(見た目は)最期を脳裏から消し去ることもできず、
救いのないつらい余生をおくるのではないか。
そして美津子という女を、私も含めて神を信じない、多くの日本人の象徴として
著者は描きたかったのではないかと。

この小説の終章、十三章は「彼は醜く威厳もなく」というのです。
本の内容全体を象徴しているようなタイトルです。

「深い河」 http://tinyurl.com/cerp3kq
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12 コメント

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テレーズ・デスケルウ (うりぼう)
2015-02-02 07:52:28
『深い河』は遠藤周作の小説のなかで一番好きな作品です。出版直後に読んで、文庫化されてからも何度か読んだ記憶があります。旅から戻って読み直してみると、新たな発見がありますね。

幾度か作品のなかで引用されているフランソワ・モーリアックの代表作『テレーズ・デスケルウ』は、カトリック文学の金字塔と呼ばれています。2011年に映画化されたのは知っていますが、まだ見ていません・・・クロード・モレール監督作品だけに近いうちに鑑賞したいと思っています。

作者はモーリアックから大きな影響を受けているように感じます。
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なつかしい ()
2015-02-02 08:31:29
若い頃、友人に勧められて、夢中で読みました。

感動は残っていても、詳しいことは忘れてしまって・・・
ああ、そうだった、そうだったと、懐かしく拝読しました。
当時の私は、美津子が何やら、哀れに思えたような気がします。
それにしても、この一冊で、一度はインドに行かねばと思った私も単純です 笑。

この本を勧めてくれた友人は
「いつ、インドへ行くか・・・」に、今、悩んでいるんだそうです。
私のようなヘタレは別としても、なかなか出かける踏ん切りのつかないインド。
実現なさったzooeyさんに、拍手です!!
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Unknown (hiro)
2015-02-02 09:37:37
zooeyさん、おはようございます♪
そうですか。
「深い河」ってこのような内容の本だったのですか。
作者と題名だけは知っていたのですが、
遠藤周作はあまり興味なくて・・・
読んでみます。
沢木耕太郎の「深夜特急」についても書かれて
いましたが、ほんとに読書家なのですね。
こちらもおいおい読んでみたいと思います。
返信する
うりぼうさま (zooey)
2015-02-02 11:18:27
私はこれが世に出て評判になった時に
一度読んだきりでした。
初版は1993年だったのですね。

「テレーズ・デスケルウ」は遠藤周作が惚れ込んで
翻訳までしたんですものね。
気になってはいたのだけど
この中に出てくるもう一つの小説、ジュリアン・グリーンの「モイラ」を読んで好きになれず、めげたのでした。
でも、モーリヤックはこれでノーベル賞取ったんですよね。

映画はあんまり評判にならなかったようだけど
どうだったのでしょう?
どちらにしても、自分の目で確かめてみなくちゃ、ですね。
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釉さま (zooey)
2015-02-02 11:22:31
そう、私も詳細は綺麗に忘れていました。

暗いし、唐突に終わってしまったし、救いがないようで
好きになれなかったんですよね。
美津子は傲慢だし、大津はあまりにも愚かに見えて。
インドのグチャグチャの描写は印象的でしたが。

いえいえ、私が行ったのはお気楽なツアーですから。
それでも見事におなかを壊しましたが。
もう一度行くことの方が、覚悟が要るかも…w
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hiroさま (zooey)
2015-02-02 11:25:31
おはようございます。

遠藤周作は若い頃、「沈黙」「海と毒薬」など色々と読んだような気がしますが
あまりにも暗くて重くて
お気楽な狐里庵先生の方に逃げていました。
本当に久しぶりに手に取りました。

読書家だなんてとーんでもない。
穴があったら入りたい気分。
ことにネットで遊ぶことを覚えてからは
本から遠ざかってしまいました。
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懐かしい・・・ (albi)
2015-02-03 07:15:36
学生の頃!?読んだ記憶が・・・あるような・・・ないような・・・
記事を読んで、あ~!っと思い出しました。
私の記憶ってそんなもんです・・・情けない。

訪問後すぐの再読、感慨深いでしょう。
素晴らしいわ!
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Unknown (tona)
2015-02-03 10:06:38
旅行をされてからまたひも解くって、旅行の内容も生きて来るし、本による自分自身の心の整理に良いし、自分をレベルアップできるような感じです。
『深い河』はすっかり忘れてしまいました。
そんな本が大半になってしまったこの頃で、もう一度読むには時間が足りなくなったのが残念です。
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albiさま (zooey)
2015-02-03 13:52:40
私はもう少し覚えていましたが…
似たようなものです。

もう一度感動できて
得した気分かも!
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tonaさま (zooey)
2015-02-03 13:58:20
旅行するにあたって
「河童が覗いたインド」とか中谷美紀のインド旅行記とか
他にも色々読んだのですが
インパクトが薄くて…
この小説の方が余程、心に残りました。
私自身はヒマなので時間はたっぷりあるかと思っていましたが
段々と残り少なくなっていくのでしょうか。
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