平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「勝海舟」 子母澤寛~大村益次郎の論で行けば、今度は日本国が滅亡するよ

2016年06月09日 | 小説
 子母澤寛の『勝海舟』でこんな描写があった。
 彰義隊と官軍が上野で戦争をしようとしている時の、大村益次郎を評した勝の言葉だ。

「あ奴(大村)は、おいらと西郷が談笑のうちに、江戸をこういう事にしたのをとんと気に食わねえと言っているそうだ。戦さで根っからの徳川をぶっ潰さなければ、日本は立ち直らないと説いてるとよ」

「大村が滅法の戦さ好きと来ていちゃあ世話あねえやね。え、大村は噂じゃあ、この日本国を治めるも、世界を対手(あいて)に交わりするのも、悉く武力がなくてはいかん、強い兵隊が無くちゃあいかん、日本国進化の基はなにをおいても先ず武力だといっているそうだ。だから百姓でも町人でも兵隊にする。日本国中を兵隊にするという論だそうだ」

「それもいいだろう。が、国を治めるのも、万国の交際を結ぶも強い武力が無くては、いかんというところに、あ奴の大そうな間違いがあるんだ」

「大村は今に彰義隊を討って勝つよ。その上、あ奴の論で行けあ、将来日本国はちったあ強くなるだろう。間違うなよ、ほんのちっとだよ。井の中の蛙の強さだが、そ奴が馬鹿にはちょっとわからねえから、それに自惚れて、遂には盲目になり、気が違い、どんな無茶をやり出すか知れねえのだ。その為に、五十年後百年後には元も子もふいにするような事になる。時の勢いというものに乗った薩長が徳川を潰す位の芸当は誰にだって出来るんだ。それに驕って、静かに反省することをしなけれあ、今度は、日本国が滅亡するよ」


 『勝海舟』は戦中戦後(昭和16年~21年)に書かれた作品だが、上の記述は終戦期(昭和20年)に執筆されたものらしい。
 だから、作者の子母澤寛は、大村の軍隊至上主義が「五十年後百年後には元も子もふいにするような事になる」「今度は、日本国が滅亡するよ」と勝に言わせたのだろう。
 敗戦の焼け跡が作家にこれらのせりふを書かせた。

 面白いですね。
 同じ大村益次郎を描くのでも、子母澤寛と『花神』の司馬遼太郎と大きく違う。
 司馬さんは明治を評価しているからなぁ。

 明治以降の軍隊は、陸軍を長州閥、海軍を薩摩閥がおさえていたらしいが、軍隊の中に、子母澤寛が言う、武力至上主義の〝大村益次郎的なもの〟や〝長州的なもの〟があったことは確かだろう。
 靖国神社には、現在も大村益次郎の銅像がある。
 そして、この〝長州的なもの〟が猛威をふるったのが、大東亜戦争。
 幕末の出来事であるが、歴史はこんなふうに繋がっているのだ。

 ところで、安倍晋三氏は〝長州出身〟だが、大丈夫だろうか?
 子母澤さんや司馬さんが生きていたら、現在の首相をどう評価するのか、聞いてみたい。

コメント (3)
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