浜のメリーさんは20世紀後半の横浜(正しくは伊勢佐木町界隈)のランドマークのようなものでした。著者がメリーを映画化しようと思った時にすでに街にはいなく、メリー本人をドキュメンタリーするのではなく、メリーが生きた横浜の風俗の歴史をメリーの周囲にいた人たちからインタビューすることで浮き上がらせるという手法を取りました。メリーが食事をしばしばとった森永ラブ、着替えをし荷物を置かせてもらったクリーニング店、メリーと同じ時期に存在した大衆酒場根岸家、シャンソン酒場の主・元次郎はもうなく、関わった人たちのインタビューによって横浜の歴史に残そうとしたものです。10年かけて出来上がった映画はドキュメンタリー映画としては記録的なヒットとなりました。映画が出来て10年後にこの本が上梓されたのですが、メイキングオブの内容は改めて記録として残るものです。メリーの晩年は中国地方の郷里(実弟が住んでいた)の老人ホームで暮らし、娼婦としての半生を過ごしたにしてはいい死に方をしたようです。表紙のメリーの姿に思わず手に取った本でしたが、読み応えのある本でした。
「ヨコハマメリー」中村高寛 河出書房新社