Zooey's Diary

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「1ミリの後悔もない、はずがない」

2020年08月25日 | 

これを読むとヒリヒリする、という感想を何処かで見かけて読んでみました。
五編の短編集です。


油井は、アル中の父親のせいでしょっちゅう夜逃げを余儀なくされる家庭の長女。
中学生の時、長身で喉仏の美しい桐原という同級生に出会い、惹かれ合う。
”桐原と出会って初めて、自分は生まれてよかったのだと思えた。彼を好きになると同時に、少しだけ自分を好きになれた。桐原が私を大事にしてくれたから。あの日々があったから、その後どんなに人に言えないような絶望があっても、私は生きてこられたのだと思う”


油井がその後結婚する雄一は、幸せな幼少期を送っていた。
貧しいけれども仲の良い両親、ホッとする思いで読んでいくと、雄一が小三の時に母が事故死してしまう。
雄一と弟は施設に預けられ、頻繁に来てくれていた父親は次第に来なくなり、ついに音信不通になる。
雄一は施設を出て、一人きりで必死に働き、夜間の大学に行く。
”自分を含め、その大学の夜間部には訳ありの人間が多かった。両親が揃っていて、二人とも日本人で、何の依存症もなくて、兄弟姉妹は引きこもりじゃなくて、家庭内暴力をふるう人もいない、精神的支配もない、お金にも苦労していない。そんな家庭はめったになかった”


中学生の時に桐原を好きだった加奈子は、夫との仲も冷え切り、怠惰な毎日を送っていた。
”中学生だった私は、もうすぐ四十。私たちは瞬きをするごとに年を取っていく。
この調子でいけば、目が覚めたらいつのまにか二十年経過、そんな日が来るかもしれない。
私は二十年後も、今と同じように諦めているのだろうか。
うしなう絶望は怖いからと、自分では何も変えようとせず、日々に流されて。
もしかすると、それがまたこの先の後悔に繋がるかもしれないのに。
二十年後の私は、今の私が一体何をしたら喜ぶのだろう”


それぞれの登場人物が、色々な形で関わっています。
十代の頃の、今よりも研ぎ澄まされた、甘酸っぱくそしてやるせない思いが、章の中のあちこちに隠れていて、断面からひょっこりと顔を出すようです。
大人になって長いこと忘れかけていた思い、封じ込めておきたかった思い。
少々粗削りで雑な組み立てですが、確かにヒリヒリさせられる文章です。


「1ミリの後悔もない、はずがない」

コメント (2)
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