緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

心不全の患者さんの緩和ケアチーム回診とカンファレンスから

2018年06月10日 | 医療

緩和ケアチームの診療に
治療抵抗性心不全が加わるようになり、
循環器内科から担当してくださる医師が決まり、
毎週木曜日の午前のカンファレンスに
参加してくださるようになりました。

依頼も時々頂くようになり、
同じ方向を向いていけるように
話し合いのプロセスを
大切にしていくことが今の目標となります。

ある日の回診で、
高齢の患者さんは、私におっしゃいました。

「もう、いいの。私。
 一度、死んだようなものでしょ。」

挿管され、そこからリカバーされた方でした。

ゆっくりと、嗄声の小さな声で、
語ってくださいます。


「リハビリのスタッフが来ましたね・・」

そう伝えた時、即閉眼されました。




リジェクトされている・・
何に?
あ・・リハビリのPTさん?・・

「もう、ゆっくりしたいって思われるのですか?」

そう尋ねると、すっと目を開かれて



「そう、もういいって思っているくらいですから。」





リハビリスタッフが、
側臥位の後ろから声をかけました。

ああ・・そこからして・・


高齢の方、衰弱がある方と会話をするときは、
医療者が、その視野の中に入っていくことが原則です。





その日の夕方の多職種カンファレンスに
心臓リハビリナースが参加してくれました。

忙しいでしょうに、
こういうことろが本当に素晴らしい。



一連の話を聞いて、

「ですが、私たちは
 患者さんの体を
 上向かせてあげなければ
 いけないのです。」


強い口調で言われたところに、
たまりかねて、私が被せました。

「それは、医療者の目標であって、
 この患者さんの方を
 向いていないのではないですか?」



元気な患者さんは、
もちろん、治すことを目的に
医療機関を受診されます

でも、すべての人が
そうであると
思い込んではいけないのです。

目の前の患者さんは、
何を望んでいるのか、
私達が知ろうとすることから
始めなければいけないのです。

自己決定の尊重という
もはやありきたりになった言葉を唱えても、
患者さんの声に耳を傾ける前に、
私たちの使命といった言葉で押してしまっては、
パターナリズムに陥ってしまいます。

ただ、こうしたやり取りを繰り返していくことこそ、
今の目標でもあるわけで、
大変ありがたい率直なやり取りでした。


がんの緩和ケアを始めた時も、
抗癌治療一直線の医療現場に、
対話を生み出し価値観を寄せて行く作業を
何十年も繰り返してきました。

ああ、心不全も同じ入口に立ったのだなあと、
ちょっと昔を思い出しながら、
とても、良い時間でした。

言葉を被せてしまったと・・
ちょっと反省しながらも、
その場で、その看護師さんはメモを取り、
言葉を残して反芻してくれている様子
がとても嬉しかったのです。


きっと、チーム医療が内科領域にも
広がっていきますね。


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2 コメント

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チーム医療 (t)
2018-06-12 00:40:52
多職種が集いあって
患者さんのQOL向上のために
いろいろな意見を自由に交わして
検討を重ねていくことは
当たり前のことですよね。
私の病院では権力者だけで
様々な方針が決められてしまってます。
私は悔しい思いばかりしてますが
これまで学んできたチーム医療の本質を
貫くことができるよう闘っていきたいです。
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tさん (aruga)
2018-06-18 06:12:19
コメント、ありがとうございます。
複数の人でものを決めていくことは、本当に難しいことだなあと感じます。
日々のご努力に頭が下がります。
自分が含まれているチームなのに、自分が意思決定に参加していないと感じてしますことは本当に残念な気持ちになりますね。
そこに、自分の意見を伝えていくことは、とても大切なことだと思います。

戦うというより、より良いものを作っていくために、ご努力が是非とも、推進力として働いていきますように。
返信する

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