桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2007・8・20

2007年08月21日 | Weblog
俺が隣に坐るなり「実は今日、俺、入籍したんですけど」とウチの元店長Mが照れ臭そうに云う。一瞬びっくりしたけど、彼も32歳、別に不思議なことじゃない。「で、誰と?」とさりげなく聞くと、Mは黙ってカウンターの中を顎で示す。「うん?」と俺はカウンターの中に視線を向ける。カウンターの中にはTちゃんしかいない。え?ひょっとして?……まさか?Tちゃんと?……Mは頷く。Tちゃんはいつもの笑みを浮かべている。俺は「へぇー」と声を上げたか「あ、そう」と答えたか、今となっては覚えてない。多分、予想もしなかった現実を突きつけられて頭の中はパニックになってしまったに違いない。そりゃ二年位前からMがウチの店に客として来る様になっていたから、Tちゃんと会話を交わす機会があったことはあっただろうけど、そこにはいつも俺がいたし、二人きりになったのは一週間前に一緒に帰ったのが最初だと云うから、『ダーマ&グレッグ』に次ぐマッハ結婚だ。そうか、MがTちゃんと結婚したのか、そうか、TちゃんがMと結婚したのか……俺の頭の中は同じ言葉がグルグル回り続ける。ちゃんとお祝いの言葉が言いたいのに、うまく言えない。誰か俺の代わりにTちゃんにお祝いの言葉を掛けに来て下さい。

2007・8・19

2007年08月20日 | Weblog
ポルトガルに行きたい。旅行が嫌いな俺だけど、ポルトガルにだけは行きたい。壇一雄の小説にあったポルトガルの海辺の描写に惹きつけられたのが最初だ。荒涼とした風景が何故かこの世の世界とは思えなかった。次はポルトガルの民謡とも言えるファドの旋律に心が揺すぶられた。ファドもこの世には似合わない物哀しい音楽だ。更にイタリア人なのにポルトガル語で小説を書くタブッキの世界にぞっこんになった。主人公がリスボンの街で死んでしまった友人たちに次々に会っていく『レクイエム』は繰り返し読んだ。そう、ポルトガルは俺にとってこの世ではないのかも知れない。あの世へ向かう街だ。そんな街に惹きつけられるのは俺も長くないのか?まぁ、それはそれでもいい。とりあえずの問題は、ポルトガルへ行く旅費がないと云うことだ。そうだ、ガンになったらがん保険がおりるし、その金を持ってポルトガルへ行こう。

2007・8・18

2007年08月19日 | Weblog
昨日に比べてまるで秋になったかの様に涼しいもんだから、今日は食欲が旺盛だ。12時過ぎに、カニ缶とカブのサラダ、もやしとベーコンのニンニク炒め、キムチ、もずくと胡瓜のあえ物に生卵の黄身を落したもの、山芋納豆、クレソンの味噌汁でご飯二膳を食べたと云うのに、5時に店へ出て、近所のスーパーへ仕入れに出かけたら、どうしても安売りしている鰻が食べたくなって買ってしまう。バタバタと開店準備を終え、鰻丼にして若布とネギのお吸い物と一緒に食べる。今日は10時頃から「朝までライブ」があるので、Tちゃんは9時出勤、Mちゃんは11時出勤。二人とバトンタッチして俺は早退。部屋で缶ビール飲みながらイカの照り焼き、冷や奴、それに生のキャベツを味噌につけながら食べる。テレビの画面は借りてきた『カミュなんて知らない』(柳町光男監督)を流しているが、食欲の方が優先して、集中出来ない。もう一度見直さなくては。

2007・8・17

2007年08月18日 | Weblog
お盆休みで他の店が休んでいる為か、今週は思っていた以上にお客さんが来てくれる。今日もTテレビのRさんが7時過ぎに米国人の映像作家Aさんと一緒に来てくれてから他にお客さんはいなかったのに、10時過ぎに出資者の一人のUさん、近所の美人姉妹の姉Aさん、俳優事務所社長のBさんと所属舞台俳優のDさんたち、イチゲンのカップル、映画監督のHさんと女流小説家のKさんと大手映画会社TのプロデューサーAさん、夕刊DのUさんとNさんたちでカウンターだけじゃ足りなくなって、ちょっとビックリ。ビックリと言えば、美人姉妹のAさんと何十年も続いている対談番組の女性司会者Tさんの話題をしていたら、その当人がDさんに会う為に店に現われたのには驚いた。驚いたと言えば、昨日のことになるけれど、見知らぬ30過ぎの女性が入ってきてカウンターに坐るなり、「私、桃井さんが昔つきあっていた彼女の姪なんですけど」と名乗られたのにはギクッとなった。思わず「ええっ、誰よ?」と声が裏返る。Tちゃんと云う名前を聞いて30年前にタイムスリップする。懐かしい。懐かしいけど、当人が現われるならともかく、娘でもなく彼女の姪が現われると云うのは凄すぎないか?

2007・8・16

2007年08月17日 | Weblog
暑さ惚けと、まだお盆休み中だと云う気の弛みで、開店してからもMちゃんと二人だらけきっていた。そこへイチゲンのお客さんが二人。しばらくしてマネージャーのTさんたちが3人で。続いて映画プロデューサーのMさん、イチゲンのカップル、数人を引き連れてきてきれた俳優事務所社長のBさん、近所の音楽会社の6人、有名脚本家のYさん、N大助教授のMさんと出版社のTさん、AN嬢と続いて、終ってみれば来店者数は30数人。一辺にこれだけの人数が入り、料理の注文も続いたりすると、Mちゃんも俺もパニック状態。開店直後のだらけモードは何処へやら、とにかく動き回るだけの数時間、2時ちょうどに後片付けが終った時にはクタクタになって椅子に座り込んでいた。まぁ、それはそれで嬉しい悲鳴。頑張ってくれたMちゃんのリクエストで閉店後に西麻布の居酒屋へ。気づいてみればお昼に食事をしてから何も食べてなかった。

2007・8・15

2007年08月16日 | Weblog
こう云うの、認知症と云うのか、アルツ状態と云うのか、スタッフのTちゃんの名前が突然出なくなることがある。毎日接している彼女ですらそうなのだから、お客さんの名前は当たり前みたいに忘れる。顔だって三十分位しないと思い出さない。下手すると帰るまで何処の誰だか分からないことだってある。別に居直っている訳じゃないけど、加齢のなせるワザと諦めるしかない。でも、だからってパーティの予約を忘れてしまっては、言い訳できない。今日、5時に店に出て、開店準備を終えてのんびりしていたら、控室から戻って来たTちゃんに、今日の7時半からの予約って何ですか?と聞かれ、キョトン。控室の予約カレンダーを見てみたら、確かに俺の字で「××様、7時半」と書いてあるのに、全く思い出させない。数人の予約だろうとタカを括り、またのんびりする。しばらくして、あれ?ひょっとして?まさか……と××さんから電話がかかってきた時のことが思い出される。やばいっ、20人の予約を受けていたと気づき、慌ててフードの用意を始めたのは7時前。それから9時近くまで、とりあえず料理を出し終わるまで、何をしていたかよく覚えてない。加齢のなせるワザではなく、単なる暑さボケだと思いたいんだけど。

2007・8・14

2007年08月15日 | Weblog
朝起きて、暑いからサッパリしたものを食べたくなる。同時に夏バテ防止に油っぽいものが食べたくなる。どうする?この矛盾?別に困ることはない。両方を食べればいいのだ。と云う訳で、今日の食卓には、保存してあったイカの内蔵とニンニクで作った焼き飯と若布とカイワレ大根入りのソーメンが並んだ。午後、例の年金未記入問題を解決すべく社会保険事務所へ。こんな暑さの中、自転車で片道20分も走ると流石にダウン。5時に店へ入り、開店準備を終えて控室で一休みしていたら、いつの間にか眠りに誘われる。まぁ、体力的に仕方ないか?7時半に監督のIさんと俳優事務所社長のBさん、9時前に制作会社プロデューサーのMさんと俳優のR、近所の美人姉妹AさんとNさん、法律事務所勤務のNさん、常連のSさん、しばらくしてBさんが呼んだ監督のMさん、小説家のKさん、女性脚本家のAさんなどでお盆中なのに何となく混みあう。でも、BさんたちとMさんたち以外は、オーダーが一杯きり。売上も3時まで営業して4万円にしかならなかった。俺の体と俺の店はこの夏を乗り切れるのか?

2007・8・13

2007年08月14日 | Weblog
昨日は自主映画監督HK(監督名はF)が撮影監督のOさんと打合せする様子をプロデューサーと云うよりマネージャーと云う風情で彼女の隣で見守っていたが、今日は今日でお昼から美人脚本家Nに付き添って、ホテルOで韓国のSテレビの会長Sさんと日本の放送作家協会の会長Iさんとの打合せにこれまた彼女のマネージャーの如く同席する。ある占い師曰く、俺は女性の為に奉仕して生きていけば最高の人生になるとか。60代を生きていく道はここにあるのか?打合せ終了後、そのまま店へ。5時から今日のイベント『映芸マンスリー』の為の会場作り。スタッフとバトンタッチして一旦部屋に帰り、仮眠して7時半過ぎ再び店へ。8時から旧知の俳優Y君が主演する『野川(公開タイトル『妻たちの絶頂いきまくり』・後藤大輔監督)を見る。死者と生者が入り乱れる幻想劇というべきか?こんな意欲作がピンク映画館のみで封切られて、その後誰にも評価されることなく消えていくなんて惜しい。その意味で例えウチのスペースであろうと上映された意義はあるかも知れない。上映終了後、カウンターに会社の上司と来ていた元妻のYさんと話す。彼女は俺と結婚して「妻たちの絶頂」にはならなかったし、俺は彼女に奉仕する人生も選ばなかった。そんなYさんをカウンターの端から見つめる不思議。

2007・8・12

2007年08月13日 | Weblog
4月に上映した藤尾京子監督作品『二人の生活』が好評だったので、彼女にウチのスペースを丸一日だけ解放して、と云うより撮影日数たった一日だけで、制作費は入場料収入だけと云う超低予算で、一時間弱の映画を撮ると云う企画がいよいよスタートした。今日は午後からこの企画に賛同して参加してくれることになった小野寺昭憲撮影監督との打合せ。小野寺さんは撮影監督と云うより映像作家として自主映画を何本も監督し、幾つかの受賞作品もあるキャリアの持ち主。殆ど無報酬なのによくもこの企画に参加する気持ちになってくれたものだと感謝。藤尾監督もそうだけど、彼も本当に映画が好きなのだろう。二人が一本の映画制作に向けて熱っぽく打合せする姿を、映画界OBの俺はただ黙って見守っていた。因みにこの映画のタイトルは『神ナイト』。小野寺撮影監督との打合せ後、藤尾監督と演技プランの打合せ。演技プラン?そう、何を隠そう、俺も出演者5人の内の1人なんだよね。普段は彼女の書いて来た脚本に偉そうに意見を云ったりしている俺も、俳優をやるとなると別。急遽やることになった二人きりのリハで、藤尾監督のダメ出しに従順に従う桃井でした。尚、この産地直送映画は9月18日、19日、20日の三日間ウチのシアターで上映予定。ご期待下さい。

2007・8・11

2007年08月12日 | Weblog
もう街はお盆休みに入っているみたいで、今日は開店する前からお客さんは望み薄だと敗北気分だったけど、一人でもお客さんが来てくれることを祈って看板の灯を点けると、開店前に高校の同窓生で近所に住むMさんがビールを飲みに寄ってくれる。でも、還暦を迎える(迎えた)男女のお喋りタイムが終ってしまえば、後は閑散とした静寂が俺とTちゃんを包み込む。それに耐えきれず前から見ようと思っていた『盲獣VS一寸法師』(石井輝男監督)を見る。東映のプログラムピクチャーを多作していた石井監督の、晩年になってからの意欲作に酔いしれる。けど、見終わってもお客さんは来ない。仕方なく続けて『日本春歌考』(大島渚監督)を四十年ぶりに見る。俺が映画っていいなと思って当時十数回も見た映画なのに、今見てみると観念的台詞が横溢し、どうしてそんなに入れ込んだのか分からなかった。多分、20歳当時は映画文法を破壊していることに魅力を覚えたのだろう。20歳の思考は20歳の嗜好だ、なんて結論づけてスイッチをoffにしたのは10時近く。でも、まだお客さんは現われない。流石にもう一本見る力はなく、カウンターでTちゃんと飲みだす。10時半過ぎにプロデューサーのSさん、11時過ぎに美人OLのJ子ちゃん、自主映画監督のHK、元店長のMたちが来てくれたけど、みんな身内っぽく売上に貢献とまではいかない。2時近くベロベロになって一日が終る。