ポルトガルに行きたい。旅行が嫌いな俺だけど、ポルトガルにだけは行きたい。壇一雄の小説にあったポルトガルの海辺の描写に惹きつけられたのが最初だ。荒涼とした風景が何故かこの世の世界とは思えなかった。次はポルトガルの民謡とも言えるファドの旋律に心が揺すぶられた。ファドもこの世には似合わない物哀しい音楽だ。更にイタリア人なのにポルトガル語で小説を書くタブッキの世界にぞっこんになった。主人公がリスボンの街で死んでしまった友人たちに次々に会っていく『レクイエム』は繰り返し読んだ。そう、ポルトガルは俺にとってこの世ではないのかも知れない。あの世へ向かう街だ。そんな街に惹きつけられるのは俺も長くないのか?まぁ、それはそれでもいい。とりあえずの問題は、ポルトガルへ行く旅費がないと云うことだ。そうだ、ガンになったらがん保険がおりるし、その金を持ってポルトガルへ行こう。