何だか今日は女性二人連れしかいなかった様な印象がする。脚本家志望のSさんとその教室仲間、昼帯ドラマで有名女優になったOさんの母親で高校の同級生のHさんとカラーコーディネーターのTさん、妹のファンの看護士Rさんと同じ病院の新人女医Aさん、イタリアで活躍する通訳のKさんとドイツ語通訳のJ子さん、それにイチゲンの女性二人、いや、他にもSミュージックのMさんたち、先日二年ぶりに来店してくれたAさんたち、国際弁護士のSさんたち、出版プロデューサーのIさん、元広尾の雑貨店店主のKさんなど男性客や、脚本家のAさんの様に女性の一人客もいたけど、五組の女性客がカウンターとイベントスペースに陣取ると、カウンターの中にはTちゃんと新人のAちゃんもいるし、店は女性の香りであふれかえる。そりゃ女好きの俺としてはウハウハ気分だけど、虻蜂取らずで結果的には誰とも「いい関係」にはなれなかったし、店を閉めた後に何となく虚しい気持ち。けど、考えてみれば60を前にしてそんなことで虚しさを感じるだけエライか?
今日は父の三周忌。本当なら鎌倉までお墓参りに行くんだろうけど、俺はお墓参りが嫌いだ。何故って、一人で行ったりしたら花を供えた後せいぜい数分間手を合わせるだけで、やることがない。それよりは故人を偲ぶもっといいやり方はないかと、去年あたりから父の行きつけにしていた三光坂下のトンカツ屋さん『D』に行き、父が好きだったここのトンカツや串カツをテーブル一杯注文し、母と二人で食べまくることにした。生前、ちょっと意地悪だった父を真似て「残念だねぇ。こんな美味いのに死んじゃうと食べれないんだねぇ」なんて悪態をつくのも供養、供養。8時過ぎ、店へ。今日は雨模様でお客さんは見込み薄だったけど、その予想が見事に的中し、イチゲンのカップル以外は脚本家のHさんと女優のTさん、二人と女優Kさんの噂をしていたら、その当人が現われ、女優二人に挟まれてHさんはご機嫌と困惑の狭間でモゴモゴモゴモゴ。他にはこの処毎日の様に来店するkさんとプロデューサーのHさんだけ。売上は二万円弱。意地悪した仕返しに父が邪魔したのだろうか?
昨日と今日、二日間に渡って行われた『二人の生活』(藤尾京子監督作品)の上映イベントが終った。二日間合計で入場者総数百数十人。立ち見が出る程の盛況で、ワンコイン制にした飲食売上も約16万円を記録して、まずは大成功とこのイベントをプロデュースした俺としてはホッとしている。プロデュースと云っても作品に何か携わった訳ではない。藤尾監督(この日記では本名のHK)が自主映画を完成させたと聞いて、だったらウチのスペースで上映しないかと持ちかけただけなんだけど、彼女の持つパワーとモノを作る情熱を何らかの形で花開かせたいと思ったことは事実だ。もしもこの上映イベントをきっかけに彼女の才能が花開くことがあったら、その何百分の一位の力にはなるかも知れない。それだけで嬉しい。イベント以外のお客さんは、映像制作会社Dの演出家で新婚ホヤホヤのOさんとプロデューサーのSさん、美人脚本家のNさんと新人脚本家のYさん、美女軍団のタレント事務所のマネージャーOさんたち、近所の美人姉妹AさんとNさん、二年ぶりに来店してくれた元女優でプロモーターのTさんと女優のKさん、そして以前次に上京の時には必ず店の近くのホテルを予約してゆっくり飲むと云って実行してくれた大阪の運輸会社の女性社長Yさん。店は上映会のお客さんも含めてバタバタしていて、折角大阪から来てくれたのに、このまま大して話しも出来ずに終ってしまったら悪いと思っていたけど、1時前にはお客さんが一斉に引いて、店の中も静まり帰ったので、Yさんと2時まで一緒にゆっくり飲むことが出来て、ホッとする。程よく酔って4時前就寝。
この間から三年前の四月に亡くなった父の命日がどうしても思い出せなくて困っていた。四月中旬だったことは覚えていたんだけど、それが16日だったか、17日だったか、18日だったか定かじゃないのだ。親不孝だと思う。曲がりなりにも長男なんだし、仏教でいう法事(父はクリスチャン)をやらなくてはならない立場なのに、完全に放棄しているからこんなことになるのだ。母に電話すれば分かる。でも、それじゃあんまりだ。この日記の去年の分を調べてみても分かる筈だけど、それも悲しい。ネットで『桃井真』を検索すれば、ちょっとだけ名前を知られた父だったし、死亡記事が見つかるかも知れないけど、それも辛い。何とか自分の記憶力だけで思い出したかった。でも、記憶力は物凄いスピードで衰えている。昨日来たお客さんの顔だって忘れて平気でいる俺だ。四月中旬だったことを覚えているだけでもマシだし、後で去年の日記でも検索しようと諦めてトイレに入り、置いてあった古い週刊誌をめくっていたら、妹の紹介記事が偶然目に入る。何気なく読んでいて、ふとそのプロフィールに書いてあった妹の生年月日を見た途端、アッと思わず大きな声を上げる。父が死んだのは、妹の誕生日の十日後だったことを思い出したのだ。どうして命日を忘れたと云うのに、そんなことを覚えていたのか分からない。父が亡くなった時に、妹のファンにそのことを言われたのかも知れない。でも、自分の力で思い出したことには違いない。例え、「妹の力」であろうと、トイレの中であろうと。きっと来年は忘れないだろ。
多分俺には三つの頭が必要なんだと思う。一つは飲食店の経営を考える頭。例えばそれはスタッフ問題だったり、メニュー問題だったり、仕入れ問題だったり、数え上げたらキリがない。もう一つはイベントスペースの営業運営を考える頭。一月30日間とまでは言わないが、20日間はイベントスペースを埋めていかないと、会社設立に当たって資金提供をして下さった出資者の皆さんに配当を出すことは出来ないし、その為にはあらゆる手段を使って宣伝営業活動をしていかなくてはならないのだ。そしてもう一つプライベートな問題を処理する頭と時間。こんな俺でも否応なく人間関係に悩んだり、独り暮らしをしていると、掃除洗濯買い物その他雑事にかなりの時間を費やしてしまう。その三つはリンクしている様で、それぞれ別々な頭の働きを必要としている。そして更に、これは何処に属するか分からないけど、芝居を書いたり、演出したり、プロデュースすることもやってしまうと、必要な頭は三つではなく、四つになる。もうこうなるとお手上げだ。元々大して容量のない一つしかない頭だし、処理が出来なくなる。何をやっていいのか分からず、思考放棄して、ただボンヤリとテレビを眺めている。そう、今日の午後もそうやって過ごしてしまった。どうだっていいバラエティとどうだっていい二時間ドラマの再放送。気づいてみたら五時になっていて、今日はイベントがあるのにTちゃん一人なので出かけなくてはならない。結局このまま何もせずに一日が終ってしまう。ひどく自己嫌悪だ。
12時に今日のイベントの為に鍵を開けに行った後、大和芋を一杯かけたマグロのぶつ切りに、豆腐と茗荷とキュウリの千切りとカイワレ大根のサラダ、明太子、海苔、納豆、クレソンの味噌汁で食事。1時半から偶然つけたテレビで再放送していた渡辺晋さんを描いたドラマ『ヒットパレード』を見る。常連客の一人、Yさんの脚本だったこともあったけど、俺が物心がついた頃とテレビの創成期が重なることもあって、ノスタルジックな気分で結局2時間ドラマの前後編を見てしまった。夕べから今日にかけてテレビっ子になっている。8時過ぎに店。高校の同期生で、大手出版社Kの局長をやっているSが部下の女子社員と来店。今年還暦を迎えると云うのに(俺もだけど)、Sだけはお姐ちゃんとチャラチャラしている。勉強や仕事で勝った負けたもあったけど、このお姐ちゃん問題でも勝った負けたはある訳で、Sにライバル心を燃やしている自分がおかしい。他に結婚式帰りのお客さんが数人と見知らぬカップルを除いては女優のこばやしあきこさんだけ。来月行われる公演『リテイク』の打合せを一時近くまで。帰り道、レンタルショップに寄ってその公演で使うSEを借りて帰宅。
1時から5月18日から再演される『ハナミズキのある家』の打合せ兼リハーサル。先日行われた打合せで後半を手直しすることになって、作家の荻原さんに書き直して貰った改訂稿を読み合わせする。元作家の俺としては、よくもここまで深く登場人物を掘り下げることが出来たものだと感心したのだけど、演じる立場の高山さんからそこまで謎解きみたいに見せてしまったら逆に深みがなくなると反対意見。そう言われて俺は今度は演出家の立場から見直してみて、成る程高山さんの意見に一理ありと簡単に自説を撤回。実に軽佻浮薄な演出家だ。4時過ぎ区役所と銀行で用を片づけて一旦帰宅。部屋で『ハナミズキ』の翌日に上演される『リテイク』の音響構成を検討しようとしていたら、店で使うお釣りを置いて来るのを忘れてしまったことに気づいて6時半過ぎには再び店へ。最近は忘れ物をすることが多すぎる。いくら若ぶってみても年なのか?そんなことで少し落ち込んでいる俺の背後では、美人OLのJ子ちゃんたちを中心にした合コンが行われていて、参加者たちの華やいだ声が聞こえて来る。売上がアガリそうだったし、少し気分が上向きになったが、女性の参加者の殆どは俺の知り合いなのに、そこに参加出来ない「身分」に気づいて(今更気づくな)、またまた落ち込んだりする。全くズーズーしい奴だ。他にお客さんは最近『ハケンの品格』をヒットさせた美人脚本家のNさん、テレビAのプロデューサーKさんとNさん、パリ在住の映画監督Tさんたち、法律事務所勤務のNさん、近所の美人姉妹の姉Aさん、制作会社の経理責任者Iさんたち、映画配給会社のAさんとWさん、東京ミッドタウンに出来た飲食店の料理長Kさんたち、AN嬢、夕刊FのUさんたち。J子ちゃんたちの合コンも2時半には終って3時過ぎ帰宅。夕方買っておいたイカをお刺身にして日本酒を飲みながらテレビでやっていた『クレヨンしんちゃん・雲黒斎の野望』を最後まで見てしまう。いつも思うのだけど、映画版の『クレヨンしんちゃん』は哲学的?で大人向けだ。
3時に店へ。今日は女優Aさんのバースディパーティイベントがあるので、自転車で仕入れに行くが、メニューはとりあえず決めているものの、買い物している間もあれこれ悩む。と云うのは、このバースディパーティイベント、主催者からウチの店に支払われる金額は、三時間フリードリンク込みで一人当たり5000円なんだけど、お客さんから徴収する会費は8000円。確かにイベントをやる訳だし、スタッフのギャラなど経費もかかるから8000円の会費でも赤字だろうけど、お金を払うお客さんにしてみれば8000円のパーティ料理を期待してしまうからだ。ウチだって8000円のパーティ料理を要求されれば、それなりに作ることは出来るけど、実際に支払って貰えるのは5000円だ。それも三時間でその金額となると、本当ならウチの店で決めているパーティ料理の一番下のランクになってしまう。でも、8000円も払って一番下のランクの料理を食べさせられるお客さんはたまったもんじゃないし、ウチの店に対して悪い印象しか持たなくなってしまう。これが困る。だからと云って8000円分の料理を出すのは無理。そんなことをあれこれ悩んだ末に、その金額では使わない生ハムやスモークサーモンなどの食材を買うことになってしまう。けど、これでも8000円のパーティ料理には見えない。またウチの店の信用をなくすんだろうなと思うと気が重い。
銀行に寄った後、女優のこばやしあきこさんと3時過ぎから『リテイク』のリハ。今日は動きを中心にやってみる。台本の段階で想定していた面白さが実際に目の前で繰り広げられるとワクワクして来る。終了後、今日はTちゃんが休みなので、そのまま開店の準備にかかる。早い時間に女優のSさん、今週三連チャンのAN嬢、脚本家兼プロデューサーのAさん、常連の演出家Sちゃんたち、何カ月ぶりかに来店してくれた近所のNさん、映像制作会社DのプロデューサーSさん、遅くなってSさんが呼んだFテレビのMプロデューサー、元ウチの店の店長だったMたち。途中来週に上映イベントを控えた自主映画監督のHKが今日も又宣伝の為に来店。出会った時からいい意味で「厚顔」だと思っていたHKが、上映日が迫るにつれ、オドオド、挙動不審になっていく様が「愛しい」。最後まで残ったMと店のことなど話して3時近くまで。部屋に帰って、先日Iさんから貰ったキムチスープとAさんから貰った椎茸などでクッパを作って食べる。牛肉がなかったのが淋しかったけど。
今何が食べたい?と自分に問いかけて、ふと炊きたてのご飯に芽かぶちりめんをかけたものと思ったら、いつもならズラッと料理を並べることに執念を燃やすのに、そんなことしたら折角食べたい芽かぶちりめんに悪い気がして、昨日の残りのアサリの味噌汁と市販の漬け物だけをお供にご飯を食べる。こう云う欲望のままって贅沢だ。3時に店へ。来月の21日に上演予定の『リテイク』(一人芝居バージョン)の最初のリハーサル。本当なら演出プランを出演するこばやしあきこさんに説明したりしなければならないんだけど、そんなものはまだ確定してないので、とりあえず最初から最後まで通して貰い、あれこれ二人で考える。こんなことが出来るのも自分が自由に使えるスペースを持っている贅沢さか?一旦帰宅して日記と雑用を済ませて8時過ぎに再び店へ。お客さんは女性脚本家のTさんとCMプランナーのOさん、AN嬢、美人OLのJ子さん、常連のSさん、若いのにモルトファンのU君、来週ウチでの上映イベントを控えた自主映画監督のHKなど。女性脚本家のTさんとは彼女が19歳の時からもう25年以上のつきあい。25歳までに一流映画監督のシナリオを5、6本執筆し、テレビの連続物も何本もこなした才能の持ち主なのに、結婚してからは育児に邁進。その甲斐あって長男が難関の国立H大に合格したとのこと。映画やシナリオより家庭を最優先にしてきた彼女の生き方も贅沢だ。