緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

朝焼けに思い出す若い患者さんのこと

2024年04月14日 | 医療
がん領域にもゲノム診断が広がっています。

最近、
折に触れて思い出す患者さん。
当時、高校生でした。

お母さんが同じがんで、
その遺伝子を持った娘さんにも
いずれその時が来ると
お父さんは
覚悟されていました。

そして
同じ道の最期近くのころのこと・・

KevによるPixabayからの画像 


(2012年9月の記事から一部)
遺伝性肝がんで、
がん性腹膜炎になり
横になると
苦しくて眠れない
患者さんでした。


投与薬剤も細心の注意を払いながら、痛みと不安に対応していました。

深夜の病棟を訪れた時

消灯した暗い部屋で
看護師さん二人で背中をさすり
痛い・・、苦しい・・
という患者さんの傍にいて
声を掛けていました。

オピオイドや鎮静剤の速度を上げ
しばらくしたら、横になれたようでした。

大丈夫だと思います・・

という看護師さんの言葉に
病棟からオフィスに一旦戻りました。








それから1時間ほどして
再度病室にそっと行くと・・

患者さんは
ベットの上に座っていました。


苦しくて・・

10分位で激痛も来て、
起き上がった・・・




看護師さんからは、

体も辛いと思うのですが、
ご家族が帰ってからが
いつも辛くて・・
寂しさもあるんだと思うのです。


と、聞いていました。




痛み止めを調整しながら

しばらく、居るよ。

そう声をかけて
傍らに座っていました。




その前の日に、おかあさんの話をしたことを思い出していました。
多分、今の私より若い年齢で亡くなったおかあさんでした。


夢で会える?


ずっと前に
出てきてくれた。
怒られたの。



どうして?


悪いことをしたから。


そうなんだ・・
最近は、会えない?


夢を見ないから・・
出てきてくれてるのかもしれないけど、
私が、気が付いてないだけかもしれない・・


病気のお母さんは、どんな風だったの?


がんばってた・・・
おかあさんなら
今の自分をわかってくれる・・



この体で、どんなことに耐え、何を考え、時を刻んでいるのか・・・・



そんな前日の会話を
思い出しながら
この夜も
うとうとしながらも
ただただ、
横になるのが怖い
という患者さんの傍にいました。

呼吸数、体の使い方を見ていて、
少なくとも、今夜は横になって寝られると見極め、
薬剤の調整を続けました。

そして、やっと、自分から体を横にしようとされました。
ゆっくり動きながら、


10分もすると、また激痛かも・・


大丈夫。
傍にいるから。






呼吸数が維持されていることを
確認しながら
オピオイドと鎮静薬の調整を
していきました。

今夜はもう一度電話をすれば
病棟看護師さんでも見守れる状態まで落ち着いたと判断し
帰路につきました。

朝4時半に一度電話を入れ
大丈夫であることを確認しました。

この夜の経過をみていて、
すでに、深い鎮静をせざる負えない身体状況になってきたと思われました。




でも・・・

患者さんは、本当に伝えたいことを
伝えたい人にきちんと伝えられているのだろうか・・

お母さんを見送り
自分がその状態となった患者さん・・

医療が進み一人一人の心は
さらに複雑に揺さぶられる現状・・


時々、空を見上げては、何人かの見送った患者さんに問いかけます。

辛いとか寂しいといった
言葉では表現することが
もはやできない程の深い心情に
それでも心を馳せる努力を
私はできているのだろうか・・





4時半に入れた電話の後
明け方の空をみながら

西田幾多郎の短歌の一篇ならぬ一辺を思い出していました。


わが心深き底あり 喜も憂の波も とどかじと思う

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2 コメント

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Unknown (marimari58)
2024-04-16 19:40:45
こんにちは。
marimariと言います。

人を見送る、とても辛いお仕事だと思います。
その死に向き合って、ご自分の任務を全うする…
死に直面し、恐怖を感じていらっしゃる患者さんに寄り添い、励ます…すごいことだなと思います。

つい先日、お世話になっている同年代の女性が、とある飲み会の席で「膵臓がんのステージⅣ」と告白しました。
今は懸命に抗がん剤と闘いながら、生に向かって頑張っています。
15キロもやせてしまったそうで、本当に辛そうです。
でも生きるという信念を持ち、毎日を懸命に生きている彼女、とても神々しくさえ見えます。

その彼女となぜかこの記事がリンクしてしまい、コメントさせていただきました。

これからもよろしくお願いいたします。
返信する
marimari58さん (aruga)
2024-04-17 14:44:25
お世話になっている方のことがリンクして、ここにコメントを頂戴したとのこと。
本当にありがとうございます。


>人を見送る、とても辛いお仕事だと思います。

多くの方々のいのちや人生に関わることができ、私のたった1回の人生は何倍も豊かにして頂いていると感じています。
ですから、辛い仕事だと感じたことは一度もないのです。

>死に直面し、恐怖を感じていらっしゃる患者さんに寄り添い、励ます…すごいことだなと思います。

患者さん達は、生きることやその意味を思巡され、生死に畏敬を抱かれることはあっても、死に直面した恐怖に打ち震えているわけではありません。仮にそんな時があっても、緩和ケアに従事する者は、それを励ましたりはいたしません。
言葉に耳を傾け、時を共にすることで、患者さん達が力を取り戻し、歩んでいかれることを目指します。

ただ、コメント欄に書くほど簡単なことではなく、この記事は自分の力の及ばないものであっても、探求する心を大切にしたいことを書いたものなのです。
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