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平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

天国と地獄

2007年09月09日 | 推理・サスペンスドラマ
 犯人や刑事でなく、被害者・権藤(佐藤浩市)を深く描いたのが面白い。
 ただ、それがマイナスにも。
 半分の時間を使って描かれる権藤の葛藤。(前半の舞台はほとんどが権藤の家で『室内劇』の様)
 そのため戸倉警視(阿部寛)らの刑事と犯人・竹内(妻夫木聡)の描かれ方が足りない。
 犯人捜査が段取りになっている。
 また小樽を舞台にしたヘロインの受け渡しシーンがやけに長い。(伊武雅刀の田口刑事がやたら犯人に近寄るが、あれじゃ絶対にバレる・笑)
 この作品の脚色は監督自身がやられたらしいが、やはり演出家の脚本だ。
 主人公は権藤でいいが、もう少し時間配分のバランスを。

 さて、その権藤の人物造型。

 権藤はいくつもの顔を持っている。
★フロンティア・シューズの常務の顔
 冒頭のクーデター計画、株取得のエピソードで描かれる。
★仕事への愛
 地位よりも自分の納得するいい靴を出すことに情熱を持っている。飾り物の役員の地位も断る。
★人情家
 運転手・青木(平田満)の息子・進一(松田昴大)の誘拐にもかかわらず、払えば破滅をもたらす3億円を葛藤のすえ、支払う。
★苦労人
 靴の見習いから現在の地位に上りつめた男。
 それを「お前は苦労を知らないからそんなことが言えるんだ」とお嬢様の妻の伶子(鈴木京香)に語ること、鞄に燃えれば赤い煙が出るカプセルを仕込むことで描いた。(→人物の過去を描くのに回想シーンを使うことが多いが、ここはうまく処理している)

 一方、犯人の竹内。

 丘の上に立つ家に住んでいるというだけで権藤を憎んでいる。
 その根底にあるのは『憎悪が生きる証』『幸福な人間を不幸にするのは面白い』。
 『丘の上に住む人間を憎む』という点はオリジナルと同じだが、オリジナルの根底にあるのは『貧富の差』。
 それを『憎悪が生きる証』にしたのは、現代的解釈。
 またラスト死刑を怖れて、膝を振るわせ強がるシーンがあるが、これも描写としては面白い。
 竹内は権藤に面会を求めて「自分は後悔していないこと。死など全然怖れていないこと」を伝えようとする。
 しかし膝が、手が震えてしまう。
 人間の弱さを描いた描写だ。

 以上が竹内の描写だが、もう少し掘り下げてもよかった。
★なぜ『憎悪が生きる証』『幸福な人間を不幸にするのは面白い』と彼が考えるようになったのか?
★『自分は死など全然怖れていない』と強がる歪んだプライドはいかにして形成されたか?
★亡くなった母親との関係は?
★どうして医者を志したのか?
★ヘロインの彼女との関係は?
★逮捕のきっかっけとなる誘拐した子供を殺さなかったのはなぜか?これほど歪んだ人物なら証拠となる人間は殺害するのでは?
 これらが描かれると竹内はもっと深い人物になった。
 ラストの権藤の涙ももっと説得力のあるものになった。


 最後に竹内逮捕に至った捜査過程を書いておく。

★犯行の車発見。壁に擦った車の塗料の痕があった。
★誘拐された子供の似顔絵。監禁されていた場所の絵。
★子供の記憶から監禁されていた場所を発見。そこで共犯者・迫田夫婦(篠井英介、吹石一恵)のヘロイン中毒による死体を発見。
 どうやら主犯の犯行らしい。
★主犯をおびき寄せるために共犯者の死の新聞発表を控えるよう指示。
 奪われた1万円札が使われたことのみ報道させる。→マスコミを使った情報操作。
★動揺する主犯。
 かばんを焼く。立ち上る赤い煙(→「踊る大捜査線」)。
 共犯者の殺害のためにヘロインを手に入れようとする。
★誘拐された子供、似顔絵に首のほくろと手にバンダナを巻いていたことを書き加える。
★かばんを焼いた人物が病院にいることが判明。(→泉谷しげる)
 首のほくろと手の火傷で主犯が竹内であることが確定。
★竹内を死刑にするため、竹内に迫田夫婦殺害を再びさせるよう泳がせる。


※追記
 3億円を投げ出した権藤の行為に世論が支持し、フロンティア・シューズを糾弾するところが面白い。
 捜査にマスコミを利用したシーンもあったが、現在はマスコミの時代だ。
 権藤を裏切った部下・川西が「役員の残留は確保しました」と得意げに伝えに来る所も。


コメント
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