新しい年が明けました。
切に、コロナや戦いから解放されていく年となることを祈っています。
切に、コロナや戦いから解放されていく年となることを祈っています。
(Gerd AltmannによるPixabayからの画像 )
縁者が数年前に亡くなった時の引き金は、がん専門病院ではない病院で投与されたイリノテカンの下痢等でした。
私とあまり年が違わなかったこと、そこに至った経緯、対処の甘さ、下痢で頻回ナースコールした後の病院の対応・・思い起こすと今も悲しみがこみ上げます。
昨年、ある患者さんのイリノテカンの下痢の相談を受けました。
ゲノムのプロファイリング検査で見つかった治療候補のイリノテカンでした。
何としてでも、治療が継続できるようにしてあげたい・・
イリノテカン投与日からロペラミドを頓用で内服しては、下痢と便秘を繰り返し、食事が摂れなくなっていました。
イリノテカンの下痢は、
早発性(反応性)下痢:
●出現時期:投与してすぐ(直後~24時間)
●原因:イリノテカンのコリン作用
(反応性に腸管がグルグルっと強く動く作用がイリノテカンにあるため)
●対処:抗コリン作動薬をイリノテカン投与前に点滴
(ブチルスコポラミン(ブスコパン)など腸管蠕動を抑制する薬剤)
遅発性下痢:
●出現時期:投与4日目頃~10日目頃
●原因:イリノテカンの活性代謝物SN-38腸管障害
●増悪、軽快の環境因子
・投与直後に腸管内容物(つまり便など)が排泄不十分だと腸管-肝-胆管-腸管と循環し、下痢が強く出る
・その時、腸管細菌等のβグルクロニターゼがSN-38の再生成に関与している可能性含む
・したがって、イリノテカン投与直後に早発性下痢がないにもかかわらず止痢剤を使うと、SN-38は腸管内に貯留、排泄遅延傾向となり、腸管障害を起こしやすくなる
・腸管内が酸性になると再吸収が促進され、アルカリになると再吸収が抑制される傾向がある。
●対処:
・イリノテカン直後に止痢剤は用いない
・下痢を生じる時期を見計らい、止痢剤を開始する
・腸管内をアルカリに傾かせることの検討(酸化マグネシウムなど)
・半夏瀉心湯の検討
患者さんに行ってもらったこと
こうした特徴を踏まえて、まず、患者さんに行ってもらったことは、次のイリノテカン投与日から下痢とロペラミドの内服日記をつけてもらうことでした。
その結果・・・
早発性下痢の混在はなく、遅発性下痢がイリノテカン投与10日目±2日で生じていることがわかりました。
下痢するのではないかと心配で、イリノテカン投与直後にロペラミドを内服し、その後、便がでなくなり、1週間を過ぎたころ、どっと水溶性の下痢がでてしまうことがよく理解できました。
そこで、とった下痢対策・・
・ロペラミドは、イリノテカン投与8日目~12日目位で朝夕2回内服すること
・そこまでは下痢をしない限り内服しない(下痢をする前に予防投与しない)こと
・どっと出る日は水溶性便のため、今回は酸化マグネシウムは投与しないこと
・とても飲み辛いことを説明した上で、半夏瀉心湯を毎日できるだけ内服してみて頂くこと
●半夏瀉心湯は、
抗がん治療の口腔内潰瘍に練って乗せると痛みが緩和され、治癒も早まることを経験しています。粘膜の抗炎症作用、鎮痛効果に優れているのですが、兎に角、苦く使い辛いのが特徴です。
私はほとんど漢方薬は投与しないのですが、この半夏瀉心湯については、抗炎症作用が高く、本当によい薬剤だと感じています。
加えて、黄芩に前述のβ-グルクロニダーゼを阻害する作用があることが示唆されているようです。
その一か月後の外来・・
10日目前後の下痢はかなりコントロールでき、10日目頃、1日2回程度の泥状便がでる程度まで緩和され、食事もとれるようになっていました。
そして・・
半夏瀉心湯も内服をしてくださっていました。
味は、そんなでもないですよ。
一日3回飲めてます。
味のこと以上に、何だか下痢に効いてる感じがします(!)
腸も良い感じです。
もう、心の中でよしっ!!とばかりガッツポーズでした。
あの日、縁者の頻回な下痢に、病棟の看護師が担当医に何とかして欲しいと言ったことに対し、下痢への対処ではなく、鎮静を提案してきた担当医・・
こんな悲しいことがないようにと心に刻んだ数年前の出来事が重なり、昨年も今年も丁寧に取り組んでいこうと深く思う年の初めです。
お訪ね下さり、また、コメント下さり、本当にありがとうございます。
親友の方の治療が良い形で進んでいきますうに。
多くの患者さんが苦痛が少なく治療が継続していけるよう、私も取り組みを続けていきます。
aruga
コメント、ありがとうございます!
できる限り苦痛を緩和して治療が継続できることは本当に大切なことですよね。
一歩進んだ副作用治療に力を貸してくださいね!!
aruga