緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

退院したらしたいこと;80代の女性の答えは・・

2019年11月17日 | 医療
来週の日曜日は、
関東甲信越支部学術大会で都内で。
その翌々週の日曜日は、
東海北陸支部学術大会で三重へ。

東海北陸は何となく選択することもあるオピオイドを
文献ベースに日常診療に役立ててもらえるよう
話を組み立てているところです。


そんな文献に囲まれている最中・・

厚労省の緩和ケアチーム実地研修を
今年度も受け入れていて、
今回は、千葉大学病院から一日研修に
参加してくださいました。


その時の回診で・・

女性の患者さんに
私から何気に、たずねました。


「退院したらどんなことをしたいですか?」


「恋をしたいの」


80代の患者さんは、
はにかみながらそうおっしゃいました。





ご近所にそうしたご友人がいらっしゃるご高齢の方は、
少なくはありません。


緩和ケアチームの受け持ちの
レジデントの先生が聞きました。


「ご近所にお友達がいらっしゃるのですか?」




「ううん。
亡くなった主人よ。」



ご結婚されて、早々にご主人がお亡くなりになり、
小さなお子さんをお一人で育て上げられた方でした。


夢の中には、
一度しか出てきてくれないと
おっしゃるので、
まさか・・と思いつつ、

「天国で会いたい・・ということ・・ではないですよね?」

「まさか~。ふふ・・だって、
こんなおばあさんよ、
もう、会っても気付いてくれないわよ」





「20代のころに戻って、
亡くなった主人と
恋をやり直したいの。」




それが、今一番の望みでした。





再発がんの患者さん方も、
私たちも、
どちらかというと
「今」に焦点を合わせ
実現可能な・・現実的なことを見据え、
それを目標として、複数の人々で共有し、
達成することを目指すことが多いものです。



今回の出来事は、
過去のようで、
未来のような希望であり、

現実的に考えれば、
何十年も前に戻ることも
亡くなった人と再会し、
恋をすることも
絶対にありえないことでした。


でも、患者さんは、
そのありえないことを
少女のように頬を赤らめ
嬉しそうにお話しくださることが

私にとって、
言葉にならないほど
切なくて、
愛おしくて、
涙がこぼれそうで・・


人生の歩みを進めていくと、

後悔とは違う、
思慕の念を

取り残された過去ややり残した過去に
慕情を感じるものなのだということを
改めて教えてもらったように思います。



現実的な目標設定にとどまらず、
患者さんの過去へ募る思いについて、
もっと、感度高く、
聴く姿勢を持っていかなければと感じた出来事でした。

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