平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

幕が上がる~「銀河鉄道の夜」をモチーフにした青春演劇ストーリー。さおりは果てしない世界に旅立つ

2016年06月25日 | 邦画
 演劇部の部長になった高橋さおり(百田夏菜子)は不安だった。
 自分には何もない。
 演技する力も、人をまとめる力も、演劇に対する思いも、どれも中途半端。
 演劇部に入ったのもユッコ(玉井詩織)に引きずられてのものだったし、自分が将来、何をしたらいいかもわからない。
 ただ負けず嫌いではあった。
 県大会の予選に進めなかったすべての学校に与えられる<優秀賞>という名の参加賞。こんなに人をバカにしたものはないと思っている。
 それと、自覚していない演劇的センス。
 さおりはユッコがいったん舞台に立てば人の目を惹きつける、<演劇の女王>のような資質を持っていることを見抜いていた。
 しかし、さおりじゃそんな自分をどう活かしていけばいいか迷っている。
 もやもやとした感じを持っているのだが、どう表現すればいいのか、わからない。
 
 そんなさおりを目覚めさせて、方向を与えたのは新しく赴任してきた美術教師・吉岡美佐子(黒木華)だった。
 美佐子はかつて舞台女優をやっていて、演劇の本質をわかっている。
 まず演劇は自己表現であること。
 さおりは新人オリエンテーションの演目に『ロミオとジュリエット』を選んだが、深く感情移入できない内容だったので、結局、失敗。
 美佐子はさおりたちに<肖像画>という課題で、自己紹介をすることを提案する。
 結果、<肖像画>は見る人の胸を打つ公演に。
 その過程で、さおりは他人の演技に何が欠けているかに気づく。
 祖父の良い所ばかりを演じて悪い所を表現しようとしない明美(佐々木彩夏)に違和感を感じ、がるる(高城れに)にムダな動きを多いこと(←れにちゃんらしい・笑)ことに気づく。
 さおりには演出家の才能があったのだ。
 美佐子先生はそれをしっかり見抜いていた。
 次に美佐子が教えたのは、演劇をするということが、とてつもなくハードだということだった。
 さおりたちには受験もある。
 それに演劇の高見を目指せば目指すほど、山頂がどんどん遠くに行って見えなくなってくる。ある地点にたどりついたと思ったら、道はさらにあり、もっと苦しみ、汗をかいて登らなくてはならない。そんな先の見えない行為なのだ。
 しかし、演劇の楽しさを知ったさおりは言う。
「いいです、人生が狂っても。だって私たちの人生だもん」

 真摯で真面目な高校演劇の物語だ。
 そして、さおりたちが演じた『銀河鉄道の夜』がそのまま作品のモチーフになっている。
 ジョバンニとカンパネルラの関係は、そのままさおりと美佐子先生の関係にあてはまる。
 ふたりは同じ演劇の旅をする同行者だったが、カンパネルラがいなくなったように美佐子先生もいなくなる。
 ジョバンニがそうであったように、さおりはこれからひとりで演劇の道を歩んでいかなくてはならなくなる。
 ふたたび道を失い、どこにたどり着けるかわからないことに脅えるさおり。
 一方、さおりは自分の手に<どこまでも行ける切符>があることを知っている。
 生きるということは大変で、不安でいっぱいなのだが、同時にどこまでも無限に行けるのだ。
 あとは、この切符を使って旅立てるかだ。
 さおりは吉岡先生に手紙を書く。
『先生、わたしをここまで連れてきてくれてありがとうございます。
 わたしはここから宇宙の果てまでを目指します』
 そして、幕が上がる5秒前。
 緞帳スタンバイ、5、4、3、2、1……
 さおりは演劇部員たちに叫ぶ。
『さあ、行こうか』

 さおりたちの旅は始まった。


 主題歌『青春賦』はこちら
 『青春賦』ももいろクローバーZ(YouTube)

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