緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

がん治療中の患者さんのWebを用いた苦痛症状の自己報告は生存期間を延長(JCO、JAMA)

2018年06月03日 | 医療

国内でも、がん診療連携拠点病院では、
がん患者さんの苦痛の症状スクリーニングの実施に
どうやって、時間と労力を配分するか、
試行錯誤が続いています。

今まで研究結果から、
症状スクリーニングは
臨床的な効果が乏しいと言われてきました。

2016年のJCOからの報告。

スローンケタリング単施設において
766名の化学療法中の固形がん患者さんに対し、
Web(スマホやPC)から
12の症状について
0-4の5ポイントについて
自分で評価し、送信してもらうことで、
通常外来受診の患者さんと比較して
症状の改善やER受診の減少等を
認めるかどうかを見た試験です。

PC経験者には、週1でリマインダーが送られます。
PC未経験者は、外来受診時に外来の端末から
送信するようサポートします。

最初の結果をベースとして、
それより2点悪化していたり、
3点以上悪い場合は、
自動的に看護師にアラートメールが
送信されるようになっています。

ただ、そのメールが届いたとしても、
どのように対処するかは、
現場の医療者に一任されており、
研究としての介入はありません。



その結果・・・

症状の改善(EuroQol EQ-5D Index)はもとより、
 改善(介入34% v コントロール18%)
 悪化 (38% v 53%; P < .001)

ER(救急外来)受診率の減少
 (34% v 41%; P = .02)
入院の減少傾向
  (45% v 49%; P = .08)
quality-adjusted survival(質調整生存期間:よりよい状態で生存している期間)の延長
  (mean of 8.7 v. 8.0 months; P = .004)

これらの恩恵を最も受けたのは、
PC未経験者だったと考察されています。


例えば、ER受診では・・




Aがすべて、BはPC経験者、Cは未経験者で、
青線は通常外来者、黄線がWeb報告をした患者です。
Cがもっとも差が開いていますね。

高齢者でPC使えない方がこの群に入るようです。

Symptom Monitoring With Patient-Reported Outcomes During Routine Cancer Treatment: A Randomized Controlled Trial. Journal of Clinical Oncology 34, 557-565.







この研究には続きがあって、
去年のASCOの発表とほぼ同時期に
JAMAにレターが掲載されました。

Overall survival was assessed in June 2016 after 517 of 766 participants (67%) had died, at which time the median follow-up was 7 years (interquartile range, 6.5-7.8). Median overall survival was 31.2 months (95% CI, 24.5-39.6) in the PRO group and 26.0 months (95% CI, 22.1-30.9) in the usual care group (difference, 5 months; P = .03)

生存期間が5か月延長を認めています。

Overall Survival Results of a Trial Assessing Patient-Reported Outcomes for Symptom Monitoring During Routine Cancer Treatment.JAMA. 2017;318(2):197-198.


新薬の抗がん開発でも、
5か月の生存期間の延長というのは、
中々難しい場合があります。

通常外来では、
患者さんが自発的に苦痛症状を言語化して頂くことになります。

このWeb報告では、
言語化ではなく、タッチパネルなどで表現することになります。


一方、これはスローンケタリング単施設です。
スローンの看護師さん達が
とても能力が高かったことに
この結果が依存している可能性もあります。

JCOには
Nurses frequently initiated clinical actions in response to e-mail alerts.
と、記載されている位ですから。

日本の現在のまるで人海戦術のような
症状スクリーニング。
とって精いっぱいです。
その後のアクションが
重要であることを
この論文は示してくれています。

ちょっと考えさせられた論文でした。


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