プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

韓国・東学農民軍 戦跡を訪ねる旅   NHK「坂の上の雲」のうそ

2010-10-25 23:32:58 | 政治経済

1015日~19日私は、「中塚明先生・朴孟洙先生と行く韓国・東学農民軍 戦跡を訪ねる旅」に参加した。全国から30名の参加であった。東学農民革命とは、1894年から始まる日清戦争のときに、東学農民を中心にした朝鮮近代史上はじめての反封建の大衆的な社会変革運動であり、日本がはじめて直面した抗日民族運動であった。

ところでNHKは、昨年に続いて今年も12月にスペシャルドラマ「坂の上の雲」第二部を放映する予定という。「坂の上の雲」の問題点は、すでに多くの歴史学者が指摘しているように歴史上の人物になりきって面白く書いた司馬遼太郎の小説は、明治の人になり切って歴史を描こうとしたために、客観的な歴史と大きくかけ離れている。日清・日露戦争は、欧米列強との間での植民地分割をめぐる帝国主義戦争であり、祖国防衛戦争でも自衛戦争でもまったくなかったということだ。明治時代の人間の目で再現した歴史は、私たちが決して忘れてはならない朝鮮における日本の蛮行を覆い隠してしまう

 

今回、私たちは、奈良女子大学名誉教授で、日清戦争をはじめ日韓近代史の第一人者である中塚明先生、韓国における東学農民革命研究の第一人者で、北海道大学に留学していたこともある朴孟洙先生の案内・解説を頂きながら、東学農民軍の蜂起から日本軍によって殲滅させられるまでの戦跡・史跡の主要部分をすべて見て回った。ハンサリム(生命平和運動や生協活動をしている韓国市民団体)の数人の人たちも一緒だった。
東学とは、単なる宗教教団ではなくて、「人すなわち天」=万人は平等という思想・哲学体系をもっていた。また壬辰倭乱(いわゆる豊臣秀吉の文禄・慶長の役)で日本に対する敵愾心があり、外勢の侵略に対抗する教えを説いた。
全琫準(チョンボンジュン)らに指導された東学農民軍は、甲午年(1894年)320日、朝鮮王制の封建的収奪と弊政を革新するために全羅北道の茂長(ムジャン)で全面蜂起する(第一次農民革命)。NHKドラマは、東学とは老化しきった朝鮮社会にはびこる新興宗教で全琫準は「布教師のひとり」というが、それはまったくの嘘っぱちである。全琫準らが示した弊政改革案は「除暴救民」、「輔国安民」が柱でああり、それまでの地域的な民乱を革命へと発展させたものである。農民軍の力の強い地域では、「執綱所」という一種の自治機関である歴史上初の民衆権力機関もつくられた。19世紀末期、朝鮮王朝は確かに腐敗・衰退過程にあったが、朝鮮社会は司馬らが言うように、「停滞している」、「朝鮮は歴史の発展からとりのこされている落伍した社会」というわけではなかったのだ。

 

反封建の決然とした意思をもち、革命精神を燃やして全州城まで陥落させた東学農民軍の前に立ちはだかったのが、朝鮮侵略の機会を虎視眈々とねらっていた日本とこれに対抗する清国であった。農民軍の蜂起に手を焼いた閔氏政権が清国の袁世凱に支援要請したのに間髪を入れず、日本軍隊は56日(新暦69日)、仁川に上陸する。そして日本は朝鮮政府に対し「清国軍を国外に追い出すべきだ」と迫り、新暦723日朝鮮王朝・景福宮(キョンボックン)を占領、ソウル市内の朝鮮兵士を排除し、大院君(テクオングン)を政権につける。朝鮮王朝を事実上とりこにした上で、朝鮮から清国を排除する詔勅を手に入れるためであった。こうして、日本は「清国の野望から朝鮮を守るために」を口実に日清戦争に突入する。

日本の王宮占領を知った全琫準らの東学農民軍は、斥倭・洋を掲げて祖国防衛のための第二次蜂起を起こす(第二次農民革命)。しかし農民軍は、近代的な装備と訓練の行きとどいた日本軍の敵ではなかった。農民軍は壊滅し、ちりぢりになって敗走する。そして日本軍は、残党を珍島(チンド)まで追い詰め皆殺しにしたのだった(1995年、北海道大学文学部の一室から、東学農民軍指導者の頭がい骨六体が発見されるという衝撃的な事件があったが、頭がい骨は、札幌農学校出身の農業技師、佐藤政次郎が珍島で「採集」したものだった)。

 

明治の日本は、NHK「坂の上の雲」が描くようなあどけない「少年の国」では決してなかった。天皇制近代国家は、「頭のてっぺんからつま先まで毛穴という毛 穴から血と汗と汚物を吐き出しながら」生まれたのだ。


最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ご苦労さまでした。旅をご一緒しました。 (あさくらはじめ(兵庫))
2010-10-26 00:30:25
このブログは前から見ていましたが、旅をご一緒するとはおもいませんでした。たくさんの参加者がおられたので、05年に書かれている「私は38年余りに亘るサラリーマン生活に終止符をうちました。入社が67年(昭和42年)です」だけでは、どなたか判りません。私は、1班の班長をしていましたので、お判りになるとおもいます。長いブログの記入で、手際よく旅のことを書かれているので、さすがだとおもいました。私は、ようやく旅で頂いた文献を全部と北大の井上さんの論文を3編ほど帰ってから読みました。行く前に予習の文献を「東学農民革命100年」以外は読んでいましたが、やはり実際に韓国へ行ってのフィールドワークに近いことを最適の先生に導かれて、かつ現地の方とのお話や交流ができ、多くの歴史の事実が胸に迫ってくる思いです。これからも、おつきあいよろしくお願いします。もしメールアドレスをお知らせしていたら、メールください、よろしくお願いします。
返信する
Unknown (あさくらはじめ(兵庫))
2010-10-26 00:45:58
05年の最初のブログのコメントをみてすぐにわかりました。これからもよろしく。
返信する
東学の革命を検索中・・・ (サフラン)
2011-04-28 23:53:44
はじめまして
たまたま、韓国ドラマ「土地」を見ていましたら
東学の革命のシーンが出てきましたので検索していたら、こちらのHPが目に留まりました。

東学の革命のことは、初めて知りました。ドラマは、まだ最初のほうですので・・・これから詳しい
ことがいろいろと描かれてゆくと思いますが、参考にさせていただきました。

NHKの「坂の上の雲」も、面白く見ています。
ドキュメンタリーではなく、ドラマはあくまで創作物ですので、割り切って見ています。また、原作は司馬遼太郎の小説ですから…。

それに、韓国の史劇ドラマもかなり、創作&ファンタジーが多いように思います。ドラマとしてエンターティンメントとして楽しみながら見ています。NHKの大河ドラマもしかりで、史実を織り交ぜながらの創作です。そう思いながら見ています。

返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。