Zooey's Diary

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「東京奇譚集」

2020年08月10日 | 

村上春樹の「一人称単数」を読んで、その中の「品川猿の告白」の前編が収められている「東京奇譚集」を読み返してみました。
2005年の発売で、ブログを始める前だったので私は読後感想を書いていない。
結構面白いのにということで今更ですが、簡単な感想文を書いてみました。


五編の短編が収められています。
孤独なピアノ調律師が偶然出会った女性を通して姉との和解を果たす「偶然の旅人」。
サーファーの息子を喪くした母の人生を描く「ハナレイ・ベイ」。
「パンケーキを用意しておいて」と妻に行ったきり、姿を消した男を探す話「どこであれそれが見つかりそうな場所で」。
初めて自分の女と確信できたと思えた女性に去られてしまった小説家の話「日々移動する腎臓のかたちをした石」。
そして「品川猿」。


ここでは「品川猿」についてネタバレします。
若い女性みずきは、時折自分の名前が思い出せなくなり、カウンセラーに相談する。
カウンセリングで過去の記憶をたどり、高校時代に自分に名札を託した級友のことを思い出す。
そしてその名札と、彼女の名前を盗んだのは、一匹の猿だった。
品川の下水道に隠れ住んでいる猿は、女性に恋い焦がれるあまり、その名を盗むという性癖があるのだと。
「わたしはたしかに人さまの名前を盗みます。しかしそれと同時に、名前に付帯しているネガティブな要素をも、いくぶん持ち去ることになるのです」
「選り好みはできません。そこに悪しきものごとが含まれていれば、わたしたち猿はそれをも引き受けます。全部込みでそっくり引き受けるのです」
そしてみずきの名前と共に猿が盗んでいた「悪しきものごと」、それは、
みずきが母親から愛されていないという事実だった。
「このお猿さんの言う通りです。そのことは私にもずっとわかっていました。でもそれを見ないようにして、今まで生きてきたんです。目をふさいで、耳をふさいで」
そしてみずきは悲しい決意をする。
「私の名前が戻ってくれば、それでいいんです。私はそこにある物事と一緒に、これからの人生を生きていきます。それは私の名前であり、私の人生ですから」


「すべてをあるがままに受け入れるしかない」は、この本のテーマであるように思います。
理不尽であれなんであれ、人生はそんなものなのだと。


「品川猿」についてどうでもいいことをもう一つ。
物語の前半、自分の名前を思い出せないことに困ったみずきは、細くてシンプルな銀製のブレスレットを買い求め、そこに名前を彫って貰います。
四六時中それを身に着け、名前を忘れたら見るようにと。
みずきの悩みはそれで少し解消されるのですが、しかし銀のブレスレットを年中身に着けていたら、すぐに黒ずんで汚らしくなってしまう。
ここはやはり、金かプラチナでなければ。
春樹先生、女性のアクセサリーについてもうちょっと勉強しなくちゃね。


東京奇譚集」 

コメント (4)
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