緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

ミルタザピンの作用

2010年05月23日 | 医療

最近、投与することが徐々に増えてきた ミルタザピン (レメロン、リフレックス)
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬
(NaSSA: Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)
と分類されます。
従来の、SSRIやSNRIなどの
セロトニンやノルアドレナリンの再取り込み阻害薬は
排出口のせき止めるのですが、
これは、直接神経を活性化することによって
セロトニン(5-HT)やノルアドレナリン(NA)の神経伝達を維持する
という面から、異なる薬剤と言えます。


NAシナプス前 α2自己受容体 遮断→ NA遊離 ↑ → 5-HT神経活動 活性化
NA細胞体    α2自己受容体 遮断→ NA神経 活性化
5-HT神経    α1受容体 遮断 → 5-HT遊離 ↑
後シナプス5-HT2受容体 拮抗作用
             5-HT3受容体 拮抗作用
後シナプス5-HT1受容体 選択的活性化

これらが、主とした 薬理機序 のようです。

三環形に比較して、ムスカリン受容体作用は弱く、抗コリン作用が少ないようです。

大雑把に特徴をいえば、
セロトニン (5-HT) は 情動に
ノルアドレナリン (NA) は 疼痛にも
関わります。
(セロトニンは、末梢では疼痛↑、中枢では下行抑制性に疼痛↓)

緩和ケア領域において期待できる作用として、
以下のようなことが薬理機序から考えられます。

H1抑制作用 : いわゆる抗ヒスタミン作用
           眠気、食欲亢進、制吐作用
           (トラベルミンが効くような嘔気に効きます)
5-HT1活性化: 抗不安
5-HT2遮断  : 痛覚感受性を改善(片頭痛など)
           睡眠を深く改善(ノンレム睡眠の増加)      
5-HT3抑制  : 嘔吐(特に、抗がん剤の嘔吐)の抑制
           性機能減退、消化器症状の出現抑制

ドパミン遊離促進作用もあるようです。

慢性的に疼痛を我慢していると
ドパミンが枯渇したり、
嫌悪物質とのバランスを崩すと言われていますが、
やる気物質のこのドパミンを改善させるとなると
疼痛を抱えながら日常生活を送る方の一助となるかもしれません。          

(もっと、実は多彩なのですが、
 覚えきれないので、
 緩和医療域で関連していると思われることのみの
 記載に留めています。)

保険適応: うつ
用法   : 15mg開始量とし、1週間ごとに必要に応じて15mgずつ増量。最大45mg

緩和医療域で投与を検討するとき、
5-HTとNAというと、
すぐに繋がるのが
鎮痛補助薬として神経障害性疼痛に
効果があるのではないかという期待です。

抗H1作用として
オピオイドの嘔吐などで前庭系から入る刺激による嘔吐症に
トラベルミンがよく用いられますが、
同じ作用が期待されます。

抗がん剤の制吐剤としても
期待できるかもしれません。

まるで、いいことばかりのようなのですが、
飲んですぐに継続困難と感じられる副作用は
兎に角、眠気・・・

日中も、ずっと眠くて、眠くて、15mgの半錠でも眠い方が多く
除痛を期待するなら、
1週間以上は様子を見なくてはいけないと思いますが、
とても、続けられないことが少なくありません。

精神科的な抑うつの方と、
がんの疼痛を抱えられるなどで気持ちも辛い方とは
薬剤の反応が異なるのでしょうか。

除痛効果も、薬理作用からは期待できそうなのですが
どれほど効果があるか、データ集積はなく不明です。

J of pain and symptpm management
39(4), 3-6
先月号のレターで、
Effectiveness of Mirtazapine in the Treatment of Postherpetic Neuralgia
が掲載されていました。
ほぼ、保険適応内の投与量で除痛が期待できそうではありました。

このpaperに近似した治療後疼痛の方に
チームの精神科の医師と連携しながら
リスクとベネフィットをお話し、了解を頂いて
処方させていただいているのですが、
まったく、今のところ痛みには効果がないのが、
ちょっと残念ではあります・・・・
抗がん剤の嘔吐には、効いている感はありますが。

何とか痛みが緩和されるように模索を続けていきたいと思います・・


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 人生の忘れもの | トップ | The Bucket List »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
難しい・・ (そら)
2010-05-24 22:16:41
受容体の名前が沢山出てきて、難しいです。
こんなに簡単に言ってしまってはいけないのかもしれませんが、ノルアドレナリンが多い方が痛みが緩和されると考えればよいのでしょうか。
後は、トラベルミンみたいな作用と抗がん剤の制吐剤のような作用も合わせて持っていると思ってよいですか。
眠気が強くなければ、保険内ドース位には増やしてもよいということですね。
返信する
本当に・・ (aruga)
2010-05-25 06:33:20
難しいと思います。
が、受容体のことを知ると、他の薬剤の薬理機序を見た時、保険適応にとどまらない効果を読み解くことができたり、副作用を予測することがある程度できるようになります。

ご指摘の通り、ノルアドレナリンが増えるというと、痛みに効きそうと想定できますし、制吐作用も私達が頻用する薬剤として書かれたとおりだと思います。

受容体を知って、効果ー副作用を知りましょう!
(薬理の先生の力を借りながら・・・です・・実は、あまり自信がない・・・・)
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医療」カテゴリの最新記事