活字日記

毎日読んだ活字系(雑誌、本、新聞、冊子)を可能な限りレポートします。

甘粕大尉

2005-07-02 | 文庫
 日本史の教科書を開くと関東大震災のあたりのページに、この地震の陰の部分として朝鮮人虐殺と甘粕大尉による大杉栄殺害のくだりが数行載っています。それだけのことですから、今まで甘粕大尉といえば旧日本軍の恥部みたいな人であって極悪な右翼テロ軍人みたいなイメージを持ち続けていました。でもビックコミックオリジナル連載中の「龍」に出てくる甘粕満映(満州映画)理事長は厳しくはあるものの人を理解する人格で描かれています。甘粕元憲兵大尉は大杉事件後数年して満州国建国と運営の陰の実力者として君臨します。実は大杉事件は甘粕単独の行為ではなく軍部上層部の意向であって彼は純粋に軍人として命令に服しただけであるというのが現代の状況証拠による認識なのです。彼自身は強烈な天皇崇拝者であったのです。その強い意志が満州国を日本の分国として天皇のために運営するという支えになったに違いありません。表の顔として満州国建国の立役者石原莞爾が有能な戦略家であったのに対して甘粕は有能な戦術家であったといえます。大杉事件がなければただの憲兵として一生を終えたに違いありませんが、この事件にからんだために東条英機にも(元指導教官だった)意見を言えることができた甘粕の能力が発揮されたのです。甘粕自身を見直すというか昭和初期史という観点からこの本は楽しめます。

「甘粕大尉」角田房子 ちくま文庫
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